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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
矛盾なる異邦者
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第44話 吸血鬼は目立たないように暮らせない。

 日を跨ぐその瞬間に、人々の動きが一斉に止まった。

 まるで時間が止まったように、その場でピクリとも動かなくなる。


 「・・・・・・は?」


 その場で止まり、人々は瞬き一つすらせず、完全に動かなくなった。

 夜の闇を裂くように、電工看板だけが煌々と辺りを照らしている。

 映像板に映る映像は、未だに動き続けている。


 ただ、そこにいる人間の動きだけが、止まっている。

 一瞬にして、静寂が走った。誰も話さない。歩かない。動かない。


 電話をしながら動きの止まったサラリーマン。中年の男性と話しながら一緒に歩く茶髪の若い女性。中華屋の前で立ち止まり、メニューを見ている大学生。


 それらすべてが、写真に収まったように動かない。


 「・・・どうなっているんだ・・・?」


 レーヴと幸助は、魔装具を展開し、周囲を警戒した。魔力の流れも、急に不規則なモノとなった。何かが起こる、そんな予感がした。


 ―――――すると。


 札幌の南の空に、一筋の光が走った。


 それは、ニュースの映像で見た光と同じだった。そして、それを実物で見ると、ある光の形と酷似しているのに気付いた。


 ――――――――《龍星群》。


 セトラの持つ《龍世界・炎々地獄》を圧縮させて、落下の衝撃で箱庭ごと周囲を殲滅する最強の技。

 その時に放つ光と、とても良く似ている。


 「―――――ねぇ、コースケ。」レーヴが空に睨みを利かせる。


 「・・・・・・セトラ、じゃないよな・・・?」

 「それもそうだけど、違う、空よ。何だか、蠢いてない・・・?」


 幸助は上空を見る。そこには、夥しい程の数で群れる、何かがあった。

 一つの個体は小さなものだが、それが群衆になると、まるで大きな龍の形をしていた。


 幸助は目を凝らし、夜のネオンの光で僅かに映った形を捉えた。

 それは、飛蝗だった。大量の飛蝗が、夜の闇に隠れて飛び回っているのだ。


 幸助は、すぐにその飛蝗が魔力を持ち、何らかのギミックに利用されているモノだと気付いた。近付いたり、触れる訳にはいかないと、長年の経験から咄嗟に判断し、唱えた。


 「――――《偽創具顕現フェイクリエイト乱気流砲トルネードキャノン》!!」


 右手によって創られた期限付きの砲を掲げ、空に向け発射すると同時に、レーヴも《極炎斬刃レーヴァテイン》を鞘から引き、その太刀を振った。


 「――――助太刀する!うらああああああ!!!!」


 砲から放たれた玉の後を追うように、螺旋となって獄炎が舞い上がる。

 そして、蠢く塊の主要部に到達した所で、幸助は左手で指を鳴らした。


 その瞬間に、玉が爆発し、中心に渦を巻くよう気流が形成された。その気流を取り巻き、一体となる形で、極炎が混じり、それは全てを焼き尽くす嵐の如く、飛蝗を巻き上げて焼き払っていく。


 ――――――が、当然、全てを消滅させる程の威力ではない。

 地上には同じように人間がいる。無力な状態で停止している上、あのような爆炎に巻き込む訳にはいかない。威力は当然、抑えてある。


 だが一体どういう事なんだ、これは。あの光は何だ?


 ――――――すると、さっきまで停止していた周りの人間の中に、意識を取り戻す者が現れ始めた。大量の人間の中で、そうして動き始めた人間は極少数だが、存在した。

 周囲の様子に戸惑っていて、叫び声を上げたり、様々な反応をしていた。


 「・・・どうなっているんだ、これ。」中年男性がキョロキョロと周囲を伺う。

 「お母さん、お母さん・・・?」母親に抱きかかえられている少年が不安げに呟く。

 「・・・・・・え、なにこれ・・・。」水商売風の女性が周囲の異変に戸惑う。



 そんな意識の戻った人たちに、黒い飛蝗が近寄ろうとしていた。


 「――――《偽創具顕現フェイクリエイト星獣弓スターダスト》――――!!!」


 使い終えた砲を無に還し、即座に追尾型の弓を創り、魔力を装填後すぐに飛蝗を捕捉し、打ち抜いていく。


 「――――はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 レーヴも、極炎を身に纏いながら、近寄る飛蝗を切り、焼き尽くしていく。



