第80話 タリスはアリス
巨大過ぎるその《箱庭》を壊すには、選択肢が一つしかない。この身体に流れる血潮が答えだ。
魔力を回復出来る手段があるとはいえ、長期戦は不可。自立可能な《箱庭》は、大抵が現世に留まる為の魔力を維持する何らかの手段を持っており、壊されたり術者が解除でもしない限り、消える事は無いと言われている。
早期決着が求められる。
《鬼血術》により強化された幸助は、まるで雰囲気が変わっていた。前より更に白い肌に反して筋骨隆々とした身体が膨れ上がっている。力の化身とも言えるような姿である。
グスタフの砲口が煙を上げて、砲身がピストン運動をした。幸助の右半身をそのまま貫通し、彼方へと消える。
「ーーー幸助!!!」スレイヤーの叫びとは裏腹に、幸助は即座に再生させながら、無反応で《箱庭》に向かっていく。
その時、幸助が嗤っているのを、スレイヤーは見た。
虚城を囲むように所狭しと並んでいる銃火器の類が、幸助へ一切に銃身を向ける。
大量の銃弾が幸助の身体を貫いていく。だが、それでも幸助は《箱庭》への接近を図る。
痛過ぎて、もう訳が分からなかった。我慢出来る苦痛では無い。だが、声を上げて何になる?こんなの慣れている。さっき身体をバラバラにされても生きてたのだから、これくらい、なんともねぇ!!!
穴の空いた身体を一瞬で回復させつつ、その間に幸助は背中に触腕を2本生やした。そして、その一本を使い、唱える。
「《創具顕現・蒼炎外套》!!!」
背中の触腕は、幸助によって魔装具へと変化する。そして、《蒼炎外套》は魔力を変化させた推進する蒼炎を排出し、一気に加速を始めた。
「させないよ!!」
虚城まで、あと距離にして50メートルといった時に、外壁が崩れその中から大量の《電磁華槍》が現れる。喰らえば終わりだ。
幸助は、嗤った。何故なら、もう一本の触腕を《創具顕現》の触媒にし、魔装具でも何でもない、偽物を作り出していたからである。
「ーーーさっきはごめん。俺も思い付かなかった。限定顕現ーーー《ドーラ》1秒。」
幸助の背中に、とんでもない大きさの砲台が現れる。それは、AAが再現したグスタフと同じ性能である《ドーラ》であった。
それを顕現させると同時に、幸助の落下速度は急激に早くなる。魔力で生み出した質量1300トンを越える兵器を背中で制御できる訳も無い。空中で対空するのは、《蒼炎外套》を以てしても不可能だ。が、その落下を想定し、角度を付けて魔力の込めた一発を、槍が集中する外壁に集中して放った。
大爆発が再び起こる。至近距離で放たれる特大砲弾は、虚城を貫通させるには充分すぎる威力だった。
放ったと同時に解除し、《蒼炎外套》で一気に上昇し、孔の空いた城の内部へと侵入する。
幸助は覚悟を決めた。AAを殺す手段なら既にある。触腕はもう生やせない。再生したとしても、今の触腕は《蒼炎外套》が創られるだけだ。
ならば、この右腕で、アレをやるしかない。
城の中は、空洞だった。中は、外から見た《箱庭》の円周よりずっと広く感じた。空間の拡張機能でもあるのか?
その部屋は、照明が付いていた。やけに明るく眩しい。宴会場のような、ダンスホールのような、開放的な広さだ。何故こんな空間が?
