第八話 光の粒子
そうして牢屋にぶち込まれた私は、異世界で監禁生活を送ることになった。
「本当に済まない。アリアを助けてくれた君に、こんな仕打ちを……」
鉄格子の向こうで申し訳なさそうに俯くアレクさんを、私は無言で見つめ返した。気にするな、とは言わない。彼の心情がどうであれ、私は自由を奪われたのだ。恨みこそしないけれど、さりとて彼の心情を慮る理由もないだろう。
「そこで大人しくしていろ。姫殿下の命令だ、殺しはしない。食事も後で運ばせる」
それだけ言って、シンヤさんは牢獄から去っていく。アレクさんも、気まずそうに視線をそらしながらその後に続いた。
残されたのは牢獄の入り口に立つ見張りの兵士と、牢屋の中の私のみ。
「面倒なことになっちゃったなぁ……」
私の独り言に、見張りの兵士はこれといった反応を示さなかった。話し相手にもなってくれそうな感じじゃない。
牢屋の中を見渡す。相変わらず薄暗くてジメジメしている。壁と床はコンクリートのような材質で、奥の方に薄い木の板で囲われたトイレがあった。布団は薄っぺらく、薄汚れている。お世辞にも快適な空間とは言えない。
ただ、否応なしに地上に放り出されるよりはマシなのかな……。
地上をドラゴンに支配された世界。この世界の内情を知れば知るほど、とんでもない異世界に転移してしまったものだと嘆きたくなる。
これ、あんまりにもハードモード過ぎない? 異世界転移ってもっとこう、イージーモードだと思ってたのに。
きっと、今までこの世界にやってきた日本人……マレビトたちもそれなりに苦悩したんじゃないかな。
「本当に、何もないのかな……」
例えば、私が憶えていないだけで神様からチート能力を与え垂れているんじゃないだろうか。もしくは、この世界にはゲームのようにステータスやレベル、スキルなんていう概念があるんじゃないか。
元の世界でならバカバカしいと思うけど、ここは異世界。こっちの世界の常識……私たちにとっての非常識だって存在するかもしれない。
やってみる価値はある。
「ステータス!」
私は右手を空中にかざし、そう叫んだ。
……何も起きない。
鎖がじゃらりと音を鳴らして、見張りの兵士がびくっと驚いただけだ。なんだこいつ、という兵士の視線が居た堪れない。
これで音声認識という可能性が消えた。次は、
「んんんん」
目を細めて、集中して何もない空間を見る。視覚認識、または集中認識はどうだろう。
「……あ」
私は思わず声を上げた。
結論から言うとステータス画面は現れなかった。代わりに見えるようになったのは、空中を漂う光の粒子。ふわふわと、直径一センチ程度の光が牢獄全体に揺蕩っている。
瞬きして集中を途切れさせると、光は何事もなかったかのようにパっと消える。今度は光の粒子を見ようと意識すると、それだけで視界に光の粒子が広がった。
なにこれ、吸い込んでも大丈夫だよね? 変なキノコの胞子とかじゃないよね?
光の粒子に触れようと手を伸ばす。すると、粒子はするりと手をすり抜けた。
実体がない……?
息を吹きかけたり、吸い込もうとしたりしても、まるで動じない。光の粒子はただただ浮かんでいるだけだ。
「何だろう、これ……」
指先でもう一度、つつけないかと試してみる。指先にくっついたらETごっこできるじゃん、なんて思っていたら、
「あ、くっついた」
光の粒子は私の右手の人差し指にくっついて、くるくる動かしても離れなくなった。これはこれは。暇つぶしにはもってこいかもしれない。
早速、左手の人差し指にも光の粒子をくっつける。どうやらイメージが重要なようで、指にくっつく光景を想像しながらだと上手くいく。そうでないと、光の粒子は指先をすり抜けてしまう。
両手の人差し指に光の粒子をくっつけて、それをゆっくり近づける。
「いー……ありゃっ?」
光の粒子が触れ合った瞬間、それらは互いに反発しあったのか弾けて消えてしまった。何度か試したけど、同様に消滅してしまう。
どうなってるんだろう……?
しばらく試行錯誤しているうちに、光の粒子に触れなくてもイメージするだけでこちらに近寄ってくることがわかった。
手の平いっぱいの光の粒子をイメージする。すると、突き出した手の平にいくつもの光の粒子が集まって、やがて一つの大きな光の粒子になる。
さっきは反発しあって消滅したのに。
大きな光の粒子を、次は両手に作って互いに触れさせてみる。すると今度は、一つにならずに消滅した。
不思議だけど、ちょっと面白い。
謎の光の粒子という遊び道具を手に入れて、牢屋での生活はそれなりに飽きないものになった。
寝心地の悪さは不満だけど、食事はちゃんと三食でるし、味もマレビトの影響か日本人の舌にあう味付けがされていた。食材はまあ、謎の肉や謎の植物だったけど食べられたので気にしないことにする。
そして、お姫様が配慮してくれたのかシャワーを使わせてもらえたのがありがたかった。もちろん、女性の兵士の監視はあったけど、入れないよりはずっとマシだ。お湯もふんだんに使わせてもらえた。
水は貴重じゃないのかと見張りの女性兵士に尋ねると、魔法でいくらでも出せるから問題ないとのこと。そこはさすが異世界だと思った。
そんな生活が、おそらく三日続いた。おそらく、というのは地下で太陽の動きが把握できないからで、食事のタイミングで何となく三日くらい経ったかな? といった具合である。
そんな牢屋生活三日目、私の目の前に赤髪で白衣を着た女性が現れた。