 人を守りながらの戦いというのに、幸助は全く慣れていなかった。

 異世界ベータでの戦場は、そんな甘えは通用しなかった。原住民の人間が幾らいようと、全力を出し切らねば死ぬ状態だった。そして、今成長し強くなった幸助は、強くなってしまったせいか、自分が頑張れば他の人間も助かるのではないかという、自惚れがあった。


 幸助の創るモノは総じて、周囲の人間を巻き込みかねない威力の産物ばかり。

 その魔装具達は、命を殺す為に特化しているモノ。今すべきは、街中の人を守る事、敵の実態を把握する事、そしてこの飛蝗は何なのか、あの光は何なのか、想定しながら戦う事だ。


 その全部が一気に出来る訳が無い。ただ一点、他人を見過ごせば済む話でもあった。


 目の前の命に見限りをつける。それが出来れば、簡単なのだが――――――。


 その飛蝗達は、数が多過ぎた。


 いつの間にか、飛蝗の数は空を埋め尽くす程の数になっていた。これを全部始末するのは簡単だ。セトラのような《箱庭》を展開したり、更なる《真創具顕現リクリエイト》による突破も可能かもしれない。


 だが、そうなれば、この街は間違いなく崩壊し、大勢の人間が死ぬ。


 恐らく、あの飛蝗達は、今意識を取り戻した人間しか興味が無い。


 直感的に、頭の中で仮説が立った。

 この現象が毎夜行われているとして、この飛蝗が《虚無病》に関係しているのではないか。


 日を跨ぐ瞬間に、人の動きが止まる。そこで、光を目の当たりにした人間が、意識を取り戻す。そして、その人間を、飛蝗が襲う。


 あの光の正体が龍であるならば、それは可能かもしれない。

 セトラのような《洗脳》に近いスキルを持っていれば、この札幌という限定地域ならば、出来ても不思議ではない。

 その理由の一つが、時間の加速だ。


 今日は、やけに時間が経つのが早かった。これは完全に《箱庭》による概念事象の干渉によるモノだと確信出来る。札幌全体を覆うように展開する《箱庭》を展開するなんて、それは《龍世界》にしか不可能だろう。


 そうすれば、自らの能力が干渉する空間に人々を閉じ込める事が出来るのと同じだ。


 ―――――だが、そんな事が可能なのか?という疑問もあった。

 一体全体、どんな事をすれば、こんな事が出来る?


 時間の加速と、飛蝗と、龍。

 どれも、何の整合性が無い。あるのは、龍と《洗脳》の能力の一端のみ。


 しかも、こんな事をする理由が一切見当たらないのが不可解だった。

 魔王軍ならば、いつも何らかの目的があった。


 こいつらは、無差別に命を殺すのが目的なのか?

 《虚無病》患者を増やす理由は何なんだ?

 飛蝗を追い払い、始末するだけでは、時間だけが過ぎていく。

 だが、それをやめると、必ず犠牲者が出る。


 ――――――だが、今は分からない事が多過ぎる。このままでいいのか?

 アイナに頼んである程度の推理が立てられれば、真実に近付くのではないか。

 この現象を情報として、そのままアイナに伝えさえすれば、これからどうすればいいのか分かるのでは?あのアカシクの民として、優れた頭脳を持つ彼女なら、出来るのではないか?


