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この時間は

 ふと気が付くと、光の中に私はいた。 まぶしさに目を瞬かせながら周囲を見渡す。白、白、白。白壁に白い床の部屋の中にいるのかと思ったが、それにしてはあまりにも白の色が鮮やかで眩く、良く見ても壁と床の境目が分からなかった。まるで、大きな白く発光する球体の中にいるような。



「為すべきことを、為したようですね」


 しわがれた声に振り返る。



「ロベルト修道士、様?」



 唇の端をわずかに上げただけの、懐かしい微かな笑顔。私は思わず走り寄って抱きついた。



「おっと……よし、よし。あなたは本当によく頑張りました。信じていましたよ」



 骨ばった大きな手が私の頭を撫でる。



「やはり、愛は全てに勝ります。あなたの人生は、とても尊いものです。僅かながらあなたに関われたものとして、私はあなたが誇らしいですよ」


「私は……愛に生きることができたでしょうか」


「仮にあなたがそうでなかったとしたら、出来た人間などいやしませんね」


「ヨハン様はご無事なのでしょうか……」


「もちろん。あなたの功績です」


「ありがとうございます。修道士様が夢に出てきてくださったから、私はヨハン様を追いかけることができました。そのことがヨハン様を救ったのなら、きっかけを与えてくださったロベルト修道士様のおかげです」


「私はただ、背中を押したまでですよ」



 優しいお言葉に、胸がふわっと温かくなる。修道士様は、亡くなった後でさえも、ずっと私の師でありつづけてくださった。



「本当に、立派な女性になっちゃって!」



 横から割って入るような女性の声に振り返ると、今度は下がり眉のふくよかな顔が目に入る。



「マルタさん!」


「街で暮らしてた頃は、あんなちっちゃなかわいいお嬢ちゃんだったのにねぇ。隠密として鍛えられたわけでもないのに、ご主人様の命を救うまでに成長するなんてびっくりだよ!」


「そんな大それたことをするつもりじゃなかったんですけど、とにかく必死で……」


「うん、うん。この人のためにならなんでもできるって心の底から思えるのは、幸せなことだねぇ。それにしても、ヴィオラちゃんにあんないい人がいただなんて、なんで言ってくれなかったのよ」


「だ、だって想いを公言できるようなお方じゃ!」


「あははは! 顔真っ赤にしちゃって、かわいいんだから」



 ふいに人の気配を感じて視線を横に滑らせる。今度はウリさんとフリーゲさんがいた。



「ああ、ウリさん! ずっとお話したかったんです。ヤープは本当に立派になりましたよ。もう一人前の隠密です。ウリさんの最期は本当に悲しかったですけど、あの演説は奇跡物語になって、国中の人が聞いています。それからヨハン様は十字軍に参加したんですけど、ウリさんのおかげで……」



 堰を切ったように話す私を見て、ウリさんはからからと笑った。



「ありがとうございます。わざわざ説明してくださらねぇでも、ちゃんと見てましたぜ。仕事もせず息子の成長をゆっくり見守るってのも悪くねぇもんですね」


「ちゃんと見てた……戦争の帰り道の歓待も、皇帝の悪評も?」


「もちろん。ヨハン様はこの世界に必要な、大切なお人だ。その窮地を救ったお嬢さんは、少なくとも俺たちにとっちゃ英雄です」


「本当そうですよ! 傷の処置もお見事でした。最初の練習台になったことを誇りに思いますよ!」



 フリーゲさんの屈託のない笑顔に、私は自分のしたことが肯定されているという実感を得た。為すべきことを、為したのだ。最後の最後にヨハン様を助けることが出来たのなら、この人生に後悔など一つもない。



「あ、あの……もしかして皆さんは、私を迎えに来てくださったのですか?」



 私が恐る恐る尋ねると、四人は顔を見合わせて笑い出す。どういうことかと思いながら見ていると、奥から進み出てきた新たな人影があった。



「この時間はただの褒美だ。さぁ、早く戻れ。弟をよろしく頼む」

ここまでお読みくださりありがとうございます。

次回、最終話です。

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