第22話 最強決戦 その2
幸助が異世界で恐れられた理由。
それは、圧倒的知識により、即席で状況に応じて多種多様な魔装具を創り効果を発揮するその器用さと、幾度の改造を経て強化されたそのしぶとさに加え、殺した相手の身体の一部を取り込む事で能力の一端を使用する事が出来るという万能さにあった。
色んな魔装具の使い手を殺しては吸収し、その魔装具に関する経験と知識を内に取り込み、《偽創具顕現》によりいつでも再現出来るようにして、知識のストックを続けていた。だから、彼の手数は無数に存在する。
だが、彼には回復魔法以外の才能は無く、魔法の使い手を取り込んだ所で何も意味を為さない。元々は回復タイプだった彼に、偶然の結果により師匠が授けた形になった能力を吸収する力《融合》、未完成のまま完成させた彼考案のスキル《偽創具顕現》。
そして、師匠によって変えられた体質を直す為に、かろうじて人間に戻す為に改造された際、副産物として手に入れた身体能力の向上と、しぶとい生存能力。
このどれもが相手にするには非常に厄介過ぎる力だった。
勇者が一点集中の純粋な力なら、彼は合成獣の如き無法な力だ。
幸助は、心臓を貫かれたが、すぐに回復魔法で治癒した。
――――だが、勇者は既に投げた筈の槍を握っており、距離を詰めていた。落下していく最中、何度も幸助を貫く。
「・・・刺し過ぎだ!!!痛ってぇ!!!《偽創具顕現》――――」
「アトムプラン、変更!」
「《蒼炎外套》!!」
蒼炎に燃える外套を羽織った瞬間、音速の速さで距離を取り、上空へ駆けあがる。
身体のバランスを取りつつ、歪に立つ丘の上に着陸した後、外套を消した。一気に距離を突き放したい時に役立つ魔装具だ。
――――このように、幸助の手数は幅が広く、状況に応じた使い方が可能なのだ。
勇者も、全身を魔装具の足部分から噴き出る魔力噴射機構により、空を自在に飛ぶ事が可能で、すぐに奈落の底から上がってくる。
「マジで強ぇな!!手も足も出ねぇ!!」
幸助は、傷を治しながら、笑顔で純粋な感想を口にした。このままでは何も出来ずに死ぬかもしれない。
―――だが、彼の本当に恐ろしい所は、死の間際に発生する発想力にある。
それを勇者も理解していた。だからこそ、少しずつ削り、隙さえあれば火力をいつでも通せるように、様々な勇者剣の形態を取りながら戦っている。
勇者は、仮面になっている部分だけ、魔装具を解除し、表情を露わにした。
やはり、幸助の予想通り、目を閉じていた。
「・・・魔王の力は使わないのか?」瞳を開けて、勇者は言う。
「・・・《魔眼》の事か・・・。いや、まだ自分のものには出来ていないんだ。すまんな、俺も異世界から帰ってきて本当に数日しか経っていない。今すぐに使いこなせと言われるのは流石に無理だ。」
「じゃあ、どうやって魔王を倒した?その力をここで示せ!!」
「だからずっとやってるって・・・。お前が強くなり過ぎてんだって・・・。」
「・・・そ・・・そんな筈は無い!!」
「いや、マジだって。冷静に考えてくれ、3年のブランクがあるんだぞ。そもそも魔王を倒せていた筈のお前が更に鍛えたんだ、こっから俺が勝つ方がおかしい。天地でもひっくり返らない限りは無理だろうよ。」
「――――嘘だ。」
「確かに俺はお前に嘘ばっかりついたな。でもこれは真実だ。間違いなく、お前が最強だ。」
幸助は、笑顔で負けを認めた。
――――だが、それを見て、勇者は不敵に笑った。
「コースケ。貴様は笑う時、いっつも私を騙していたよな・・・?」
「は?いやマジでそんなんじゃないんだけど!!!何言ってんのお前ぇ!!!負けを認めた笑いだって!!!」
「問答無用!!勝つまで勝つ!!!!」
「話聞けって!!ああもう―――――!!!」
勇者が再び全身に魔装具を展開し、赤土で形成された幸助のいる丘に突進する。
すんでの所で跳躍し、避けた後、唱える。
「《偽創具顕現・神滅銃剣》!!」
コースケは、新たな魔装具を創り出した。己の中にある魔装具に対しての膨大な知識を巡り、この場で使用するに一番適した解答をぶつける。
勇者に向かって、その銃剣を向け、唱える。
「――――魔力装填・解放ォッ!!!」
瞬間、勇者に向かって凶弾が放たれた。《神滅銃剣》は、かつて神を屠る為に開発された兵器の一つ。まともに喰らえば、身体の内側から破裂するような衝撃が発生する。幾ら祈りによって強化された肉体といえど、神を屠る為に造られた超兵器だ。少し当たっただけでもただでは済まない。
「―――――ディフェンスプラン、変更。」
勇者剣ガイアは、勇者の身体と一体化し、溶け込んだ。魔装具の表面に勇者剣の一部が表出し、完全な防具としての機能を果たした。そして、その弾を難なく弾いた。が、弾が掠った事により勇者の身体に衝撃が発生したのか、少し隙が出来る。
「何処が勇者剣なんだよ!!何でもアリじゃねーか!!!おらぁっ!!」
