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第十三話 金髪幼女と朝食を

「起きてください、ミナツさん。朝ですよ!」


「んぁ……」


 ゆさゆさと体を揺さぶられて、私は夢うつつの世界から目を覚ます。


 何か、とても悲しい夢を見たような気がするけど一瞬で忘れた。重たい瞼を開くと、金色の髪の可愛らしい女の子と目が合う。


「おはようございます、ミナツさん」


 にっこりと微笑む、エプロン姿の金髪幼女。これは夢か幻か。


 いいや、現実だ。


 そしてどこからともなく、美味しそうな香りが漂ってくる。


「おはよ、アリアちゃん。いいにおい……」


「朝食できてますよ。今日は珍しく鳥さんが卵を産んでくれたので目玉焼きです。貴重なたんぱく源ですからしっかり食べてくださいね」


「タンパク質って概念あるんだ……」


 私はぼーっとする頭に浮かんだツッコミを口にした。またどうせ、いつの時代かのマレビトが栄養学でも持ち込んだのだろう。


 深くは考えないことにして、んーっと伸びをする。昨夜は久しぶりにふかふかのベッドで眠れて、しかもアリアちゃんの添い寝付き。悲しい夢を見たような気がするけどすぐに忘れたので快眠と言って差し支えない。


「ほら、顔を洗ってきてください。今日はミナツさんの初登城の日なんですから! シャキッとしなきゃダメです!」


「はいはい。シャキッとシャキッと」


 アリアちゃんにタオルを押し付けられて、トボトボと洗面台に向かう。


 金髪幼女に甲斐甲斐しく世話を焼かれて過ごす朝の時間。これぞ異世界って感じがして何とも良きだ。


 昨日お姫様から王国魔法師に取り立ててもらった私は、当面の間バルキュリエ家のお屋敷でお世話になることになった。


 家主のアレクさんは働き詰めでめったに帰ってこないとのことで、アリアちゃんに一緒に住んでほしいと懇願された形だ。アレクさんからも、妹のことをお願いしたいと頼まれた。


 私としてはちょっと住み慣れつつあった牢屋で寝泊まりしてもよかったのだけど、頼まれてしまえば断るわけにもいかないわけで。


 こうして、甘んじてアリアちゃんに世話を焼いてもらっているわけである。


 洗面台で顔をパシャパシャ洗う。洗面台といっても、排水溝につながった穴がある桶が置いてあるだけで、水は魔法を使って出さなきゃいけない。


 この世界の人は、誰もが魔法を使えるそうだ。この洗面台のように魔法を前提にした器具もあり、日常生活の中に魔法が溶け込んでいる。魔法を使えたからよかったけど、もしも使えなかったら不便だっただろうなと思う。


 顔を洗って食卓に顔を出すと、テーブルには二人分の朝食が用意されていた。


 目玉焼きに、ゴボウのような根菜類っぽいものの和え物、主食は蒸かし芋だった。地下に根を張る野菜がメインなのは、地上に出なくても収穫できるからだろうか。


 牢屋で出されていた料理も似たような構成だった。


「これ、アリアちゃんが作ったの?」


「はい! ミナツさんのために腕によりをかけました」


 ふふん、とアリアちゃんは得意げに平らな胸を張る。


「どうぞ、召し上がってみてください」


「うん。じゃあいただきます」


 木製のお箸を持って、和え物から口に運ぶ。口に入れた瞬間、優しくてどことなく懐かしい味がした。


「美味しい……!」


「やった! お口に合ったみたいで何よりです」


「うん、すごく美味しいよ。まるで……」


「まるで?」


「あー……いや、うん」


 まるでお祖母ちゃんの手料理みたい……なんて言うとあんまり嬉しくないかなと思って口をつぐむ。誉め言葉ではあると思うんだけど、小さな女の子がそれを言われて果たして嬉しいかどうか。


「とにかくすごく美味しいよ。アリアちゃんは料理が上手だね」


「シュミナお姉さまほどじゃないですよ。アリアの料理は全部シュミナお姉さまから教わったものです」


「へぇー! シュミナさんって料理できるんだ」


 ちょっと意外だ。何となくそういったことに無頓着な人だと思い込んでいた。


 でも、そっか。よくよく考えれば元の世界みたいにレトルト食品や宅配サービスのない世界だと、自炊はできて当たり前なのか。むしろ出来なきゃ死んでしまいそうな気がする。


 私もアリアちゃんが世話を焼いてくれなくなったら、食事の準備ができずに死ぬかもしれない。アリアちゃんには末永くお世話になろう。


 朝食を終えたころ、屋敷の外から鐘の音が聞こえてきた。


「仕事の鐘の音です。この音を合図にしてみんな仕事に出かけるんです」


「ってことは、私もそろそろ行かなきゃいけないわけだ」


「ミナツさん、これに着替えてくださいね」


 アリアちゃんから手渡されたのは、洗濯されたのであろう私の学生服と紺色のローブ。寝巻を脱いでセーラー服を着て、その上からローブを羽織る。


「わぁ! 似合ってます、ミナツさん!」


「そうかなぁ?」


 紺色のローブは王国魔法師の証らしいのだけど、ちょっとサイズが大きくて動きづらかった。後で腰のあたりで切ってしまおうかな。


「それじゃ、行ってくるよ」


「はい! 言ってらっしゃいませ、ミナツさん!」


 アリアちゃんに見送られながら王城へと歩く。


 いよいよだ。私の夢を叶えるための第一歩。


「よしっ!」


 私はパチパチと頬を叩いて気合を入れてから、王城の門を通り抜けた。


next→第十四話


2020:11/2更新予定

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