第三話 マレビト
アリアちゃんの国は、ドラゴンに襲われた岩場から歩いて半日ほどの場所にあるそうだった。アメリア王国の王都アメリア。そこが私たちの目的地だという。
王都かぁ。きっと大きなお城があって、巨大な城壁に囲まれた大きな都市なんだろうなぁ。そういう街を探索するのも、異世界ファンタジーの醍醐味の一つだよね。
なんて考えながら歩いていると、
「ここです、ミナツさん」
と、アリアちゃんは岩場の陰にあった洞窟の前で立ち止まった。
「……えーっと。ここが王都?」
「はい。王都アメリアの入り口です」
……いやまあ、何となくわかっていた。あんな凶暴なトカゲが空を飛び回っている世界だ。パッと思い浮かぶようなお城や城壁のある街並みが、無事に残り続けているとは考えづらい。
「アリアたちのご先祖様は、今から五百年前に襲来したドラゴンから逃げ隠れるためこの洞窟の奥深くに都市を作りました。それが、王都アメリアです」
「じゃあ、それまでは地上で暮らしてたの?」
「はい、伝承によれば……」
伝承によれば、か。昔は地上で繁栄していた人類が、ドラゴンに住処を追われて穴倉での生活を余儀なくされている。この世界を簡潔に言い表すなら、そんな感じなのだろう。
……つくづく、嫌な世界に転移しちゃったなと思う。
洞窟内は薄暗くて、やっぱりジメジメとしている。これでも一応は整備もされているようで、足元がぼこぼこで歩きづらいということはなかった。
アリアちゃんは洞窟の奥深くへとどんどん進んでいく。その後ろをついていくと、やがて奥に篝火に照らされた門が見えてきた。その周囲には何人かの人影が見える。
その中の一人がこちらに気づいた。
「アリア⁉」
「お兄様っ!」
その人を見た瞬間、アリアちゃんが走り出す。アリアちゃんと同じ金色の髪をした若い男の人だ。お兄さんだろうか。
彼は飛び込んできたアリアちゃんを抱きしめて、しきりに「よかった」と繰り返した。
「ドラゴンに襲われたと聞いて、今から捜索に出ようとしていたんだ。無事で本当によかった……!」
「お兄様、みんながっ! ケールも、ゴヤーも、ハサンもっ!」
「……ああ。みんな、よく戦ってくれた」
二人の抱擁を、門の前に集まっていた人々が見守っている。中には目元を拭う人もいて、彼らがアリアちゃんの家に仕える人たちだというのは何となくわかった。
「それにしても、よく無事に戻って来れたものだ」
「ミナツさんが助けてくれました」
「ミナツ……?」
アリアのお兄さんがこっちを見る。私はとりあえず「どうも」と会釈をしておいた。
お兄さんは甲冑を着ていて、腰には剣を携えている。騎士的な人なんだろうか。
「君が妹を助けてくれたのか?」
「まあ、成り行きで。偶然、アリアちゃんの護衛の人たちがドラゴンと戦っていたところに出くわしたものですから」
「礼を言う。妹を助けてくれてありがとう。俺はバルキュリエ・ロードランドだ」
「ロードランド?」
あれ? バリュキュリエってアリアちゃんの苗字だよね? どういう意味なんだろう?
「ああ、すまない。ロードランドは騎士の称号なんだ。本名はアレク・バルキュリエという」
「なるほど。私は水瀬美奈津です」
「ミナセ・ミナツか。君はどこの国の者なんだ?」
「どこって……」
どう説明すればいいのだろう。別の世界の日本という国。なんて説明をして、はたして納得してくれるだろうか。下手なことを言えば怪しまれてしまうかもしれない。
「えーっと、東の方の。海を越えた向こうにある……」
「ニホン、という国か?」
「えっ⁉」
アレクさんの口から日本という言葉が出てきたことに、私は心底驚いた。どうして、この世界の人が日本のことを知ってるの……⁉
「やはり、君はマレビトなんだな」
「まれびと……?」
「こことは違う別の世界。異世界のニホンという国から、この世界に訪れる人々のことを我々はそう呼んでいるんだ。マレビトがこの国を訪れるのは、俺の知る限りではおよそ百年ぶりになる」
「百年ぶりって……」
そんな昔に、私と同じようにこの世界に来た人が居たんだ……。
……いや、もしかすると無事にここまで来た人が百年前に居たってだけで、実は毎日のように誰かしらがこの世界にやってきていて、ここに辿り着く前にドラゴンの餌食になっているのかもしれないけど。
嫌な妄想しちゃったなぁ……。




