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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
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第101話 壊れゆく全てに願いを込めて


 私は、アカシクの呪いと呼ばれる醜い紋章を背中に宿す事を条件に、未来の世界アルファへと飛ばされる事になった。

 《艶素体計画プランニング》によって作られた赤子と共に。


 何故、私が選ばれたのか。

 それは簡単だった。力があり、過去の巫女を監視・観測が可能であり、子供を育てた経験もある。母親として子供を育て上げ、やり過ごすには最適の人材とされた。

 ネグレクトや虐待といった事実は当然揉み消した上で選ばれた。


 最初は、赤子を見るのさえ嫌だった。ただ、姉さんにちょっとした嫌がらせが出来ればいいなと、それくらいに考えていた。

 屑でしょう?でも、私は元からそんな人間よ。

 

 私は、世界アルファ基準の常識では、世間一般でシングルマザーと呼ばれるもの。

 だけど、金に困る事は無かった。私には烙印があった。魔力がある限り、物質を生成する事が可能なのだ。

 金銀財宝を生み出し、戸籍を作り、住居を構えるのは訳なかった。


 問題は社会性にあった。

 これから、私は、普通の人間として生活しなければいけなかった。

 私の経歴は普通とはかけ離れたものだ。

 そもそも普通とは何かが分からない。

 仕事した事は無い。そもそも、アカシクに仕事なんて概念は無かったし、やりたい事・アカシク文明の存続にしか基本的な意味というものを見出せない恵まれた環境だった。

 嫌な顔をして、嫌な思いをして、お金を貰って社会が存続しているというのは、ある意味原始的であり、抵抗があった。


 だが、私は幸い、そこそこ頭が良かった。そうあるべくして作られていたからかもしれない。一年間は流暢に喋れるように、言語を覚える生活だった。

 それと、子供の夜泣きや栄養を与える日々を送った。その頃に税金関係や確定申告なるものの方法を覚えた。あれは覚えてなかったら今頃危なかった。


 よく泣き、よく笑い、よく食べる子だった。


 私は、役所には佐藤栞の姓で登録しており、それで佐藤幸助という名前で彼を登録した。幸せを助けるって、素敵な名前だと思ったのだ。だが、彼はアカシクの《艶素体計画プランニング》によって生まれた子。

 特別な子供だからという理由で、心の中では、《イロアス・アベル》と彼に名付けた。IAで一緒だからいいかなって思ってたんだけど。途中でみっともなく感じてきてやめた。なんか、引きずってるみたいじゃない?


 そうして、あっという間に4年の月日が過ぎた。義務感でやってきた疲れしか感じない育児が、何故かすごく楽しかった。


 その頃には、私は経歴を作り、通信高校を卒業し、簿記の資格を取って司法書士事務所の経理として入社した。地方で経理をやるとなると、実務経験もさることながら、給料面で条件を満たしているところがそこしか無かった。未経験でも可能なのが、そこだけだったのだ。


 そこで、私は海老原蓮と出会う。

 彼は、その司法書士事務所の御曹司であり、資格を取ったばかりの新米だった。


 「佐藤さんって、おいくつなんですか?」

 「21です。」

 「お子さんがいるって聞いたんですけど」

 「昔、ヤンチャしてたんですよね。」


 通信高校卒という肩書き、まぁ当然年齢は偽ってこそいるものの、子供がいるという経歴を使って、私は「ちょっと昔は悪かったけど今は更生して誰の父親か分からない子供を育てているシングルマザー」みたいなキャラ設定を作っていた。

 背中に紋章があるから、もし誰かに裸を見られても違和感が無いように、と。

 私も女なのだ。性欲はある。それくらいしてもいいだろう。幸いな事に、こういった生まれからか、私は年齢の進みが非常に緩やかなのだ。人の倍生きる、エルフか何かだと思ってもらえれば想像しやすいだろう。20台の期間が長いのだ。羨ましい?羨ましいだろ愚民共。


 「でも、そんな感じしないですよね。ピアス穴とか無いし。」

 「面接でも言ったと思うんですけど、刺青はありますよ?」

 「いや〜、意外ですよね〜。人生、色々ありますよね〜。」


 それには頷くしか無かった。


 


