第26話 何の変哲もない夏休みの一日 その2
「へぇ、ここの会員になったんだな。ていうか、まずはおはようだな。」
幸助は、ランニングマシンの最大上限速度で軽く走っているジャージ姿のレーヴを見つけて、話しかけた。レーヴもそれが幸助だと分かると、笑顔になる。
「ああ、挨拶ね。おはよう、コースケ。やはり君も身体を鍛えるんだな。」
「まぁな。ていうか、お前ってあのフィジカルはまさか努力の結晶だったのか・・・?」
「そうでもないさ。勇者剣に選ばれる前は普通の少女だった。この身体は、かつて人々の祈りで改造されているようなもの。更にそこから鍛え上げた状態が今だ。」
「そこは俺と似たようなもんか。よしどうだ、このマシンの全速力でどれだけ走れるか、耐久勝負でもしてみるか?」
「・・・それ、一時間前から走っている私が不利じゃないか?」
「あ、そんな早く来てたのか。じゃあ勝負はしない。邪魔して悪い。俺も各自筋トレに入るわ。」
―――――そうして、幸助は当たり前のように筋トレを始めた。
身体を鍛えている時は、お互い会話をする必要が無いと分かっている。
―――――が。レーヴは走り込みをやめて、バーベルに重りをつけているコースケに近付いた。重りを付ける幸助を手伝い始める。
「でも単純な重量勝負なら、フェアな戦いになるよね。そっちの筋肉はまだ疲れていない訳だし。」
「・・・えっ?レーヴはウェイトもやるのか?」
「当然よ。パワーこそ正義。」
「マジで??え、身体強化無しの状態で何キロくらい上げるの?」
「体重の7倍・・・まぁ、関節が耐えられる重さくらいかしら。まぁ筋肉に利かす時は、関節にも魔力通して、もっと重い重量でやるけど。」
「は?ベンチで300キロくらい上げるの?ヤッバいな普通に。」
「ま、お互い人間じゃないから出来るって部分もあるでしょう。」
「にしても凄い。だって俺とほぼ扱う重量変わらないもん。じゃあ200キロでまずアップから始めるか。」
「そうね。そうしましょう。」
こうして、2人の合同トレーニングが始まった。
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「あー、あー、あー。何キロ持ち上げてんのよこの脳筋バカ2人は。」
再びポテチをつまみながら、アイナは呟いた。
「幸助は分かるわよ。見ての通りムキムキだし。でもあの子狡くない?何であんな細いのに、幸助と渡り合えているのよ。幾ら元勇者だからって常軌を逸しているわよ。」
「あ、羨ましいの?」セトラがからかう。
「羨ましいわよ当然じゃない。強い女に憧れはあるわよ。私はどうせ守られてばかりですよーだ。こうやってポテチとコーラを飲みながらだらだらしているしかないのよー。」
「・・・あっ!補助してますよ!!私の時何にもして来なかったのに!!」
小春が叫んだ。2人も咄嗟に映像を確認する。
とんでもない重量を上げるレーヴのバーベルを心配そうに持っている。レーヴの頭の位置に幸助が立ち、何かあった時にすぐ対応出来るように持って上げているのだ。
「・・・いや、小春さん?多分貴方の扱っていた重量と危険度が段違いだから、コースケもああしていると思うわよ?」
アイナが幸助の擁護をする。だが小春は首を振って続ける。
「ほら!!バーベルを下ろす時、その、幸助君の股間が――――――」
「――――――え?何ですって?って、きゃああああ!!!」
小春の指摘はごもっともだった。バーベルが下がると共に、幸助も一緒に上下運動をしているのだが、その際、幸助の股間とレーヴの頭部分が擦れそうになっているのだ。ていうか、股間が顔に当たりそうだ。
第三者が見たらヒヤヒヤする光景だった。だが当の本人たちは気にしていない。重りを上げる事に必死で、それどころではないのだ。それに、ギリギリ当たらないように幸助も配慮しているので少し腰を浮かしている。
「何よこれ。NTRじゃない。」アイナが呟く。
「何処がNTRなんだよ。普通のトレーニング風景だろ・・・。」セトラが呆れる。
「・・・ちょっと、私も今からジム行ってきます!」小春が立ち上がった。
「あっ、共犯者として抜け駆けは許しませんわ!!」アイナが小春に抱き着き、転ばせる。
―――――こうして3人は、結局何も行動を起こさなかった。
