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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
序章
6/125

第6話 仕返し


 制服を新調した後、すぐクラスに戻り、授業に参加した。

 授業が始まると、いつも通りだった。相変わらず俺は異物のようだが、いざ日常が始まるとあっけない。

 ―――――――そう感じているのは、幸助だけであった。


 クラスの全員は、気が気では無かった。

 何故自殺した筈の男が普通に来ているんだ?何で体格があんなに変わっているんだ?

 あの大声は何だったのか?

 もしかしたら、あいつに仕返しされるのでは?


 現代文の音読箇所を次々と読み間違える生徒たち。

 その誰もが、幸助の雰囲気に気圧されてしまっているのだ。

 只者では無くなっている。殺意が実体を持ったような恐ろしさ。

 それが今の幸助だった。


 だがそれとは知らずに、幸助は教室の隅で欠伸をする。

 そう、これだ、これ。退屈だが確かに満たされる感じ。クラスという共有体で物事を進める一体感!!

 幸助は一人で満足していた。


 授業が終わると、そそくさとクラスの人間が廊下へと散っていった。

 そして、教室に残ったのは、虐めっ子の伊藤と、小鳥遊小春だけ。

 伊藤の周りには、その取り巻きすら残っていなかった。


 「・・・気に入らねーな。死にぞこない。」


 伊藤が幸助に突っかかる。前面に立ち威圧してくるが、体格差が如実に表れており、幸助を見上げる形となった。


 「ああ、ごめん伊藤君!うまく死ねなかった。」

 「・・・チッ。てめー、調子こいてんじゃねーぞ!」


 伊藤が幸助のみぞおちを殴った。瞬間、伊藤の拳に異変が起きていた。

 鉄そのものを殴ったみたいだった。硬質な筋肉の鎧を纏った幸助に殴ったせいで、異音が鳴り響くと共に、拳が砕けたのだ。


 幸助もよろけてみせる。本当は何の痛みも感じていないのだが、ここで伊藤を叩きのめしてしまえば、自分が第二の伊藤になり、またクラスの皆に勘違いされてしまう。

 今回はあえてやられたフリをしつつ、伊藤にもダメージを与える事で、喧嘩両成敗にしようと思ったのだ。


 恐らく伊藤は複雑骨折を起こしている。そんな伊藤よりも、幸助は痛がる演技をした。


 「うあ、痛ったいな伊藤君!!何するんだよ!!すごい音鳴っちゃったよ!!」

 わざとよろけて倒れる。あくまで被害者を装う為だ。


 「・・・・う・・・ぐ・・・!!!!」伊藤は、手を抑える。

 「僕だってさ、この前退院したばかりなんだよ!?それにこの仕打ちは、酷いんじゃないかな?」


 そして、幸助は伊藤の耳元で、小声で呟いた。


 「手、大丈夫?仲直りの握手しない?」


 伊藤の顔から、血の気がさっと引いた。


 「・・・・・・クソがっ!!!絶対に殺す!!!!」


 伊藤は拳を抑えて、背中を見せた。

 生物として勝ち目のない戦いを仕掛ける程、無謀な人間では無かったのだ。


 それを見送ると同時に、幸助は溜息をついた。

 この肉体で人に避けられているが、この肉体に救われているのも事実。

 前途多難ではあるが、悪い事ばかりではないなと思った。




 「こうして話しかけるのは久しぶりだね、幸助君。」

 今度は、小春が話しかけてきた。

 この人には、本当に謝罪しなければいけない。聞くところによると、僕の第一発見者だったらしいのだ。目の前で飛び降りる所も目撃しているみたいだし、大なり小なり、確実にトラウマになってしまっているのは確かだろう。


 「本当に、ごめんなさい。そしてありがとう。小春さんのお陰で、こうして生きているといっても過言ではありません。」

幸助は、何度も腰を曲げて、首を降って謝る。

 「・・・あはは、いーよいーよそんなに。私も、ごめんだよ・・・。何も出来なかったし。」

 「いや、本当に、君に救われた。君の為なら何でもするよ。」

 「何でも!?」

 「うん。君がいなければ・・・きっと、ここに戻ってこようなんて思わなかっただろう。何でもするよ。困った事があったら言ってくれ。」

 「・・・じゃあ、いつか、そうする。」

 「ああ。・・・ところで、君はいいのかい?僕なんかと話して。」


 廊下で、幸助を監視するように、クラスメイトが談笑している。

 きっと様子を見ているのだろう。暴君・伊藤に反抗したとなれば、幸助は要注意危険人物になる。そんな人間に関わってしまえば、伊藤に何をされるか分からない。

 伊藤は、裏社会と関わりを持っている事で有名だ。だからこんな、なんちゃって進学校でも暴君として君臨出来たし、教師からも恐れられた。

 彼に気に入られないと、家族まで被害に遭う可能性が高まる。

 クラスの人達も、先生も、それを恐れているのだ。


 「いいのよ、もう。で、どうしちゃったの、その身体?」

 「絶対訊かれると思った。まぁ、色々あったとしか言えないよ。」

 「・・・さっき伊藤君に何したの?」

 「それは教えない。」

 「何でもするって言わなかった?」

 「うっ・・・。」


 あらやだ、この子鋭いんだけど。


 「・・・・・・・・・骨を、折りました。」

 幸助は、正直に告解した。

 「・・・通りで、痛そうにしてたのね・・・。ざまぁないわね。」

 「あれ、意外と腹黒い・・・。」


 なんか、思っていた子と違うんだけど・・・。


 「腹黒いっていうか、皆そう思うんじゃないかしらね。伊藤に苦しめられた人なんていっぱいいるもの。同情する余地のない屑よ。卑怯なのよあいつは。」

 「・・・まぁ・・・そうか・・・。」

 「本当に、変わったね海老原君。」

 「何も変わっていないよ。ただ、色んな事を経験しただけ。」

 「意味わかんない。君はただの高校生でしょ?」

 「・・・うん、そうだね。ただの高校生だ。」


 この人は本当に、欲しい言葉をくれるんだなぁと、幸助は理解者が出来た喜びを嚙み締めた。


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