 海老原蓮からの誘いは、少しずつ増えていった。シングルマザーで、すぐに靡く軽い女に見えたのかもしれない。

 恋愛と呼ぶには、幼稚で拙いものだったかもしれない。お世辞にも親密な関係性が構築されているとは言えなかった。なにせ、私はあまり好意を抱いていなかったのだ。

 彼は、客から先生と呼ばれていた。

 本人は先生と呼ばれるのは嫌がっていたが、口元の端が吊り上がる様を見ると明らかに高揚しているのが見て取れた。ようは、すぐ調子に乗る奴だった。

 だが、女慣れはあまりしていないようで、会話も当たり障りの無いものばかりだった。

 時代的に考えても、草食系の走りだろう。引っ掛けてやっても良かったが、私には家に大事な家族がいた。


 仕事に行き、家に帰り、家事をして子供を育てる。頑丈な身体の筈なのだが、これが結構疲れるのだ。日々を生きるのに精一杯。

 楽してお金を手に入れる方法はあった。


 だが、もう間違えたくは無かった。


 普通の人間として振る舞い、普通の人間として成長して欲しかった。

 私は、過去に一度、失敗しているから。何故、何が間違っていたのかは未だに分からなかったけど。母親失格、と唾棄されるのだけは、やめておこうと思った。一般的に言われる虐待やネグレクトといった、児童相談所にお問合せが来るような事はせずに、この子には伸び伸びと生きてもらおう。私が受けられなかった普通を経験してやりたい。

 そうやって、当たり前を当たり前にやる事が1番難しい。神経を使う。


 「佐藤さん、休日、予定ありますか?」

 「子供をあやさなくちゃいけなくて、すみません。」

 「ああぁ〜・・・そうですよね〜。」

 

 だが、話していく度に、海老原蓮の事は、悪い人間では無いなと思うようになった。

 彼は誠実な人間だった。何となくだが、アベルに似ていた部分があったのかもしれない。未練がましいが、そう感じるのは仕方ないだろう。


 だが、結婚したら、海老原姓になるのは避けたかった。

 海老原て。いや、海老って。

 そんな美味しそうな苗字、なんか嫌じゃん。


 「でも、昼食ぐらいだったら、付き合いますよ?」


 無意識に、そんな言葉が漏れ出ていた。蓮は、嬉しそうに笑った。

 その笑顔が、やっぱりアベルに似ていて、少し悲しくなったのを覚えている。




 ーーーそう、お察しの通り、私は軽い人間でした。情けないよね。ごめんね、幸助。私が死んだら、この時の記憶が全部貴方に筒抜けになると思うと、夜しか眠れない。

 貴方の父親と私の馴れ初めは、実にくだらないごく一般的なものでした。普通に社内恋愛でした。ちょっと気を許したらあれよあれよと、ズルズルズルズル、ちょっと身体の相性を確かめたら悪く無くて、あっという間にゴールインでした。

 本当にごめんね。お母さん、結構ノリで結婚しちゃったの。

 そこで、私は嘘をつく事にしたの。

 

 そりゃあ、アカシクがどうだのって、言える訳無いじゃない。

 蓮もそれは同意してくれたわ。

 彼には最期まで何の真実も告げなかった。私はそれが一番の心残り。

 結局、誰も信用してなかったのね。

 でも、確かにそこには愛があった。それだけは本当よ。だって、彼と一緒にいると、姉さんへの気持ちは収まったから。




 でも、彼は唐突に死んだ。




 私は、目の前が真っ暗になったような衝撃を受けた。

 

