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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
血飛沫なる運命
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第59話 山手線

 魔法陣のゲートをくぐると、そこは元の世界、アルファだった。

 マキアもとい小春は、セトラの背中に乗って飛行を謳歌していた。

 自らがアカシクの民として覚醒し、断片的ではあるが様々な事を思い出してしまった事で、自分が今回の事件の、完全な部外者では無くなってしまった。寧ろ、アカシクの民として覚醒した事で、その渦中にあるとさえ言える。


 小春は複雑な心境だった。脳裏には、あの魔眼王の部下であるマクガフィンが浮かんでくる。あれがどうも、自分とは無関係な存在とは思えない。きっとアイナもそう思ったに違いない。想像すればするだけ、悍ましい真実に似た結論が浮かび上がってくる。でも、その思考は止められない。この世に魔眼王という脅威が消えぬ限り、ただの思い込みという可能性は0に等しい。


 「・・・なぁ、考えすぎだ小春。・・・いや、マキアの方がいいか?」


 セトラが心の中に喋りかけてくる。セトラは人の心が読める。と同時に、飛行中は声が広いにくい。だから心の中で会話を切り出してきたのだろう。


 「いや、小春でいいよ。正直、実感湧かないし・・・。」心の中で呟く。


 実感が湧かないというのは嘘だった。逆に、小春という人格の方が嘘くさく感じていた。今までの自分が否定されたような、不思議で虚ろな気分だった。

 だが、この世界では小春と呼ばれたい。そんな、稚拙な理由だった。

 それすらもセトラに筒抜けの筈だが、常識人の龍王は知らぬフリをして、続けた。


 「これから札幌に向かうか?私の予感では、あそこには《箱庭》がある。しかも、外からの侵入を許す開放型だ。あの魔力の感じ、まさかとは思うが――――」

 「いや、札幌はやめとこう、セトラ。あそこはきっと、幸助君とレーヴさんが何とかしてくれると思う。幸助君って、とても強いんでしょう?」

 「・・・手段を選ばない場合、あいつに勝てる奴がいるのか分からない位には強いな。でも、スタミナねーからなー、あいつ。大丈夫かね。」

 「へぇ、どんな《箱庭》なの?」

 「・・・あいつの《箱庭》は、褒められたもんではないよ。当人の心象世界を顕す結界術にしては、異質を極め過ぎている。師匠がもうちょいちゃんとした奴なら、ああならずに済んだかもしれないのにな。」

 「スレイヤー・・・さん、でしたっけ。」

 「そう。前に、師弟愛を越えていた関係だったって話、したよな?」

 「聞きました。目の前で死んだって。」

 「全く、愚痴の一つでも言いたくなるもんだ。幸助は私に師事してりゃあ良かったのに。もっとカッコいい《箱庭》なり《龍世界》なり、発展させられたかもしれないのにな。」

 「・・・そういえば、《箱庭》と《龍世界》の違いって、何ですか?」

 「違い?ほぼ無いよ、そんなの。どっちも、広義の意味では《箱庭》だよ。」

 「・・・ええ・・・・・・。」

 「ただ、《龍世界》は、龍同士に限って、相伝が可能になっている。でも、吸血鬼・幸助の結界術の才能なら、《龍世界》すら扱えるようにはなっていた可能性がある。同じ幻獣種だしな。だから、私の《延々地獄》くらいなら、使えるようになってたんじゃないかなって今でも思ってる。」

 「・・・幸助君って、凄いんですね。」

 「いや、それがそうでもない。」

 「え?」

 「あいつは、回復魔法と結界術が突出しているだけなんだ。しかも結界術に限っては、人間を辞めてから発覚した才能だった。それ以外はからっきしで、吸血鬼にならなければ魔王を倒す事なんて不可能だっただろうな。《偽創具顕現》も、吸血鬼の特性を活かしたスキルだしな。それに、元々戦闘向きの性格でも無いし。あと、あれだ。色彩魔法。」

 「? 色彩魔法?」

 「まだ歴の浅い魔法体系の一つ。あいつの友達だった、パレットっていう天才が作った魔法だ。色に概念的な効果を与えて、それを塗られた相手に効果が発動するっていう、媒介魔法のようなモノ。回りくどい能力だが、結構厄介なんだ、これが。・・・まぁ、このパレットっていうのも死んだけどな。」

