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第十二話 大義名分

 迫りくる風の魔法に、私は咄嗟の判断で魔力をぶつけた。二つの光の粒子はせめぎ合い、反発し合い、やがてパッと互いに弾け飛んで消滅する。


 やっぱり、思った通りだ。魔法の本質もまた、光の粒子と変わらない。同程度の魔力をぶつけてやれば、弾け飛んで何事もなかったかのように消滅する。


「魔法を、消し飛ばしただと……⁉」


「まさか、魔法に魔力をぶつけた……? 魔力にそんな使い方があったなんて!」


「アリア、無事か⁉」


 驚愕の表情を浮かべるシンヤさんや興奮した様子のシュミナさんを無視して、アレクさんが慌てて駆け寄ってくる。アリアちゃんの前に膝をつくと、彼女の無事を確認して安堵の息を吐いた。


「ミナツさんが、また助けてくれました」


「……ミナツさん、ありがとう。一度ならず二度も君は妹を救ってくれた。本当にありがとう……!」


 アレクさんは額が地面につきそうなくらい頭を下げて、何度もお礼の言葉を口にする。膝までついているせいで、まるで土下座をされているみたいだ。


「そんなかしこまんなくていいって。体が勝手に動いただけだし。それよりもアリアちゃん、どうしてあんな危険なことしたの?」


「だって……。ミナツさん、王城に行ったきり三日も帰ってきませんでした。お兄様も戻ってこなくて、アリアは心配で……。シュミナお姉さまにも相談はしていました、けど……」


「そっか。ごめんね、心配かけて」


 今にも泣きそうな顔をするアリアちゃんを、優しく抱擁する。


 アリアちゃんは私の制服をきゅっと掴みながら、シンヤさんに視線を向けた。


「ミナツさんは、アリアを二度も助けてくれました。危険な人なんかじゃありません!」


「だが、その女はマレビトで……」


 シンヤさんは続く言葉を口にだせないようだった。アリアちゃんに向けて魔法を放ってしまった負い目からか、私たちからは目をそらして黙り込んでしまう。


「シンヤよ、もうその辺でよいじゃろう。お主の負けじゃ」


 王座から立ち上がり、お姫様がコツコツと大理石を鳴らしながらこっちに向かって歩いてくる。


「怪我はなかったかの、アリア」


「は、はい! 私は平気です、クリスティナ様!」


「それは何よりじゃ。まったく、お主が飛び出してくるのが見えた時には、さすがのわしも肝が冷えたのじゃ」


 お姫様はそう言って苦笑しながらアリアちゃんの髪をくしゃくしゃと撫でると、私の方を見て、


「ミナツよ、感謝するのじゃ。お主がアリアを守らねば、わしは妹のような存在と大切な右腕を失っておったじゃろう」


「……っ」


 その言葉に、遠くでシンヤさんが肩を揺らす。お姫様はその様子をちらりと一瞥して微笑んだ。


「さて、こうも活躍されては何か褒美を出さねばならぬのぅ。ミナツよ、何か欲しいものはあるかの?」


「欲しいものかぁ」


 私は唇に人差し指を当てて、考えるふりをする。


 褒美なんて、お姫様の中じゃとっくに決まっていることだろう。上手くこの状況を利用したものだ。


 お姫様は初めから、シュミナさんの申し出を受けるつもりだったと思う。でなきゃ、私をいつまでも置いておく理由がない。


 利用するつもりがなければ、殺すか追放すればいいだけの話だ。食料も人材も不足しているこの国で、私を牢屋で飼い殺しにしておくのは無駄でしかないのだから。


 三日前もそう。私がアリアちゃんを助けたという事実を口実にして、私を留め置く大義名分を作った。


 それがなければシンヤさんは私を殺すか追放するように主張しただろうし、アレクさんもその意見に賛同したかもしれない。マレビトがもたらす『希望』に期待しているお姫様としては、そうなっては都合が悪かっただろう。


 お姫様は私の演技を察したのか周りにばれないようウィンクしてみせて、


「ならば、こういうのはどうじゃ? お主を、国家魔法師に任命するというのは」


「うん、すごくいいアイデアだと思うよ」


「そうじゃろうそうじゃろう」


 お姫様はカッカッカッカと愉快そうに笑いながら、一方でシンヤさんに鋭い視線を向ける。


「シンヤよ。よもやここまで来て、わしに反対するとは言わんじゃろうなぁ?」


「……滅相もございません。俺は姫殿下に忠誠を誓ったあの日から、殿下の意思に従い続けると心に決めております」


「ならば、文句はあるまいな。シュミナ、お主の申し出を受け入れるのじゃ。今ここに、アメリア王国王女クリスティナ・アメリアの名において、マレビト、ミナセ・ミナツを国家魔法師に任命する!」


 そう宣言したお姫様をぼーっと見つめていたら、アリアちゃんに服を引っ張られた。


「ミナツさん、お辞儀! ちゃんとしなきゃダメです!」


「えっ? あー、……こんな感じ?」


 とりあえず、この前みたアレクさんたちを真似て片膝をついて「ははー」と頭を垂れる。これで正解なのかわからないけど、アリアちゃんは満足そうに頷いていた。


「ところでミナツよ。お主、さきほど夢を叶えたいと申しておったが、いったいどんな夢を叶えたいのじゃ? シュミナには聞かせたのじゃろう? わしにも聞かせてはくれぬかの?」


「ああ、うん。私、子供の頃からずっと空が飛んでみたかったんだよね。どこまでも続く大空を、どこまでも自由に飛ぶのが私の夢だよ」


 ――だから。


「とりあえず、邪魔なドラゴンを一匹残らず駆逐するのが当面の目標かな」


「なるほどのぅ。ドラゴンを一匹残らず…………………………えっ?」


 お姫様はこの後「わしはとんでもない災厄をこの国に招き入れてしまったのかもしれんのじゃ……」と三日三晩悩み続けたそうだ。


next→第十三話


2020:10/31更新予定

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