 飛蝗の数は、見る見る内に、指数関数的に増えていた。

 ――――――街を壊せば、更なる二次被害が発生する。


 止まっている人間に壊れた建物の瓦礫が当たれば即死だ。人の栄える歓楽街で、道の幅員も制限されている中、どれだけの人間を殺してしまう事になるか分かったものではない。


 本気を、出せない。幾ら何でも、限界がある。


 「――――勇者として、君に言うべきじゃないのかもしれないが―――――。」


 レーヴが《極炎斬刃レーヴァテイン》を身に纏い、炎で飛蝗を焼きながら、続ける。


 「助ける数に限界がある。」レーヴは、冷酷に言い放つ。


 もう既に、北側の奥では、人々の悲鳴が上がっていた。

 凶星に魅入られ、意識を取り戻した人間が飛蝗の餌食になっているのが分かった。

 集団の飛蝗が束になり、こちらへと向かってくる。夥しい数だ。まるで電車が迫ってきているのと変わりない迫力。圧倒的な数の暴力。


 周囲に意識を取り戻した人間は、4人いる。せめて、この人たちだけでも助けなければいけない。


 「――――レーヴ、お前力強いよな?」


 幸助は、吸血鬼の姿に変身を遂げる。

 それに気付いたレーヴが察して、その飛蝗に狼狽える4人の人間を肩にかるった。


 「―――――すみません。逃げますよ!!」


 「きゃっ!!」「な、なんだい君は!!」「あれ、何―?」肩の上に担ぎ上げられた人たちが戸惑いの声を上げる。


 「すみません、少し熱いかもしれませんが、耐えて下さい!!」


 そう言って、レーヴは4人を担いで、来た道を戻り、離脱する。


 「コースケ!!先に《防壁陣》張ったホテルに戻っておく!!」

 そう言って、レーヴは飛蝗を炎で追い払いつつ、避難した。



 ――――――――吸血鬼は、嗤う。


 「――――はぁ。マジで面倒だな。」


 停止された人間が、飛蝗に襲われている様子はなかった。やはり、あの龍の光が何らかのトリガーなのだろう。

 時刻は相変わらず、00:00のまま止まっている。


 ここで、吸血鬼は理解する。時間を加速している分の反動として、日を跨ぐ瞬間の時間のまま停止しているという事を。

 限定条件とはいえ、時間を加速させるならば、外の世界との、ズレの修正が必要になる。

 だから、時間が停止しているのだ。これは、時間が停止しているというより、加速の反動や副作用のようなもの。矛盾した1日の時間のズレを、停止する事で修正する。


 それを悪用したのが、この《箱庭》現象という訳だ。

 停止させ、龍の光を見せる事で、その魔力に当てられた人間が覚醒する。そして、その人間のみを飛蝗が襲う事によって、そいつを《虚無病》に仕上げる。飛蝗がまだ《虚無病》と関連しているかは、実際は不明なのだが、大方そういう感じだろう。


