第77話 終末華葬都市
「ーーーーー」
セッター・プライニは、スキルを発動する間も無く、AAの槍に貫かれる。
クジャと同じように、《蒼炎華槍》の炎で焼かれ、一瞬で灰と化した。
スレイヤーは満身創痍となっていた。腹に孔を開けられ、触腕はボロボロになっている。
「ーーースレイヤー、貴方の敗北は、私の強さを見誤った事。」
「ーーーまだ負けてねぇよ、ボケ。」
AAは、鎧により表情を見せずに、冷酷に近づいていく。
ーーーが、スレイヤーは肩で息をしながらも、笑っていた。怖気付く素振りも見せず、余裕の笑みを浮かべている。
「・・・強いな、AA。ヴェイルに頼らずとも、そこまでの力があったとはな。」
「当たり前でしょ?私は貴方よりずっと長い時を生きているの。」
「・・・何だと・・?私よりBBAがいたのか・・・?」
「あらうっかり。それじゃ死んでもらおうかしら。」
AAはスレイヤーに槍を向ける。槍先から華が開くように展開していく。《電磁華槍》の一撃を再び与えようとしているのだ。
「ーーーまだ幸助に教えなきゃいけない事、やりたい事が山ほどある。」
「ーーーあぁ、あの吸血鬼もどきね。雑魚と同士討ちしたっていう噂の。造華はまとめて殺さなきゃねぇ!」
「ーーーそうか。そこまでして、幻獣のみならず、生物を根絶やしにしたいか。《鬼血術一ノ卍・禍ツ渦》ーーー。」
スレイヤーの身体が紅き渦に包まれる。それは無辜の血液である。吸血鬼は、他人の血を取り込み、自身を際限なく強化する。
筋骨隆々とした肉体に、獣の如き牙が生える。紅く激る血液がスレイヤーの肉体を煌々と照らす。本能に近い吸血鬼然とした姿へと変貌を遂げる。
スレイヤーの身体から伸びる触腕が一層太くなり、拳を作り上げた。
その姿は阿修羅であった。何本もの腕が生え揃い、殺意に溢れている。
腹に穴は空いたままだった。血は止まらない、が、傷を塞ぐよりも攻撃に特化しなければ負けると判断した。
痛いままが続くのは慣れている。弟子があんなにボロボロで頑張ってきたのを見てきたのに、師匠の自分が示さないで何が師匠だ。
負けて全てを奪われる方が耐えられない。死よりも恐ろしい事はこの世に腐る程ある。だから、二度と同じ過ちを繰り返さない為にも、踏ん張らなきゃいけないだろ。おい、スレイヤー。
自分に言い聞かせるだけの自己暗示が、今のスレイヤーにとっての生命線であった。根拠の無い覚悟だが、無理矢理に身を奮い立たせて言い放つ。
「ーーーさぁ、殴り合おうぜ。お互い血が足りねぇよなぁ。」
「偽りの筋肉で威嚇されても、ねぇ?」
「ーーー喰らってみて判断しなッ!!」
空に佇むAAに向かって、拳になった触腕を放つ。ゴムのように、しなやかに伸びたそれは、遠心力を伴った一撃と化す。
AAはそれを難なく受け止める。が、勢いを殺して受け止めた筈の、その殴打は拳の先に魔力の渦を生じていた。段階的な魔力の衝撃が、一発・二発とやってくる。
時間差の殴打である。一発しか喰らっていないのに、その後に五発程喰らったような衝撃がAAを襲う。
「ーーーグッ!!」鎧すら貫通しかねない内部衝撃に脳が揺れる。
