平穏と無事
あれからちょくちょく、僕らはおじさんの下へ通った。
別に陰謀論めいたあの話が聞きたかったわけではない。
純粋に物知りと言うか、大体どんな話でも応じてくれたからだ。
なんなら学業の話でも良い。
僕にせよ謎女にせよ、は初等教育の範囲で困ることがないため、専ら中等教育の勉強をすることが多い。
いや、謎女に至っては高等教育の範囲だ。大学以降の専門科目を学んでいる。
だが僕が中等教育の水準なので、そこに合わせてくれるというわけだ。
屈辱的な話ではある。
だが、謎女が長らくおじさんに師事していたと聞いて納得した。
おじさんは出自について何も教えてくれなかったが、恐らくは名門中の名門だろう。
それくらいに知的水準が高い。
だがそうなると逆に、なぜこのようなところで隠遁した生活を送り、そして地域からは接触を禁じられているのか。
いや、僕としては助かるのだが。
「そりゃまあ、禁忌にでも触れちゃったんじゃない?」
「本人の前で堂々と言うもんだね」
「あわよくば回答が欲しいから」
「言うもんだね……」
謎女も図々しいものだが、おじさんもまたよく怒らないものだ。
「悪意があって言っているわけじゃないと分かっているからね」
「おじさんは人が良過ぎるのよ」
「迷惑かけてる本人が言うことかよ」
「困ってはいないから別に良いんだよ」
なんだこのおじさん。
ともあれしばらく通ってみてわかったことは、謎女がおじさんをいたく気に入っていることだ。
学校においては謎女と一番仲が良いのは僕だという自負があったが、実際のところ謎女と一番仲が良いのはおじさんだ。
実際、謎女より明確に頭が良い人物はこのおじさん以外に思いつかない。
学校の先生は言うに及ばず、地域の優秀者を集めてもおじさんに比肩しそうな人が見当たらない。
そりゃー謎女も、というか謎女の時点で既に匹敵する頭脳がいないのだ。
小学生がどうだとか、そういうレベルではない。
記憶力、思考力、分析力、そしてそれらを土台にした論理力も発想力も、大人や子供という次元ではないのだ。
「だから実際のところ僕も気になりますよ、おじさんが何者なのか」
いつも暇そうだし。
「まあ、そうだよな。本気で口を割らせようとするかは別として、気になるのは仕方がないだろう」
「そうね。それに、知ったところで好奇心の充足以上のメリットはないでしょうし」
「僕からすると本気で割らせようとしているようにも見えるんだが」
「そう?私からすれば挨拶みたいなものよ。コミュニケーションの潤滑油じゃない?」
そういう考え方もあるのか。
「もちろん、相手を選ぶ必要はあるけどね」
「それと、流れに合わせた呼吸だね」
なるほど師弟なんだな、と思わずにはいられなかった。