「さぁ、中に入ったぞ。話をしよう、AA。もうこの《箱庭》は終わりだ。」
幸助は、傷から漏れ出た血液を垂らしながら歩く。
「それは、どういう意味かしら?」
ヴェイルが重なり合い、実体を持ってAAが眼前に現れる。
「実を言うと、師匠がいない所で少し話がしたかった。この《箱庭》は人質に取らせてもらう。質問に答えろ。」
「人質?敵陣に飛び込んでおいて?あんたなんて、ヴェイルの餌食だけど?」
「そのヴェイルに、俺の血液が取り込まれている事を知らないのか?」
「え?」
「俺はセトラと会う前、傷を治さずにわざと神殿の中に血の道を作った。その時、ヴェイルの糧として人々を吸収する際に、お前は俺の血を取り込んだんだよ。神殿を覆うなんて馬鹿な真似するから、こうなったんだ。」
「・・・それがどうした?」
「俺は、色彩魔法が使える。」
「・・・!!!」
「お前の弟を殺したパレットが開発した魔法だ。俺はアイツから教わって、血を媒介として色彩魔法を掛ける事が出来る。ヴェイルの色は、黒だよな?この意味が分かるか?」
「・・・ハッ!今更何を。そんなものが本当に通用するとでも?」
「《創具顕現・色彩杖》。」
幸助は、右腕の先端部分を一部、色彩杖の上部へと変化させた。そして、唱える。
「ーーー《朱》。」
瞬間、AAの身体と、ヴェイルが燃え始める。その炎は突然現れ、急激な体内の温度上昇と共にやってきた。
「う、うぐぁぁぁぁぁあぁああ!!」AAの全身から火が噴き出る。《箱庭》からも炎が上がり始めた。
「血液は、《朱》いだろ?色彩魔法の効果は、炎上だ。身体の内部から焼かれる訳だから、キッツイよな?」
「・・・うっ、ぐっ・・・。」
「耐えるのか。凄いよお前は。でも、《黒》は、苦しいでは済まないぞ?」
幸助は、《朱》を解いた。黒く煤けたAAの身体が地面に膝をつく。
「一層黒くなったな。色彩魔法が掛けやすい。」
「・・・」
AAが無言で項垂れている隙に、幸助は背後から頭を銃弾で撃ち抜かれた。脳漿が飛び散る。だが、それでは死なない。
心臓を撃ち抜かれても死なない。魔力が尽きない限り、再生し続ける。
「不意打ちご苦労。いや、不意打ちでも無いよな。別に普通の事だ、卑怯だと決め付けたようですまない。」
「・・・化け物め・・・。」
「お互い言う資格ないんじゃないそれ?」
「吸血鬼、か。幻獣因子も特殊中の特殊。私は吸血鬼を再現しようとしたけど、無理だった。」
「・・・やっぱりか。」
「吸血鬼の起源でも探る気か?やめておけ。私が分からないモノに、お前が分かる訳が無い。」
「・・・うるせぇよ。マッジで嫌だけど、姫様にでも頼れば何とかなるだろ。アイツに頼るよりは、まだお前に頼る方がマシに思えるくらいには苦手だけど。」
「未来の巫女・アイナか。」
「魔王軍やめる気ないのか?」
「今更お前の仲間になれと?」
「ああ。まともに戦ったら勝てそうにないし。」
「正直だな。何を企んでいる?」
「何も考えてない。お前の罪は消えないけど、その強さと技術力は魔王軍が持つには勿体無い。さっき否定したけど、俺らが似た者同士ってのは、本当だと思う。」
「こんな話がしたかったのか?」
「ああ。師匠の前では、あんまり本心をさらけ出したくないからな。」
「変な奴だな。」
「お前に言われたくねぇって。てか、思ったより常識的な感性してんだな。尚更、魔王軍に肩入れする理由が分からないな。無辜の人々を使い潰すのも。殺すのが快楽に感じるような奴に思えないんだよ。」
「何故わかる?」
「似ているからだろ。目的の為なら自分に嘘をつける、偽物だ。」
「あまり分かったような気になるなよ・・・!」
「それはこっちの台詞だ・・・!」
「・・・ぇお前がキレるのは可笑しくない??何で同じ熱量でキレられるの?」
「・・・すまん、私情が漏れ出た。」
「今までの会話私情しかなくない?」
「とにかくだ。確かめられてよかった。案外普通な奴だというだけで収穫だ。交渉の予知はあるな。」
「・・・何がしたかったんだ・・・?」
「じゃあこっからが本当に話したかった事だ。魔王軍十二幻将の一人・混迷幻魔アリス・メティックについて訊きたい事がある。」
