第30話 竜の背に乗り
―――――幸助一行は、セトラが生み出したワイバーンの背に乗り、札幌市に向かっていた。雲の上を抜けた上空に入ると、蒼く黒い天井が広がっていた。宇宙に近く、空気の薄い界域に入ると、気圧のせいで耳が上手く機能しなかった。
準備は万端だった。幸助の自宅に、レーヴの《テレポート》座標に必要な魔具を張り、《防壁陣》に何かあったとしても一瞬で帰ってこれるようにしたのだ。これでいつでも危険な状態になれば逃げ帰る事も出来るし、家族に危険が及べば対応出来る。
今は命を狙われている小春もこの世界にはいない。だから、多分大丈夫だとは思うが、この処置は、一応念の為だった。
「―――――小春さん、大丈夫かな。」
レーヴが珍しく人の心配をしている。確かに、幸助も不安だった。
だが、異世界は変わった。昔のような殺伐とした空気も無いらしい。治安も保たれているとか。ま、俺は見てないから分からないけど、と幸助は思う。
「小春の心配もそうだが、今朝のニュース見ただろ。あれ見たら、尚更小春は連れていけないし、ワイバーン問題が解決するまでは居ない方がいい。」
「・・・そうだね。」
―――――突然倒れ、意識を失い、二度と目覚めない原因不明の病。
いや、病とすら分からない。その現象にどんな名前がつくのかさえ、誰にも分からない。
現在、札幌市では、人が抜け殻のようになる現象が起こっている。
まるで魂を抜かれたように口を利かなくなるのがその症状の前兆であるらしい。表情を失い、生気を無くした状態で意味も無く周囲を徘徊し、突然街中で倒れるらしいのだ。
中には、眠ったが最後、二度と目を醒まさないまま病院へ運ばれてしまう人もいるらしい。
マスコミはこれを、《虚無病》と名付け、その被害状況や報告をかなりの頻度で流し、警告している。
「しかし、《虚無病》か・・・。明らかに魔法が使える奴の仕業よね。」アイナが言う。
「・・・・・・精神に異常をきたす、魔法か・・・。大多数に及ぶまでの強制力を働かせる魔法・・・。ますます、誰なのか分からない・・・。」
「でも、能力としては、セトラの《洗脳》を広範囲に適用した感じっぽいわよね。」
「・・・うーん・・・・・・。本当に、俺はついてないな。ようやく異世界から帰ってきたらこれだ。・・・せめて、もうちょっと日常を満喫したかったな。」
「・・・・・・罪、か。」
「ん?どうした?」
「・・・いや、何でもない。けど、何となく思ったのよ。私達って、都合が良過ぎるなって。」
「・・・・・・どういう事だ?」
「いっぱい命を奪ってきて、奪われてきたのに、一番大事なものは失わなかった。」
「・・・確かに、アイナの言う通りだ。」
レーヴもそれに続ける。
「私だって、魔王こそは倒せなかったけど、勇者としての役目は果たせた。人々からの象徴ではあり続けられた。かつての勇者が出来なかった事が、私みたいな人間でも出来てしまった。」
「・・・・・・確かに、唯一の成功例だな。」
「だから思うんだ。これは、向こうからしたら、弔い合戦なのかもしれないって。」
「・・・復讐って訳か。」
「そう。君を散々恨みはしたものの、私はこうして成功した。それを他者がどう思うかは分からない。これは、それの延長だと思う。だから、君の世界の人間を苦しめようとしていると思う。それこそ、復讐の為に。」
「・・・・・・確かにな。恨まれて当然だもんな、俺たちは。」
――――――禍根の残らない争いは存在しない。それは重々承知していた筈だった。
なのに、いざそれに直面すると、なかなかその自覚は出来ない。
虐めっ子が過去の虐めを忘れるのと同じ論理なのかもしれない。それが例え正義だったとしても、恨まれる事には変わりはないのだ。
だが、そんなのは今更だ。俺たちは成功したからこそ、間違えたまま生き続けるしかない。
「・・・ていうか、レーヴがそんな事を考えられるようになったって、大人になったよな。昔はさ、俺に会う度殺そうとしてきたのに。」
「いや本気で殺そうとする訳無いじゃない。」
「嘘をつけ。そうだこの前も!!!アトムプランを至近距離でぶっ放す奴のどこが殺す気がねぇんだよ。危うく死にかけたぞあの時!!」
「それぐらいで死なないのは分かった上でやったんだよ。」
「嘘をつけ。俺が核熱の類に弱い体質なの知っててやってただろうが。的確に弱点つきやがって。お前ごり押し出来る火力持ちの癖にやる事は強か過ぎるんだよ。」
「・・・いや、前から思ってたけど、なんかいつの間に仲良くなってんのすっごいムカつくわね。正直さっきまでセンチメンタルな気持ちになってたけど、あんたらが仲良く口喧嘩してるの見る方がよっぽど腹が立つわね。コースケもいい加減にしないと、頭痛持ちにさせるわよ。」
言い争っていたら、アイナが文句を言ってきた。
「分かった分かった、は~い俺は姫様が一筋で大好きです。・・・これでいいか?」
「やったァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!おんぶしておんぶ!!!コースケ、ちゅっちゅっちゅ~♡」
・・・・・・この調子じゃあ何とかなりそうだな、と幸助は思った。
今頃、セトラ達はどうしているだろうか。
異世界の危険さは、幸助が一番よく知っていた。生き延びるだけでも大変で、劣悪で過酷で、最悪だった。あちこちで戦火が怒り、数多の命が無駄に潰えていた。
自分でも、よく生き延びたなと思うほどだ。そういう意味でも、俺達は上手くいきすぎている。
ワイバーンが雲の域を抜けて、降下していく。段々と本土が見えてきた。
「―――――そろそろ着くわね。北海道、札幌か。出来れば、幸助と2人っきりで来たかったわ。」
アイナが悲しそうに嘆いた。異世界で、幸助はよく、アイナに自分達の世界がどんな所であるかを教える事があった。とにかく平和で、島国で、豊かな国だと。
それが今、自分たちの世界の人間の手で、穢されようとしているのが、アイナには許せなかった。マクガフィンと名乗る少女を思い出し、言いようのない怒りを拳に込めた。
その様子を見て、レーヴは決意するように、《極炎斬刃》の柄を握りしめた。
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追記:投稿時間ミスりました。もうこのまま載せときます。すんません。
あと次回からちょっとだけ異世界編みたいな感じになります。ローファンタジーっぽさ無くなるのですみません。




