第37話 龍星群と宵闇龍
矢の光と同じ位の速度で、黄色の龍が持ち前の速さで駆ける様子が見えた。
あの龍が脱出に成功したのは嬉しかった。が、事態は最悪だった。
《箱庭》の竜を貫いた自動追尾の矢が、今は龍を貫かんと追っている。
「――――ああもう!!クソッ!!行け我が眷属!!」
セトラは竜に指示を出して、龍の軌道上に竜を配置した。そして、龍がやって来たと同時に幾方向に分かれて飛び立った。無作為に襲い掛かる矢の軌道を変え、標的をすり替える。
次に《煌星夢幻弓》を放たれたら終わりだ。今しかない。セトラは覚悟を決めた。
セトラが上空に飛んだのは訳があった。
龍の眷属である竜は、龍の身体から生まれた存在。
竜は、言ってしまえば、龍の持つ魔力の塊でしかない。
セトラの戦闘は、多を相手にする戦争では無類の凶悪さを誇っていた。
非人道的手段。悪魔。テロリズム。
彼女が倫理のタガを外せば、世界はあっという間に破滅する。
彼女が持つ特異スキル、《爆撃》は、自分を彼女の意思で起爆できる爆弾にする能力である。彼女はそれを自分自身の竜に使う。
そして、龍としての彼女が持つ《龍世界》は、この《爆撃》に特化した《箱庭》なのである。かつて龍王・爆撃龍セトラとして恐れられた所以の一つである。
《洗脳》など、彼女の持つ能力の一端に過ぎず、特筆すべき脅威はこの《爆撃》である。
セトラは急降下し、黒騎士の居る《箱庭》に、真っ逆さまに落ちていく。
「―――――――《龍世界》展開。」
セトラの周りに、《箱庭》の如き結界が浮かび上がる。
その周りを覆うように竜が密着する。
それはまるで、天から飛来してくる隕石のようだった。
黒騎士が、《煌星夢幻弓》を構える。だがもう、全てが遅かった。
「――――《龍星群》。」
《龍世界》と《箱庭》が境界面に触れ合った時に起こる、対消滅。
それに加えて、竜に掛けられた《爆撃》が一斉に発動する。
自らを爆弾に変えた、完全なる自爆特攻。
その威力は、勇者剣ガイアのアトムプランをゆうに超える。
余りにも強い熱線が光の玉となり、やがて熱の渦は辺りを舞い上げ、その爆発はきのこ雲を作るまでの威力になった。
その傍若無人な熱は、影一つ残さず周囲の木々を無に返す。
残るのは焦土。非人道的な核熱が、灰色の世界を、更に黒く染め上げていく―――。
・・・・・・セトラは、ぽっかりクレーターの空いた所で、人間の姿へと《変身》し、ようやく立ち上がった。
この《爆撃》は、使ってしまえば大地の復興が難しくなる事から、普通の条件では使えない技だった。余りにも被害が大きくなる。
龍王としての彼女は、かつては地母神として恐れられていた程の存在だった。
何故なら、彼女は破壊の象徴だったからだ。
この《爆撃》は、単なる魔力の暴発にしては威力が高過ぎた。自分自身を爆弾にした所で、自分が爆発する訳でもない。一方的でダメージを負わない自爆特攻が可能で、彼女に近付く事は、死を意味していた。
彼女は、破壊する事しか知らなかった。あの未熟で弱々しい吸血鬼に逢うまでは。
「・・・・・・過剰火力過ぎる。・・・・・・小春、ごめんな・・・。」
セトラは、被害を見て小春を殺してしまったと思い込んだ。
――――――だが。
幻獣・ブラックナイトは、もはや人智を超えた生物だった。
「・・・・・・マジかよ。」
30メートル程先に、黒く、蠢いている何かが見えた。
―――――それは、黒騎士だった。あの爆発を耐えたのだ。
外殻はボロボロになり、所々がヒビ割れていたが、確かに生きていた。
セトラは、信じられなかった。龍星群を喰らって生きた者など、殆どいない。
それも自分と同じ幻獣が耐えるなんて、思えなかったのだ。
セトラの脳内に、黒騎士の思念を感じ取る。
混沌としていた筈の精神が、少しだけ片付いているように感じた。
――――――だが、変だった。その思念の中に、小春じゃない誰かの精神が混ざっている。
ブラックナイトに、意思がある・・・?いや、そんな訳はない。
じゃあ、これは、一体誰だ・・・・・・?
セトラが近づこうと、黒騎士に寄ろうとした所で―――――――
「――――――離れろセトラッ!!!!」
誰かの声に反応し、咄嗟に上空へと飛んだ。《人型》のまま背中の翼を広げて、ブラックナイトから距離を取った。
―――――――気付いたのは、反応した後だった。
黒騎士の背後から伸びる黒の外殻が、地面を伝ってセトラを刺そうとしたのだ。
飛んだ瞬間に、先端の尖ったモノが地面から飛び出た。間一髪だった。
その声の主に気付き、セトラはほっとした。
「―――――遅いわよ、ゼノン。」
セトラの頭上から、この《龍世界》の主がようやく表れた。
宵闇龍ゼノン。かつて魔王軍の幹部として敵対していた、宿敵だった。
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「――――今度は何だ。また黒いのが相手か。セトラ、奴は何者だ?」
宵闇龍ゼノンはセトラに訊いた。
「あれは私の友達。」
「・・・まさか、コースケでは無いだろうな?」
「違うわよ、コースケの友達。姫様の薬を飲んで、幻獣に乗っ取られちゃった。あんたのせいでね。」
「・・・ちょっと待て。俺のせいってどういう事だ?」
「話は後よ。ゼノン、どうにかして奴の外殻を剥がせないかしら。」
「・・・《洗脳》する気か?」
「友達を救えるチャンスが出来たんだもの。」
「・・・分かった。今は協力しよう。」
そう言うと、宵闇龍ゼノンは、闇に消えた。
《宵闇》。闇に溶け、闇を支配する能力。闇、という概念は黒と同等の意味であり、黒いモノなら何でも溶け込めるし、操る事が出来る。
そして、その闇を統合し、支配する。
この《龍世界》そのものが闇なのだから、ゼノンは自由に姿を消す事が出来るのだ。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
黒騎士が悲鳴を上げた。外殻が暴れ始め、剥がれていく。
ゼノンが黒色の外殻に乗り移り、操り始めたのだ。
ブラックナイトだったものが剥がれ、中からボロボロになった少女が現れる。
小春に、意識は無かった。
即座にセトラは急降下し、露わになった小春に、触った。
「―――――《洗脳》!!!」
その瞬間、セトラの意識は、小春の中に吸い込まれていった。