《神滅銃剣》の小剣を銃身から切り離し、それを勇者に向かって投げる。パン、と鳴る手拍子の合図と共に、その小剣は周囲を巻き込む大爆発を巻き起こした。
大地が崩落する。地面が割れ、何千年何万年という月日を掛けて培った景観が台無しになっていく。
《神滅銃剣》が手の内から消えると、体勢を整えて空中を蹴りながら、すぐに魔装具を創り出す。
「《偽創具顕現・夢幻鎖!!》」
夢幻鎖も、かつて神を屠る為に使われた兵器の一つだ。無限に長い鎖を対象に投げ込む事で、自動追尾し絡めとり、捕縛する。
少し傷ついた勇者の全身を捉える事に成功する。
―――――だが、こんな事をしても、彼女は止められないと分かっていた。
彼女は力の化身。人智を越えたパワーの持ち主。まだ勇者剣には秘密が隠されている。
――――そう、それは剣でありながらにして、使用者と完全に一体となった時が、一番力を発揮するのだ。
勇者は勇者剣から選定される事で選ばれる。それは単に、勇者としての資質を問いている訳ではなく、勇者剣とその肉体との適合率が完璧であった時に選ばれる仕組みだ。
勇者剣を振り回すだけなら、誰にでも出来る。だが、それと一体となるのは、真に選ばれた存在のみ―――――――――――――
「――――――アポカリプスモード、実行。」
そう勇者が唱えた瞬間、鎖は、難なく破られた。既にディフェンスプランで一体化していた勇者剣が更なる変貌を遂げていた。
勇者の身体を覆うように、侵食した勇者剣。それはまるで獣の様相だった。
幸助も久しぶりに見る、勇者の本気だった。身体の至る所に命を屠る鍵爪が生え、殺意の塊となったそれは、目に追えないスピードで幸助に近づき―――――――――
「――――グッハァ!!!」
身体を爪が貫き、肉を、骨を割いていく、その爪が、紅く煌めいて―――――――――
「・・・アトムプラン、実行。」
超特大の大爆発を、巻き起こした。
大地を枯らし、自然を無に還す非人道な核熱が、辺りを黒く染め上げる。
その爆風で勇者の爪から離れた幸助は、その熱に焦がされ墜ちていきながら、笑っていた。
――――――強過ぎる、と黒焦げになりながら、幸助は思った。
本来、勇者のアポカリプスモードは、自爆必死の最終手段であり制御が効かずに暴走してきた過去があった。余りにも大きすぎる力に呑み込まれ、とても扱える代物では無かった。
だが、今の勇者は別だ。それを完全に、自分のものにしている。獣化とも呼ばれるそれを扱える事はもはや人間を辞めている証左でもあった。
回復は間に合う。だがこれを何発も喰らえば、本当に死ぬ。
肉体を回復させて、立ち上がる。爆熱で焦げた大地を見て、少し引いた。幾ら何でも馬鹿火力過ぎる。もはやグランドキャニオンの雄大な自然は跡形も無い。丘が消え、緑が消えた事で、平坦な地平線のみが見えた。太陽が落ち掛け、夕暮れ時になっている事に初めて気づいた。
「・・・ごほっ・・・。俺もよく生きてるわ・・・。」
しぶとさが彼の取柄だ。たとえ大爆発に巻き込まれ、肉体が弾け飛んでも、驚異的な回復魔法により即座に復帰する。だが、これだけの爆発は完全に回復は不可能。外見は取り繕えても、身体の内部はボロボロだ。
「俺はとっくに負けを認めているんだけど・・・。まだやるのか・・・?」
上空に留まる勇者を見上げて、息を切らしながら幸助が言う。
「・・・ふざけるな。アレを使え。」
「・・・・・・アレって、何だ?」
「とぼけるんじゃない。かつて女帝デスペラードを打ち破った時の、あの力だ―――」
「・・・ああ、アレか。・・・マジで言っているんだな。」
「当たり前だ。」
「・・・ちょっと待って・・・。・・・あ、ごめん出来ないかも。」
「・・・・・・は?」
「・・・・・・あれ?なれないな。あれ?え、このやり方であってたっけ?」
「・・・ふざけているのか?」
「全然ふざけてねぇ!!あの姿になれてたらとっくになってるし、なれてる筈なんだよ!!!」
幸助のマジトーンに、勇者も異変に気付いた。
「どういう事だ?」
「女帝の時とか魔王の時とかって、相手に強い憎しみの感情があった。だからあの姿になれたんだと思う。だけど、お前にはその感情は持てない。寧ろ逆だ。俺はお前に悪い事をした。」
「・・・・・・。だから、なれないと?」
「ていうか、その感情が無くても、俺はお前の事自体は嫌いじゃない。お前の取り巻く環境が嫌いだっただけで、お前自身に憎しみを向けたりなんか出来ない。」
「・・・そうか。じゃあ、憎しみを持てるように好き勝手言わせてもらう。ばーかばーか。短小、ろくでなし、姫様の腰巾着。」
「――――あ?あ、なれそう!!あの姿になれそう!!」
「・・・えぇ・・・・・・。それだけでいいの・・・?」
―――――幸助の身体が光に包まれる。
試しにレーヴが悪口を言ってみた事で、いとも簡単に幸助は変身出来たのだった。
ありがとうございます!!