 要は、こうする事で、人間を選別しているのだ。理由は分からない。


 ―――――だが、流石に舐め過ぎだ。


 ここには、魔王を倒した異世界帰りの吸血鬼がいる。こんな蛮行、許す訳が無い。


 ――――――これは、レーヴのコンプレックスを刺激するから、見せたくなかったんだが。

 本人がいないのだから、思う存分、使おう。


 今この状況において、被害を最小限に抑えつつ殲滅するなら、これしかないのだ。


 異世界に帰ってくる直前に戦った、魔王の持つ最強の魔装具。


 全てを呑み込む虚無の具現。虚構に満ちた魔の極限。幻想とされた愚の境地―――――


 「《偽創具顕現フェイクリエイト虚夢幻槍ドリーミング・ヴォイドファントム》―――――――――」


 その吸血鬼は、最強の魔装具を、軽々しくも飛蝗の群れに投合した。

 空間ごと、命を、魔を、神をも刈り取る、万死必勝の槍が、黒き渦を巻きながら、飛蝗の群衆を無に還していく――――――


 その槍は、停止された人を巻き込まないように、飛蝗だけを殲滅していく。勝手に軌道を変え、自動追尾しながら、その群れを散り散りにしていく。


 だが、個体となった飛蝗が札幌の空中を覆っている飛蝗と再び合流し。すぐに元の数に戻り幸助に向かい、襲い掛かる。


 「――――せっかくだし使うか。《偽創具顕現フェイクリエイト聖刻魂槍ホーリー・ソウルクリア》。」


 全てを消去する神聖の具現。神意に満ちた聖の極限。伝承とされた賢の境地―――――


 虚夢幻槍ドリーミング・ヴォイドファントマの対となる伝説の魔装具を、吸血鬼は再現する。そしてそれを、群れに向かって、空に投げる。


 魔を晴らす神気に溢れた純白の槍が、白き光を照らしながら、飛蝗だけを浄化させていく。


 ―――――そして、二つの槍は、飛蝗の群れの中心で、引き合わせるように上空でぶつかり合った。


 正反対の概念が込められた魔装は、合わせてはならない。

 水とナトリウムのように、その二つがお互いに合わさった時、最悪の衝撃が起こる。


 対消滅。

 魔と聖が入り混じり、消えゆく最中に、超特大の理不尽な衝撃が発生する。

 それは、全てを無に還す虚無と星刻の螺旋。相容れない筈の概念が入り混じる事で、不死すら死へと導く消滅の螺旋が、空を覆った。



 あまりの衝撃に、ビル群の窓ガラスが割れる。



 ―――――だが、その衝撃のお陰で、人々は停止した状態から覚醒した。催眠状態から抜け出したらしい。


 やはり、そうか、と吸血鬼は理解する。何らかの強力な魔力を当てる事で、この停止状態は覚醒する。


 ガラスが落下した事で、怪我人が出ていた。すぐさま吸血鬼状態のまま走り回り、人々に回復魔法を掛けていく。死人も出たかもしれない、と不安になりながら、全速力で駆け走る。


 「・・・何が起きているんだ。」


 周囲は騒然としていた。人ならざる者が駆け寄り、怪我人を治癒していく。

 いつの間にか電気の光が僅かに灯るだけで真っ暗になり、窓ガラスが割れている。

 しかし、時計の針は進まない。時刻は00:00のまま、動かない。


 ――――――やり過ぎたか、と吸血鬼は、回復魔法を掛けながら、反省する。だが、あの場で飛蝗を殲滅出来た事は、きっと大きな収穫だったに違いない、と自分に言い聞かせる事にした。


 威力の制御が一番難しい。相手を殺すだけならとても簡単なのに。


 吸血鬼の、闇夜に紅く光る眼が、周囲の人々を更に怯えさせた。


 「――――ひィィッ!!!何よ、何するの!!」


 吸血鬼に身体を直された高齢の女性が、不気味がった。ただ、怪我を直しているだけなのに。


 この感覚、懐かしい。異世界ベータでもそうだった。吸血鬼が近寄ろうとすると、人は吸血されるのではないかと身構えてしまう。こればっかりは仕方ない。

 吸血鬼に血を差し出そうとするイカれた人間なんて、いない。

 こんな傷だらけの化物が近寄れば、怖いのは仕方ない。


 でも、仕方なかったとはいえ、怪我をさせたのは自分だ。自分の尻拭いは、自分でしなければいけない。


 何を言われようと、自分が怪我を治さなければ。回復魔法を掛けなければ。


 辺りから放たれる視線は、恐れや不安に満ちていた。自分を見る目は、完全に化物を見る目だった。

 誰も言葉を発しようとしない。自分から一定の距離を取った所で、警戒したまま動かない。


 携帯のカメラのシャッター音が聞こえてくる。

 どうやら、写真を撮られたみたいだ。音の鳴ったカメラの方を睨みつけると、その形態の持ち主である若い女性は呻き声を上げた。


 「・・・すみません、写真だけは、勘弁してもらえますか。」


 近寄り、優しく言うと、その女性は縦に首を振るばかりだった。それもそうだろう。

 その写真には、誰の、何の姿も映っていないのだから。


 何とか、SNSに上げられるのだけは阻止された。今日ほど吸血鬼で良かったと思う日は無い。


 「すみません、他に怪我した人がいたら教えて下さい。あと皆さん、《虚無病》になりたくなければ、黒い飛蝗を見つけ次第、危険なので殺して下さい。それでは。」


 そうして、その場の空気に耐えられなくなって、吸血鬼は空気を蹴り、逃げた。


 ―――――ああいう時って、どうやって対処するのがいいんだろう・・・・・・。あれで、正しかったのか・・・・・・?


 上空から怪我人がいないか探しながら、吸血鬼は頭を悩ませた。

 飛蝗はまだいる筈だ。人々の意識が覚醒した今、早く本丸を討ち取る必要がある。

 今日中に全てを終わらせる。そう吸血鬼は誓った。


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