6 エロ漫画と少女漫画
「それでは、新学期第一回目、漫画研究会の活動を開始します」
「はいっ!」
放課後。厳かに、そして人目を避けてこっそりと、夏希・晴彦の漫画研究会の集いが行われた。
中学一年生の頃から漫画研究会の活動場所として使ってきた西側階段の一番上の踊り場は、滅多に人が来ることはなく、非公認でいかがわしい活動の場としてはもってこいだった。
「じゃあまずは俺から。正直、ちょっと煮詰まってて……まだネームの段階なんだけど、見てもらえるかな」
「なるほど……」
晴彦は夏希が差し出したA4ノートをまじまじと見つめる。
「あれ、触手ものですか?前は確か、媚薬系を描きたいと言っていたような」
「そうなんだよねー!でもさぁ、なんっていうか……正直、男が出てくるのが許せなくなっちゃって」
「なるほど。それで人外にシフトしたという訳ですね」
親やクラスの女の子が聞いたら卒倒しそうな話を、二人は意気揚々と続ける。
「でも、いいと思いますよ。こことか、ここも、ちょっと無理矢理感があると僕は思いますけど、全体の流れで見ると頷けます」
「そっかぁ、うんうん」
「で、ここのセリフは個人的に『いやぁ!』より『どうしてっ…』の方が葛藤が見えてよろしいかと」
「なるほどな!サンキュー」
次は晴彦の漫画を夏希が添削する番となった。
「僕のは、すでに上がっているこの『漫モス』のうち一つの作品を見ていただきたく」
「どれどれ……」
正直、晴彦の漫画を描く技術は夏希より格段に上だ。中学に入った頃から晴彦は貯金をコツコツと貯め、ペンタブやソフトを買い揃えて今ではほとんどデジタルで漫画を描いているという。
「うわ、また画力上がった?」
「デッサンを一から見直してみたんです。へへ……」
「すげー、プロみたいだよ!マジで」
ストーリーに関しては、少女漫画に興味のない夏希としては如何ともコメントしがたいが、画力は一般人が自由に漫画を投稿できる「漫モス」の中では群を抜いていた。
「主人公のももが、この男の子に恋をするんですが、実は彼はももの親友の幼馴染みで、ももが嫉妬してしまうんです」
「ごめん、内容の良し悪しは俺にはよく分かんないけど……あれ?これ、コメント付いてる」
「そうなんです!投稿してすぐに、ブックマークしてくれた人がいまして」
二人でスマートフォンの画面をのぞきこむ。晴彦の漫画が投稿されるたびに、コメントをしているユーザーが一人いるようだ。
「『ナホト・オンティラミス』さん…?なんかどっかで聞いたことある名前だな」
「多分有名人の名前のもじりだと思うんですけど、僕はそっち方面は疎くてですね」
「悪い。俺も」
そのユーザーのコメントはどれも称賛のコメントばかりで、「ファンです、いつも応援しています!」「キュン死しました!」「神……尊い、無理!」などという、可愛らしい女の子を彷彿させるコメントだ。
「すげー、もうファンが付いてるじゃん」
「いやいや。こんな気持ち悪い中学男子が描いてるなんて知られないように、せいぜい頑張ります……」
照れ笑いしながら、晴彦はもさもさの頭をがしがし掻き回した。
「いーなぁ。俺も女の子からの応援コメント欲しいよ……」
「触手系じゃ、それは難しそうですね……」
二人は苦笑いし、廊下の踊り場が暗くなる時間まで漫画についてたっぷりと語り合った。