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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
血飛沫なる運命
62/125

第62話 若き日の少年

 幸助母との別れを済ませる。


 「あら、もう行くの?気を付けてね、最近物騒じゃない――――――」


 小春もセトラも、その言葉を交わした後に、妙に嫌な予感がした。

 今生の別れになりそうな気がする。どちらか死んでもおかしくない。


 世界はこれからどんどん混沌に溢れていく。この世界アルファを侵攻してきている魔眼軍は、妙に幸助の関係者を執拗に狙っているような気もする。

 一緒に戦ってきた仲間のみならず、その親族はどうだろうか。


 ・・・かといって、動き出した船を放り出して帰ってくる選択肢はない。

 刻一刻と事態が変化していく中で、呑気に幸助の帰りを待っているなんて事が出来る訳が無い。すぐに問題の根幹を叩けば、全てが終わるのだ。マクガフィンが言っていたように、魔眼王が死にさえすればいい。

 例えこの地、ヒタが焦土と化しても、仕方ないのだという割り切りが必要だ。

 幸い、幸助の《防壁陣》はまだ機能している。害意をもたらす敵には、この場所を見つけるのは至難の業だろう。

 敵の戦力も想定が出来ない上に、マクガフィンの正体を考えると、不吉だ。

 何が起こってもおかしくない。早く、敵を倒さなければ、どちらにせよゲームエンドだ。時間が無い。


 セトラは、髪は十本程度千切った。そして、それを巾着袋に入れて、幸助母に渡す。


 「――――これ、肌身離さず持っていてください。役に立つかは分かりませんが。」

 「あら、そんな、女の子はもっと髪を大切にした方がいいわよぉ?」

 「お願いします。厄を祓えるかもしれないので。」


 セトラの気迫の籠った覚悟に、セトラの髪入り袋を受け取りながら、のらりくらりと幸助母は答えた。


 「ありがとうねセトラちゃん。小春ちゃん。あんな、うちの子と仲良くしてもらって。」

 「いえいえ。こっちが無理言って仲良くしてもらっているようなモノですので、お気になさらず。」

 「そう?なんか急にモテ期に入ったのかしらね。ごめんねー。」

 「ははは。そうかもしれないですね。」セトラは乾いた笑い声を出した。

 「ありがとうね、外出するときはお守りとして持っておくわ。あと、セトラちゃん、厚かましいお願いだけど、もし幸助にあったらだけど、お願いしていいかしら?」

 「何でしょうか?」

 「もう2度と、自分で命を投げ出すような真似しないでって、しかっておいて頂戴。私の言う事なんて聞かないんだから、本当に、お願いね!!」

 「・・・・・・・・・・・・・・・はい。」


セトラは、静かに、重く頷いた。



 ――――――そして今、セトラと小春は、アカシクのある太平洋の中心部へと向かっていた。龍へと変化したセトラの背に乗りながら、小春が方角の指示を出しつつ、移動しながら、2人はさっきのやり取りを思い返していた。


 「・・・親不孝だな、あいつ。」

 セトラがぼそっと呟いた。

 「・・・・・・そうだね。」

 小春も同意する。


 ―――――――小春は、幸助の死を目の当たりにしている。

 教室の窓から突如降って来た影。その後に時間差で響いた、鈍い音。

 嫌な予感がして、すぐにバルコニーに飛び出し、下を覗くが暗くて何も見えない。

 教室を出て、急いで一階の現場に直行すると、そこには頭が割れた血だらけの死体が横たわっていて―――――――


 思い出すだけで、辛かった。

 助けてもらったのに、虐めを助けられなかった自分が情けなかった。


 「・・・でもあいつがここで死ななかったら、異世界ベータは平和になっていなかった。その恩恵を私らは受けている。・・・あんなボロボロになってまで、最後まで戦ったんだ。あいつの《自殺》を、咎めていい資格のある奴は、小春だけだ。」

 「・・・・・・そうかな。私は、そのボロボロになってまで異世界ベータを救った幸助君を知らない。過程を知らないから、《自殺》を武器にして戦ってきた幸助君を簡単に否定するのは、違う気がする。背負ってきた苦しみを否定するのって、残酷じゃないかな。」

 「・・・確かに、そうだな。あいつの《自殺》は、誰にも止められない。もしかしたら今も、その最中かもしれない。」

 「・・・思えば、何で自殺したんだろう。幸助君くらい器用なら、もっとやり方を見いだせていたと思うの。」

 「・・・小春。小春は、今となっては吸血鬼になる前の幸助を知っている唯一の人間だ。だからこそ訊くが、人間の時のコースケと、今の吸血鬼の時のコースケ、違いがあるように思うか?」

