第38話 忌子
―――――――ここは何処だ?
セトラは真っ暗闇の場所で目が覚める。
・・・・・・確か、暴走した小春に《洗脳》して、そこから―――――。
まさか、ここは小春の意識?
今まで、誰かの意識に無理矢理連れてこられるなんて事無かったぞ。
――――――《洗脳》が出来ていない?《洗脳》するどころか、引っ張られた?
「・・・・・・マキア。貴方はここにいちゃ駄目。」
誰の声だ。マキア?誰だ?
女性の声だ。・・・・・・どこかで、聞いた事がある気がする。
「ママ!!何で置いていくの!!私はどうしたら―――――」
「・・・ごめんね、マキア。私の愛する子。」
「待ってよママ!!ママ―――――――」
・・・・・・誰かの記憶だろうか。マキア?初めて聞いた。
どういう事なんだ、これは。私は今、誰かの記憶を覗いているのか―――――?
セトラの目の前に、光る道が現れた。セトラは理解する。
成程、私は今、何者かに導かれている。
そして、その光の道が行き止まりになった所で、スクリーンに映し出されるように、目の前で映像が流れ始めた。
「――――本当にありがとう。名前を教えて。」
今度は小春の声だ。映像に映っているのは、小さい幸助だった。ネックウォーマーで顔が隠れているが、幸助だとすぐに分かった。映像は、小春視点で映し出されている。小春の、昔の記憶だろうか?
「いいって。俺、ちょっと用事があるんだ。じゃあね!」
「ま、待ってよ!!」
映像が飛んだ。そして、再び新たな映像が浮かぶ。
「ははっ!!あいつ蝉食いやがったぜ!!」
「傑作だわ。いっそ死ねばいいのにな。」
廊下を歩きながら喋る男子を見ながら、小春は溜息をついた。
―――――また、映像が飛ぶ。屋上から帰ってきて、ボロボロの幸助に喋りかけようとするが、何も話しかけられずに、目線を逸らした。
―――――そして、次は、地面に倒れ脳漿が飛び出た、血だらけの幸助が映し出された。
「幸助君!!幸助君!!起きて!!起きてってば!!!ねぇ死なないで!!!私、まだ何も返してない!!ねぇ、お願い、神様―――――――」
――――――ここで、映像が終わる。
セトラは、小春が何故人間を辞めてまで力を欲したのか、少し理解した気分になった。
だが―――――マキア?誰だ?
記憶が飛び飛びになっているとしても、何かがおかしい。
誰か分からない記憶が、小春に混在している。ブラックナイトの影響か・・・?
―――――――そして、再び、光る道が現れた。ここでセトラは理解する。
これは記憶の旅だ。人の意識や思念に敏感な私だからこそ、呼ばれたのだ。
セトラは再び歩き始める。すると、また声だけが聞こえてきた。
「マキア、貴方は世界を変えるのよ。」
「マキア、君が世界を終わらせるんだ。」
「君は鍵だ。我々の復興は君に掛かっている。」
「―――――我らアカシクの民は永遠なり。」
・・・・・・・・・・・は?
アカシクの民・・・・・・・・・・・・?
何故、小春の記憶に、こんなモノが混じっている・・・・・・・・・?
・・・・まさか・・・・・・・・・・・。
暗闇が晴れる。視界が明るくなった。
そこに、女は現れた。まるで、あいつと雰囲気が違う。
「・・・・・・お前は誰だ?」
セトラは、小春そのものの容姿をした誰かに、話しかけた。
―――――そいつは、ただの人形だった。小春そっくりの形をした、ただの人形。
舞台上でスポットライトを浴びながら、静かに項垂れている。
セトラの声は通じていなかった。だが舞台に向けて、顔を黒く塗り潰された人間が、観客席から殺意を向ける。
その人形は、頭を抱える。
「そいつを殺せ!!」「忌子め!!!」「死ねよ裏切者!!!」
人形が躍る舞台に向けて、観客から罵詈雑言を浴びせられていた。まるで劇のようだ。
小春には理解不能だった。一体、私は何を見せられている?
これが、アカシクの民とどう関係しているのだ。
人の意識にいるからなのか、伝わってくる情報はずっと抽象的で、断片的だった。
そして、その人形は踊り、絶叫する。
「―――――そんな事言わなくても、どうせ私は死ぬじゃない!!」
――――――どうせ死ぬ?
何なのだ、これは何を伝えようとしている?
・・・・・・再び、暗闇に戻る。先程の狂騒は何だったのだ、とセトラは困惑した。
・・・・・・どうすればいいのだ。
真実を突き止めてしまえば、この記憶の旅は終わるのか?
この狂った劇は、本当に小春の脳内で作られたモノなのか・・・?