「これが、《鬼血術三ノ卍・穿ツ渦》じゃい!!!」
ーーー《穿ツ渦》は、殴った対象の箇所に、最初に放った殴打と同威力の衝撃が時間差で生じるという拡張スキルである。その数は、スレイヤーが拳に込める魔力によって変化し、最大で五連撃を放つ事が可能になる。
スレイヤーは間合いを詰めて、連打を開始した。触腕、既存の腕も含めて、鎧を殴打する。
「急にパワータイプになんのかよ!!おおおおおお!!!」一発一発が重い連撃に加え、更に後からくる衝撃により、AAの鎧にヒビが入っていく。だが、AAもこの流れは大好物だった。戦闘狂の血が疼くからだ。
「《烙印帰結術・狂華》ーーー。」
AAの鎧に華が咲く。朝顔のような華が拳の先に咲き誇り、スレイヤーの殴打を、更に殴り返していく。
その拡張スキル《狂華》の効果は、身体能力の一時的な向上をもたらし、《穿ツ渦》の拳に込める魔力と相殺する事で無効化する。追加効果を与えるスキルに対して有用な拡張スキルであり、考える隙も無い中で、AAは本能でこのスキルを使用し対抗する。
AAの拳は、《狂華》により更に強化されていた。手数で攻めてくるスレイヤーの殴打を、速度を上げる事で対応する。
互角だった。
連打に次ぐ連打。筋力と魔力による完璧な肉体が織り成す打撃の連鎖は、音を置き去りにして紡がれていく。
「ララララララララララララララララララララララァァァァァ!!!」
「オラァオラァオラァオラァオラァオラァオラァオラァオラァ!!!」
そこで、スレイヤーは更に魔力を消費し、スキルを掛ける。身体に更なる負荷が掛かり、吐血するが気にしない。ギラギラとした殺意のみを浮かべ、AAを殺さんと追撃する。
「ーーー《創具顕現・獣鉄蛮覆手》!!!」
スレイヤーの触腕全てに、殴打用の魔装具が展開される。その手は丸く棘のついた合金になっており、相手を殴り殺す殺意に溢れた形となっている。
「ーーーうぐっ!!!」
狂華によって覆われた拳を、スレイヤーの獣鉄蛮覆手は粉砕し、AAの拳を貫通した。
それが功を奏したのか、ついに、スレイヤーの手数がAAを上回り、ボディに直撃する。棘が刺さり、《穿ツ渦》の効果により、一撃が時間差で五撃となり、AAの鎧を貫いていく。
スレイヤーは連撃を重ねていく。このくらいでAAが死ぬ訳が無いと分かっている。幻獣ヴェイルは再生能力が高く、有機物がある限り自身の栄養源として取り込み増殖する。
だが、体力を奪い、人の形を留めない程度には追い込む必要があった。でないと、とどめはさせない。
こいつはもはや人間では無いのだ。
「ーーーミンチにして喰ったるわボケェェ!!!」
「ーーーあああああ!!!《極雷炎》!!!」
その叫びが、溜まりに溜まったエネルギーを放つ合図となった。
雲間から、雷と蒼炎がスレイヤーに直撃する。クジャを一撃で葬ったあの技だ。
超高熱と超電圧がスレイヤーの身体を焼いていく。血液が一瞬で沸騰蒸発し、神経は焼き切れ、身体を動かす回路が切れた。が、スレイヤーは止まらなかった。身体の中に残った僅かな血液そのものを魔力で操り、気合で無理矢理身体を動かしたーーー!!!
全ッ然効いてねぇ!!!!多分!!!
