第58話 論破され泣く
「はァイ!!僕は十二卍将が一人、コズミック!!久しぶりだね半端な吸血鬼君!!」
「――――――――誰だよ、うるせぇ。」
勇者の元へ行こうとした時に現れた仮面の敵に、容赦無く幸助は、《偽創具顕現》で再現した魔王の槍である《虚夢幻槍ファントム》を放ち、貫いた。
見た事のあるような雰囲気の敵だとは思ったが、今はもはやどうでもいい。
今更雑魚に構っている暇は無かった。新たに現れた刺客だが、そんな事を気にしている余裕は無い。
景色はこの世の終わりを彷彿とさせる黒が広がっていた。あれだけいた人の姿は何処にもない。蛋白質を完全に炭化してしまえる程の火力を放ったとなれば、その犯人は一人しかいない。
《極炎斬刃》。あれを勇者に持たせたのは、果たして本当に正しかったのだろうか―――――――?
だが、幸助は意外にも冷静だった。それが幸助自身を酷く落胆させた。
自分の世界が滅茶苦茶になっているというのに、怒りのような激しい感情が起きなかったからだ。この地獄の有様を、当たり前に受け入れてしまえている。合理的に、次に何をすべきかを意識して動いている。しかも、既に生存者なんて存在しない前提で動いている。
ここまで自分は冷酷になってしまったのかと思い知らされる。
やはり、《防壁陣》のあったホテルは見るも無残な有様で、魔弾か何かで抉られたような感じで、建物に穴がぽっかりと空いていた。かろうじて飛び出している鉄骨が倒れてしまえばすぐにでも倒壊しそうな状態だった。
――――――――そこに、レーヴはいた。
最初は、その姿がとても恐ろしくて、レーヴとは思えなかった。
勇者剣ガイアのように、その《極炎斬刃》を身に纏い、鎧の装甲として使用していた。確かに勇者の十八番とも言える特異的な魔法の一つではあるが、その炎の鎧が余りにも人を殺すには最適な形をしているように見えた。殺意に溢れた、餓えた獣のように見えた。
この3年間で、ここまでの力をつけていたとは。魔装具が変わるだけでこんなにも在り様の違う奴になれるのか・・・。
レーヴは、よく分からない、飛蝗の仮面を被った敵の首を掴み持ち上げ、息の根を止めている最中だった。そいつは身を焼かれ、所々で肉が煤けており、ボロボロになっていた。
「――――おい、レーヴ。そいつは誰だ?」幸助は訊く。
「――――ああ、コースケ。無事か、良かった。」レーヴは振り向きもせず、淡々と事務処理をこなすように答える。幸助に話しかけられ、びっくりしたのか、首を絞める力が更に強くなり、遂にその首を骨ごと潰してしまう。
そして、レーヴは小声で、「あ、ミスった・・・。」と呟いた後、その死体を地面に投げ捨てた。何なんだこいつ・・・。
「・・・いやいや。もうお前人間じゃないって・・・。俺と同じ立派な化物だわ。それより、いいのか?そいつ殺して。訊きたい事とかあっただろ?」
「・・・それより、コースケ。アイナが・・・インフェルノも・・・。」
「攫われたんだろ?いいって。あいつ死なないし。気にすんな、こういうの慣れてるだろ、俺ら。そのインフェルノってのは知らねぇけど、まぁ何とかなるって。」
「・・・私には、何も訊かないのか・・・?」
「すっげー残酷な事を言うけど、札幌は縁もゆかりも無い土地だ。俺は、もっと自分を繊細な奴だと思っていたけど、そんな事も無いみたいだ。」
「・・・・・・。」
「だから、いい。これからは俺も、手を汚さないといけない。切り替えていこう。これから、俺達はどうするべきか。」
「矛盾なる異邦者、討伐おめでとうございます。」
上空から声がしたので、構えて警戒するが、その姿を見てすぐに解いた。
マクガフィン。魔眼王に仕える者。
異名・抗生なる大地の英雄。それが何を意味しているのか、分からない。
地面に舞い落ちると、マクガフィンは一礼した。
