第7話 襲来
―――――――――――あっという間に放課後になった。
伊藤は拳の怪我で早退したようで、それからクラスの雰囲気が少し、和らいだ気がした。
幸助がもしかしたら無害な人間なのでは?と、薄々気付き始めたのだ。
小鳥遊小春が幸助に話しかけた様子を見ていたクラスメイトから、その噂がいい感じに広まったようで、この状況は小春のお陰といってもよかった。
小春は人気者だ。ポニーテールをしているので、後ろ姿だけで誰かわかる。弓道部に所属しており、文武両道を地で行く美人で有名だ。正義感が強いので、俺のような人間にもかまってくれる。
恐らく、虐められていた時に俺の机を直していたのは、部活帰りだったのだろう。
弓道部は部室や弓道場の片づけに時間が掛かるらしいので納得がいく。流石にそれを本人に直接訊くのは気が引けた。相手の善意を暴く行為が、決して快いモノではないと経験で理解している。異世界で何年と時間を過ごしているので、そんな野暮な事をする程、精神面はもう子供ではない。
伊藤の取り巻き達も、俺と関わってくる様子は無かった。逆に俺を見るや否や、逃げ出していく有様だった。あいつらも伊藤の被害者である。誰かの虐めに加担しないと、次は自分が標的になると理解しているのだ。
「――――ねぇ、幸助君は弓道に興味ある?」
帰ろうとした時、小春が部活に勧誘してきた。
その誘いは嬉しかった。異世界では何でも武器を使っていた為、弓には多少の心得がある。
でも、断らなければいけない事情があった。
「ごめん。今日帰りに、ジムに契約しに行くんだ。部活に入るつもりは無い。」
・・・・・・それに、部活なんて入ろうものなら、とても面倒な事になる。
今の俺は明らかに人間から逸脱している。だから、部活に入ろうものなら、逆に迷惑が掛かってしまうのだ。弓道とて例外では無い。それに、弓を見ると戦場を思い出す。
「いやいや!絶対に来て!!幽霊部員でもいいからお願い!!!」
「・・・でも」
「何でも言う事聞くって」
「・・・分かった、行く。」
あー、余計な事言わなきゃ良かった・・・・・・。
「いや、前から誘おうとは思っていたのよ。ほらうちの弓道部、今人数少ないじゃない?」
「そうなんだ?」
「え、知らないの?」
「・・・いや、記憶抜けてるかも・・・。」
「・・・あー、そっか。ていうか何であの状態からさ、4日でここまで元気なの?おかしくない?どうなってるのその身体。」
「それは俺が聞きたいよ。」
「・・・まぁ、いいや。とんでもなく生命力が強いって事にしとく。それでもあり得ないけど。」
「そんなゴキブリみたいに言わなくても」
「ゴキブリでも死ぬってあれは。頭が割れて、血塗れ状態の君を見て吐いた私の気持ちになって欲しいわ。次の日学校休んだんだから。」
「そんなにグロかったんだ・・・。」
「写メ見る?」
「何で撮ってんだよ。」
「・・・ふふっ嘘よ。パニックで撮る暇なんて無かったわ。」
何でもない会話をしていると、ついに弓道場に辿り着いた。
外装は剝がれている。ところどころ錆付いていて、建物自体が古臭い。いかにも道場の造りをしていて、入口出口が一か所に限定され、玄関が無駄に広く、平らに長い平屋だ。
的のスペースだけ吹き抜けになっており、雨降ったら面倒だろうなと思ってしまう不器用な造りだった。
「・・・やっぱり帰っていい?」
「駄目。」
「だと思いました。でも俺、やれる事無いと思うけど。」
「私の練習に付き合ってほしいのよ。」
そういいながら、小春は目の前で着替え始めた。いきなり脱ぎ始めたのだ。
「ちょっ何して」
「仕方ないでしょ、着替える部屋無いんだから。」
「嘘だろ絶対!!トイレとかで着替える選択肢もあるじゃん!!」
「え~、面倒じゃない汚いし。いつもこうしてるから気にしないで。」
「気にしないでって・・・。」
いや無理だって。
小春の下着姿が露わになる。着痩せするのか、制服姿では気付かない位、大きな果実が実っていた。透明感のある肌をしており、無骨に武道を極めようとする乙女には似合わない美しさだった。7月なので汗ばんでおり、滴る汗がとても性的に感じてしまい、目を逸らさずにはいられなかった。何だこのラッキースケベ展開は。俺はこんなに幸せでいいのか?