「ーーーうがぁぁぁぁぁ!!!」
口元から硝煙を上げながら、スレイヤーは右腕を振りかぶる。その姿はまるで鬼神のようだった。
「ーーーマジかグガッ!!」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
背後の触腕によるラッシュが続く。幾重にも重なる拳の雨は、AAの鎧を突き破り肉体を崩壊させるには十分だった。
スレイヤーは、甘えを捨てて、無抵抗のAAを、殴り潰した。
「ーーーはぁ、はぁーーーー。」
鬱蒼とした森の中、血溜まりの中に吸血鬼は立っていた。身体は雷に打たれた影響により紅く腫れ上がり、血管が蒼く走っている跡が見えた。
触腕も血液を失って脆くなり、ボロボロと地面に落ちていった。
スレイヤーは、AAの原型を留めない程に、殴りに殴った。肉体が千切れ、血液が至る所に飛び散っている。AAの頭は割れ、脳みそが見えているが、これは偽りの姿。既に幻獣ヴェイルと同化した彼女には、まだ効いているのかすら分からない。
流石に魔力を込めて殴ったので、ダメージはあると信じたい。
「ーーーはぁ、グッ・・・ーー」
スレイヤーは木にもたれかかり、しゃがみ込む。腹には穴が空いている。
電磁華槍で開けられた穴に、左手の喪失。吸血鬼は外傷には強いが、痛みそのものに強い訳では無い。人間と同じように痛覚はそのままだ。
無理をし過ぎた。《鬼血術》は、自身の血を大量に消費する諸刃の剣である。自身の回復能力がほぼ皆無のスレイヤーからすれば、禁忌の技であった。
ーーーーとどめを刺さなければ。こんな危険な奴を野放しにしておく訳にはいかない。アカシクの民だとか関係無い。こいつはこれからも、意味も無く人々を化物に変えて蹂躙し尽くすだろう。危険度SSSに相違ない怪物だ。
ーーーだが、スレイヤーの視界は霞み始めていた。幸助と比べて、痛みから魔力を錬成出来る量はごく僅かである。回復魔法を使えないスレイヤーからすれば、今の状況は優位ながらも危うい。普通は傷があるだけで魔力は消費されるからだ。幸助のような体質は稀なのだ。
それに、もう既に《箱庭》を展開するだけの魔力が尽きている。《鬼血術》は、普段以上の力を行使出来る反動として、魔力の消耗が激し過ぎる。血液を魔力の炉心として利用する特性上、いざという時にしか使えない。
ーーーコースケ、こんな時お前さえいれば、私は無敵なのにーーー。
その時だった。
「ーーーおめでとう、スレイヤー。貴方は造華として完璧な存在。」
何処からか、声がした。それは、紛れもなくAAの声のように思えた。低くしわがれたような声だが、その尊大な口調からAAとすぐに理解する。
「生華を踏み躙り、自らの力として取り込み強くなる。適者生存の世界では卓越した存在だね、吸血鬼って奴は。やっぱり私の見立ては悪くなかった。」
「ーーー僕はさ、ぶっちゃけ使命なんてどうでもいいよ。姉さんさえいれば、それでいい。」
・・・は?誰だ?
「吸血鬼こそ幻獣の完成形。」
「ああ、空が見たい。星空、何年も見ていないかも。僕達、このまま年も取らずにずっとこのまま?そんなに紋章の責務って、一族にとってそんなに大事なものなのかな・・・?」
「ヴェイルも悪くないけどね。やっぱり出力的に、憧れちゃうなぁ。ズルイよ、ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ憎い憎い憎い憎い憎いーーーーー」
「姉さん、そろそろ帰ろうよ。母さんにまたぶたれる前にさ。」
「弟を返して。弟を返してよ。ねぇ、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、パレットあのクソ野郎絶対許さない。」
「僕だけは姉さんの味方だよ。」
「ーーーーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
声の方向を確認する。闇の中、目を凝らして周囲を見渡した。すると、周囲の木々が喋っていた。ヴェイルのように、木に意志が宿ったように口が現れて動いている。
AAの血や臓物が溢れた事により、その身体の一部が掛かった箇所がヴェイルによって汚染され、動いているのだ。
ーーーにしても、これだけの感情が色んな木から吐き出されている所を見るに、精神分裂を起こしているのでは、との疑念も湧いた。吸血鬼は血を吸った対象の魂を取り込むとされている。が、人格は主人格のままであり、誰かを取り込んだからといって身体の主導権を握られる事は決してない。
ヴェイルは、どうだろうか。
さっきの神殿での様子を見るに、取り込んだ相手との意識の乖離が見られた。好き勝手に犠牲者は喋り、それをAAが宥めていた。
という事は、ヴェイルにはその支配権みたいなものが無いのでは?