AAの表情が一変する。
「・・・そいつがどうした?」AAは強気に言い返す。
「あいつの目的は何だ?」
「・・・は?」
「で、何であんなクソドジな奴をスパイにしたんだ?魔王軍は人材不足なのか・・?」
「・・・スパイなんてしてないぞ。」
「嘘つけ。本人がスパイだって堂々と言っていたぞ?」
「・・・あの馬鹿が・・・!!!」
AAは眉間に青筋を立てながら、歯を食い縛って怒りを噛み締めていた。
「だから、こっちで俺らはあいつの事を《問題児》って呼んでる。害も一切無いから放置してるけど、あいつ何なの?」
「・・・知らない。あれは、そういう生き物だと思え。」
「お前も困ってんだな。同情するわ。」
「ーーーーあれ?呼んだ?」
声のした方を振り返る。そこには、当の本人、タリスが居た。
あり得ない。が、あり得ない事はあり得てしまう。それが、《問題児》と呼ばれるに相応しい理不尽な存在だった。
「はぁお前なんで居るんだよ!?!?」
「アリス何してんの!?!?」
幸助とAAが同時に同じような反応をした。
「えー?2人とも知り合いでしょー?話、混ぜてよ〜僕の話してたんだよね?だよね?」
無邪気な様子でタリスは近付いてくる。
AAはその様子を見て、項垂れていた。
幸助は、いつもと変わらないタリスの様子に、安心感と殺意が湧いた。
「お前マジで何なの?何しに来たの?今更魔王軍ムーヴしてきたらマジで殺すよ?」
「あはははは、尾も白い事を言うねェコースケ。」
「誰の味方でも無いんなら今すぐ消えてくんない?」
「いや僕非力だし、誰も殺せないし。無害だから別にここに居てもいーでしょ?」
「良くねぇ!!!やっぱもう一回ブラッドに消してもらうか!!!」
「いやそれ前に試したじゃん。僕それで消えなかったじゃん。ざーんねん!どーんまい!」
「あーーーーもう・・・。AA、何とか言え。」
AAは相変わらず項垂れた様子で答える。
「・・・何言っても無駄だから、あんまり喋らない方がいい。アリスはそういう奴だ。」
「よく分かってんな。俺がこいつの名前を言った時点で負けだ。すまんな。でも、こいつが余計何も考えていないってのは分かったよ。」
「共通認識で安心した。こいつは何処に行ってもそんな感じか。」AAは溜息をつく。
目の前のタリスを、幸助が殺さない理由は、タリスは単純に「死なない」からである。いや、明確には死ぬ。が、次の瞬間、その「死」は何故かなかった事になっているのだ。
それがスキルによるモノなのか、何なのかが全く分からないから気味が悪い。とにかく、ブラッドの《神威》でも消滅出来なかった点を見れば、もっと余計訳がわからなくなる。
要は、タリスという存在は、その存在自体がバグのようなモノで、この世界において最も謎を抱えている人物と言える。しかも、本人の様子を観察していると、真面目に考察するのが馬鹿げてくる程に自由奔放で純粋無垢なのだ。
縄に縛る事も、殺す事も出来ない。なので、魔王軍のスパイだと分かっていても、放置するしか無い。というより、こいつの無茶苦茶さを見れば、心底弱い奴で良かったと安堵せざるを得ない程にまで、常識とはかけ離れた存在なのだ。
一緒にいて、調子狂うなんてものじゃない。思考するだけで顔を出して話しかけてくるような、何処にでも居て何処にでも居ないような訳の分からない奴の事は、魔王軍でどんな扱いなのかを幸助は訊きたかった。
そして、予想通りだった。魔王軍にいても、こいつは迷惑掛けるしどうする事も出来ない奴だって分かれば収穫である。
が、真に不死身を体現している人物である。
これは後々を考えると、重要人物になってくるに違いないのは明らかだ。アカシクとの関連性も考えなければならない。
だが、かつて対面したアイナや今のAAも、同じように戸惑っている所を見るに、どうやらアカシクとも何の関係も無い気がしてきた。
マジで何なのこいつ。
「ある日そいつが突然急に、スパイになります!って言ったっきり、なん〜の情報も寄越さないし。殺せるなら殺したい。」