「・・・あれ、もしかして興奮してる?」
小悪魔のような笑みを浮かべる。やめてくれその言葉は俺に効く。
「は、早く着替えてくれ!!」
何だ、誘っているのか!?
いやそんな訳無い。からかっているだけだ。
「・・・はははっ!ごめんごめん、すぐに着替え終わるから!」
小春は無邪気な笑顔を見せる。
弓道着に着替えた小春は、制服姿から受ける印象とは違って見えた。今は凛々しさを感じる。他を寄せ付けないような、張り詰めた印象だ。緊張が走るような、刺す威圧感。
それは、弓道を行う過程で身に付けた所作が理由だろう。どの武道にも通じる、合理を突き詰めた故の無駄の無い行いが、小春の外面を理論武装しているのだ。
「さ、練習しましょ。着替えは無いから、今日は私服でいいわ。使い方、分かるかしら?」
そう言って、小春は弓と矢を手渡してきた。自分が異世界で使ってきたものより少し大きい。
「って言っても、分かんないと思うから手本を見せてあげる。」
「いや、分かる。貸してくれ。」
「え?やった事あるの?」
「ちょっとだけね。」
そう言って、幸助は弓を持って、構える。
力の加減を調整し、角度を確かめる。弾道を予測した上で、狙うべき的を見つめた。
構え方は滅茶苦茶だ。弓道のような洗練された姿勢では無い。獣を狩る時のような、野生。
ただ無心で、物事を機械のように実行する。それが弓を射る行為の中で一番重要な事だ。
幸助は確信していた。このままでは的を射てしまう。
いっその事、初心者のように、やっぱり出来ませんでした!で終わるのが、一番収まりがいいのではないだろうか、と。
だが、小春の期待に応えたい気持ちが勝ってしまった。
的は奇麗に、真ん中に命中する。
「・・・凄い。」
小春から感嘆の声が漏れる。
「・・・・・・帰っていい?」
「駄目!!絶対に入部して!!!幽霊部員でもいいから!!!!」
「ええ・・・。」
とは言いつつも、幸助は内心嬉しかった。
その日の帰りに、学校帰りに丁度良く通えるジムと契約した。今の肉体を維持し、更に強くなるには地道に身体を鍛えていくしかない。身体を動かしていないとモヤモヤする人間になってしまったので、部活に入るよりよっぽど大事だった。
何故かそれに小春も同行してきた。
「ねぇ、絶対弓道部入ってよ?ジムに入るのはいいけどお願いよ?」
「分かってるよ。」
「早速今日利用されていきますか?」
「はい。」
即答した。自分が今どれくらい出来るのか、すぐに確かめたかった。
「じゃあ、私はこれで。明日も宜しくね幸助君。」
小春は興味ないのか、帰っていった。まぁ仕方無いか。こんな地方都市の田舎みたいな所でジムに入る女子高校生の方が珍しい。
・・・それにしても、あれは何だったんだ。何であの時、目の前で着替え始めたんだ?
それだけがモヤモヤする。・・・いやいや、俺の勘違いだ。そんな訳は無い。
雑念を振り払うように、早速、デッドリフトを300㎏でやってみる。薬物を使わずに人間が上げる重量の限界に近い重さだが、幸助は余裕を持って上げる事が出来た。それどころか、片手で持ち上げられそうなくらい、軽く感じた。やはり今の肉体は常軌を逸している。魔法による身体強化無しにこれが出来るのだから、これからも力の加減には気を付けなければいけないだろう。
「兄ちゃんやるねぇ!!腰ベルトもせずにその重量上げるとは!」
知らないおっちゃんから話しかけられる。
「あっ、腰ベルトするの忘れてました!」
「ヘルニアに気をつけなよ。若い時に怪我すると引きずって大変だから。」
そんな適当な会話をしながらテレビを眺めていると、突然ニュースが流れた。
先程までよく分からない商品を宣伝する情報番組が流れていたのだが、急に画面が切り替わる。全国放送の報道番組だった。画面越しからでも伝わる慌て具合で、女性のニュースキャスターが落ち着いて、言った。
「ただいま、ニュースが入りました!現在、金井市上空に何らかの飛行生物が現れた模様です!住民の方は外出を控えてください!
こちら映像となっておりますのは、SNSに上げられた動画。こちら合成が疑われておりますが各地で色んな人が目撃・撮影をしており、合成ではない事が分かっています。現在分かるところだけでも10件以上の被害が発生しており、只今自衛隊が出動する事態に発展して――――――――――――――――」
それを見た瞬間、頭が真っ白になった。
何故、どうやって、この世界にやってきた、魔王軍の残党。
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