 貴方も知ってると思うけど、交通事故よ。しかも轢き逃げ。

 ここはヒタ。都会のように、監視カメラがそこら中にある訳でも無い。夜なんて人通りが無くなる位には閑散としている。

 会社の付き合いで飲みに行っていた時の事よ。病院から電話が掛かってきたのを、今でも覚えている。

 結局、犯人は捕まらなかった。


 その頃くらいかな。

 アカシクの呪いが、私を蝕み始めたのは。




 「ただいまー!母さん、帰ったよ〜!」

 幸助の声に、私は洗い物をしていた手を拭いて、応える。

 無邪気に幸助が抱きついてきたので、抱擁を交わす。

 「おかえり。どうだった?友達出来た!」

 「うん!」


 世界アルファの人間は、弱い。

 それは、魔力を扱う事の出来ない旧時代の人間が殆どだからだ。魔力による身体強化なんて出来ないし、簡単に銃弾に貫かれて死んでしまうような人体である。ただの有機物の塊。それが、この世界の人間。

 でも、この子は違う。腕っ節は既に大人よりもあるし、どんなに殴られたり蹴られたりしても、たとえ尖った鉛筆で刺されても傷一つつかないだろう。

 それで孤立してしまうんじゃないかと、心配になった。尖った個性は、人気者になるか虐められるかの2択だ。

 他人と関わらないまま成長すると、ろくな事にならないと聞いていたので、そうなるのは避けたかった。


 あの人の忘れ形見でもあるし。


 あれ?

 忘れ形見だったっけ?


 まぁいいや。

 

 その頃、私もちょうど忙しくなっていた。蓮が死んだ事で、司法書士が蓮の父親のみとなってしまい、更にベテラン経理が定年を迎えた事で、業務の引き継ぎとかで人手不足になっていたのだ。

 それで、何の学もない私が急遽、司法書士の資格を取る羽目になった。

 とてもじゃない。難しい資格だ。

 家事をやりながら、仕事をやりながらで取れる資格ではない。普通は。

 睡眠時間を極度に削り、魔力で身体を無理矢理稼働させて、睡眠時間の肩代わりをしていた。半年ぐらい一睡もしないような地獄の日々だった。あー、思い出した。キッツかった。


 ・・・あれ、何処まで話したっけ?


 ・・・ヤバいなぁ、私。

 こんなにも嘘をついてたのか。


 いや、こっちの話。

 ただ言える事は、こうして真実を伝えているつもりでも、私の話は完全に信用出来ないって事。

 我ながら、狂った能力だと思うよ。なるべく真実を話そうとしてるから、話が飛び飛びになるかもしれないけど、許して頂戴。


 で、幸助が抱きついてきた時の話だったよね?そうか、そうだったよね。

 あの時ね、私。


 「この子をいつか殺さなきゃいけない。」


 そう思ったの。

 

 慌てて、幸助の身体を自分から引き剥がして、身体が硬直した。

 頭にね、声が聞こえてくるようになって来たの。

 「アカシクの未来は!?」「早く過去の巫女を復活させろ!!」「のうのうと安寧の日々を送れると思うなよ。」「お前の命は我らのものだ。はやく指名を全うしろ。」

 その声は、次第に大きくなっていった。

 

 最初は精神病の類を疑った。

 蓮が死んで、仕事の方も家事も全力でこなして、その隙に勉強していたせいか、疲れているのだろうと。

 幸い受験日も近くて、模試も良い結果だったから、試験が終われば元に戻ると思った。ちゃんと寝るような生活に戻れば大丈夫だって。

 


 でも、ダメだった。



 ダメだった。



 声が、強くなって、聞こえてくるの。


 音ってね、結構心を蝕むものよ。

 マンションでの騒音の被害って結構ヤバいって言うじゃない。あんなのと比にならない位の声が聞こえてくるの。


 聞こえてくる声は殺意を唆すものばかりだった。

 幸助に抱きついている最中、声が聞こえて、勝手に腕が動いている時さえあった。その手は幸助の首元へと動いていた。身体が支配されているような感覚を味わった。

 あの日から、幸助に抱きつくのはやめた。殺してしまうかもしれないから。


 

 恐ろしい事に気付いてしまったの。


 私は、私自身さえ、騙せてしまう。


 私の能力は、過去の事象に偽りのじじつを挿し込む事。人でも有機物でも関係無い。それは、自分自身にさえ適用出来る。


 それは、私の過去・記憶は改竄が可能だという事。


 私は、本当に蓮が交通事故で死んだって、証明が出来ない。

 もしかしたら、私が殺したのでは?