AAは呻くように言う。
「分かる。俺にも、まぁまぁ!逆スパイみたいなもんだよ!って言ったっきり、魔王軍の情報ロクに伝えてこねぇ。」
タリスの行動は、やる事なす事に意味が無い。まるでそれに縛られているかのように、結果を生まない行動を取る。
それが、とてもうざったいので、迷惑しているのだ。全ての混乱の元なのだ。
「まぁまぁお2人さん。僕に遠慮せず、お互い殺し合えばいいじゃん。」
タリスは優雅に座布団の上で正座をして、何処から出してきたか分からない陶器製のコップで熱々のお茶を飲んでいた。
「・・・いい加減にしろよ?」
「あっち!猫舌なんだよなぁ〜・・・。いやいや、そもそも根本が違うから会話しても分かり合える2人に見えないじゃん?」
「核心つくなよ・・・!!」
薄々勘付いていた事をあっけらかんと言うものだから、幸助はキレた。
「だってさ、まぁ両者をよく知る僕からすれば?本気で世界を救おうとしてるコースケと、滅ぼそうとしているAAだから、志の強さは似ているけど求めている結果が違うじゃん?分かり合える訳ないじゃん、どっちも正義掲げてるんだし。」
「それでも俺は何とか話せねぇかやってみたかったんだって・・・!!」
「そういう理想主義なとこ好きだよ?」
「告白すんなら性別ハッキリさせてから来いや。」
「少し黙ってろ。」AAは遠隔操作しているヴェイルにより、銃弾を放ち、タリスの眉間を貫いた。
わざとらしく血を噴き出し、タリスは死んだ。が、どうせすぐに何ともなかった感じになる。その間に、殺し合う前の雰囲気を作る共同作業が始まった。
「色彩魔法を使える者は殺さなきゃならない《烙印帰結中》。」
「ただでは死なない。せめて、《自刃傷舐》。」
「《心中》する気はない!!」
「ーーー《朱》!!!」
「《黒》を撃つ気も無いか!!甘い!!!」
ーーーーそりゃ、出来ねぇよ。
幸助は心で嗤いながら独白する。
俺がそんな高度な《色彩魔法》を充分に使える訳ないだろ、AA。
俺には才能が無い。パレットみたいになれない。ブラッドみたいになれない。師匠のようにもなれない。嘘と犠牲で成り立っている軟弱者に、そんな高度な魔法が使える訳無いだろう。
俺は、《色彩魔法》の《朱》しか使用出来ない。理由は、単純に血液を媒介とするからだ。そこから酸化し染まる《黒》色への変化は、魔法の変容点を感覚的に定めるセンスが全く無いから無理だ。
《心中》作用とハッタリで戦う。
それが、俺にしか出来ない強みだ。
それがAAに通用するかは、分からない。こいつの引き出しの多さは侮れない。
ーーーまともにやったら到底勝てる訳が無い相手だ。師匠が追い詰められている辺り、やはり危険度SSSは適正な評価だ。
何十年と積み重ねてきた努力を、ただ吸血鬼に近づいたというだけで圧倒出来る筈がない。勝てたとしても運が良いだけ。
こんな気持ちで勝てる訳無いから、虚勢を張るんだ。可能な限りの選択肢を掛け合わせて、弱みさえ強みにするんだ。
小狡いやり方が俺の最大の武器だ。
「ーーー《憐華》!!!」
「《鬼血術七卍・ハジキ疼》!!」
AAは身体を燃え盛りつつ、《箱庭》その全てを利用し、無数の銃を生成し、幸助に向ける。その数はヴェイルの手先と同等であり、夥しい数の銃弾が発射される。
同時に、幸助は新たな力を発現させていた。吸血鬼として堕ちた先にある才覚が開花する。
吸血鬼は無機物の支配者とも言われている。その力は元より、魔装具を作るだけにとどまらない。《創具顕現》は、《創造》の発展である。神にも等しい等価交換の力は、自身の身体にも影響を与える。
身体の自己改造。あらゆる性質を自らの身体に与え、生き抜く術を持つ。幸助が自身に与える性質は、《弾性》。
銃弾を弾くには、相性が良い。
幸助の身体に、銃弾がめり込んでいく。魔力で強化された弾の一つ一つが、幸助の身体を貫通しバラバラにするのは訳の無い事である。だが、その痛みを受け止めつつ、鋼鉄の身体さえ貫通する銃弾を弾き返すのは、この《弾性》であれば必然である。
ゴムの様にしなる身体は、銃を構えるヴェイルに風穴を開けていく。
