記憶の審判
私の書く小説、読んでみると一話が結構短いですね。今回もまあ短めです。次から頑張ります。
「そうですか。それなら仕方ないですね。引き受けさせて頂きます」
まあ正直これは私にとっても悪くない話だ。
記憶喪失が魔術によるものと分かった以上、これからまた旅をするのは得策ではない。
私に魔術をかけた相手を探すという手もあるが、世界中から顔も分からない相手を探すのは途方もない労力となるだろう。
それよりも少しでも可能性のあるエリックの近くで記憶を取り戻す方法を探る方が効率が良い。
「それは良かった。では早速部屋を貸すから」
そう言ってエリックはメイドを呼び、私の部屋の案内を命じた。
既に部屋を用意していたのか。
本当に私には拒否権がなかった様だ。
悪くない話とはいえ微妙な気持ちになる。
「あ、行く前に1つ質問してもいいですか?」
「ん?なにかな」
「どうして私の思い出した記憶について聞かないのですか?」
互いの共通点を考えていた時、1つ手掛かりがあると謎の声の事をあげたが、それは正しくない。
もちろん謎の声は手掛かりだが、手掛かりはそれだけではないのだ。
それは私の、思い出された記憶。
思い出した身としては、私達が引き合わさった理由がこの記憶に関係していないと思う方が変だろう。
共通点というには色々不足してはいるが、私達を繋げるものである事に違いはない。
だから私は何となくこの記憶が関係していると確信していた。
しかし、エリックは私の記憶について何も知らない。
私の様に何かあると確信するには至らないだろう。
それでも、もしかしたら何かあると思っても不思議ではない。
それなのに彼は一切その事を問おうとしなかった。
「何故聞かないのです?気になっても不思議ではないかと」
「聞いてもいいなら聞くけど。でも君は聞いて欲しくなさそうだ」
「………気づいていたんですね」
確かに聞いて欲しくない。
というより聞かれて正直に答える訳にいかない。
(実は私は貴方の前世だった方と知り合いで、その人を目の前で殺された記憶を見たんです)
…こんな事を言っても、狂人と思われるのが関の山だろう。
「ああ、もちろん。
君がここに来てすぐ、"こんな紅茶が毎日飲めるなんて羨ましいなぁ"という顔をしていたのも気づいていたよ」
「それは何かの間違いかと」
彼はニコニコ笑いながら余計な事を言う。
顔に出てたのか…恥ずかしいので即座に真顔で否定しておく。
まさか、私の雇用を決定事項の様に言ったのって、私のその反応を見て断らないだろうと踏んで…とかないよね…?
いやまさか。それはしょうもなさすぎる。
単に彼が貴族で私に拒否権がなかったからだ。
変に深読みする思考を止めて、私は彼に挨拶して足早に部屋を出る。
それにしても、何かを羨んでいた事を他人に指摘されるのは存外恥ずかしいものである。
それに多少の苛立ちを感じるものだ。
お前はそれを持っていないだろう、と暗に言われている様に感じるから。
全く、貴族様はこれだからいけないのだ。
私の中のモヤモヤした感情は、いつの間にか彼の発言に憤慨している間に消え去っていた。