7 かすみと直人の関係……?(かすみ目線)
水曜日の放課後、ちょうど夏希と晴彦が頭を突き合わせ、漫画談義に花を咲かせていた頃。
片瀬かすみは、一人で通学路を歩いていた。春風が吹き、かすみの長い髪をさらさらとなびかせる。
ふと、思い立ったようにスマホを開くと、かすみはメッセアプリで「国仲直人」にメッセージを送った。
『やほ。今日、部活ある?』
するとすぐに既読がつき、返信が返ってくる。
『ないよ。どうした?』
しばらく考えて、片瀬はまたメッセージを送った。
『これから直人んち行ってもいい?』
今度はすぐに返信が返ってこなかったので、かすみは制服の胸ポケットにスマホを入れて歩きだした。
ややあって、ピロリンと軽快な音がした。かすみはメッセージを開く。
『いいよーー。甘いデザート買ってきてね!』
チッ!と豪快に舌打ちするかすみ。そばを通りかかったサラリーマンらしき人が、そんなかすみを見てびくりと肩を震わせた。
「あっ、その……オホ、オホホホホホ」
頬をひくつかせているサラリーマンに気づき、かすみは怪しげな微笑みを浮かべてその場を退散した。コンビニに駆け込み、4切れ入りお徳用チーズケーキを買うと足早に直人のマンションへと向かう。
直人の実家は、市内有数の超高級タワーマンションだ。受付にいる女性コンシェルジュに声をかけると、彼女は「お待ちしておりました、片瀬さま」と深々と一礼し、直人の棲む18階の部屋へと案内してくれた。
ドアを開け、出迎えてくれた直人はニコッと笑うと「どうぞ」と手招きし、かすみをリビングへと案内した。
「相変わらず、スゴい部屋ですこと」
言いながらかすみは部屋を見渡した。一目で高級と分かる家具がいたるところに配置されている。全面ガラス張りの窓からは、かすみ達の棲む街が一望できた。
「そうか?かすみの家だって、負けてないんじゃないの」
「それはどうも。はい、お土産」
かすみはビニール袋に入ったチーズケーキをぶっきらぼうに直人に押し付けた。
「うわー!チーズケーキ!さんきゅ、俺がチーズ系のお菓子好きなの覚えてくれてたんだね」
「コンビニだけどね」
「いやいや。普段コンビニの物は食べないから、逆に新鮮」
ふん、根っから金持ちのボンボンめが。そう言いたいのをぐっと堪え、かすみはスカートを丁寧に押さえてソファに腰を沈めた。
「ところで、何か俺に用があって来たんじゃないの?」
「うん。……あのね、私の前の席にいる、岡田くんのことなんだけど……」
ゆっくりと日が落ちていく部屋の中で、かすみは静かに話し始めた。