燃える虚城。酸素が欠乏する前に、幸助は身体を再生させると、背中に生えた《蒼炎外套》を起動し、《箱庭》を脱出する。身体の一部となった魔装具は非常に馴染みが良かった。
「ーーーおい幸助!!無事か!!」
「師匠!」幸助の表情が明るくなる。
「何があった!?お前がこれをやったのか!?」
「いや、こっからです。ーーー僕が思ってたより、アカシクってロマンに溢れてますね。」
轟音が鳴り響く。大地が割れる様な地響きが空にも届いていた。それは、決してブラッドの戦闘音では無かった。燃える城が、分解していく。
崩壊に見せかけた分裂。切り離した城の身体が重力に逆らい、上昇していく。電気を流された鉛のように、規則的に解体された虚城が意志を持ったように一つの形を作り上げていく。幸助は、それを見て頭の中でプラモデルを想起した。子供の頃熱中した変形ロボ。
黒き雷と共に合体と変形を繰り返していく。空が割れるような衝撃が段階的に発生している。魔力を纏ったオーラのようなものが全体から溢れ出し、威圧感を増していく。
その最中、目を乾かせる強風が吹き荒れていた。だが、微動だにせず、一部始終を幸助は見つめる。
「・・・何だこれは」スレイヤーは驚いていた。確かに、ロボットアニメとかを知らない現地人からすれば、訳が分からなくて混乱するだろう。
「ーーーAA。俺はテメェみてぇな懐古厨が嫌いだよ。」
そう言いつつも、幸助は何故か高揚感を増していた。
さてーーーーどこまでやれるか、やってみよう。今度こそ、命をかけなければ。放っておいてもいずれは立ちはだかる敵なのだ、自分の力量を測るには丁度いい。
虚城は、遂に超巨大な人型の姿と成り果てた。燃え盛る機械仕掛けの怪物の表面には無数のヴェイルと銃口が覗いている。
廃都市を模した建造物は、内に抱える殺意を隠さなくなり、目に映るもの全てを破壊する為の兵器となった。
古代都市が最後に人の形を取るなんて、機械文明の在り方とは逆行しているように感じた。
「濶イ蠖ゥ鬲疲ウ輔?鬟セ繧翫°??シ溘♀蜑阪b蜷碁。槭□縲∝精陦?鬯シ縺後h縺会シ?シ?シ」
「・・・は?何言ってっか分かんねーよ。」
怒号染みた機械音声が鳴り響くと、超巨大な人型ロボットは腕からビームサーベルのような圧縮魔力を形成し、振りかぶる。
近付くだけでも身を焼かれるような熱を持った光の質量を、幸助は飛んで避けていく。まるで小蝿になったような気分だった。
「再生ーーー《ドーラ》!!」
もはや身体の一部と成り果てた、背中に超巨大な列車砲を再び生成する。再び超高重量がのしかかり、身体をメキメキと軋ませていく。一瞬の内に照準を定めた上で仕留める。
「発射ァ!!!!」
轟音と共に、800mmが火を吹く。機械の身体を貫く程の威力は無い。表面が崩れ落ちる程度で、AAの《箱庭》は更に苛烈に強化され、進化していた。埃を振り払うような仕草で、機械は咲いながら、まるで玩具で遊ぶ子供のように、幸助のドーラを掴んで振り回した。
「あぁあぁあぁあぁぁぁぁ!!目が回るぅぅぅぅ!!!」
幸助からすれば、普通に刺されたりするよりか三半規管を刺激される方が苦痛だった。
「縺薙s縺ェ繝√Ε繝√↑繝「繝ウ縺ァ遘√r螢翫○繧九→縺ァ繧ゑシ溘♀縺セ縺セ縺斐→縺励※繧九s縺倥c辟。縺?s縺?繧医さ繝?メ縺ッ??シ」
「だから何言ってんだよマジでよ!《ドーラ》解除!!」
幸助の背にあった《ドーラ》が消えた瞬間に、振り回されていた勢いをそのまま利用し、即座に次の行動を取る。《蒼炎外套》により加速し、ベクトルを変更しながら高速移動し、全方位から放たれる銃弾の雨を掻い潜り近づいていく。《ハジキ疼》により《弾性》となった身体を更に魔力で強化し、硬く柔軟な拳で、音速に達する速度までに勢いをつけて殴りつける。
自らが銃弾のようになり、腹部に激突する。左腕と拳が《弾性》状態でも衝撃に耐えられず折れて粉砕されると同時に、その機械の身体も表面に亀裂が入り、仰反る。
ーーーーが。ただそれだけのダメージしか与えられない。この機械の身体に、《自刃傷舐》による《心中》のダメージを与える事は不可能だ。ヴェイルは人の姿形を取らない故に、ダメージを転写する型に嵌められないのだ。
