艦上の感情
陸地のほとんどが海没してから200年ほどが経った。
世界の諸国家は生き残りをかけて様々な方策を試し、その中で最も有効であったのが艦上国家という手法。
200年前に存在していた国々がその国民生活を完結させ得るだけのシステムを詰め込んだ国家艦を建造し、この水の惑星に命脈を繋いだのであった。
「―――従って、このように人類は自らの産業活動の帰結として地球温暖化を引き起こし、我々はこうして母なる大地を失うこととなったわけです」
教科書にはそう書かれている。たった200年の産業革命が今、200年の漂流生活を強いているのだ。
当然ながら文明は後退し、当時の混乱で多くの記録が失われた。
「では皆さん、次回までに私たちの暮らすこの艦上国家ニッポンについてまとめて来てください」
海没以前から存在した学校制度はこうして現在も続いている数少ない文化の1つだ。
「ねえ、シンくん。あとでさ……」
声をかけてきたのは謎めいた女子小学生。
「例の人のところ、行ってみない?」
例の人……学校でも近付かないよう言われているおじさんのことだ。
「いったいまた、なぜ?」
女子はそろそろ大人の自我が芽生え始め、色々主体的に動き始めるお年頃……という理由はこの子にはないだろう。
「海没の謎、知りたくない?」
人当たりについては至って普通だ。
この謎女は恐ろしく知能が高く、この子さえいなければ僕が地域でもトップを張れるはずの知能指数を誇っていたはずなのだが。
「僕を誘う理由は?」
「話を理解できる人を連れてきたら教えてくれるって言ってたから」
……既に接触済みだったのか。
恐ろしい行動力だ。だが好奇心は猫をも殺す。
「僕がチクったらどうなるかくらいは想像つかないはずないけど」
「想像ついたから誘ったのよ。チクらない……いえ、チクれないって」
そう、好奇心は僕を殺したのだ。