第19話 転校生☆
―――――次の日。
幸助は目覚める。抱き着いてくるようにして、裸のアイナ姫が寝ていた。何故裸になっているかという思考を巡らす必要は無い。何故なら、裸になっている意味なんて特に無く、どうせ、ただ脱ぎたかったから脱いだ、という結論だからだ。
アイナ姫のあらゆる事に関して、思考を割く意味がない。疲れる。面倒くさい。
寝ているアイナ姫に布団を掛け、幸助は起き上がる。
今日は金曜日。頑張れば休日がやってくる。
そして更に、休日明けに学校に行けば、夏休みが到来する!!
やりたい事はいっぱいある。釣り、勉強、筋トレ、ちょっとした旅行・・・。
今年は楽しくなりそうだ。
歯磨きを済ませ、食事も済ませ、ぼーっとニュースを見る。また北海道の札幌市で起こる謎の現象についての特集をやっていて、それだけ世間を注目させるトピックなのだと理解する。ただ、身体に何の異常も無いのに意識不明になるというのは、不可解だと思った。
そんな事が出来る奴が、魔王軍の中に居たかな・・・?と思い返すが、誰も該当しない。
「そろそろ行くわよ。」
「あっ、悪い。すぐに準備する。」
――――そうして小春と共に、学校に到着すると、クラスに異変が起きているのに気付いた。
伊藤が逮捕された噂が広まっており、皆その話題を話していた。いなくなった事で、クラスの雰囲気も大分明るくなった気がする。
「ねぇねぇ海老原君、次の移動教室、一緒にいかない?」
「よう海老原!!お前帰宅部だろ?部活入らないか?」
単純に、話しかけられる事が増えた。それが普通に嬉しかった。
―――――今日は素晴らしい日になると、そう思っていた。
――――だが、終礼の時に事件は起こった。
「――――――えー、今日は、転校生を紹介します。本当に急遽決まったみたいなので先生もすごく困惑していますが、入ってきてください。」
「え、転校生!?」
「聞いてないぞ!?」
「そういや、伊藤君の席空いてたよね・・・。」
ざわつくクラスメイト達。
だがそれ以上に、幸助の心はざわついていた。
この急展開。こんな事する奴が身近に1人いる。もう、嫌な予感しかなかった。
「それじゃあ、入ってきて。」
武田先生に呼ばれて入ってきたのは、予想通りの人物だった。
「――――ハロー♡私、アイナと申しマース!宜しく!!」
―――――よく知っているそいつは、謎の外国人キャラを引っ提げてやってきたのだった。
・・・・・・制服姿の彼女は、確かに誰よりも可愛かった。多分、外面だけは最高級だから、騙される男も多い筈だ。
日本にはそうそういない、金髪の蒼い瞳という希少価値の詰め込みセットなのだから、女子達もあまりの次元の違いに嫉妬すら浮かばないだろう。それだけ、容姿は逸脱している。
まぁ、中身は非常に残念なんだが・・・と幸助は思った。
「あっ♡いたいたコースケ!先生、彼の隣に行く事は可能でしょうか?」
「それは出来ないわね。夏休み明けに席替えがあるから、その時に神様にでも祈れば?」
「ちぇ~・・・。ま、いいわ。どんな手を使ってでもやってみせます。」
そうして、アイナは居なくなった伊藤の席に座った。
―――――また面倒くさい事になってしまった。
ていうか何で午後に来てるんだ、あいつ。色々おかしくない?
