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伝える者と使う者

またしても遅刻ですみません。読みに来てくださって本当にありがとうございます!

 ヨハン様への報告を終えたラッテさんと私は、書庫へと場所を移した。正直に言えば、祖父のこともロベルト修道士様のことも、誰かに相談しようと思っていたわけではない。修道士様から与えられた問題は自分で解かなければ意味がないし、家族のことについては父と14年も過ごしてきた私が一番わかっているべきことだ。


 それでも、気になることがあるなら聞く、と言ってくれたラッテさんのお言葉に甘えたのは、ヤープの成長をこの目で見て実感していたからだった。隠密見習いとしてラッテさんの傍にずっとついていたヤープは、ほんの1年ほどで、ローマから一人で大きな報告を持ってくるまでになっている。ヤープをそこまで育てたラッテさんとお話をすれば、直接の答えは聞けなくても、頭の中のもやを晴らすためのきっかけがつかめるかもしれない。訳も分からず堂々巡りをしているよりは、そのくらいの手掛かりはもらっても良いのではないか、と思ったのだ。



「……で、ただいま絶賛お悩み中ってわけだ」


「はい……」


「つっても、理由はひとつしかないわな。ヘカテー、ロベルト修道士様に何言われた?」


「えっ、さ、さすがですね」


「さすがもなにも、塔の中で引きこもりっぱなしの嬢ちゃんが突然お悩みとなりゃ、最近頻繁に会うようになった人が原因に決まってるだろ。ヨハン様に変わったご様子はなかったしな」



 言われてみればその通りだった。私は、祖父の人物像に戸惑って修道士様にご相談し、情報の扱い方について教わったこと、修道士様がなぜ私にそれを教えたかを問題として出されたことを話した。



「問題と言われた以上、自分で考えようと思っています。ただ、父や家族のことも気になりますし、前に修道士様には、私が将来この塔を出るだろうというお話をされたこともあって……考えることが多すぎて頭の中が散らかっているといいますか……」


「なるほどな。まぁ、問題(・・)の件については俺も答えねぇけどよ、要は取っ掛かりが欲しいんだよな?」


「そうですね……相談した結果をまた他の人に相談するのは気が引けますし、しかも修道士様を連れてきたラッテさんにこんなことを話すというのは、ちょっとずるいような気もしますが」


「そこまで考えてんなら十分だろ。じゃ、ちょっとだけ手助けしてやるよ。ヘカテー、今日俺が来てから、ヨハン様とお話しするまでのこと、思い出してみろ」


「え? えっと、ラッテさんが私の部屋に寄っていらして……それから、ヨハン様のお部屋の前でご挨拶をして……あ、でもラッテさんは私が一緒にいることを伝えていなくて、私が入っても良いかをお伺いして……」


「だな。それで? ヨハン様はなんておっしゃった?」


「『当然だ』とおっしゃいました。それで、お部屋に入るなり今度は『お前、まだ気づいていなかったのか』って……あ」



 その時は不思議に思ったヨハン様のお言葉だったが、改めて時系列を追って振り返ってみると、整合性が取れていた。



「もしかして、報告の際には私を連れてこいって言われてます?」


「おう、正解! やるじゃねぇか」


「いえ、今まで全然気づいていませんでした……気づくまでどのくらいかかるか試されてたってことですよね。まだ気づいてなかった、と言われてしまうなんて、私、ヨハン様を失望させてしまったでしょうか」


「まぁ、そんなことはないだろ。ヘカテーの部屋は通り道だからな、不思議に思わなくても無理はねぇよ。で、なんでそんな命令が出ていると思う?」


「それは……難しいですね。一瞬、私を隠密にしようとなさってるのかと思いましたが、それは以前否定されていましたし……」



 考え込む私を見て、ラッテさんは笑った。



「なるほどな。そういうとこが、あんたが商人の娘として育てられたとこなんだろうな」


「え? それ、今何か関係ありましたか……?」


「本当はこれを言っちゃ教えすぎな気もすんだが……ヘカテー、情報ってのは、伝える人間と使う人間がいるんだよ。で、使う人間は伝える人間を使うんだ」



 そういわれて、急に頭の中のもやが消えた気がした。私は今までずっと、自分を使われる立場であると疑わずに考えていた。しかし、求められている役割が逆だとすれば? ロベルト修道士様がおっしゃっていた、舌戦を必要としない(・・・・・・・・・)場に置けば(・・・・・)よいだけ、との言葉も理解できる。



「私には、使う側の役割が求められてるってことですか? だとすると、ロベルト修道士様が私に情報の使い方を教えてくださったのは、ヨハン様に求められている役割を全うさせるため?」


「おう。まだあんたには役割を全う(・・・・・)するほどのことは求められてないだろうけどよ」


「そうなれるように育てたい、っていうところでしょうか」


「ついでだからもうちょい踏み込んでみな。なんで修道士様はヘカテーのことを育てたいんだ?」


「えっと……」


「ま、俺の手助けはここまでだな。でもすっきりした顔してんじゃねぇか、ははは!」


「そうですね、ありがとうございました!」


「あ、俺に答えを聞いたとかいうなよ? 頭ん中整理するのを手伝っただけだからな?」

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