完全犯罪についての考察
※私は本作品を推理小説のネタとして利用してもらうのが本来の用途だと考えています。
実際に完全犯罪が成し遂げられるのか、少し考察してみようと思って書きます。しかしこれから書いていくことは全て事実であり、現実で行わないでください。
また、本作は殺人を推奨するものではなく、あくまでも完全犯罪が成し遂げられるのかの考察です。もしここに書かれていることを利用して殺人を犯しても、私は責任を持ちません。
●殺し方
さて。前置きが長くなりましたが、まずはどんな殺し方をするとバレにくいか考えてみましょう。
被害者の悲鳴が周囲に聞こえるとバレるので、絞殺や刺殺などの力を必要とするようなのは現実的ではありません。睡眠薬などを使って寝ている間に殺すとしても、睡眠薬を購入したら店に記録が残ってしまいます。
流血するような殺し方だと後始末が大変ですので、外傷がないような殺し方が良いです。
一瞬で殺すには、毒物などが望ましいでしょう。しかし睡眠薬と同じく毒物を買うと店に記録が残ります。そこで、購入しても怪しまれないが毒物として使えるようなものがあります。サトウキビもその一つで、サトウキビに繁殖したカビは神経毒を発生させ、体内に混入すると中枢神経系に大ダメージを与えます。症状は脳浮腫や頭痛、重度の痙攣などであり、最悪の場合は呼吸不全によって死に至ることもあります。
そのサトウキビで中毒を引き起こす量は体重一キロ当たりにつき12.5ミリグラムのようで、成人の平均体重である71.8グラムの人物を殺すには約900グラム以上が必要になります。
他に、ニコチンも猛毒ですが煙草を購入することで入手出来ます。推理小説でたびたび登場する猛毒である青酸カリよりもニコチンの毒性は強く、成人では二本から三本の煙草に含まれるニコチンの量で致死量に達します。乳幼児では煙草一本に含まれるニコチンより少ない量で致死量です。
ではなぜ喫煙者などが死なないのかというと、煙草に含まれるニコチンが一度に体内に吸収されるわけではないからです。なので、煙草数本からニコチンの部分だけを取り出して一度に摂取させれば、確実に死ぬでしょう。
推理小説にたびたび登場するものでは、ガラスを粉末にして食べ物に混ぜて食べさせると胃壁にガラスの粉末が刺さって出血し、死なないまでも重傷になるというものもあります。
もっと簡単なものだと、静脈に空気を注射すると場合によっては死にます。この方法も推理小説ではよく使われています。江戸川乱歩はこの殺し方について、何の害もない空気を注射することによって命を奪うというところに、異様な恐ろしさが感じられると語っています。
●死体処理
死体を消し去る、これが完全犯罪を成し遂げるためには重要です。かなり知っている人も多いですが、死体が発見されなければ警察は殺人事件として捜査をしません。つまり、完全犯罪をするには死体を永久に隠しておく必要があります。わざわざ密室殺人にするなど愚の骨頂です。
死体は地中に埋めて土に還したり、水に沈めるなどの方法は広く知られています。しかし死体を遠くの地に埋めに行ったり、水に沈めるために海や湖に行く途中にNシステムはありますから、もし死体が発見されれば容疑者として調べられる可能性は高いです。要はあまり遠出をしない死体処理方法が良いわけです。
谷崎潤一郎の『白昼鬼語』のように薬物で死体を溶かすにしても、薬物の購入した記録が残ることは前述の通りで、死体を燃やしたとしても臭いが残ってしまいます。カラスなどに食べさせるという方法もありますが、食い散らかして人肉だとバレたら大騒ぎです。
江戸川乱歩の『白昼夢』や小酒井不木の『死体蝋燭』のように死体をミイラのような死蝋にするという方法は良いですね。死蝋とは死体が腐敗菌が繁殖しない条件下で、外気と長期間遮断されて腐敗を免れ、死体内部の脂肪が変性して死体全体が蝋状になったもので、死体が蝋になったわけです。死体を蝋燭の代わりにすればバレにくくなります。
楠田匡介の『人間詩集』のようにパルプに死体を混ぜて紙にするような方法は、一般人には難しいので現実味に欠けます。
液体空気やドライアイスによって人間を凍らせてハンマーで叩いて粉々に割ってしまう、という方法を北洋は短編に利用しています。
江戸川乱歩の『地獄の道化師』のように死体に石膏を塗って石膏像に仕上げたり、死体に鍍金をして銅像のようにする方法をジョン・ディクスン・カーやドロシー・L・セイヤーズは考え出しました。ギルバート・キース・チェスタートンの小説のように犯人が咄嗟に畑の中の案山子に化けて警察の目を誤魔化す、という方法を死体を隠すのにも応用出来るかもしれません。
死体を像にしたとして腐って異臭が放たれてはバレてしまいます。腐らせないためには塩漬けにするか、シリカゲルなどの乾燥剤を使うと良いでしょう。水分がないと腐らないのは、ミイラが良い例です。
死体処理方法で異様なものは、ロード・ダンセニーの『二壜の調味料』のように死体を食べてしまうというものがあります。しかし、人肉はあまり美味しくはないでしょう。
死体を解体する際は血が飛び散るのですが、凍らせれば解体しても血は飛び散りません。また、包丁一つでは解体するのに時間が掛かりすぎるので、山川直輝、朝基まさしの『マイホームヒーロー』のように死体を煮込んで柔らかくするなどの方法もあります。
人は急に死ぬ時、糞尿を漏らします。なので死体処理を終えたあとは糞尿の始末も必要になるかもしれません。
●仕上げ
死体処理が終わると、殺人現場となった場所を綺麗にすることが大切です。警察はルミノール反応で血の有無をを調べられますが、血を拭い去っておいて損はありません。
カーペットなどの布に血痕が付着すると洗い落とそうにも落ちにくいので、大根おろしを使います。大根おろしに含まれるジアスターゼが血液を分解するので血が落ちやすくなります。
ジアスターゼは酸素に弱いのでおろしたばかりの大根を布などで包み、大根おろしを包んだ布でトントンと軽く叩きながら落としましょう。
血が落とせて殺人現場だとわからなくなっても、まだ安心は出来ません。死体を完璧に処理しても家族や友人が捜索願を出してしまい警察に殺されたことがバレれば、完全犯罪は成立しません。『このミステリーがすごい!』大賞で隠し玉だった志駕晃の『スマホを落としただけなのに』では、犯人が被害者のスマホを使って被害者になりすまして、家族や友人などと定期的に連絡を取り合うことで死んでいないと錯覚させていました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
作家さんの名前は敬称略とさせていただいています。