 でも、殺す理由が無い。

 

 この声に従ったのでは?


 アカシクに必要の無い伴侶は消せと。そう唆されてしまったのでは?

 そして、私はそれに耐えられなくなり、能力で記憶を消した。

 私の万能に近い能力では、皮肉にも辻褄を合わせる事が出来てしまう。

 

 そして、私ならそうするだろうという、妙な自信だけはあった。


 私は自分を信用出来なくなった。

 私の心が壊れ始めたのはその頃から。・・・いや、ずっと前からなのかもしれない。

 私は、私自身を、正しく証明する術を持たないからだ。


 でも、貴方をずっと愛してきた。

 それこそ、本当の子供以上には、愛情を尽くして来た。それだけは、本当だと誓わせて頂戴な。


 それさえも嘘だったら、貴方だけじゃなく私が耐えられない。

 

 それだけ、貴方の存在は、私にとって救いだったのよ。幸助ーーー。



 【残響する言霊は傷物だ】



 《樂慇亜噺つくりばなし》と称された領域にて、海老原栞は噺を始める。

 張り扇を立てて、机に叩きつけ、憑依したようにかっ開いた眼は、虚空を覗いている。


 幸助は暫く硬直していた。

 訳の分からない記憶が脳内に流れ込んだのだ。濁流が脳を掻き回し、穢していくような感覚だけが残る。

 だが、すぐに我へと還る。

 AAは、硬直したまま、動かなくなっていた。


 「《流石は最高傑作、即死の箱庭を無意識で破るとは、これ如何に。》」カンカンッ。

 

 今まで感じた事のない、異質な《箱庭》である。娯楽と狂気が入り混じり、笑い声一つ上がらない言葉には何の意思も感じられない。

 精神と肉体を分離させられるような感覚。

 これが、過去の巫女になり損なった母さんの力。どんな精神をしていれば、こんな《箱庭》になるのか理解が及ばない。

 観るもの、聞くものを魅了する娯楽を曲解した解釈で繰り広げられている。瞬時に五感へ作用し支配する歪なその力は、まさに黒幕に相応しい無法ぶりである。

 過去の巫女、小春の《箱庭》がこれを越えるという話が本当ならば、一体どんな《箱庭》なのだろうか。想像したくもない。


 「《嗚呼、闇より出づるは脱兎の如し》」

 「《しかして、慈しむ者あり》」

 「《まことに愚かである、諦めさえ飲み込めず、何も選べず、死あるのみ》」

 「《運命というものは不思議なものでございます。希望は死神を連れて来た。因果は巡るものです。》」


 劇場の中心に、大鎌を肩に携える死神が現れる。闇の天井から糸が垂らされており、機械的に無機質な動きで幸助に襲い掛かる。


 「《村正》、久しぶり。」

 

 幸助は愛刀を生み出し、振りかぶられた鎌を受け止める。吸血鬼の眼が赫く光る。

 両者譲らぬ剣戟を重ね、火花を散らす。死神に生じた一瞬の隙を突き村正は血に塗れた。無情にも死神の首を刎ねる。


 「・・・足りねぇなぁ!!!」


 吸血鬼は、頬についた血を啜り、叫び散らした。乾いている。渇いている。

 生きるには、正邪を喰らわねば。


 「《破滅の音は止まぬ、病まぬ、演んでくれ。》」

 「《重ねた嘘は龍へと変わりゆく》」

 「《喜劇の龍は爆炎を鳴らす》」

 「《己が言えるのは感謝のみ。》」

 「《かつての宿敵へ、最大の賛美を贈ろうではないか。》」

 「《かねてよりの幻影が暴を埋め尽くす》」

 「《真打、龍王セトラの登場でございます。》」


 舞台袖から、セトラの分身が現れる。次々と増殖するように、しつこい数の暴力を見せていた。

 その数、実に100を越える。


 勘弁してくれ、と幸助は思った。だが、同時に、待っていましたと心の中で呟いた。

 想像うそ現実まことに変わる。

 そんな夢のような劇場だから、幸助は久し振りに力を行使するのが愉しみで仕方がない。相手は龍王セトラ。相手にとって不足は無い。ここは存分に力を解放出来る場である。高みに登った吸血鬼にとっては、ここは安住の地にも思えた。