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細い腕、細い身体に、似合わない重量を平然と上げる。筋トレは地道な努力をしなければ続かない趣味であり、トレーニング。しかし、こうも外見に現れないのは変である。
300キロを10回終わると、所定の位置に戻してレーヴは溜息をついた。息すら上がっていない。そりゃ、周りの人間も釘付けになるだろう。それだけの事を彼女はやっている。
「その身体で俺より力強いってマジでどういう事なの・・・?」
文句の一つでも言いたくなる。確かに彼女は恵まれた境遇にいた。勇者は選ばれただけで強化が約束される。そういうモノなのだ。だから必死に食らいついた部分もあった。
よき好敵手として、勝手に意識して、負けないように頑張った。
だが、そんな天才もしっかりと血の滲むような努力をしていたのである。そりゃ勝てない筈だ、と幸助は思った。それこそ人類最高峰のフィジカルの持ち主である。人外に慣れ果てなければ、横に並べないとなると単純に悔しかった。
「本当はまだ行けるけどね。君もじゃないか?」
「これ以上はやめよう。他のウェイトを独り占めする訳にはいかない。」
「そうね。で、ベンチだけでいいの?」
「スクワットもやるか。」
「オッケー。じゃあやろうか。」
そう言って、レーヴは300キロのバーベルを片手で持ち上げて、背中に乗せた。
もうやべぇよこいつ。頭おかしいよ。持つにしても、何で片手なんだよ・・・。
「・・・もう何かお前を見ていると、自分に自信が持てなくなる・・・。」
「そう?」
涼しい顔でフルスクワットをしていた。こいつ本当に人間なのか・・・?
「・・・俺はもういいわ。昨日の今日だし、これくらいにしとく・・・。」
「え?いやいや、これからでしょ。」
「他にも用事があるんだよ。さっさとシャワー浴びて、学校行かなきゃいけない。」
「・・・・・・学校、か・・・。」
「・・・あれ、俺なんか地雷踏んだ感じか?」
「学校、行く暇無かったな・・・。」
「・・・そっか。8歳から勇者やってんだもんな。勉強はしていたのか?」
「専属の家庭教師みたいな人は居たわ。でも、同級生の友達とかはいないわね。」
バーベルを下ろして、レーヴはペットボトルの水を飲んだ。
「・・・じゃあ、一緒に行ってみるか?」
「えっ?」
「異世界とは色々と違う部分はあるけど、同い年くらいの人はいっぱいいるぞ。今日学校休みだけど、部活やっている人もいるから。もしかしたら、小春もいるかもだし。」
「小春・・・ああ、昨日一緒にいた子ね。」
「そうそう、確かレーヴは今年で・・・17歳だっけか。」
「一応、君のお姉さんよ。」
「変な感じだな。それ言ったら俺は22?23歳くらいになるぞ。」
「・・・そうね、本当に変な感じ。じゃあ、お互い身支度したら行きましょうか。」
2人は、バーベルを片付け始める。
「おう・・・っていうか、服あるのか?創ろうか?」
「え?同じ服着たら駄目かな?」
「戦闘民族過ぎるって。同じ服あげるからそれに着替えてくれ。あ、これタオルもな。じゃあ、後で。」
――――そうして、2人は学校に行く事になった。
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「じゃあ、私今から学校行きますね。」小春が部屋を出ようとする。
「ちょっと待ちなさい。貴方だけなんかかっこいい感じじゃない。今から行って、コースケにずっと練習してました、私真面目でしょう?みたいな顔するんでしょ?」アイナが小春にまとわりつく。
「はい。」小春は真顔で頷いた。
「狡いわよ!!何よそれ!!・・・それに貴方、単独行動するのは危険よ。いつまたワイバーンが襲ってくるとも限らないわ。私達も連れて行きなさい。」
「―――――あ、そうでしたね。セトラさん、アイナさん、じゃあ、私に魔装具の使い方を教えているっていう体で来るのはどうでしょう?実際に教えてもらいたいし。」
「――――いいアイデアじゃない。貴方ひょっとして、とんでもなく頭いいの?」
「いや、昨日も教えてもらったじゃないですか・・・。」
「よし行くわよ!!!あの女勇者の進軍を止めないとまずいわ!!牽制しつつじっくりと観察するのよ!!!」
――――――こうして、この3人も学校に向かう事になったのだった。
ありがとうございます!!