それとも、AAの精神がイカれているのか。
ーーーもういい。疲れた。狂人の戯言に付き合ってられない。気味が悪い。
アカシクの民のいざこざを考えるだけ時間の無駄だ。奴らは総じて人類のみならず世界の敵だ。それだけは変わらない。
あの姫様も、紋章さえ解く手段を見つけたらすぐに殺してやる。この旧民族はいない方が世界の為だ。博愛主義者のコースケには言えないけど、こいつらは放っておくとすぐに他人を不幸にする兵器を生み出す。知識の使い方を間違える傍迷惑な存在に変わりはない。
その発明で救われた命はあったのか?誰かを幸せに出来たのか?
戦争で技術が発展し、それがやがて人々の生活に渡り豊かになるのは事実。その人間の歩みは否定しない。が、アカシクの民に限っては別だ。
古代都市アカシクは、進み過ぎた技術の発展により、善意を失った人間達の内部闘争により消滅したとも言われている。消滅には複数説があるが、私はそう思っている。
こいつらに人の血が流れているものか。
スレイヤーは、幸助に「よく分からない神の類や、アカシクの民の血だけは飲むな」と度々言い伝えてある。その理由は、人間と思えない者の血を取り込めば、何が起こるか分からないからである。龍でギリギリオッケーという、スレイヤーの独断と偏見に満ちたラインを参考にしろと常々問い掛けている。
その理由は、スレイヤーのアカシク文明への忌避にあった。自然的存在である太陽を神と崇め、信仰するスレイヤーにとって、行き過ぎた科学・魔法技術の発展は人の営みを根本から変えてしまうものであり、そんな者の血を取り込むだけでも思想が影響されてしまうかもしれないという危険意識が強いのだ。
実際、スレイヤーの考えは筋が通っており、ましてや紋章など訳の分からない遺物を遺しているアカシクの思惑が全く分からない点を踏まえても、迂闊に血を取り込むべきではないと幸助自身も納得している。
スレイヤーが魔王軍幹部を辞めた理由。
それは、新しい魔王の思想に共感出来なかった事もそうだが、元・擬神である女帝デスペラードやAAの魔王軍の加入が決定打となったのは事実だった。
ーーー色彩魔術師パレットが殺したAAの弟・XAと同じように、こいつを殺さなければならない。
スレイヤーの身体は、満身創痍ながらもその殺意の為に動いていた。
ボロボロの右腕に、スキルを顕現させていく。
「ーーー《創具顕現・龍撃爆弾》ーーー。」
龍王セトラの《爆撃》から考案された魔装具を顕現する。といっても、セトラ程の爆発は起こせないが、今のAAを消し炭にするには十分な火力だと判断した。
「叫んでどうにかなるならそうしてろ。お前らは私がいずれ根絶やしにしてやるーーー。」スレイヤーは冷酷に言い放つ。
「ううううううぅぅぅぅ、痛いよ、苦しいよーーーー何で生まれてきただけで、僕らは差別されなきゃいけないの?」
「そのように産まれてきてしまった事を呪え。私は、お前らの罪が嫌いだーーーー。」
「ーーーーそっか。最初からどうしようもないんだね、僕らーーーー。」
「ならお姉ちゃんが全部殺してあげる。アンタの分まで。世界に2人だけでいいじゃない、そうよ、きっとそう。寂しくなんか無いわ。私は、アンタさえいれば何も怖くないものーーーー。」
森がざわめいていた。
不気味な風が吹き付けている。吹き溜まりになったこの世に蔓延る怨嗟と悪意が、森に集っている。