 「・・・・・・いや・・・。変わっていないような・・・。」

 「それが答えなんじゃないか?いい奴だけど、自分の命には無頓着。生粋の善人であり狂人。じゃなきゃ、《自殺》の《箱庭》なんて使わねぇって。自殺した理由は、虐めが原因じゃないと思うぜ。多分、もっとイカれた理由だ。」

 「・・・そうなの?」

 「他人の為に、簡単に命を差し出す奴なんて、基本的に頭のネジ外れてるだろ。」

 「・・・・・・そうやって、セトラも助けられたの?」

 「・・・・・・まぁ、な。」


 セトラは、幸助と初めて会った時の事を思い返していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ―――――スルースヴィル決戦。


 存在そのものがバランスブレイカーである龍王セトラを始末する為に、魔王軍が軍勢を率いて、セトラのいるスルースヴィルにて、戦争が始まった。

 龍王セトラは古くから土着した神様、地母神として崇められており、ダーニャ地方のスルースヴィルの人たちにとっての信仰の対象となっていた。

 その力、《洗脳ブレインハック》により、人が過去に囚われる記憶の要因を捏造し、心を楽にする。都合のいい過去を頭の中に作ってあげる事で、龍王セトラは幻獣としてだけでは無く、人々から祈りを受ける事で、神格化していった。


 が、それを快く思わない者も少なくなかった。

 女神デスペラードを信仰する一神教の勢力・《叡智教》を地盤とする宗教国家・《プライマル》と、そのデスペラードが地上に降臨し幹部として権力を振るっている魔王軍。

 長寿の命を以て、悠久の平穏を過ごしているエルフ族の小国・《エレメシア》は、過去のセトラの悪行・伝説・その力を知っている事で、特にセトラの存在は危険視されていた。


 セトラはこの時、スルースヴィルに自分の信徒を作っただけの状態で、魔王軍と対立している多民族国家である王族制の《ガレス》や、その他周辺国家の人物と人脈を築いていなかった。それも過去の伝説が一人歩きした事による弊害で、もしセトラと接触すれば国ごと壊滅させられると言われていたからだ。

 協力は絶望的で、スルースヴィルだけが孤立していた。


 そのせいで、セトラは膨大な力をもってしても、魔王軍の力には敵わなかった。


 これ以上魔王軍の侵攻を許せば、全面戦争に突入し、どちらかが滅びるまで戦う未来がやって来るのは明白だった。だが、王国軍が出兵するには同盟を結んでいる周辺国との同意を得る必要があり、なかば奇襲に近い形で攻められたスルースヴィルでは、国直属の支配下に置かれていない独立した組織による迅速な戦力が求められた。

 そこで、アイナの父であるアレス王は、冒険者ギルドに派遣という形でクエストを出した。


「スルースヴィルにて、龍王の様子を観察せよ。もし戦闘行為に発展した場合、その魔王軍の関係者を撃退せよ。」


 参加可能な人員は無制限。倒した魔王軍の敵の階級によってその分の報酬が出るという出来高制のクエストだった。

 前半の、セトラを観察せよ、という言葉は枕に過ぎず、実際は魔王軍を倒せという、命が幾らあっても足りない危険なクエストに過ぎない。

 要は、龍王セトラの手助けをしろ、という事だ。


 そもそも、龍王セトラがどんなに恐ろしい存在なのか、冒険者の間では知らぬ者はいなかった。睨まれただけで洗脳し、自分の信徒に作り変える。

 スルースヴィルとは、冒険者のみならず人々が避けて通る街だった。龍王の加護にあるとなれば、何をされるかわかったものではないからだ。


 どんな危険なクエストでも受注し、完了する手練れのS級冒険者すら、魔王軍との正面衝突に怯む者もいた。


 ――――――そんな中、命知らずの半端者が一人。


 「―――――このクエスト、受けます。」


 受付嬢は、その人物を見て、驚いた。

 光の宿っていないような生気を感じない虚ろな瞳に、黒いローブを羽織っていても分かる、死者のように肌の白い傷だらけの少年。

 A級冒険者として急激に頭角を現し、ギルド内で名を馳せている、元衛生兵出身の謎多き少年。


 名は、コースケ。

 過去に魔王軍隊長格・十二幻将であるラビ・レイジネスに重傷を負わせ、退けたとして、二階級特進を果たした事もある、ギルド内屈指の有名人だった。


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