4 悪夢は正夢!?
あたり一面、暗闇。ここはどこだ?と夏希がキョロキョロと見回すと、突然一人の人影が浮かび上がった。
「だっ、誰だ!……って、お前晴彦か?」
「そうだ。夏希」
声の主はニヤリと笑うと、夏希の方へ近づいてきた。
「晴彦、ここはどこ……ってお前、敬語やめたのか?」
「ああそうさ。お前みたいな陰キャ相手に、いちいち敬語で話すのもバカバカしいしな」
「なにっ!?」
よく見ると、晴彦はだぼっとしたジーンズ、質のよさそうなライダースジャケットなんかを羽織っている。おまけにもさもさの頭の上には、白ぶちの派手なサングラスがかけられていた。
「お前、ど、どうしたんだよその格好!夏はじんべえ、冬はジャージにフリースで過ごすのが常のお前が……」
「こいつは俺がプロデュースしたんだ」
突然、もうひとつの大きな人影が現れた。よく見るとそれは、国仲直人だった。
「おまっ、晴彦に何をした!」
「何って、陰キャを卒業させてやったんだよ。だからおまえは用済みってわけだ」
そう言って直人が高らかに笑うと、さらに人影が増えた。
「やだぁ。岡田くん、中三にもなってゾウさんプリントのパジャマなんか着てるの?ダッサーい」
「うっ……片瀬、さん……」
クスクスと笑うその人影は、片瀬かすみの姿になった。三人はゲラゲラと笑いながら、どんどん遠ざかっていく。
「待ってくれーー!!」
そこで夏希は、目が覚めた。水曜日の午前七時、アラームがけたたましく鳴り響く。夢か、と呟いて夏希は乱暴にスマートフォンのアラームを解除した。かすかに肉の焼けるジュージューという音が聞こえ、朝食のにおいが鼻をくすぐる。
「夏希ー!ごはんできたよ!」
「あぁーい」
そのまま下の階へ降りようとして、ふと夏希は足を止めた。着ているパジャマをよく見てみる。
(……ゾウさんプリントだ……)
今までパジャマなどは、母親が適当に見繕って買ってきたものを何となく着ていたので意識していなかったが、改めて見ると確かにダサい。ダサすぎる。
夏希は勢いよくパジャマを脱ぎ捨てると、無地のスウェットに着替えて下に降りた。
今日は三年生になって初めての漫画研究会の活動日だというのに、変な夢を見てしまった。嫌悪感に苛まれながら、夏希は朝食の席に着いた。