爆撃も轟音も止まり、此岸に生物が居なくなったと勘違いしそうな静けさが漂っていた。あらゆる闘争が終わった後は、新たな闘争や悲劇が始まる。歴史を長い目で見れば、戦後は時間が経てば戦前になる。人々の争いは永遠に終わる事はない。
まさに、嵐の前の静けさ。
恐ろしい程の静謐は、これから性急に訪れる何かを意味しているようにしか思えなかった。
スレイヤーは、とても嫌な予感がした。
その現象に、AAの魔力を感じるからだ。悍ましさを覚えるドス黒い魔力の風が、吹いている。正気を失った瘴気が空間を支配している。
ーーーー殺す。
純粋な殺意が、両者の脳裏に過ぎった。
スレイヤーは、即座に《龍撃爆弾》を起動した。
龍王の固有スキルを模した最新鋭の兵器である。効果は、セトラの《爆撃》と同じように、使用者以外の対象物のみに爆発の衝撃を与えるという、ノーリスクで行える爆弾である。その為、破砕物が使用者に直撃するといった危険はほぼ無いに等しい。
込める一撃は、標的の完全なる消滅を狙う。
対してAAは、自らの身体を、黒く蠢くヴェイル状に変形させ、新たにスキルを発動した。
「《烙印帰結術・徒華》ーーーー」
ーーーー華の卵から産まれた化物は、神殿で放たれた《乱気流砲》の一撃を無事逃れた個体が多数存在している。
それは、スレイヤー達が神殿の最奥に、ヴェイルによって閉じ込められていたからこそ把握出来ていなかったのである。
AAは事前に準備をしていた。
セトラと会う前に、既に神殿内に避難していた人間を取り込み、化物に変えていたのだ。
スレイヤー達の前で見せていた卵は、その元人間達の一部に過ぎない。
スルースヴィルには、既にAAの傀儡である化物が解き放たれていたのである。
《徒花》により、周囲100m以内に居た化物がAAを座標とし、強制的に瞬間移動させられる。
ーーーそして、事情を知る由もない化物達はAAの肉の壁となり、スレイヤーの《龍撃爆弾》に直撃する。
スルースヴィルにて、不気味に満たされた闇を裂くように、破壊を齎す光に包まれた。
木は薙ぎ倒され、大量の肉が散っていく。あまりの衝撃に、地面は抉れ、数多の肉体が滅んでいくーーーー。
周囲一帯が更地と化した中、スレイヤーが一人、立っていた。最後に残ったのは自分だと誇示するようにため息をつく。
生物の痕跡すら残さないのは、AAだけではない。セトラの《爆撃》は、その力だけで物理的に消滅させる。
AAは完全に消滅した。ーーー筈だった。
ーーーーその時、上空から二槍が奇妙に降り掛かった。その2つは、AAが使用した魔装具だった。蒼炎と雷撃の化身たる槍は、回転しながら交差するように地面に突き刺さった。
そして、その槍の柄に、黒く蠢く小さな眼が動作すると、槍同士を跨るように繋がった。
それが、真髄たる《厄具機来》を齎す、厄災の再現になろうとは。
二つの槍を触媒とし、地面が轟いていた。突き刺さった地面がヒビ割れを起こしていき、秒間毎に地割れを生じていく。
上空は黒々しい雷雲が立ち込め、不自然な落雷を起こしていた。闇を裂くように大気を走る雷光と、雲間を走るように夥しい炎の渦が巻いていた。恐ろしい予兆を想起させ、その光景には神々しさすら感じていた。神の怒りともいうべき荒々しさと厳格さ。
ーーーー何かが、来る。
スレイヤーは既に満身創痍であり、身体に魔力の源泉たる血液も不足し、新たに《創具顕現》する力も残っていない。身体に空いた孔もそのままであり、抵抗する体力すら失っている。
ーーーまだ、奥の手があったのかーーー?
