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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
矛盾なる異邦者
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第53話 鬼々累々彼岸峠

 吸血鬼の《箱庭》である《希死燦々朧ヶ心中(いっしょにしのう)》の中に、爆撃龍セトラの《龍世界》が一部に顕現する。地獄のような炎熱が周囲に降り注ぎ、吸血鬼の身を焼いていく。

 当然、その法則はコンフリクトにも適用される。

 《心中》による影響は、重ね掛けされた《箱庭》にも当然、影響される。


 吸血鬼の焼失スピードと同時に、コンフリクトも身を焼かれていく。


 ―――――――だが。幸助という人間は、回復魔法にはかなりの腕があった。

 その地獄のような苦しみの中でも、吸血鬼は嗤ってくつろいでいた。肉は焦げ、全身が炎上しているというのに、その苦しみを当たり前のようにして、嗤っている。

 当然、痛覚はある筈だった。コンフリクトにも同じだけのダメージが入っているのだから、苦しい筈なのである。


 しかも、一向に回復魔法を使おうとしなかった。苦痛の炎熱を愉しむように笑っている。痛みに生を感じる怪物は、明確な殺意を持った攻撃を嬉々として受け入れている。


 コンフリクトは、畏れを感じた。

 まるで、戦っている感覚さえ無い。目の前で笑っているのは、死そのものであるようにさえ感じられた。


 この吸血鬼は、根本から生物としても、化物としても、何もかもが違う。


 「―――――いいね。本気で俺を殺そうとしてくるのは嬉しい。」幸助は笑う。

 「でも、残念だな。それじゃ俺を殺せない。」独り言のように、不気味に呟いていく。

 「楽しいな。コンフリクト、お前は強いよ。ワクワクする。」

 「お前の製作者が誰なのか興味も無いし、異世界からやってきたのか、どこの世界線からやって来たのかもどうでもいいし、アカシクがどうとか知らないけど、セトラとゼノンの合成獣キメラなんて俺が許す訳ねぇだろ。」

 「―――知っているか?俺の《箱庭》と、吸血鬼が血を取り入れて吸収し展開する《箱庭》は、後者が付従性を持っていてな。その一部を、再現出来る。」

 「一緒に《心中》してくれねぇなら、見せてやるよ。《箱庭》、侵略。」

 「―――――師匠、借ります。《鬼々累々彼岸峠ききるいるいひがんとうげ》。」


 ―――――――――瞬間、風景が変貌する。


 救いのような《自殺》の太陽が陰りを見せ、空は紅く染まり、そこには大量の死体が散らばる田園風景が広がっていた。裏山から流れる川の水は血のように赤く、人間の骨や血肉が浮き出ており、この世の終わりを彷彿とさせた。賽の河原のように、彼岸を再現した心象が広がっている。


 コンフリクトの《龍世界・炎延地獄えんえんじごく》を上塗りしたのだ。この吸血鬼は、《箱庭》を当たり前のように、二重に展開して見せたのだ。心象世界を幾つも作り上げるのは、明らかに常軌を逸している。それが吸血鬼としての特性だとしても、普通ではない。


 2体の龍が繋ぎ止められているコンフリクトでさえ、ギリギリで顕現出来るのに、だ。《箱庭》の二重展開というのは、それだけ異質な行為なのだ。


 コンフリクトは、先程の《心中》効果による自身の炎熱によるダメージで、既にボロボロだった。

 だが、まだ未だに、《心中》の効力は発動したままで、吸血鬼が太陽に身を焼かれていると同等のダメージが蓄積されている。その上で、魔王軍元幹部スレイヤーの《箱庭》の再現は、もはや絶対的な死を意味していた。


 何故なら、スレイヤーの《箱庭》は、無間地獄と呼ぶに相応しいモノだからだ。


 悠久の祖・スレイヤーは、戦場に赴き、様々な大量の英雄の血を啜って来たとされる。

 その取り込んだ死者達の一時的な再現。それが、この《箱庭》の特性。


 過去に散っていった勇者や、高潔な魔族、英雄達が、血の川を渡り無限に湧き続ける。


 ―――――そして、宵撃龍コンフリクトは、突如として飛んできた何かに貫かれた。

 その身体を貫いた魔装具を見て、絶句する。《虚夢幻槍ドリーミング・ヴォイドファントム》。魔王が使っていたモノだ。


 突き刺さった個所から、虚無の闇が溢れ出す。コンフリクトは、その闇に触れる事で、《宵撃》を発動させた。溢れ出す闇を爆発させる事で、ファントムの勢いを殺し、身体から抜き取る。もう少し位置がずれていたら、自分を繋ぎ止める《魔眼》が壊されるところだった。


 その血の川から、かつての魔王が、身体を引きずるようにして近づいて来る。

 手には再び、《虚夢幻槍ドリーミング・ヴォイドファントム》が握られていた。


 その奥には、先代勇者トリオンが、勇者剣ガイアを握りしめ、向かってきていた。

 その背後には、無数の様々な国の兵士が、夥しい数、川から上がり、向かってきていた。


 主義主張の無い軍団を束ねた戦場の再現。龍王と魔王軍幹部が無理矢理縫合されたキメラの宵撃龍コンフリクトに、もはや勝ち目は一つも残されていなかった。


 突き刺さる伝説の魔装具と、寄ってかかる剣士の群れ。《爆撃》を発動させても、遠距離から何度も放たれる《虚夢幻槍ファントム》の追尾からは逃れられない。それが突き刺さると同時に、《宵撃》の発動を強いられる。だが、そうして隙を見せた途端に、新たな魔装具を持った英雄達が襲い掛かる。


 永劫回帰。終わりの無い戦いを延々と強いられる。だが、その術者を屠ろうとしても、《心中》作用が働いて自滅する。この状況はまさに、詰みだった。たとえ、《魔眼》が残されている限り身体が再生されていくとはいえ、その核たる《魔眼》が壊されるのは時間の問題だった。


 「ーーーなるほどな、そうやって《魔眼》は使うんだな。俺も今度から参考にする。」

 「それじゃあな、コンフリクト。また、この《箱庭》で逢おう。楽しい心中は、次に取っておくよ。」


 コンフリクトが一方的に惨殺されていく姿を見ながら、その吸血鬼は嗤い、手には再び《村正》を創り出し、自らの胴体、心臓部に軽々しく突き刺した。


 ―――――そして、《箱庭》の《心中》作用により、吸血鬼が自らに突き刺した村正と同位置しんぞうぶにあった、自らの核である《魔眼》を貫かれたコンフリクトは、縫合された繋ぎ目を失い、光に包まれ、消滅したーーーーー。



 ・・・最後に、吸血鬼は、《箱庭》を解除し、かつて宵撃龍であった身体についた血を啜った。


 圧倒的な結末。勝負は一瞬で終わる。どんなに歪で強力な存在も、この吸血鬼の前では無力に等しかった。


 そして、宿主を失った《反転鏡界ミラージュ・ワールド》は、崩壊を始めていた。


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