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余話:溝鼠の思い出

ちょっと時間軸が戻って、番外編的なSSです。ラッテ視点です。

「才能にはどんなものがあるか」って聞くと、たいていの奴はやたらに大雑把な答え方をする。運動ができる、頭が切れる、手先が器用等々。


 でもたいていの場合、才能というものは幅がなく、もっと細かい一点に集中してるもんだ。例えば、運動ができる中でも、走るのが速い奴と泳ぎが上手い奴は別だし、泳ぎが上手い奴にも早く泳げるのと長く潜れるのがいるとかな。


 わかりやすい才能ですらそうなんだから、ごく小さな、目立たない一点に集中した才能というのは見過ごされやすいぜ?


 俺が生まれ持った才能も、そんな地味な側の一つだった。だから、早いうちに自分でその才能に気づくことができたのは、本当に幸運だったとしか言いようがねぇ。


 きっかけは、親父と一緒に飲み屋で賭博を見物していた時のことだった。賭けの内容はわからなくても、俺には誰が勝つか手に取るように分かった。次はあいつだ、次はそいつだと当てていったら、いつの間にか俺と親父の周りに人が集まってきて、今度は俺が何連続で勝負を当てるかを賭け始めたっけ。


 しまいには向こうで賭けてた連中が俺に直接勝負を挑んできたから、親父をせっついてさっさと逃げた。

 理由は簡単だ。俺は別に賭けが強かったわけじゃない。俺にわかったのは、イカサマをするのは誰かってことだけだったからな。


 不運だったのは親父がろくでなしだったことだ。俺の才能を知った親父は、次の日から詐欺の手口を叩き込んだ。ここでまともに商売人になってりゃ、別の人生があったのかもしれねぇな。


 まぁそんなわけで、長いこと、カモを見つけるのと、その限界を見極めるのが俺の仕事だった。


 勘違いされやすいが、信じやすい甘ちゃんを狙うわけじゃない。そういうやつは大体周囲に頭の切れる仲間がいるからだ。むしろ、疑り深い孤立した馬鹿を探し出すのが一番やりやすい。それから、カモになるかならねぇかは顔で8割方わかるが、残りの2割を詰めるには何回か話をする必要がある。最後に一番肝心なのは引き際だ。カモの限界を越える前に忽然と姿を消すこと。どんな気配を残すわけにもいかない。


 そんなちょっとしたコツも、俺は誰にも教えられずにすぐ身に着けることができた。気づいたときには結構いい暮らしができるようになってたもんさ。


 だがそんな俺にも、自分の人生がこれで終わりだってことに気づく日がやってきた。ある朝親父を見たら、カモの側の顔をしてたんだ。びっくりして色々話してみたら、もう完全にそっち側(・・・・)の反応をしやがる。ああ、もうだめだって思ったね。案の定、1週間経たないうちにお縄になったよ。


 で、人生が変わったのはこっからだ。親父が下手こいた相手が大物、というかご貴族様だったってんで、親父と俺はご領主様の前で裁判を受けたんだ。結果はもちろん有罪、親父は死刑。俺は子供だからってことで一旦修道院で預かってもらうことに……なったはずだったんだが。


 終わってからすぐ、知らない貴族に声をかけられた。うちで雇ってやるからついてこいってな。嘘じゃないことはすぐわかったからついていったんだが、行った先がまさかのご領主様のお城だったのよ。この貴族はご領主様のところの執事だったんだ。


 このご領主様ってのがやばいのなんの。動物で言うところの捕食者の側だってことが一目でわかったよ。計算高くて頭が切れるし、情はない。そんなご領主様が生きる宮廷っていう世界も騙し騙されの伏魔殿だそうで、汚れ仕事のできるやつを囲いたかったってわけだ。


 とはいえ俺には断る選択肢なんてなかった。別にやることは今までと特に変わらねぇ。新しくつけられた名前が溝鼠(ラッテ)ってのはさすがにいい気はしなかったが、今までの人生振り替えりゃそう呼ばれて当然だ、反論する気も起こらねぇ。


 表向きの仕事も用意してもらえたし、今までの経歴も全部真っ白。親父に指図されることもなく、指令が出た時だけ仕事しに行けば、表の仕事で利益がなくても衣食住が保証される。いい条件だろ?


 もちろん、危ない仕事もたくさん降ってきたが、そんなの裏街で生きてきた俺には慣れっこだ。仕事は基本的に単発だから、そつなくこなしていけば、案外前より平和な生活ができてたってもんよ。


 そのうち俺以外にも何人か似たような奴らが来て、古株の俺は気づけば隊長みたいな立場になってた。


 そんで、10年くらいたった時だったか? 俺は今度こそ人生最大の衝撃を受けた。ご領主様がこの仕事の統括を息子に譲るってんで、会いに行った時のことだ。


 そこには塔に閉じ込められたドラゴンがいた。言ってることわかるか? 捕食者どころじゃねぇ、存在自体が人間の常識の外にいる奴がいたんだよ。ほんの10歳くらいのガキの顔をして、その頭の中には世界が丸ごと詰まってるって感じだった。殺されるかもしれないっていう意味以外で他人を怖いと思ったのは、あれが初めてだな。


 この新しいご主人様は医学とやらに興味があるとかで、今までとは違う雑用みたいな仕事も増えた。俺には学がないから、あんまりそっちの方は期待に沿えなかったがな。


 んで、手伝いができるやつを探して来いって命じられて、見つけてきたのが(オイレ)さ。妙ちくりんな割に器用な奴で、どっちの仕事も淡々とこなす。表の仕事が派手なのだけ心配だったが、俺が思ってた以上に気に入ってもらえたみたいで良かったよ。



 ……おっと、ひさしぶりに人探しの依頼を受けたもんだから、思わず思い出に浸っちまった。


 さ、カモは見つけた。あれは頭も根性もしっかりしてるし、身分もちょうどいい。今はまだ獣の死体を受け渡すだけだが、将来的に仲間に引き入れられるかもな。



「よぅ坊主! ここ数日お前を見てりゃ、毎日怒鳴られたり殴られたり可哀そうだなァ? そんなんじゃ嫌になるだろ? 質のいい原革が無料(タダ)で手に入る伝手があるんだ。ちょっと話聞いていかねぇか?」

元詐欺師のラッテのお話でした!

今回の話で分かる通り、隠密は方伯に雇われた人とヨハンに雇われた人がいます。そのうち他のキャラの過去話も書いていきたいですね。

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