穏やかな悪夢
初めまして、さんぴん茶です。
前から考えてた話なんですが、書き溜めしていくうちに誰かに読んで欲しいと思う様になりまして、思い切って投稿してみました!
これからよろしくお願いしますー!
この光景はいわば眼に刺さる鋭利な刃物だ。
真実の森と言われるこの場所は、いつだって静かで穏やかな空気を発している。
木々の隙間から陽光が差し、小鳥の囀りが聞こえ、蝶々が舞い、花々は咲き乱れ、動物たちは楽しそうに森を駆け回る。
そんな穏やかな森の奥深くに、その日一番の陽光を一身に受ける少年少女が座っていた。
まるでそこは彼らだけの世界だと言わんばかりに陽光は彼らを包み込んでいる。
きっと彼らには小鳥の囀り程度の音さえも聴こえていないだろう。
それ程に静かであった。
時間が止まっているのかと錯覚してしまいそうになるようなこの光景の真ん中で、彼らは、いや少女は少年を抱き泣いている。
そう、力一杯抱きしめ、泣いているのだ。
それなのに、一方の少年はピクリとも動かない。人形の様に力なく少女にもたれている。
既に異様だと言わずにはいられないこの光景の中で、最も異様と思えるものが、彼らの下に広がっている。
穏やかな陽光に対比するかの如くキラキラと輝いているそれは、
残酷なまでに鮮やかな、赤ーーーーーーーー
*
そこで私、ウィッチは目を覚ました。
「………セロイ……」
今の光景は何だったのか。
これを夢とするなら自信を持って悪夢だと確信出来るが、しかし夢と言うにはあまりにも生々しい光景だった。
それに、今無意識に呟いた誰かの名前らしき単語は何なのだろうか。
自分の口から出たはずなのにそれがどういう意味かわからない。
確かこれまでセロイという人物に出会った覚えはないのだが。
「お目覚めになられましたか。旦那様をお呼び致しますので少々お待ちください」
起きて早々ぼうっと考えていると、その声で現実に戻された。
声が聞こえた方に目を向けると、使用人らしき人影が部屋を出ていく姿が見えた。
そこで初めてここはどこかの高貴な方のお屋敷なのだと気づく。
部屋を見渡してみると、淡い紺色の壁に金や銀の刺繍が施されており、照明も月明かりの様に淡く輝いて、星の瞬く夜空を連想させる。
その様なデザインなのはここが寝室だからなのだろう。
しかし、一見大人しいデザインだが高潔さも感じられるこの部屋は、お金や権威といったものと無縁の私にすら、かなりお金がかかっているのだろうと分かる。
そんな部屋で私はなぜ堂々と寝そべっているのか。
そもそも何故私のような万年金欠の旅人がこんなところにいるのか。
それに先程の使用人は旦那様を呼んでくると言っていた。
つまりその旦那様は私に用があるということだろう。
…さて、何もかもが謎である。
とりあえず、この部屋で寝ているままなのは恐れ多いので、ベッドから出て待っていようとする。
が、しかし体が重くて上手く動かせない。
頑張って上半身だけでも起こした時、ドアからコンコンとノックの音が聞こえてきた。
入ってきたのは背の高い貴族然とした青年だった。
銀髪で藍眼の彼は、細身だが引き締まった体躯をしていて騎士を彷彿とさせる容姿をしていた。
そんな世間一般的に美しいと形容出来る相手を、私も例に違わず美しいと思っただろう。
先ほどの夢を見ていなければ。
「やあ。お加減はいかが?」
そう言って優しく微笑んだ彼は、先ほど見た人形の様な少年と同じ顔をしていた。