第31話 龍の背に乗り
「―――――どうだ小春。これが私達の世界だ。」
空から見る異世界に着いて、一時間が経過していた。
セトラは龍の姿になり、背中にセトラを乗せて飛行していた。そうして、ずっと雲の下辺りを飛び続ける事で、《ベータ》がどんな場所なのかを言葉にせず説明してくれた。
――――――酷かった。
辺りは一面の荒野。そこに幾千、幾万もの戦火の跡がある。不自然に地面が抉れた山、焦土と化したまま黒い裸の木々達、不自然な、脱ぎ捨てられたような衣服の跡が、地面にこびりついている。家の破片も、人間が暮らしていた筈の村も、上空からは全てが見えた。
「この一帯は全然清掃が済んでいないんだ。公共工事として仕事を発注するにしては、業者も人間も足りない。ここが奇麗になって人が済めるようになるのは、早くて5年後だろう。って言っても、畑を耕そうにも土が死んでいる。」
「・・・どうして、こんな・・・・・・。」
「そりゃもちろん、戦争の跡さ。魔法のある世界じゃ、完全に無力な人間なんていない。誰だって魔法が使えるんだから、その分被害も死者も増えるだろうよ。」
「・・・・・・。」
「ここは、ガレス王国西側の国境付近に位置する、ダーニャ地方ってとこだ。昔、私はここに住む人々から、神様って呼ばれていた。」
「・・・凄いわ。」
「神殿があったんだけどな。それも全部粉々よ。誰一人守れなかった。で私も、魔王軍の奴らに殺される寸前だった。そこに現れたんだよ、あの男は。」
「・・・・・・あの男・・・。」
「そう、コースケ。その時はまだ吸血鬼のままだったな。今ほど強くなくて、師匠のスレイヤーと一緒に行動してた時だ。そこで私は、あいつの回復魔法に助けられた。それからの縁だよ、コースケとは。実は、あの姫様よりも、知り合うのは早かったんだぜ?」
「・・・へぇー。その師匠のスレイヤーって人は、どんな人だったんですか?」
そう小春が訊くと、セトラは少し沈黙した後、答えた。
「変わった奴だったよ。冷徹で鉄血、沈黙を愛するような静かな女だった。」
「・・・え、女性だったんですか!?てっきり男の人だと・・・。」
「何言ってんだ、吸血鬼といえば女だろ。」
「そんなイメージ無かったですけど・・・。えぇ、幸助君の周り、女性多過ぎません・・・?」
「それは思うけど、そう思ってしまうのは、あいつが知り合った仲のいい男達って、大概死んじゃってるからなんだよな。残っているのが偶々女性ってだけで。それを言うと、スレイヤーだって死んでる。」
「・・・そうなんですか・・・・・・。」
「しかも、コースケの目の前でな。だから、コースケの前でスレイヤーの名前を口にするのは駄目だぜ。未だにトラウマ引きずってるっぽいし。めっちゃくちゃ師匠の事が好きだったからなぁ、コースケは。」
「・・・・・・え。」
「本当は《アルファ》なんかに帰らずに、師匠に生涯を捧げる覚悟だったみたいだけどな。あぁ、思い出した。吸血鬼として永遠に師匠と生きたいってよく言ってたわ。」
「・・・重い・・・・。」
聞いているだけでも、何だか胸の痛くなる話だった。
そんな過去があったなんて。全くそんな素振りも見せず、自分を含め周りの女性陣に振り回される幸助の事が、気の毒に思えてきた。
「師匠が死んだ理由に姫様も間接的に関わっていてな。それで罪悪感のある姫様がコースケを人間に戻そうとする訳よ。でも完全に人間に戻るのを拒んだ結果、妥協として昼間に出られるような身体に戻れるまでにしたんだ。中途半端に戻した代償として、コースケは生殖能力を失った。人間に戻れば、師匠との繋がりが完全に切れてしまうって思ったんだろう。だから、師匠を助けられなかった罪として、コースケは人間でも吸血鬼でもない、中途半端な存在になってしまった。」
「・・・重過ぎる・・・・。」
「更に言うと、姫様もコースケの事を好きになってしまったから、余計可哀想なんだよな。コースケは師匠の事が未だに好きだし、師匠以外の女性と性的な関りを持たないようにしてる。しかも、姫様自身が、好きな人を子供の作れない身体にしてしまった。そりゃあ、魔王を倒して世界を救った途端に、元の世界に想い人が帰ったと知ったら、死にたくもなるだろうさ。前、姫様が飛び降り自殺を図ったって言ったのは、こういう経緯があったんだ。」
「・・・・・・いや、重すぎますって。これ聞いた後だったら、アイナ姫の天真爛漫な感じが、全部しんどく見えるんですが・・・。」
「うん、ていうか全部知っている私から見たら痛々しくて見てられん時はよくある。それも含めて、面白いと思うけどな。」
「・・・面白い?」
「ああ。お互い素直になれば全部解決するのに、本音の部分では気を遣いあってる面倒くさい感じが、人間らしくて面白い。私もコースケの事は好きだけど、あいつらの面倒くさい感じを見てる方がずっと好きだな。」
「・・・・・・あー、そういう見方もあるんですねー・・・。」
「小春もコースケと関わるのは程々にしといた方がいいぜ。だってあいつの周りは面倒くせぇもん。」
「いいや、そればっかりは聞けませんね。私もそれなりに面倒くさいんで。」
「だと思った。気持ちが変わってなくて安心したよ。」
2人は笑いあった。出会って数日しか経っていないが、かなり仲が深まった気がする。
なんとなく気が合うのだ。立場や生まれ育った環境は天と地ほど違うが、彼に助けられた事があるという共通点があるだけで、こんなにも話が合うとは思わなかった。
「・・・さて、そろそろ着くぞ小春。ガレス王国の中心部。王都ミレニアムだ。」
―――――遠くの方に、城らしきものがたっているのが見えた。その周辺に城下町が並んでいる。あれが、アイナ姫様の居た街なのだと思うと、不思議な気持ちだった。本当にあの人姫様なんだ、という失礼な気持ちが湧いて来たのだ。
「まずは王様をカツアゲして金貰ってくる。」
「えぇ・・・?宵闇龍っていうのを探すんじゃなくて?」
「ああ、そうそうそれもだ。それも伝えた後に、小春の魔装具を買いに行こう。」
「・・・え?」
「防具だよ、防具。念には念だ、魔力の扱い方はもう覚えた筈だ。それなら、魔装防具もどっちにしろ必要だ。使いやすくて最強の奴を買おう。」
「・・・私に時間割いていいの?」
「いいって。こっちからなら、時間軸は後で調整出来る。せっかくだからのんびりしようぜ。小春の知りたい思い出話でもしてやるよ。」
「・・・うん!!」
――――――何だか、思ったより楽しい旅になりそうだった。
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