どうやって戸籍取得したの?どうやって転校してきたの?マジで何したのあいつ。
―――――こうして、またよからぬ噂が立った。
あの転校生と海老原は知り合いで、恋仲に発展している、と。
もう目立たないようにする方が、流石に無理があった。
「なぁなぁ海老原、あの子知り合いか!?」
「おいどういう関係なんだよ!!可愛すぎるだろ!!」
終礼後、無数の男子に質問責めをされた。ほら、ロクなこっちゃない。
「――――どういう訳か説明してくれ。」
―――――弓道場によっていく間、俺はアイナに尋ねた。何故学校に転校してきたのか。
どういう手段を使ったのか。その他諸々、気になる事が多過ぎた。
「あらコースケ、私が一国の主の娘だというのを忘れてない?」
「国というか、世界が違うだろそもそも。」
「お金なんてのは無限に用意出来るわ。金銀財宝はこちらの世界でも高値で取引されているのだから、換金すれば余裕よ。お金さえあれば、戸籍だって作れるし、家だって買える。」
「おい今最後にとんでもない事言わなかったか??家・・・??」
「今日の朝は忙しかったわ。役所での手続きに、直接大家の元へ軍資金を持って取引しにいったもの。ほら、コースケの隣の家、アパートメントになっているじゃない?」
「・・・嫌な予感がするが、まさか・・・。」
「大家と取引して、現金で買ったわ。契約書もちゃんと作ったし抜かりはないわよ。住民の方には昨日の内に他のアパートメントを手配して裏金を渡しておいたの。明日にでも手放してくれるそうよ。」
「は・・・?行動が早すぎないか・・・?」
「いやだって、あまりコースケの家に厄介になるのも良くないでしょう?小春もセトラも居座るのは良くないわ。だから2人にはアパートにも《防壁陣》を張って暮らしてもらうのよ。すぐに異変があったらお互い駆け付けられるでしょう?」
「・・・いやアイナもアパート行けよ。」
「どおじでぞんなごというのぉぉ!!!!!!」
さっきまで冷静に喋っていたのに、台無しにするかの如く濁音混じりで泣き出した。
情緒不安定が過ぎる。
「・・・ていうか、アイナ俺これから用事あるんだけど・・・。」
「え?何?まさか他の女と――――――」
「・・・小春に最低限の、魔力の扱い方を教えなくちゃいけないんだ。」
「―――――ああ、そういう事。確かに、これから先襲われる危険性を考えると、妥当な判断ね。魔装具の使い方を教えるといった所かしら?」
「よく分かるな。」
「考えている事はお見通しよ。だってコースケの考える事って、私が一番最初に思いつく事ばかりなんだもの。」
「それ、馬鹿にしているよなぁ・・・。」
「してないわよ。それだけ考えている事が一緒だって事。ちなみに私が同じ立場でも同じ事をするわ。コースケと考えが行違ったのって、魔王討伐の日くらいだもんね。」
「もうその話やめてくれ。悪かったから・・・。」
そんな会話をしつつ、弓道場に入ると、小春と、もう一人の姿があった。
「・・・あれ、セトラ。どうしてここに。」幸助は訊く。
「あー、大丈夫、コースケ。小春の鍛錬は私がやるよ。」
「セトラが?・・・あれ、お前ら仲良かったっけ・・・?」
「私が居た方が、実戦形式で訓練出来るだろ?」
そう言って、セトラが自分の髪を引き抜き、息を吹きかける。
――――すると、髪が膨張し、竜の形を取っていく。
最上位種の龍は、身体の一部に魔力を吹き込む事だけで、遠隔操作可能な龍の眷属である竜・ワイバーンを生み出す事が出来る。ゼノンと同じような事がセトラにも可能だ。
だから、小春が竜に対して恐怖心を無くすという特訓をするには、確かに適任のように思えた。
だが、弓道場の建物が幾ら吹き抜けになっているとは言え、出てきたワイバーンが大き過ぎた。頭の部分が天井からはみ出ている。これは余りにも、他の状況を考えて無さすぎる。
これやるなら学校の敷地内である弓道場よりか、山奥でやっていた方が絶対に安全だ。
ワイバーンが動きづらそうにしている。何この本末転倒感。
「――――ヤぁぁぁぁぁ!!魔力、装填―――――!!」
矢の無い弓型の魔装具の弦をひたすらに動かしているが、小春からは何も出ない。無力なワイバーンに向けて弓の素振りをしているだけだった。
え、何この状況。すっげぇシュール・・・。
「・・・違うんだ、小春。もっと魔装具と身体が連結したような感じで、一体にならないといけない。魔力を送り込むには―――――――」
セトラが魔装具を持って見本を示し、説明する。手取り足取りといった様子だった。
ワイバーン召喚した意味ねぇ・・・。
「・・・セトラ、ワイバーンは学校で出すな。バレたらマズイ。」
「・・・ちぇ~、分かったよ。」
そう言って、セトラが指をパチンと鳴らすと、ワイバーンは再び髪に戻り、セトラの頭皮に帰っていった。何度見ても、未だにこの原理がよく分からない。
「セトラ。俺が教えなくても良さそうか?」幸助は訊く。
「いやいや、馬鹿言いなさんなコースケ。お前クソ教え方下手ですやん。」
「人聞き悪すぎだろ。俺が何したっていうんだよ。」
「参考になんないのよ。あの姫様のせいで大分処理がぐっちゃぐちゃでしょ?」
「でも基本くらいは教えられるしなぁ。」
「その基本が滅茶苦茶じゃない。ここは私に任せて、幸助は先に早く帰ってなさい。久しぶりに、完全に姫様と2人きりの状況なら、積もる話もあるでしょう?」
「・・・じゃあ、そうする。その前にジム行くけど」
「いいから、今日は絶対まっすぐ帰って。」
「分かった分かった。そうするそうする。」
幸助は不可解に思いながらも、言う事を聞くようにした。
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