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真実の森にて会いましょう  作者: さんぴん茶
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記憶を取り戻すタビビト

今日はここまで。

これからちょっとずつ更新していきますー。


「ウィッチ!見て、花がこんなに!」


銀髪で藍眼の目をした少年、セロイが無邪気に私を呼ぶ。


「わぁ、きれい!もう春なのね」


季節の訪れを感じながら、私もそれを笑顔で返す。


「僕、この花好き。ウィッチの赤い髪の色と同じで、きれいだ」

「…もう、またそんなこと言って」


それを聞いた赤髪で赤眼の私は、頬まで赤くなってしまい少し滑稽だ。

それがまた恥ずかしくて、隠すようにセロイから顔を背ける。

すると、目線の先にセロイの目と同じ色をした花があった。


 「ふふ、この花かわいい。セロイの目と同じ色できれいね。

それに小さいけど頑張って背伸びしてるみたい!

そんな所もセロイと同じね」

「…最後のそれ余計なんだけど?」


セロイは頬を膨らませて私に文句を言う。

私はそれに小さく笑いながら、この花は何という名前なのかと思案した。

私は花が好きで本もよく読むから、この森のほとんどの花の名前を知っている。しかし、この藍色の花は初めて見た花だった。

セロイにはああ言ったけど、この花は小指の先ほどの大きさしかないのに、まっすぐに凛と咲き誇っているのが、とても存在感を感じさせる。

かわいいようでとてもかっこいい花だと思う。

ぜひ名前を知りたい。


そうして私が呑気に自分の世界に浸っていた時。


「ウィッチ!危ない!」


セロイの叫び声が聞こえ、パッと振り返った瞬間、セロイが私に覆い被さってきた。

私は潰されるのではと思うくらいに強く抱きしめられる。

しかし、セロイは「うっ」と小さく声を漏らすと同時に力を失い、ずるずると私の前から崩れ落ちた。

 セロイに覆われて見えなくなっていた視界が一気に開ける。

そこには黒ずくめの男が立っていた。

 私を庇うように抱きしめ、その後倒れるセロイ、彼の後ろには謎の男。

いきなりの出来事に頭が真っ白になったが、倒れたセロイの周りに広がる血溜まりを見て自分たちがたった今襲われたのだと認識する。


その瞬間、私は本能的にセロイの血溜まりに手をかざし、出血箇所を止血する。

その後素早く血の形を変形させて矢のような形を作り、その矢を男に飛ばしながら、セロイを背中に乗せて逃げようとする。


 今すぐこの男から離れてセロイを治療しなければ。


冷静にそれだけを考えていたつもりだった。

しかし、無意識に焦っていたのだろう。

男に見向きもせずに走り出そうとした私は、矢を放った瞬間男が片手で矢を振り払って、もう片方の手で私に魔法を放ったことに気づかなかった。

その魔法は私に当たった後、黒い煙になって周囲を覆う。

煙は私の意識を奪っていった。


朦朧とする意識の中、男が何かを叫んでいるのが聞こえる。

しかし、少し距離を置いた場所に立っている男の声は上手く聞こえない。

その代わり、頬と頬が合わさるくらい近くにいたセロイの、息絶え絶えとした声ははっきりと聞こえた。


「いつか、遠い未来、、またぼ、くたちは会える、から…だから、きみはそ、れまで………」





「……………死んではいけない」


 *



そこは真っ暗な闇だった。

しかし、その隙間からキラキラと星の様な瞬きが見える。

どことなく星空を思わせる意匠に、少し前に見た部屋を思い出す。

視界がぼやけてよく見えないが、きっとここはダートリック公爵邸の寝室なのだろう。

こんなに暗いのは、今が夜だからと考えられる。


意識が段々はっきりしてくる。

が、視界は一向にはっきりとしない。

ふと目元に手を添えてみる。すると、目からは止め処なく涙が溢れていた。

きっと今見た夢のせいか。いや、


(これは、記憶……私の、記憶)


そう考えた時、頭の中で少し前に見た悪夢が短く再生される。

きっとあの悪夢はこの記憶の後の記憶だったのだろう。

途端、芋づる式に記憶が掘り起こされる。


セロイは、死んだ。私を守るために。

セロイ……。私の…………愛する人。


「…ふ……うぅ…っ…………うあぁ…!」


そう自覚した瞬間、涙腺で洪水でも起きたかの様に涙が溢れてくる。

指先の感覚が無くなるのに対し、心臓は火車の如く暴れ回り軋む様に痛んだ。

誰かに私の大切な何かを潰されそうになっている様な感覚がして本能的に体を丸める。

その何かを守る様に。

しかし、そんな事をしても意味が無いことは分かっている。

セロイは死んだ。私の愛する人は死んだ。

私は私の大切なものを既に失っていたのだ。

どうして、今まで忘れていたのだろう。

こんなに大事な記憶を一体どうしたら忘れられるというのだ。

セロイを失った喪失感と自身の愚かさで押し潰されそうになる。

激情が押し寄せてきて、そして………………。



 *



どれだけ時間が経ったのだろうか。

しばらく、私は涙と声が枯れるまで泣いた。


もう涙も出なくなった頃。

収まる気配の無かった激情がやっと収まったかと思えば、今度は計り知れない虚無感に襲われる。


これからどうしようか。

いや、どうもこうもない。今まで通り旅を続けるだけ。

記憶を取り戻す前の私にそれ以外の生き方は無かったから。

かと言って今もそれは同じ。大切なものはもうないから。

それにまだ全ての記憶を取り戻した訳ではない。

やっと少し思い出したくらいだ。


それにしてもなんで私はまだここにいる?

助ける意味が無かったとか散々言っておいて、彼は私を捨ておかなかったのか……。


その時ハッとする。

待て。私は見落としていた。

セロイは最後にこう言ったのだ。


『いつか、遠い未来、、またぼ、くたちは会える、から…だから、きみはそ、れまで………』


『……………死んではいけない』


そして、今日会ったセロイにそっくりのあの男。

この2つが示す答えは。


エリック・ダートリックはセロイの生まれ変わりということ。


生まれ変わりなんて童話でしか聞かない様な事だが、しかしそれ以外に考えられない。


私はもう一度愛する人に出会ったのだ。


枯れたはずの涙が、一粒だけポロリと落ちる。


窓の外を見ると、東の空が明るくなっているのが見えた。

夜が朝日に溶かされていくその姿はまるで今の自分の心を見ているようだ。

もちろん、この心が晴れ晴れとする事はない。

きっとこの辛い記憶を思い出す度に、心臓が潰される思いに苛まれるだろう。



しかし私の心はもう先程の虚無感は感じなくなっていた。


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