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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
血飛沫なる運命
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第67話 旧神と大天使

 ―――――――旧神。


 アカシクが世界の覇権を握った時に、天界を追い出された『本当の神』。

 魔王軍幹部フォーチュンは、まさしく正真正銘の世界の管理者である神だった。

 消えていたかと思われたフォーチュンは、新たな魔王が君臨した際に、突如として現れた。全知全能とされた、明らかに逸脱した権能をかつて持っていた上位存在が、魔王軍に加わったのだ。


 それが何故なのか、誰にも知られる事は無かった。いきなり現れたのだから。それまで何をしていたのかなど、誰にも分からない。


 理由は、アカシクに対する復讐があるのではないかという仮説が立っている。



 時を同じくして、ある村で少女が妊娠をした。


 その少女は、誰とも性行為を交わさずに妊娠した。


 処女懐妊。その少女は聖女として認定され、生まれたその子供は神聖化され、人々から祝福された。

 「神様の分身よ!」人々は賛美してやまなかった。


 その子供の名前は、ブラッド・ハイド・シーカー。

 史上最強であり、最悪といわれた、半神半人の元勇者である。



 「――――《神威化キムンカムイ》―――――」


 黒き獣と化した血染めブラッドは、魔剣を取り出して体毛を蠢かせる。

 その詠唱は、自らが神の力を使う為のモノである。


 「―――――その姿は――――――」


 大天使コンパイラ=ローゼスは、ブラッドの力の一端を、誰よりも恐ろしきモノだと知っている。それは紛う事無き、旧神の力。自らが仕えるフォーチュンのような、威厳と神気に満ちた力そのもの。

 彼には、神の血が流れている。それが真に神による力なのか、勇者のような人々の祈りが齎した奇跡なのかは、誰にも分からない。

 ただ、コンパイラからすれば、偽物か本物かなど、どうでもよかった。


 そこにあるのは、自然しぜん

 誰にも制御が不可能な《神》というシステムそのものである。


 「―――――《冥王懺悔ロストフル・デッドマン》。」


 ブラッドは、地面に手を触れる。

 王たる資格を持つ象徴は、遂に・・・モノに命を与える。


 地響きがした。ブラッドの周囲を中心に地面が盛り上がり、それはやがて人型を形成していく。

 固有スキル《神威化キムンカムイ》によるスキル拡張は、モノに命を与え、意識や意思を与える。それはまさに、神に等しき力。


 《神威化キムンカムイ冥王懺悔ロストフル・デッドマン》と呼ばれるソレは、モノに命と意識を与えた上で、魔力が尽きるまで戦う有限の命として、自動操縦が可能。


 周りの建築物を巻き込んだ、高さ5m程の巨大なゴーレムが、突如として現れる。


 「《魔道ステイン一番ファースト勇幻羅刹サウザンド》。」


 ゴーレムの頭に乗りながら、ブラッドは再び新たな固有スキルを唱えた。

 ―――――瞬間、ブラッドの両手に、2本の魔剣ステインが握られる。


 「――――《星誕スタァブレス瞬点連鎖チェーンクロニクル》!!―――――」


 コンパイラは、自身の《星誕スタァブレス》を拡張し、連続で瞬間移動をしながら、ゴーレムの上空10m地点を転々と身を移し、全方位から弓を引いた。煌矢の螺旋がブラッドに命中するが、それをブラッドは魔剣ステインの一振りだけで、軽くいなしてコンパイラに撃ち返す。

 その時、小さな声でブラッドは詠唱した。


 「――――《神威化キムンカムイ煉王免罪ロストフル・ルサンチマン》。」


 その煌矢は、まるで意思を持ったかのように、コンパイラ目掛けて追いかける。


 「――――はぁ!?」コンパイラは意味が分からなかった。《星獣弓スターダスト》は、対象に触れるまで追尾する能力を持っている。つまり、触れた時点で、追尾する能力は失うのだ。今確かに、煌矢はブラッドの魔剣に触れた筈。それが何故、《星獣弓スターダスト》と同じように、煌矢が対象を変えてまで動き出すのだ。


 「―――ックッ!!化物かこいつ!?《星誕スタァブレス》――――」

 そして、コンパイラが瞬間移動をしようとした隙を、ブラッドは突いていた。

 「拍手だ。」


 気付いた時には、コンパイラは突如として地面から現れた巨大な両手の間にいた。

 地面は既に、彼によって命と意思を与えられていた。それは距離がどんなに離れていても、例外では無い。

 何故なら、彼が世界に及ぼす影響は、範囲指定など関係ない。

 この世界そのものが彼にとっての《箱庭》である。


 二つの手が重なり、その衝撃で、地響きと土塊が飛び散る。ブラッドは、コンパイラを一瞬で潰した。


 ―――――かに思えたが、コンパイラは《星誕スタァブレス》の使用が間にあっており、間一髪で逃れていた。

 遥か上空からブラッドを見下ろしながら、大天使は慄いた。

 こんな無茶苦茶な力があってたまるか。こんなの、人間側にいていい戦力じゃ―――


 「《魔道ステイン二番セカンド聖幻羅刹ハンドレッド》―――――」


 ブラッドは、その手に持つ魔剣の総数を、32本に増やした。そして、魔剣をコンパイラに向けて投げ飛ばした。そして、その魔剣は当たり前のように、《星獣弓スターダスト》と同じ要領で自動追尾を始める。


