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身体を作るもの

 ヨハン様のお食事の件は、なんと私が預かるところとなった。居館に連絡して次回のお食事の内容から整えるのかと思っていたが、私も回復のためには同じものを食べるので、薬学の勉強のためには丁度よいのではないかというヨハン様のご提案だ。


 父と二人で暮らしていたころはよく食事も作ってはいたものの、お城に来てから料理をする機会はなかった。そのため、本当はいきなりヨハン様にお出しできるだけのものをお作りできる自信はなかったので、ケーターさんに頼んで一食分練習させてもらおうとしたのだが……ヨハン様はその習作(・・)も召し上がりたいとおっしゃり、結局いきなり本番となってしまったのである。


 作ったのはエンドウ豆のポタージュだ。エンドウ豆は柔らかすぎるくらいに茹で、よくつぶし、裏ごしをする。続いて、玉ねぎをすりおろし、鍋で少し炒めてから、アーモンド、塩、砂糖、ガランガーの粉を加え、白ワインで煮込む。わたしはそこに、食欲を促すためのセイボリーとフェンネル、憂鬱を抑えるというバジルの種、気分を明るくするというボリジを足し、最後にパセリを添えた。



「良い香りだな」


「お料理をするのは久しぶりなので、味が良いかどうかはわかりませんが……」


「気にするな。皆、部屋に行こう。一緒に食べるぞ」



 ヨハン様と私はポタージュのみで、ケーターさんとジブリールさんにはパンとチーズを添えて。たくさんの薬草を使って出来上がったスープは、少々癖があるが、風味豊かで、いかにも体力がつきそうな感じがした。


 それにしても、これだけの薬草が既に揃っていたことには改めて驚きを禁じ得ない。この塔の書庫の薬草は、今は小さな薬屋くらいの品ぞろえがあるような気がする。


 さて、問題はこの味がヨハン様のお口に合うかどうか。ちらりとヨハン様のご様子をうかがうと、目が合った。



「美味い。いきなり任せたにもかかわらず上出来ではないか」



 ヨハン様はそういって微笑んでくださった。



「ありがとうございます。ただ、薬草の主張が大きいので、次回からはガランガーは省略しようかと思います」


「そうか? 俺はこのままでも構わんぞ。薬効としてはどうなんだ?」


「ガランガーは身体を温めるので、寒性に傾いた身体を中和するには丁度よいかもしれません」



 それは祖父の本に載っていた知識だ。ほかにも、フェンネルについての記述は、ヨハン様にお借りしたいくつかの薬学の本にみられた記述とも一致していた。



「ならば入れておけ。ジブリールの忠告には従っておこう」


「かしこまりました。では、次回以降もお入れしますね。このスープはエンドウ豆をたくさん食べているのと同じことですので、普通のスープよりも体力を回復しやすいと思います」


「これからしばらく手を煩わせるが、お前が思うように処方(・・)してくれ」



 ポタージュはケーターさんとジブリールさんにも好評だった。特にジブリールさんは、先刻話題に上がったセイボリーとボリジだけでなく、フェンネルやバジルの種を追加したことを褒めてくれた。また、豆は生命力を増すので、衰弱している時には効率よく回復させることができるのだという。食べ過ぎると頭が悪くなると言われているので少し心配していたが、ジブリールさんは笑ってそれを否定した。



「Η σούπα σου είναι πολύ καλή. Για να πούμε την αλήθεια, το μέλι είναι καλύτερο από τη ζάχαρη.(非常に良いスープですよ。本当を言うと、砂糖よりも蜂蜜のほうがよりよかったですが)」



 サラセンでは蜂蜜が薬として扱われるのだそうだ。生命力に満ちており、体力を底上げするので、ジブリールさんも病人にはよく食べさせるのだという。のどが腫れていたりして、ポタージュを飲むのも難しいような患者には、蜂蜜を薄めたものをひたすら飲ませ続けるらしい。


 いきなり薬を与えるより、まずは食事から。食事こそは身体を作るものであり、人間の行動の中でも最も重要なものなのだ。それを預かる以上、持てる知識を駆使して挑もう。私は料理人ではないが、「おいしいもの」ではなく「身体によいもの」を作るという点だけ見れば、料理人よりも長けていてしかるべきなのだから。

すみません、10/11は更新おやすみいたします。

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