第17話 稀代の天才、アイナ姫参上!
その夜。幸助母、幸助、小春、セトラが卓を囲っていた時の事。
―――――幸助は、《防壁陣》を誰かが通過した感覚に寒気がした。この感覚は、明らかに覚えがある。
・・・・・・吐き気がした。そろそろ来るとは思っていたが、余りにも早すぎる。セトラが来た次の日にやってくるなんて。あぁもう、信じられない・・・・・・。
そいつは、玄関でスタンバっていた。迎えに来いという合図だろう。
身体が勝手に動いていた。幸助は異世界で長年、彼女の言う事は何でも聞いた。じゃないと自分の立場が危うかったからだ。幸か不幸か、彼女の助力もあって今の俺がいると言っても過言では無いが、その功績を遥かに上回る苦痛体験が頭の中で蘇り、気分が悪くなった。
「あら、急にどうしたの、幸助。」幸助母が味噌汁を啜りながら言った。
「来客っぽい。」
「え、インターホン鳴ってないわよ?」
「俺が出てくる。・・・・・・おえっ・・・・。」
足取りが重くなる。勝手に異世界を離れたのだから、何を言われるか分かったもんじゃない。実際、彼女が一番、元の世界に帰る事に反対していたからだ。裏切ったのには変わりない。
「大丈夫かー?」セトラが心配そうに言う。
「・・・・・・大丈夫じゃないかも。はぁ~・・・。憂鬱だぁ・・・・・・。」
幸助も会いたくない訳ではない。彼女とは深い仲である。王国内の人間からもその関係はほぼ認知されていた。一応、あっちの親公認の仲でもある。だが、それとこれとは話が別だ。
・・・・・・ああああああああ!もういいや!しーらね!!!
幸助は、観念した様子で、やけくそ気味に玄関を開けた。
―――――――そこには、蒼い瞳で金髪の麗しい女性が立っていた。
幸助が最後に見た彼女と全く違っていた。あんなに無かった胸が見違える程大きくなり、背丈も伸びていた。腰まで伸びているロングヘア―や人形のような可愛らしい顔立ちはそのままに、色んな部分が大人に近付いていた。純白なドレスに似た、白いフリフリのついた私服が少女らしさも際立たせていた。
幸助は思った。え何この可愛い人。ドストライクなんだけど。
幸助が掛ける言葉を迷っていると、
「・・・やっと会えたーーーーーーー!!!!!」
その女性はすぐに抱き着いてきた。
「コースケ!?コースケよね!?ねぇ、返事してよコースケ!?」
「・・・お久しゅう、ございます・・・・・・・。」
「そんな硬い言葉はいいのよ!!はい!いつもの言葉は!?」
「・・・はい、アイナ姫、大好きでございます・・・。」
「あーもう、その言葉が聞きたかったのよー!!私も、大好きー!!!!!!姫はいらないけど!!!!呼び捨てして!!!!よーびーすーてー!!!!!!!」
幸助はそれどころでは無かった!何故なら、完全にパニックになっていたからである。
アイナ姫とは長年の付き合いとなっていた。誘拐事件をきっかけにお抱えの騎士兼執事として雇われてしまい、それから王国と周辺国との軋轢や、魔王軍との戦いが生じた際にアイナ姫を守らなければいけなかった。そんな少女を、歳を取らない転生者として長年見てきた幸助にしてみれば、守るべき対象であり、大事な存在であった。
なのに、今のアイナ姫は幸助の趣向に沿い過ぎていた。
豊満に育ったバスト、整い過ぎた顔立ち、フリフリの私服。
・・・・・・やばい。本格的に、女性として見てしまう・・・・・・・。
かつて執事だった者としての葛藤がそこにはあった。何せ、少女時代の彼女の裸はそれこそ腐る程見てきた。何故なら、彼女は自分でお風呂に入れなかったからである。もし、「そろそろ自分で入って下さいよ・・・。」とか言うと、すっごい駄々を捏ねて泣き叫び、収集がつかなかったのだ。
これだけではない。思い返せば、アイナ姫のヤバい所は無限にある。
そんな駄目な所をいっぱい見てきた筈なのに、完全に動揺してしまったのだ。
「ねぇコースケ、私いっぱい頑張ったんだよ!!褒めて褒めてぇ!!!」
「・・・・・・よしよし。」
頭をなでると、一層抱き着く力が強くなった。
「やったぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーおほぉっ♡あっいけない昇天しそうになっちゃった。」
「今凄い声出てましたね・・・。」
「敬語はやめて。あと、今日一日はずーっと抱き着いていますので。そういう事で。」