 「飛び道具だと!?」コンパイラは困惑した。この男、一度も剣としての本来の使い方をしていないじゃないか。


 「・・・ふゥ~。ギア上がって来たぜコンパイラ。」ブラッドは、当たり前のように《勇道ブレイヴ二番セカンド迅速アクセル》を掛けて、勇者レーヴとは比べ物にならない速度で空を蹴りながら、距離を詰め、ただ手に持っている魔剣一本で振りかぶる。


 「―――甘い!!」だが、コンパイラも歴戦の戦士。この程度、対応出来ない訳が無い。


 《星誕スタァブレス》は、瞬間移動をする為のスキル。ただ逃げながら戦うには最適なスキルだ。格上相手には、《星獣弓スターダスト》を形態変化させて剣として利用する事は、実質死を意味する。接近戦は不可。こんなに固有スキルを保有した上で惜しみなく使ってくる相手に、正攻法で勝てる訳がない。ならば、奥の手を使うしか、無い。


 《星誕スタァブレス瞬点連鎖チェーンクロニクル》で連鎖的に瞬間移動をして、飛んでくる魔剣とブラッドの斬撃を避けながら、彼女は唱えた。

 魔法の究極到達点である、《箱庭》の名を。


 「―――――《星霊裁典きせきのほし》。」


 大天使の《箱庭》は、世界を呑み込み、ブラッドを閉塞空間に閉じ込めた。


 《星霊裁典きせきのほし》。

 完全閉塞型の《箱庭》。その発動条件は、《星誕スタァブレス》の能力範囲と同じ、自身の身体から半径1km以内に対象の敵が存在する事。ただそれだけである。

 空間の中には、宇宙が広がっていた。比喩などでは無く、恒星が煌めき、夜空のように深く暗い闇を裂いている。大量の魔力消費と共に展開される世界は、まさにコンパイラの優位そのものだった。

 大天使コンパイラ=ローゼスは、微笑む。


 「――――残念。ここから反撃か」

 「―――――《神威化界カンナ・キムンカムイ》―――――」


 ブラッドは、ただ一言、そう呟いただけだった。


 ――――――だが、そのブラッドのたった一言で、空間はヒビ割れを起こし、・・・宇宙は崩れていった。


 「――――はァ!?ちょ、《箱庭》が――――――」コンパイラは、何が起きたのか理解が出来なかった。

 《箱庭》侵略という技がある。

 これは、他者の《箱庭》の中で、自らが《箱庭》を展開する事で世界を打ち消しあう現象の事だ。こうなると、保有魔力量などの力量勝負になってくる。

 が、ブラッドは、《箱庭》すら展開していないのに、いとも容易く《箱庭》そのものを壊したのだ。


 コンパイラの宇宙が、あっという間に崩壊し、元のスルースヴィル上空へと戻された。


 「な、何をした。」狼狽するコンパイラに、黒き獣姿のブラッドは不気味に応える。

 「俺にそんな《箱庭》は通じない。」

 「・・・な・・・。」

 「正確には、対象を閉じ込めるような閉塞型の《箱庭》だ。普通の魔法系スキルのように使ってくる、開放型の《箱庭》にはあまり効果は無いがな。俺の前で、世界を塗り替えようなんざ、大天使の分際で8000年早いわボケが。」

 「・・・何をしたと訊いている!!《箱庭》を衝撃も与えずに消滅させるなんて――――」

 「どうもこうも、言葉の通りだよ。詠唱しただけさ。俺の《箱庭》をな。お前も所詮、他の天使達と同じか。がっかりした。もっと楽しめると思ったんだがなァ。もう飽きたわ。」

 「・・・私を殺せるとでも?逃げる事なら」

 「もう無理じゃね?逃げ道ないけどな。」

 「は?」

 「俺がただ魔剣飛ばしただけな訳無いだろうが。俺の魔剣は楔なんだよ。ま、もっとも、こんなのは《箱庭》なんて呼ばないけど―――――」


 瞬間、視界が真っ暗になった。

 コンパイラにはそれが何か、理解出来た。

 先程のゴーレムのように、魔剣を介して魔力を与え、地面に意思を与えた。

 それは、コンパイラの半径1km周囲を土で囲む事。コンパイラのスキルは、遮蔽物があった場合、発動が不発に終わってしまう。なので、視界を塞ぐと同時に、スキルを範囲内でしか使えないようにしたのだ。


 しかも、それを一瞬で。《星誕スタァブレス》に遮蔽物の有無が関係あるなんて、知らないにも関わらず、だ。


 馬鹿げた能力と天才的な状況判断。これが、最強の元勇者。

 この男だけで、幾つ、固有スキルを保有しているのだ――――?