 「・・・死に過ぎでしょ。」

 「加えて、聖杯を手に入れたとされる魔剣使いであり元勇者・ブラッドと、禁断に手を染めた魔女・クロエも、コースケはよく仲良くしていたが、そいつらも死んだ。残ったのは私と、姫様と、よく敵対していた勇者レーヴくらいか。私を除いて、あまり仲の良くない奴ばかり生き残ってしまったな。」

 「・・・仲が良くない?私からすると、皆仲良しに見えたけど。」

 「特に、ブラッド、クロエ、パレット、スレイヤーの4人、あと私は、コースケからすれば親友そのものだよ。レーヴと姫様は、むしろ敵対していたくらいの関係だった。そりゃあ、元の世界に戻ろうとするよなって感じだよ。私からすれば、コースケが魔王を倒した後に別れの言葉も言わず(私には言った。)、元の世界に帰ったのは不思議でも何でもなかった。友達も想い人もあんだけ死んだら、世界ベータにいる理由も薄いしな。」

 「・・・・・・うーん・・・私からしたら、そうは思えないけどなぁ・・・。」

 「ま、真相は私にも分からんよ。幸助の心は私には読めないし、《洗脳》も不可能な程にブラックボックスだった。」

 「心が、読めない・・・?」

 「ああ。あいつの心を読もうとすると、こっちの心が汚染されそうになる。吸血鬼の特性なのか、幻獣種特有の耐性なのか、はたまたあいつの心が終わっているのか・・・分からないが。」

 「・・・・・・やっぱり札幌には行かないようにしようよ、セトラ。彼が今戦っているとするならば、吸血鬼状態になっているって事でしょ?それに、隕石が落ちたって聞くと、何か嫌な予感がするの。私というより、セトラが行くべきじゃない気がする。」

 「なら、何処へ行く?目星はついているのか?」


 「・・・座標を特定する必要があるわ。セトラ、一度このまま家に帰りましょう。」

 「・・・・・・座標?」

 「地図が分かればいい。おおよその位置は掴めているけど、正確な場所を確かめたいの。携帯でMAP見れたらいい。今はGPSがあるでしょ?ああでも、それだけじゃ思い出せないかも。うーん、やっぱり少し時間が掛かる。一回、作戦を練る為に行きましょう。早く本拠地を潰さなきゃ。」

 「・・・・・・何を言っているんだ?本拠地・・・?」

 「古代都市アカシクの位置を特定したいの。この世界にも、アカシクがある筈。」




 セトラと小春は、幸助の家に戻って来た。

 今は夏休みで、学校が無い。時刻はまだ昼になったばかりだった。夏のうだるような暑さが広がり、目の前にある道路は陽炎になって揺らめいていた。耳をつんざくような蝉しぐれが降っている。

 幸助の張った《防壁陣》をくぐる。小春は、この結界が明確に見えるようになってしまった事が少し悲しかった。まだ無知だった頃の自分に戻りたい気持ちもあったからだ。


 「あら、帰って来たの2人とも!」


 庭で幸助のお母さんが草むしりをしており、そこでようやく小春達に気が付いた。

 部屋着をしており、かなり無造作な恰好だった。


 「幸助、何処に行ったか知らない?」幸助母が言う。

 「ああ、多分、そろそろ帰ってくると思いますよ。」セトラが適当に返した。

 「あら、そう、良かった。冷蔵庫にジュース入っているから、適当に飲んで!」幸助母は、汗を腕で拭いながら、再び草むしりを始めた。

 「あ、はい、わかりました。」



 「・・・流石に、幸助君のお母さんには、《洗脳》しないんだ?」小春が悪戯な笑みを浮かべながら、セトラに訊く。

 「しねーよ。ていうか、あの草いじり、手伝ってくるわ。その間に、小春は調べものしといてくれ。」

 「は?貴方龍王でしょ?そんな事するの・・・?」

 「もう今更だろそんなの。龍王だからそんな事しないだろとか、それ龍王差別じゃないか?」

 「そんなジェンダー論みたいな事言ってるつもり無いわよ!?私、色々思い出したけど、私が生まれた頃ぐらいから貴方いた気がするのよ。」

 「そりゃあ、アカシクの頃から生きていたしな。まぁ昔の事なんてあんまり覚えてないけどな。特にアカシクの事なんてサッパリだ。まるで記憶が消されているみたいに、何も思い出せねーよ。」