「分かった分かった・・・。」
幸助はアイナ姫がくっついたまま、玄関の鍵を閉める。
そして、何事も無かったかのように卓に戻り、腰の上にアイナ姫を座らせて食事を始めた。
他の3人は、幸助が普通に食事を再開するあまりにも自然な動きと、可愛らしい少女が抱き着いて座る不自然さに茫然とした。
「―――――すまん、小春。そこの醤油取ってくれないか。」
「・・・ああ、分かった・・・・・・じゃないわよ!?何が起きたのよ!!!!」
「・・・何がって・・・ああ、紹介する。こちらの女性はアイナ。知り合いだ。」
「知り合いの距離感じゃないわよぉ・・・。」
「私、アンナって言います!ま、そんな事より、ダーリン♪可愛いなぁ、ちゅっちゅっちゅっちゅっ♡」
そう言うと、アイナは幸助の頬っぺたに連続で接吻をした。
幸助は、狂人の域にまで達している理性で、何とか無表情を貫く。
「やっぱり知り合いの距離感じゃないわよ!!」
茶碗を置いて、小春が叫んだ。
「ねぇアイナ。その辺にしてなさい。そういうのは誰もいない部屋でやって頂戴。」
セトラが箸を置き、語気を荒げて言う。
「コースケに甘えるのは百歩譲って許すわ。でも公然で連続キスは宣戦布告みたいなものよ。駄目じゃないそういうの。一国のお姫様だとしても許せないわ。」
「――――あら、セトラもバブりたいのね?でも残念、コースケは私のものよ。おほほほほほほおほぉっ♡」
小悪魔のような笑みを浮かべて、アイナは高笑いをする。腰の上に抱き着いたまま離れようとしない。
「誰のものでもないっつーの!!」
「いーや、私のものったらわーたーしーのーもーのーっ!!!何年待ったと思っているのよ、そもそも人外な貴方とは時間の流れ方も違うのよ!!私は刹那に生きているの!!」
「なーにが刹那だ我儘姫がぁ!!いいからそこを離れなさい!!!!」
「やーだーもーん。あのね、アイナは幸助と一心同体なの・・・。離れたくても離れられないの。冷めた心を溶かしてくれるの。だからぁ、尚更駄目でーす♡」
「・・・このアマッ・・・!!」
セトラも最高に苛ついていた。そんな言い合いをする姿を見て、幸助母はニコニコしていた。
「あー、息子もついにモテ期が来たのね・・・。」
「・・・モテに入るんですかねこれ・・・。」冷静に小春は突っ込んだ。
2人が激しい言い争いになる中、幸助はと言うと、普通に食事をしていた。
アイナやセトラの言い争いを一切気にする事なく、もくもくと食べていく。
「・・・ご馳走様。あっ、食後にプロテイン取らなきゃ・・・。」
幸助はアイナをぶら下げたまま立ち上がり、キッチンにあるシェイカーを取り出した。シェイカーに水を入れて、袋を開けて粉を投入する。そのままシャカシャカと何後も無かったかのようにリビングのソファに座ると、テレビをつけてプロテインを飲み始めた。
まるでペースを崩さない。修行を終えた僧侶のように。全く動じない。
「―――――あ、マルチビタミン取るの忘れてた・・・まぁ寝る前に飲めばいっか・・・・。」
独り言を呟いて、幸助はニュースを眺め始めた。
「・・・何で何も言わないのよコースケは!!!」
遂に痺れを切らした2人の攻撃の矛先が、コースケに向かった。
何故何も反応しないのか。答えは容易だった。
「いや、だっていっつも、2人とも俺の言う事全然聞いてくれないじゃん・・・。」
「聞くわよ!!だからこの女をはがしなさい!!」セトラが声を荒げる。
「あっ!今この女とか言いやがりましたわね!!私にはアイナという立派な名前があるんですー!!だまらっしゃい押しかけ女ァ!!!!」
「本性出てるぞ姫様よォ!!!その狂った脳みそでよく考えろ!!てめーは隣国のクソ王子とお似合いだ馬鹿野郎!!!!」
「あーーーーー!!!言ってはいけない事言いました!!!ねぇコースケ、セトラが虐めるのォ!!!助けてよぉーーーーー!!!!」
「・・・・・・はいはい。どーうどーう。」幸助がアイナの頭を撫でる。
「やったァ!!うにゃァああ!!ばぶばぶ!コースケ、ばぶばぶぅ!!」撫でられて嬉しいのか、アイナが全力で赤ちゃんになった。
・・・・・・うっわ、やっべぇこの人・・・・・。
何でこんなに可愛いのに、頭おかしいのよ・・・。
小春はアイナという人間の、狂気の一端を感じた。
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