―――――――悪夢。
そう形容した方が良かった。伝わってくる感情全てが呪われている。
幻獣と適合しただけで、こうも精巧な悪夢や記憶が作られる訳が無い。
可能性はあった。もしかしたら、幻獣ブラックナイトに眠る何らかの記録が、小春の脳内に干渉しようとしている。
だが、幻獣因子から、しかも特定のアカシクの民としての記憶が流れ込んでくるなんて聞いた事が無い。龍である自分も、吸血鬼と化したコースケからも、そんな記憶が流れ込んできた事例も経験も無い。
最悪の可能性が一つ、考えられた。
それは、この記憶が全て、最初から小春のモノであったという事だ。
もしそうなら、小春はマキアと呼ばれる少女と同じで、過去に何らかの記憶修正が入り、あの世界出身の人間として育てられた可能性が考えられた。
滅びを迎えようとするアカシクの民の、最後の生き残りとして。
世界間の時間移動なら容易い。現にコースケと私たちとでは3年の差がある。もしかしたら、小春は、とんでもなく昔に異世界転移を果たした存在なのかもしれない。そう考えれば、全ての辻褄が合う気がした。
ワイバーンが小春を襲った理由。普通より、魔力の扱いに長けている理由。
そして、異世界に転移する前のコースケに出会っている。
彼女は、コースケが魔王を倒す強い理由の一つだった。
かつて虐められていたコースケを、どうにかして影から助けようとしていた少女。
その少女に報いたくて、感謝を伝えたくて、コースケは魔王を倒した。
―――――――まさか、これも全て、仕組まれていた――――――――?
・・・・・・いや、流石に考えすぎか。そんな偶然あってたまるか。コースケはそもそも、最初から特別な奴なんかじゃなかった。この事態は、仕組みようがないのだ。
それにしても、小春とコースケが出会い、仲を深めたのは奇跡の確率だ。いずれ異世界を救う事になる吸血鬼になる前の人間と、アカシクの民が縁を結ぶなど、偶然にしては出来すぎている気もするが・・・。
邪推はこれまでにしておこう。
すると、人形が喋り出した。よく見ると、その人形に上から糸が垂らされている事に気付いた。
「―――――私は、運命の奴隷。破滅を望まれた機械の巫女。叡智の果てに生み出された滅亡の権化。」
その人形は、歌い始めた。日本人らしい黒髪の少女の髪が蒼くなり、瞳が緑に染まっていく。まるで本来の姿を取り戻すかのように、変貌していく。
・・・・・・小春?・・・じゃないのか・・・?
「・・・ははははは!!!!私はマキア!!機械仕掛けの文明に全てを託された者。そして、世界に凶兆をもたらすもの。」
マキアへと変貌した人形は、狂い始めた。
そして、不可解な詩を残して、絶叫しながら、舞台上を霧散するように消えていった。
置いていくなよ、我々を。
去っていくなよ、永遠に。
我らは君の罪。
君は我らの夢。
泡沫に消えゆく慕情は抱え込め。
先を生きゆく生者の礎となるのだ。
アハハハハハハハハ!!!・・・
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「・・・・・・ハッ!!」
セトラは意識を取り戻す。目の前には小春がいて――――いや、もう小春では無い。
蒼き髪に変貌した黒騎士の中身は、もう今までの小春と言っていいのか分からなかった。
マキア。彼女の名前は、そう呼ぶ方がいいのだろうか。
そいつは、眠りながらも、黒騎士を再起動しようと、外殻を動かし始める。
「――――セトラ、早くしろ!!もうあんまり、抑え込む力が無い――――。」
ゼノンの声がした。そうだ、これはまだ戦闘中。
意味の分からない光景を見たが、《洗脳》は通用しなかったんだった。
「ゼノン、《洗脳》は駄目だった!!人間相手に、初めて失敗した!!」
「もう、こいつは人間じゃないだろ――――どうするんだ!?力が、強ぇ!!!」
「・・・私の見立て通りなら、多分この子は死なない。」
「はぁ!?セトラ、何言って―――――まさか。」
「ゼノン、ありがとう。もういいわ、離れて。今度は全力で殺すから。消し炭になりたくないなら離れる事ね。」
「――――分かった。後で話をちゃんと聞かせてくれ。」
「それはこっちの台詞よ。―――――《龍世界》展開。」
《宵闇》のゼノンが離れた所で、再び黒騎士は動き始める。
ただ動くものを捕捉し、命を屠るだけの獣として、駆ける。
だが、それはセトラの《龍世界》の中では、何の意味も無かった。
既に彼女の世界に迷い込んだ黒騎士は、彼女の世界が放つ熱に、身を焦がし、灰になっていった。
「――――熱いけど我慢してね。《龍世界・炎延地獄》―――――」
地獄の業火を再現した《箱庭》は、有機物の全てを消し炭にする熱の雨を降らせた。
――――――そうして、ようやく、黒騎士は活動を止めた。
ありがとうございます!
週一回のペースで行けたらいいなと思っています!すんません!