 「・・・あー、思い出したわ。世界を滅ぼす特別指定厄災、爆撃龍セトラ。危険度はSSS+。単騎で国を滅ぼした回数、実に6回。それが・・・草むしり????」

 「いやもう分かるだろ、私が常識人枠って事くらい。」

 「その言葉ずるくない?じゃあ私は何枠なのよ。」

 「私が正統派ヒロインだとするなら、小春は主人公の女幼馴染だな。」

 「え?負けヒロインって言いたいの?」

 「んじゃ、手伝ってくるわ。草、爆発させてぇなぁ・・・。いやいや、むしらなきゃ。自然を焼き尽くしちゃだめだめ~。」


 そう、語尾を浮つかせながら、ふらふらと外へ出ていった。


 ・・・・・・あの、龍王がこんなにも丸くなって・・・。


 小春は溜息が漏れると同時に、安堵した。

 多分、仲間の中に裏切者はいない。いるとしても、怪しいのはアイナだ。

 アカシクの紋章を持つ者は、アカシク再興を担う鍵となる為に、不死となる。

 幻獣種・ブラックナイトと混ざってしまった自分と違って、アイナはその不死の紋章を維持する為のデバフが常に掛かっている。紋章は、あるだけで魔力を喰う呪いそのもの。

 例え裏切ったとしても、こちら側が負う被害は少ない。単純に弱いからだ。


 ―――――死を求める為に、裏切ったとしたのなら、止める必要は無い。


 ――――――何故、マキアはアイナを怪しむのか。

 理由は二つ。

 アイナは、未来の巫女と呼ばれる、アカシクの鍵である。

 彼女は、未来予知に近い予測が可能な能力を持っている。それは特殊能力というより、彼女の感覚と頭脳が極端に優れているからである。

 対して、マキアは過去の巫女と呼ばれる、アカシクの鍵である。

 この両者が揃えば、アカシクは再興し、世界は再び火の海と化すだろう。


 二つ目の理由が、その鍵と呼ばれる理由となっている、不死の紋章にある。

 不死の紋章は、誰にも解呪が不可能とされている呪いである。

 だがもし、アイナがこの紋章を解く術を魔眼王に見出していたら?


 考えすぎかもしれないが、アイナはとてもじゃないが予想のつかない事をやってのける天才だ。自らの甘き死を望むなら、手段を選ばない狡猾さも持ち合わせている。


 小春の中にあるマキアが囁く。「あの子はとても信用ならない。」


 その意見には同意だった。そもそもアカシクの民と呼ばれる人間にロクな奴はいない。だからこれは、過去の苦い経験が生み出した思い込みによるものであり、自分の勘違いの可能性も高い。


 ――――だが。自らの生を諦めていた姫様と、自殺に希望を見出し悠久を生きる吸血鬼。

 似ているようで正反対な2人が出会ったのが、この今の惨状を生み出しているような気がしてならない。


 小春はテレビをつけた。スマホで調べても頭がよく冴えない。今は思い出す作業に注力しなければならない。

 マキアが過去の巫女と呼ばれる所以は、世界の過去の記録を記憶として遡る事が出来る能力にあった。だが、その確定的な記録を思い出し利用できるまでに至るには、何らかのキーワード、単語を鍵に引き出す必要がある。なので、テレビから流れてくる一方的な単語の羅列は、小春が何かを検索する場合には有用だと考えた。

 この世界アルファも、異世界ベータも、元は同じ世界だった。

 ならば、世界が分岐する前の、アカシクの場所も、共通している筈。


 「―――――昨日、高田馬場駅山手線で、乗客およそ500人が消える不審な出来事がありました。3両の乗客が忽然と消え、監視カメラにもその様子が映し出されています。この映像を見て、専門家は――――」


 ・・・・・・何だ、このニュースは。

 小春は思わず立ち上がる。明らかに異様なニュースだ。

 

 その監視カメラの映像というのも、とても不気味なモノだった。

 黒い影のような、実体を持った怪物のような何かが、一瞬、窓の外に映し出されている。その瞬間、まるでマジックショーで鳩が消えるように、忽然と満員電車の人々がもぬけの殻になったのだ。


 ・・・――――――これは・・・・札幌のとは訳が違う。

 一体、東京で何が起きようとしているのだ?


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