「4人いる幹部の中でも、特に実力者として名高い宵撃龍コンフリクトを討伐した上、その血すら自らに取り込むとは。流石ですね、幸助さん。」
「・・・何故だ、教えてくれマクガフィン。お前も、コンフリクトと同じように、魔眼王によって作られた存在。何故、魔眼王と敵対する?」
「それは、私が魔眼王様の死を望んでいるからです。前にも言った筈です。」
「それが分からないから訊いているんだ。」
「敵でも味方でも無いからですよ。私は、マクガフィンという鍵でしかない。」
「・・・鍵・・・?」
「・・・そう、鍵。使い捨ての鍵、と言った方が正しいでしょうか。まぁ、要は、アカシクの命運すら、私が握っているにも等しいのです。それならば、私を正しく使ってくれる人じゃないといけないでしょう?この戦いは、その使用権を巡る選別です。」
「・・・・・・お前の争奪戦とでも言いたいのか。」
「選別、というのは比喩に過ぎません。まぁ、とにかく私としては、貴方が魔眼王様を殺してくれる方が、都合が良いのですよ。既にアカシクの傀儡と成り果てた魔眼王様には、私を正しく使えないでしょうから。」
「・・・お前、さっきから自分の命を消耗品か何かだと勘違いしていないか?気に食わないな。自由が欲しいとは思わないのか?」
「自分の命を大事にしようとしてないのは貴方の方では?《自殺》の《箱庭》を扱う人間が、命がどうとか講釈を垂れる資格は無いのでは?」
「あるわボケが。命の尊さと天秤に掛けた《箱庭》だから、あれだけの出力が出せるだけであって、これは誓約に基づいた縛りだ。自分を犠牲にする《箱庭》を扱うからこそ、他の奴が自分の命を軽々しく扱っているのが許せない。」
「・・・結局、自分の命を犠牲にしている辺り、それを他人に求めるのは論理が破綻しているのでは?」
「だから、自分と他人はまた別の話であって―――――」
「―――――――いやだから、それは――――――」
そんな会話が、10分くらい続くと、幸助は発狂した。
「――――――ああああああなんかアイナと喋ってるみてぇだァァァァァァ!!!苦手だこいつ!!!!感情を理屈で丸め込もうとしてくる辺り、アイツとマジで一緒!!!敬語な分、余計腹が立つ!!!!!!」
幸助は泣いた。完全に論破され、なすすべが無くなり、耐えられなくなり、泣いた。
「・・・おい、コースケ。こんな事で泣くな・・・。」一連の様子を見てレーヴが装甲を解いた後、地面で駄々を捏ね、頭を抑える幸助をなだめる。
「・・・いやすまんレーヴ。不謹慎とは思うが、札幌を焼かれた時より今の方がめっちゃ腹立ってる。」
「・・・嘘でしょそれは・・・。」
「・・・まぁ嘘だが。でもあいつ、アイナっぽいのがすげぇムカつく!!!アカシクの民は全員性格悪いのかよ!!!!アイナと初めて会った時の感情が蘇って来たわボケがよ!!!!ああああああムカつく!!!!」
「――――――その時の思い出、もう私には無いんですよね。いつか聞かせて下さい、幸助さんの話を。」
マクガフィンの言葉に、取り乱していた幸助は、ハッとする。
忘れていた。こいつらは、過去の記憶が無いんだ。
生前の記憶が、無い。そりゃそうだ。だってこいつらは、無理矢理融合させられた存在。
元々の人格を説明されても、実際に見ても実感何て湧かないだろう。
クローン人間が元人格を持たないようなモノ。同じようで違う。
「――――分かった、いつか教えてやる。でも俺達はこれからやるべき事がいっぱいある。それが終わってからでいいか?」
「――――はい。死ぬ前に、せめて生きていた実感が欲しいので。」
マクガフィンは、純粋で屈託の無い笑顔を浮かべ、幸助に向けて笑いかけた。
「・・・やっぱり生きたいんじゃねぇかよ。クソがよ・・・。」
・・・あれ、目が・・・霞んで・・・。
幸助は深く溜息をついた後、プツンと緊張の糸が切れたように、意識を失った。
次回から視点が変わります。