 暗くては、《星獣弓スターダスト》を放って追尾出来ないし、この土塊を壊すには火力が足りない。それこそ、ラビくらいの火力が無いと――――――


 「終わりだ。《魔道ステイン三番サード堕幻羅刹ミリオン》―――」


 ブラッドは、閉塞空間の上部に、魔剣ステインを1024本生成する。そして、魔剣ステインに意思を与えた上で、上空から落とした。

 降り注ぐは魔剣の雨。逃げ道など存在しない。無情にも、大天使の肢体を貫いていく――――。



 大天使コンパイラ=ローゼスは、暗闇の中で痛みに咽び泣く。自らが蹂躙してきた弱者と同じように、刃物に貫かれ、醜くも血を流して倒れている事実に耐えられない。

 近付いて来る死神の足音に向かって、コンパイラは言い放つ。


 「・・・殺せ。」


 「ああ、勿論殺す。だが、この世で最も残酷な方法だ。」ブラッドは《神威化キムンカムイ》を解き、人間の状態に戻りながら、近付いていく。


 この世で残酷な方法?殺人に残酷も何もあるものか。

 この世界は地獄だ。常に欲望で頭が湧いている生物ばかり。信じられる者は一人しかいない。

 旧神フォーチュン様。彼こそが至高の神。私達は、あの御方を支える為に生きてきた。

 死など怖くない。ただ、あの方に会えなくなるのが怖いだけだ。

 でも、輪廻の果てでまた会えれば――――――


 「――――――俺には、妹が居たんだ。」ブラッドは呟いた。


 「――――初めて聞いたな。」


 「皆そう言う。でも、俺だけが覚えている。」


 「・・・それを何故、私に・・・?」


 「・・・・・・ま、そういう事だ。俺だけは、忘れないでいてやるよ。」


 そして、ブラッドはコンパイラの身体に触れると、詠唱した。


 「《神威化界カンナ・キムンカムイ覇王現生昔改ロストフル・メモリーライフ》――――――」


 コンパイラの存在そのものが、浄化されていく。

 身体が光に包まれ、次第に肉体は透明となり、果てていく。存在そのものが漂泊され、消えていく感覚がした。苦痛は一切ない。気持ちは不思議と安らかだった。


 そして、自らが放つ光に照らされたブラッドの表情に、何処か懐かしさを覚えていた。


 ―――――ああ、この御方は本当に、全てを持って生まれた神の子供なのだな・・・。今のフォーチュン様とは違って、慈悲深くて、優しかった昔の旧神そのものだ――――――


 立場さえ違っていれば、もっと話せたのだろうか――――――――

 ・・・・・・ああ、私は無力だったが、最後にいいモノを見れて良かった。


 私の・・・救済。フォーチュン様――――――――――



 ―――――大天使コンパイラ=ローゼスは、ブラッドの手の中で、世界そのものの記憶から消滅した。



ブラッドの保有スキル一部解説


神威化キムンカムイ》・・・触れたモノや自身が創り出したモノに生命や意志を与える能力。


神威化界カンナ・キムンカムイ》・・・開放型箱庭。触れた対象の存在や認知そのものを書き換えてしまう恐ろしい力。この能力により存在そのものを消せば、人々の記憶からその消された人物はいなくなってしまう。故に、歴史に名を残すような実在した人物が存在を消され、認知を書き換えられた場合、その人物を書き記した書物と人々の記憶に齟齬が生じる。これがブラッドの真に恐れられている理由の一つとなっている。

触れる事が発動条件であるが、セトラのように触れただけで相手を爆弾に変えて終わらせるような、理不尽な即死能力では無く、相手を消滅させるには合計で最低5秒間は触れる必要がある。が、一度でも触れてしまえば、魔力耐性の低い者ならば、それだけで自分自身が何者か分からなくなる錯乱状態に陥らせる事が可能であり、同時にセトラの《洗脳》とは違い、対象の過去の記憶すら実際に起こった事として改変する事が可能。その場合、その時居た人物や設定さえ創り出した上で、設定上存在した人物にも過去改変による記憶操作の影響を及ぼす事が出来る。理不尽極まりない神の力そのもの。

これがブラッドが避けられ恐れられる原因の一つであり、勇者を辞めた後孤立する要因になったのだが、それを全く気にせず好意的に捉えた幸助の存在は、ブラッドの中で大きかったようである。


魔道ステイン》・・・勇者の固有スキル《勇道ブレイヴ》の外枠をパクって自己流にしたブラッドの固有スキル。自らが生み出した魔剣ステインの数を増やすというシンプル極まりないスキルだが、剣に意志を与えて自由に動かせる力のせいで、数の暴力で蹂躙出来る凶悪極まりないスキルになってしまっている。ちなみに魔剣ステインは剣先から魔弾に匹敵する威力のビームを放つ事が出来る。これだけで大抵の敵は死滅する。


尚、ブラッドはこれ以外にも最上位の自然系魔法スキルを網羅しており、更に固有スキルも複数有している。

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