第39話 起床
セトラは、マキアを抱えて、ゼノンが普段住んでいる王宮の中を案内された。
セトラからすれば、既視感しか無かった。ただ色々な部分が鏡写しのように反対になっていて、色が無いだけである。
だが、一つ明らかに違う点があった。それは、争った跡が残っている事だった。
あちこちの壁が崩れ落ち、ボロボロになっている。
レッドカーペットに黒い血が滲んでいた。流血したまま、引きずったような跡もある。
「――――あんた意外と俗物だったのね。《龍世界》の中でこんなとこに住もうだなんて。宵闇龍とかカッコのついた名前なんだから、暗いじめっとした洞窟の方が居心地いいでしょ。」
セトラは、ゼノンが王宮に住んでいる事をからかった。
「バカかよ。龍も趣向は人間とそう変わらないのは知ってるだろ。お互い、わざわざ今も人間の姿に《変身》してるじゃねぇか。馬鹿でかい身体のまま住むんじゃ不便過ぎるだろ。」
「あんたも人型になったりするのね。初めて知ったわ。」
「するわボケ。」
「あんまり口悪いと殺すわよ?」
「・・・いや、第一、敵対してたんだぞ俺たちは。俺は負けたんだ、このぐらいは言ってもいいだろ。」
「それはこっちの台詞よヒキニート。よくもまぁ、色々と隠してたわね。どうせ魔王に脅されてたんでしょ、アークの忘れ形見を人質に取られて。それ早く言いなさいよね。」
「言えるかバカ。・・・って、今はそんな話している場合じゃないだろう。」
そう言って、ゼノンはレッドカーペットの敷かれた王の間真ん中にある、超偉そうな椅子に深々と座った。
「そこ、私が座りたいんだけど。」
「・・・いや、ここ俺の《龍世界》なんだけど。」
「・・・燃やすわよ?」
「・・・・・・あーもー乱暴過ぎるわお前!!バカ!!アホ!!ほらよ座れ!!」
そうして、ゼノンはよろけて立ち上がり、席を立った。セトラは、背中におぶっているマキアとなった小春をその椅子に座らせた。
あの炎熱に身を焼かれてもなお、息がある。
そして、服が焼けた事で、左肩にアカシクの民の紋章がある事も、先程判明した。
恐らくだが、小春の時には無かった紋章だ。
これで、今も確認されるアカシクの民は、アイナ、マキア、マクガフィンの3人となった。
「――――しかし、何なんだ。変な影に襲われたと思ったら、今度はお前達だ。しかも、アカシクの民ときやがる。」
「・・・・・・変な影?」セトラは、妙な事を言うゼノンに訊き返す。
「ああ。実態もよく分からんかった。そいつが急に現れて、俺を襲って来たんだ。」
「・・・ちょっと待って。影を操る奴って、能力はあんたとほぼ一緒じゃない。そんな奴に負けたの?」
「ちょっと待て。影を操るとは、俺は言ってない。正確には、影のようなもので身体を覆っていたんだ。多分、あの影の細工を施したのは別の奴だ。あの技はよく、俺も使っていた。」
「・・・あんたと似たような能力を持っている奴がいるって事?」
「そうなる。」
「でも、それなら尚更あんたに有利じゃない。相手が影で覆われているなら、《宵闇》を使えばどうとでも戦えたでしょ。」
「・・・・・・まぁ、不意打ちに近かったからな。」
「負けたんでしょ?」
「クソがよ、うまくぼかそうとしたんだがなぁ!!まぁ結論を言うと、確かに負けた。」
「・・・・・・マジ?仮にもあんた、魔王軍幹部でしょ?あの女帝デスペラードと同じ階級だったんでしょ?」
「ああ、そうだ。姿もよく分からない変な奴だった。あんな強い奴がまだいたとは、世界は広いな。」
「バーカ。呑気な頭してるわね。流石に絶対あり得ないわよ。そんな急にホイホイ勇者級の怪物が現れてたまるもんか。」
「いや現れるには現れるだろ。コースケみたいな奴もいるし。」
「あれは例外中の例外よ。・・・で、他に特徴は無かった?そいつ、龍じゃなかった?ていうか、あんた竜こっちの世界からコースケに送り付けてきてないわよね?」
「・・・・・・いや、何の話なんだ・・・?俺はあの戦争以来、この《龍世界》を出てない。何処か知らんが、竜をあんな恐ろしい奴に送り付ける程、俺は馬鹿じゃないぞ。なぁグレイシア!!」
ゼノンの横に現れた、龍王アークの忘れ形見である黄色い子供の龍、グレイシアは人型になって、首をこくりこくりと頷いた。
「それは分かってるわよ。」
「会話になってねぇんだが!?」
「その影の奴、龍だったかって聞いてんの。」
「・・・これ、言っていいのか・・・?」
「早く言いなさいよ、出し惜しみは許さないわよ。」
「・・・そいつ、明らかに勇者剣ガイアらしきもの、使ってきたんだが・・・。」
・
「――――――は?」
「・・・いや、いい。聞き流してくれ。」
「・・・・・・え、どういう事・・・?」
セトラは酷く困惑した。
勇者レーヴが、ゼノンを襲う?
