第七話 ドラゴンに挑んだ者の末路
「一つだけ、聞いてもいいかな?」
手足に枷をはめられ、どこかへ連れていかれる前にお姫様へ尋ねる。
「マレビトを『希望』という名の毒薬と言っていたけど、私の前にここを訪れたマレビトがそうだったの?」
聞くまでもなく、そうだろうとは見当がついていた。私がマレビトだと知り、いち早くお姫様へ伝えに走ったアレクさんの行動が証明している。案の定、お姫様は首肯する。
「そのマレビトの話をする前に、わしらが言う『マレビト』について説明しておくのじゃ。マレビトとは元来、わしらこの世界の民に知恵をもたらす超常の者と言われておった。言葉や文字、今に続く文明は全てマレビトからもたらされた知識によるものじゃ」
なるほど、道理で日本語が通じるわけだ。
当たり前のように日本語でやり取りをしていたけれど、普通はあり得ない。知らない内に神様から言語翻訳系のチート能力を貰ったのかと思っていたけど、この世界の人たちに言葉を教えたのが日本人だとしたら納得できる。
「じゃからこの世界では、マレビトを神のように崇める習慣もあるのじゃよ。わしらよりも遥かに高度な文明で生まれ、わしらの知らない知識を有し、わしらの常識を超えた言動で世界を動かす。それがマレビトじゃった。ドラゴンが現れるまでは、のぅ」
マレビトの来訪によって現代日本の知識と技術を得ながらこの世界は発展してきた。きっとドラゴンが来るまでは、私が今見てきた以上に発展した文明が地上で繁栄していたのだろう。
それが今では、人々はドラゴンを恐れて地下に隠れ住むようになってしまった。その原因も、お姫様の話を聞いていたら薄々そうじゃないかと見当がついてくる。
「マレビトは、ドラゴンに勝てなかった……?」
「記録によれば、ドラゴンが東方から飛来した際、この大陸のほぼ全土を手中に収める超大国があったそうじゃ。その国の国王はマレビトじゃった。その超大国はドラゴンに決戦を挑み、マレビトと共に一夜にして滅んだ」
そこからは敗北の歴史だという。何人ものマレビトが幾度となくドラゴンに立ち向かい、大勢の犠牲と共に散っていった。
地上はやがてドラゴンの楽園となり、人類は地下への逃亡を余儀なくされる。
そして、それ以降もマレビトは幾度となくこの世界の人たちの前に現れて「俺ならあのドラゴンを倒せる」と人々に希望を与えたそうだ。
「百年前にこの地を訪れたマレビトは、お主らの世界でいう『銃火器』という武器に精通しておったそうじゃ。そやつはこことは違う別の国で銃火器を量産し、ともに戦う仲間を集めるためにアメリアを訪れた」
当時の人々は、そのマレビトが扱う銃の威力を目の当たりにして大いに沸き立ったらしい。これでドラゴンを倒せる。俺たちの地上を、この手で取り戻すんだ。そう言って一人、また一人とマレビトと共に戦うため、地上を取り戻すため、愛する家族を守るために戦地へ赴いた。
「当時の人口の六割強。男も、女も、子供も老人も関係なかったそうじゃ。銃火器とは誰でも使える武器だと、そのマレビトは人集めに制限を設けなかったらしいからのう。『希望』に魅せられた民衆は、我先にと銃を片手にドラゴンとの決戦に挑んでいったそうじゃ。――そして、誰も帰っては来なかった」
人口の六割を一瞬で失い、アメリアは一気に危機的状況に立たされた。人が居なくなれば当然国は衰退する。ただ、それよりも深刻だったのは残された者たちの心の傷だったと、お姫様は話す。
「希望に酔い痴れておった国民は、冷や水をかけられたように一気に現実へ引き戻された。残ったのは、絶望じゃよ。夫と息子を戦地へ送り出した女は、いつまで経っても戻らぬ彼らを探しに地上へと出て帰らぬ者となった。後を追うものは大勢居たそうじゃ。皆、『希望』に救いを求め、『希望』に夢を見た者たちじゃった。大勢の者が心に傷を負い、それを百年が経った今もわしらは引きずっておる」
「……だから、私を隔離するんだね」
これまでマレビトがこの世界の人たちに見せてきた『希望』が、いったいどれだけの命を死に誘ったのだろう。
この世界の人たちにとって、マレビトは『希望』の象徴。けれどその希望は絶望と表裏一体となっていて、数多くの悲劇がこの世界の人々を追い詰めた。
お姫様が私を危険視するのも無理はない。私はマレビトで、例に違わず『希望』をもたらしてしまう存在なのだから。
「話は済んだか、マレビト」
「……っ。痛いなぁ」
突然腕の鎖を引っ張られて、私は前のめりに倒れそうになった。鎖の先を持つシンヤさんは私を睨みつけると、どこかへ向かって歩き出す。鎖を引っ張られて、私はそのあとをついて行くしかなかった。
謁見の間から引っ張り出される直前、私は振り返ってお姫様を見た。お姫様はこちらをじっと見つめるばかりで、何かを言うといったことはなかった。
けれど、気のせいかな。
私を見る瞳にはどこか、何かを期待するような意思が込められているような気がした。
それを見て、私は不思議とこう思った。
『希望』を見ている瞳だ、と。
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