腕を新たに再生させ、《蒼炎外套》で距離を取りつつ、再び勢いをつけていく。無数に放たれる銃弾を弾く事さえ、ただでさえ体力を消耗させる要因の一つである。
「《鬼血術十卍ーーーー》」
「ーーーやめろ幸助!!!あれ程言った筈だ、十から上のスキル開放は存在しない!!!こんな時に無茶をするな!!!」
スレイヤーは叫ぶ。
気血術は、吸血鬼の真髄を引き出すとされる固有のスキル。ただ、それだけなので、解釈は如何様にも可能であり、その一つ一つが吸血鬼として恐れられた伝承など、《祈り》による実体化に基づいた力を引き出すというものだった。
十から上の鬼血術は存在しない。何故なら、全ての始まりである真相クロノグラフは、それ以上のスキルを開放しなかったのだ。それは、真祖を超える力が無いと、それは不可能なのだ。
スレイヤーは、クロノグラフが扱っていた鬼血術を模倣しているに過ぎない。
「ーーー《短永キ疼》」
ーーーーしかし、幸助は完全な吸血鬼となった。新たな力を引き出し、その全てを自分のものとして使用する。
それは、今までに会ってきた人の出会いを掛け合わせ、そして忌々しい自らの素性と組み合わせて完成された、友情と拒絶、宿命に満ちた力だった。
幸助の全身に、揺らめく紅き鎖の様な刺青の如き紋章が浮かび上がる。
それを見て、機械は怒りの雄叫びを上げる。身体の表層を蠢くその紋章は、アカシクがこの世に残した不死の紋章と酷な程に類似していたからである。
紋章、呪い、回復魔法ですらだ。それらは全て、《箱庭》の構造ととても良く似ている。幸助はそれを理解している。こと《箱庭》に限った話で言えば、幸助という吸血鬼は、他者の《箱庭》に対して、異常なまでの解析能力を持っている。ただ、それを出力するだけの魔力量や練度が足りないだけで、実際は、簡単に《箱庭》を展開出来る連中の誰よりも、理解力が高い。
アカシクの紋章は、解呪が不可能なモノである。それは幸助もよく理解していた。
個人情報に踏み入る際、必ずパスワードを要求されるように、《箱庭》には当人の強い意志やキーワードのような、思想の核となるナニカが必要である。
ところが、アカシクの紋章には、それが無いに等しいのだ。最初からその様に設計されている。目的が達成されれば消失するプログラムなのだ。しかも、厳密に言えば、目的が達成されても消失はしない。これは、掛けられた者が特定の条件を満たし、死を迎える事で発動するプログラムなのである。
よって、最初からこれは、目的を達成する為に犠牲を強いる構造になっている上、それまでにその特定の条件を満たす以外では被呪者に死なない事が強制されている。
何とも悍ましいアカシクの呪いそのものなのだ。
ーーーーが、その外枠だけを複製する事なら、幸助には可能だ。
一時的にアカシクの呪いを自らに掛けるのだ。そうすれば、事実上の不死となる。だが、アカシクの紋章は燃費が悪く、あるだけで魔力を喰う厄介なモノだ。それを更に魔力で作り上げて維持するのは、困難を極める。
自分の魔力で作った呪いを自分に掛けるのだ。
自分が作ったモノだから、魔力が尽きれば解けはするものの、その魔力を極限まで搾り取られる。吸血鬼が血を抜かれるのだ。
その間、《再生の魔眼》を用いても、造血は不可である。同時にスキルを進行できるキャパシティがそもそも無い。
だが、その間、完全なる不死となる。
「ーーー繧医¥繧ゅ%繧薙↑繝「繝弱r遘√↓隕九○縺溘↑?∽ク肴ュサ縺輔∴繧よョコ縺励※繧?k?∫ァ√?縺?★繧後い繧、繝翫r谿コ縺励?√?繧ュ繧「蟋峨&繧薙b隕九▽縺大?縺励※谿コ縺励?∫ァ√′荳弱∴繧峨l縺滉スソ蜻ス繧偵?∵ュサ繧偵b縺」縺ヲ縺ァ繧よ棡縺溘☆?√◎繧後r縲√♀蜑阪′縲√♀蜑阪′縺√=縺√=??シ」
「ーーー握手、したんだ・・・。」
紋章を纏った幸助は、《蒼炎外套》で加速しながら、スレイヤーの為に失い、今や色彩杖の先端部分がくっついた右腕をさすりながら、ボソリと呟いた。
「ーーー《朱》。」




