第51話 希死燦々朧ヶ心中
――――――意味が分からなかった。
何処から攻撃されたというよりも、原理が理解不能だった。
幸助は、身体がバラバラになりながら、冷静に物事を俯瞰し、この現状を理解しようとしていた。
黒が、爆発する?《宵撃》とは、一体どういう能力なんだ・・・?
余りにも、普通の能力ではない。
これじゃ、まるで―――――――――――――――
――――――――幸助は、全てを理解すると同時に、吐き気を催した。
そんな事があっていいのか、と。
更地になった荒野で、腕と足をもがれながら、胴体には自らの刀が一部刺さったまま、トルソーのようになった黒焦げの幸助に、影を纏った不明の存在が近づいて来る。おそらく、とどめを刺しに来たのだろうと推測する。
「―――――姿を見せないのは、外見にコンプレックスでもあるのか?」
ボロボロの状態でも、吸血鬼は気丈に振る舞う。頭がやけに冴えていた。茶化しでもしないと、自分の心が保てない気がしたからだ。
「・・・お前が、コースケか。大した事ないな。マクガフィンの奴は買いかぶり過ぎだ。」
ノイズがかった声で、そいつは呟く。
「いいとこ取りって訳か。どおりで、セトラより手強い筈だ。」吸血鬼は嗤う。
「・・・嗤うな。」
「いやなに、嗤うしかないだろう。お前の製作者は頭がイカレているよ。」
「頭がイカレているのはお前だ。死ぬ間際で、どうしてそんなに減らず口が叩ける?」
「この程度で死ねるなら、俺はもっと早く楽になれただろうよ。」
―――――瞬間、幸助は全身を一瞬で修復し回復させ、立ち上がる。
彼の主軸はあくまで回復魔法。自己治癒するには、吸血鬼の体質と合わせて一瞬だった。
「――――話してみたかったんだ。札幌を滅茶苦茶にした龍がどんな奴なのか。」
吸血鬼は全快になり、嗤う。驚異的な生命力、そして回復力。太陽の下以外では無敵とも呼べる生命力を持つ《自殺》の吸血鬼が、嗤いながら語り掛ける。
「一つ、質問していいか?」
「答える義理は無い。」影の者が構える。
「人生は、楽しいと思うか?」
「―――《宵闇》。」
影に包まれた奴が、姿を消した。
これは、宵闇龍ゼノンが使うスキル《宵闇》。影や黒に身を隠し、憑依し相手を操作する。この《龍世界》は全てが影。ならば、本当に奴の正体が自分の思っている通りなら、次にやる行動は一つしかなかった。
「―――――――《洗脳》。」
背中に、奴の手が触れる。奴の精神が吸血鬼の中に侵入する。
――――――が、吸血鬼はこれを待っていた。何故なら、幸助を《洗脳》する事は、セトラには出来なかったからだ。その心の中を除く行為は、常人の精神では耐えられない。
彼は常に、《自殺》についての思い出がフラッシュバックしている。セトラですら、彼を《洗脳》し、矯正する事は敵わなかった程に、心は深く闇に沈んでいる。
幸助の最悪な記憶が、影の者に流れ込んだ事で隙を見せた瞬間に、幸助はその手を掴み、再び質問をする。
「―――――もう一度質問する。あの時、こうしておけばよかったなと思う事が、お前にはあるか?」
「―――――《爆撃》。」
腕を掴んでいた手が爆発し、幸助の腕が吹っ飛ぶ。だが、吸血鬼は嗤いながら問う。
「―――――なぁ、俺と一緒に、楽にならないか?」虚ろな目で、吸血鬼は問いかけた。
――――――――――その瞬間。
視界が、真っ暗になった。それが、《箱庭》によるモノだとすぐに分かった。
真っ暗で、何も分からない。何がどうなっているのかも、理解が及ばない。
だが、そんな中で、その吸血鬼の声だけが、響き渡る。
「決めた。俺はお前と死ぬ。師匠ごめんなさい、あの時一緒に死ねなくて。でも今行きますから、待っててください。俺、貴方となら地獄も怖くありません。」
その妄言的でありながら一方的な告白と、気味の悪い殺し文句に、影の者は恐怖を抱いた。
《洗脳》時に見たあの光景の数々。そして、押し寄せてきたどす黒い、底の無い感情。
それは、狂気を超えた何か。
そして、吸血鬼は、その《箱庭》の名前を唱えながら、嗤った。
「――――あの世はすぐそこだ。だからせめて、《希死燦々朧ヶ心中》――――――――――。」