 血が欲しい。血が見たい。命のやり取りがしたい。

 口元が歪み、裂ける程に嘲笑を浮かべる。


 吸血鬼の背後から編み込まれた筋状の肉が畝る触手が夥しく現れる。その全てが感覚器であり、凶器であり、吸血鬼である。


 「《鬼血術きけつじゅつ》ーーーーー」

 「《爆撃エリミネイト》ーーーー」


 だだっ広い劇場に爆炎が舞い上がる。戦闘狂の笑い声が爆発にかき消されない程に響き渡る。

 噺は続く。胡乱なる想造手かたりては、調子付いたのか悲しみに暮れているのか、まさに狂乱の一言に尽きる問い掛けを劇場に投げ掛ける。


 「《私は楽しければいい》」

 「《私は楽しければ良かった》」

 「《私の望んでいたモノは、欲を見せた途端零れ落ちていく雨のようですから》」

 「《朝焼けが綺麗ならば嬉しい》」

 「《夕焼けが哀しければ吐きそうで》」

 「《それが人のサガとするならば》」

 「《それに耐えられなかった私は、何の為に》」

 「《何の為に》」

 「《何の為に》」

 「《生まれてきたのでしょう》」


 「ーーーーー《鬼血術40・雷冥イカヅチ》」

 吸血鬼は、自身に纏う生成した夥しい数の触手を一斉に弾き、血の弾丸を龍王の群れに浴びせていく。まるで雷撃の如き血飛沫に、《貫通》効果を与えたそれは、龍王の群れを一網打尽にしていく。

 「《鬼血術41・血顕ブラッドクリエイト》」

 その最中、血飛沫は、魔装具となり、再び空中で装填され、射出し、龍王の硬い外皮を貫いていく。その血は全てに変わる凶器となり、自動で敵を捕捉し、貫き、追尾する。


 死は祝福であると、啓示のような幻想的光景であった。赫く光る眼を見据えたままに、広い劇場の中、大量の血飛沫をあげながら、かつての龍王を次々に殺し尽くす様は精細な油画のようである。色を重ねても、眼前で行われる神秘の表現は成し得ない。全てが朱である。深く、暗い深淵である。

 

 「俺は、俺はァ!!この日の為に、生まれてきた!!!」


 噺家の発言に追随するかのような叫びを上げる。誰よりも優しく正義感に溢れていた我が息子が、誰よりも残忍で凄惨な戦争を楽しんでいる。嗤っている。大事にしなければならないモノを失っている。力に溺れている。


 《爆撃エリミネイト》の追撃はそれでも止まず、爆炎の中、吸血鬼は何度も身体を爆発された。夥しい触手、腕、胴体、脚、眼、頭の全てが屠られ、何度も繰り返し再生と消滅を繰り返し、血飛沫を上げ、その血飛沫による《鬼血術》の応酬が繰り広げられている。

 まさに無間地獄である。死すら許されない怪物が永遠の苦しみを味わっているかのようである。だが、嗤うしかない。吸血鬼は、それでも嗤う。自分が負けるという、ビジョンが全く浮かばない。

 何故なら、自分は最後まで生き残るという確信があるからである。どんなに追い込まれても、未来への希望は捨ててない。

 そもそも、追い込まれてさえもいない。

 吸血鬼の前では、血は全て等価となる。


 「俺は身をもって知ってんだ。《爆撃エリミネイト》の使い方。これは師匠と同じ真似事だから本人には内緒にしてくれよ、母さん。」


 幸助は、あの日と同じように、指を鳴らして詠唱を重ねた。


 「《鬼血術50・偽爆撃フェイクライシス》」


 飛び散った大量の血全てを、起爆させていく。

 それはまさに、打ち上がった華火のようであった。

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