スレイヤーは、笑うしかなかった。この魔力の渦や、不吉な凶兆には覚えがあった。
世界を心象風景で塗り替える現象。
魔法の究極到達点であり、幻獣種が得意とする世界法則の上塗り。
ーーーこれはーーーー《箱庭》。
しかも、魔力消費の激しい筈である顕現型。空間を塗り替える必要すら無く、現実にそのまま現れる、魔力の構築物たる現象である。
魔力から物質や現象を生み出す、まさに魔法の到達点。
スレイヤーは吐血した。無気力な身体が震えている。外傷だらけとはいえ、不自然だった。力が抜けているとはいえ、突然の出血は許容し難い苦痛と共にやってきた。
スレイヤーは穴の空いたクレーターに倒れ込む。
身体が痺れていく。そこでスレイヤーは気付く。
急激に大気が汚染されている。上空は未だ雷炎が鳴り響き、大地は胎動している。
魔力を伴った瘴気が視界を蝕んでいく。
ーーーそれは、毒だった。それも、自然界にあるような毒じゃない。工業廃水の類である。環境を犠牲にしてでも進化を辿ろうとする人間文明の歩みには必要不可欠な痛み。
「ーーーーう、うぅぅ・・・。」
スレイヤーは呻き声を上げながらも、弱々しく立ち上がる。これから起こる何かを見届けようと思った。
胎動は止み、2本の槍を中心とし、魔力の渦が湧く。それを中心とし、種から植物が生えるように、地面を割り、余りにも場違いな巨大建造物が生えていく。
どこまでもどこまでも、伸びていく・・・。
それは、傲慢故に、地獄から天国に手を伸ばしているようにも見えた。
轟音が鳴り止むと、その全貌が明らかになる。それを見て、スレイヤーは絶句した。ふざけているとしか思えなかった。
その移動要塞は、殺意と嘲笑に溢れていた。要塞の全方位に見た事も無い古代兵器が並んでいる。古代兵器を覆うように、年代を思わせる蔦や花、緑が生い茂っている。
余りにも巨大で、理不尽だった。
その正体を、スレイヤーは直感で理解した。自然と、乾いた笑い声が出た。
「ーーーハハハっ・・・・・・おいおい・・・。そりゃあ、反則だろ・・・。」
ーーーーーそれは、幻であり伝説とされた、忌むべき人類史の汚点。全ての世界の分岐点。
AAの心象世界にある原風景を世界に顕現する《箱庭》。
かつての永遠都市を一部に顕現した移動型要塞ーーーー《終末華葬都市》ーーー。
スキル解説
《厄具機来》・・・AAの固有スキル。何処かの世界、または永遠都市から魔装具や兵器の情報を引っ張り出して、複製する。《創具顕現》と似た能力だが、このスキルは自分しか知り得ない情報のみしか複製出来ないので、ある意味では《創具顕現》とは真反対の能力とも言える。しかし、それだけあって効果は絶大であり、神造兵器級の魔装具をポンポン引き出せてしまう。
《烙印帰結術》・・・AAと幻獣ヴェイルが融合した事により発現した固有スキル。対象や自分の肉体を変化させ、華に変える能力。《厄具機来》との合わせ技も可能であり、非常に汎用性が高い。何をするか分からないが、要は能力が広義的過ぎて何でも出来るスキルと化しており、如何にAAが化物であるか理解出来る能力である。現状は主に他人の命を使い潰すという方面に特化している。
《鬼血術》・・・吸血鬼が持つ標準スキルとされる。血液を媒介とし、肉体の強化や魔法現象などを引き起こす。スキル拡張すると、吸血鬼の個体によって発揮される能力が変わるので、ある意味人の個性が出るところを鑑みれば、固有スキルと言っても申し分ないスキルとなっている。吸血鬼でありながら、何故か回復魔法が使えてしまう転生者・幸助とはとても相性がいいスキルの筈なのだが、本人は使おうとしない。というか、才能が無さ過ぎて使えないが正しく、自分なりにアレンジしている最中なのである。