その理由は?あんな堅物がそんな事やるとは思えない。
「らしきもの、だ。勇者剣ガイアに似ていたが、完全に同じとは言えない。なんかすげービームみたいなの出してきたし、似ているだけで別物だと思う。どちらかと言うと、ああいった技はデスペラードのモノに似ていたような気がする。とにかく、よく分からんかった。」
「・・・・・・え、本当に意味が分かんない・・・。」
「ただ、そいつは勇者レーヴでは無いと思う。確証は無いが、戦ってみた感想ってだけ。
過去に色んな勇者を見てきたが、あんなに闇に染まった勇者剣みたいな代物見た事が無い。あれは魔王の持つ最強の魔装具、虚夢幻槍ファントムみたいな感じにも思えた。すまんな、あやふやで。」
「・・・・・・あやふや過ぎるわよ。余計謎が深まったわ。」
セトラは、レーヴを疑う訳にはいかなかった。
つい先日、セトラを襲った竜が自分だと疑われた時に、強くレーヴを突き放すような発言をしてしまったからだ。
だが、確かに、可能なタイミングのように思えた。
最初に、セトラが異世界転移をした。その次にアイナ、その次にレーヴだった。
その間に、宵闇龍ゼノンを襲うタイミングはあるにはある。
だが、影のようなものを纏うスキルをレーヴが持っているとは思えない。
・・・・・・これから、彼女を疑いの目で見なければならない。
絶対に違うとは分かっていても、だ。宵闇龍ゼノンを襲う理由も無いのに。
「ていうかよ、そろそろ俺にも説明してくれ。何なんだ今回の事態は。お前はさっきから頑なに心を読ませなくしてるし、隠し事が多すぎる。」
「・・・はぁ、分かったわよ。敵じゃないのなら、全部教えてあげるわよ。今回ばかりは、ちょっとヤバい事態かもしれないし―――――――」
――――――そうして、セトラはゼノンと、その横にいるグレイシアに向けて、事態の説明を始めた。世界へ行った事、札幌の事、マクガフィンが言っていた魔眼王とやらの事、ワイバーンに襲われた事、小春が幻獣因子を取り込んでアカシクの民に変貌した事。
そして、その竜を送り付けた人物を特定する為に、ゼノンの元へ訪れた事。
それらを全て聞いたゼノンは、首を傾げて言った。
「情報量が多すぎるわ。短期間に色々事件起こり過ぎだろ。」
「―――――で、事情は全部説明したわよ。あんたを襲った奴ら、魔王軍と何か関係あったりするのかしら?」
「・・・・・・そいつら多分、魔王軍とは一切関係無い奴らだと思う。」
「そう。マクガフィンが言うには、異世界からの侵略者だと。あ、マクガフィンってのは、魔眼王側に付いているアカシクの民ね。魔眼王を殺して下さいとか、変な事言っちゃってるよく分かんない奴。」
「そいつもアカシクの民か。・・・うーん、残党にしちゃあやってる事が派手だし、強過ぎないか?現に、魔王軍幹部として名を馳せた俺を倒した訳だぞ。」
「あんたが雑魚なだけよ。」
「バーカ、少しは真面目に訊け。お前も多分やられるから覚悟しておけ。」
「私は無敵よ。」
「かもしれんが油断は絶対にするな。」
「分かってるわよ馬鹿じゃないんだから。」
「・・・・・・でも、何で異世界転移の力が使えるんだ?姫様みたいな天才が向こうにもいるっていうのか?」
「それは分からないわ。マクガフィンもアカシクの民だし、解読したのかも。それか・・・・・・そもそも、そういった力を元々持っている可能性も否定出来ない。」
「・・・まさか。異世界転移は、元々は女神の権能だぞ?ならお前達の敵は、神をも超える存在なのかもしれないな。」
「そうだったら最悪だし、異世界も危険よ。何を考えているのか分からない敵を相手するのが一番厄介なんだから。あんたら魔王軍みたいに分かりやすい悪なら良かったけど・・・・・・。」
「だから結論、何にも分からないって所か。大変だな。」
「何他人事になってるのよ、あんたも襲われたって事は目を付けられてんだから、最後まで協力しなさいよ。」
「もう働きたくねーよ・・・。」
「やっぱりヒキニートじゃない。」
「それに、グレイシアの面倒を見なきゃいけない。」
「・・・・・・そう。じゃあ、無理に力は借りないわ。今度襲われても助かる保証は無いわよ。」
「分かっている。」
「ならいいのよ。魔王軍に入って人々に散々迷惑掛けたんだから、一生大人しくしてなさい。」
「酷い言いようだな。お前も大して変わらないだろ。」
「あ?」
「すまん何でもない。・・・はぁ、こえーよこいつ・・・・。」
そうして罵倒に近い会話をしていると、小春が僅かに動いたのを察知した。
一同は全員、戦闘態勢を取る。
次は何があるか分からない。変貌した小春がいったい何者なのか、注意しなければならない。また暴走しないとも限らないのだ。




