何とやらの前の静けさ
好き放題をすることはなくなっていたが相変わらずおじさんのもとには通っていた。
なにぶん選抜の勉強をするにしても、その教師役として最も都合が良い。その意味では必然の成り行きだった。だからというべきか、選抜そのものは何の波乱もなくさらりと終わった、そういう印象が強いくらいに何事もなく終わった。
とまでなると、謎女も自分と同じところへ進学する。両者とも行き先にもう上はないのだから当然だ。
「そういうわけですので取り敢えず節目ということで、お世話になりました」
「だからといって何が変わるわけじゃないわ」
「見た目は少し変わったけどね」
一般的な中等科と違って学生服が定められているわけじゃないけれども、大概の人はそれっぽい服装を用意して臨む。
自分は普通の人っぽくそれっぽい服装を選んだが、例の如く謎女はそれっぽくない服装を選んでいる。最近は元々年齢に合わぬ格好ではあったのだが、それをほとんどそのまま使用するようだ。
「私は特に何を変えたつもりもないんだけど?」
「サイズを変えただろう?」
「……それ、見た目が変わったというのかしら?」
ちらりと横目に意見を求めてきたので、取り敢えずおじさんに味方しておく。
「対象物とのサイズ比が変われば、見た目の印象も変わるんじゃないかな」
「裏切り者」
「いつから僕が君の味方だったんだ?」
「少なくともこの三人でいるときは、という条件下に於いて……だね」
「ご尤も。けど、後で覚悟しておきなさい?」
「しなければ、その分先延ばしできるのかな」
「随分と口が減らなくなったわね」
「お陰様で」
実際のところ、ここでおじさんに師事する時間を経てから多少は謎女に追いついた気がする。
それはつまり、謎女のあの異常なまでの知能も概ねおじさんに由来するところがあったということだ。もちろん本人の才能は前提だ。だが、そこから現れる結果を一気に引き上げていくのは教育の力だということなのだろう。適切な教育が育む知能と、知能を証明するための教育は違う。それをよく切り分けて理解することが人間にとって如何に難しいか、そういう考え方を刻み込んだのもまた他ならぬおじさんであった。
だからこそというべきか、そういう人であったからだったというべきか、おじさんはこうも世間から隔絶されてしまっていたのだ。それが表に出ることになる事件は既にすぐそこまで迫っていた。




