大衆の娯楽
オイレ視点です。そこまでではありませんが若干の拷問描写があります。苦手な方はご注意ください。
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お陰様でPVが10万、ユニークアクセスが1万を越えました。ほんの2週間前には信じられなかったことです。皆様にお読みいただける奇跡に感謝して、今後も楽しんでいただけるよう更新を頑張ります!
光の差さない穴倉の中で、腐った藁に半分埋もれ、両手両足に鎖がまかれてほとんど動けない。それでも僕は内心ほっとしていた。今身に着けているのは肌着だけ……でも、完全な裸に剥かれなくてよかった。もしそうだったら初っ端から計画が失敗するところだ。
表に出るときの僕の姿は、派手な化粧を施した小太りの変な奴。大道芸は大衆の娯楽、大衆っていうのはたいてい貴族が大嫌いだ。だからそれは、肥え太った貴族を揶揄するためのものだった。まぁ、実際にこの街に来て貴族にお仕えしてみたら、全く太ってなかったんだけど、それは単に僕がとびきりの当たりをひいたっていうだけの話だからね。
それにしても、よくもここまでギッチギチに縛れるものだ。縄抜けを知っているはずの僕もこの拘束はほどけそうにない。捕吏というのも熟練の職人なんだなと思い知らされる。ここへ友人が遊びに来るまでの間は、ただぼーっと蠅の音を聞いている以外にできることはなさそうだった。
さて、ここから僕の運命はどっちに転がるだろう? 今まで生きてきてそれなりに賭け事も楽しんできたけど、正直これは最大の賭けだ。尋問に来た刑吏がハズレだったら、ドゥルカマーラなんてただのホラだと早々にゲロって人生終了。いや、最悪のケースではゲロっても終了しないことがある。刑吏本人はあくまで仕事だから、無駄な拷問を楽しむことはあまりないけど、長引かせるように言われることはあるからね。死ぬのは構わないけど、痛いのが続くのは嫌だなぁ。
……そうこうするうちに、人の気配が近づいてきた。刑吏がやってきたようだ。扉に手をかける音がする。さぁ、丁か、半か、いざ勝負!
「ひゅー、あったりぃー」
「なんだその反応は」
入ってきた人影は不機嫌そうに応えた。痩せすぎた体躯に、暗がりでもわかる真っ白な髪の毛と真っ赤な瞳、妙に整った無表情な顔。こんな刑吏はひとりしかいない。あまりにも死神然としたその姿は、処刑場に降り立つ大衆の負のスーパースターだ。
「いやぁ、ドキドキしたよぉ。担当が君じゃなかったらここで人生終了だからね、ウリ!」
「そうかい」
ウリは近づいてきて、ため息交じりに僕の顔を覗き込んだ。
「それにしても……あんたさん、もっと器用な男と思っていたが?」
「えぇ? 僕は器用だよぉ?」
「前々からわざわざ肉だの皮だの用意しろというから、何かとっておきの策でもあるのかと思っていたら、こんなことかい。捕まる前に逃げるくらいできたろうに」
「だって、一度ちゃんと捕まらないと、一生逃げ続けなきゃいけないじゃない」
「捕まったら処刑される可能性の方が高いと思うがね。もしその変装が事前にばれてたら、俺だってお上に言われるまま、あんたさんをバラすほかないんだが」
「その場合は、尋問中にうっかり殺してくれるでしょ?」
「俺をあんまり万能だと思ってくれるなよ」
面倒くさそうに受け答えをしながらも、ウリはてきぱきと鎖を解き、肌着を脱がせ、太った体型を演出するために身体に巻いていた肉を外す。いつもは藁やおがくずを詰め込んでいるが、冊子を配った時からは、いつ捕吏に掴まれても違和感がないよう、生肉を巻くようにしていた。皮剥ぎ人を兼ねるウリに用意してもらった、本物の獣肉だ。
最後に頬の内側に仕込んでいたわたを吐き捨て、顔を拭って化粧を完全に落とすと、僕はすっかり別人になった。
「うへぇ、さすがに丸一日経つと臭いがすごいねぇ」
「前の罪人の肉だと思ってもらうには、腐ってる方が丁度いい。それより、解いてやったんだから、ちっとは手伝え。急がねぇと怪しまれるぜ」
身体から外した肉をウリから渡され、一緒に壁に貼り付けていく。上向きの棘がたくさん付いた、拷問用の壁だ。
「本当は罪人を吊り下げてぶつけて、引きずり下ろすんだっけ? 改めて見るとエグいよねぇ。1回でズタズタになっちゃう」
「人間ってのは悪趣味なもんさね。自分の手は汚したがらないくせに、血を見るのは大好きだ。処刑も街中の人間が集まるし、大罪人の時なんか、わざわざここに見学に来るのもいる。あんたさん、運が良かったな」
「運じゃなくって、ちゃんと考えたよぉ、今回は教会が相手だもの。聖職者は尋問を見るなんて悪評が立つ真似はしないよぉ」
「そうかい」
肉を壁に貼り付け終えると、ウリは皮袋を取り出し、入っていた血を適当に壁にぶちまけた。これで血が乾けば、前にここで尋問された罪人の惨劇の跡に見えるだろう。
「用意周到だねぇ」
「まったく、言われずとも持ってきてやったことをありがたく思え」
「うん、ありがとぉ。よく考えれば僕の血でやんなきゃいけないとこだったねぇ。危ない、危ない」
「そこまで頭が回るなら最初から考えておけ。まぁ、捕まる前にその面へ痣を作っておいたのは褒めてやらんでもないが」
そう言ってウリは僕の頬を指さした。身代わりのふりをするにしても、素顔はどうしても晒す事になる。後々面倒なことにならないように、予め壁に顔をぶつけて大きな痣を作っておいた。目立って大きな特徴があると、人はそこしか認識できなくなるもの。これで、歯抜きのオイレの身代わりになったのは『頬に大きな痣のある男』だ。痣が消えれば自由になれる。
「晴れて僕はオイレじゃなくて、かわいそうな身代わりさんだぁ」
「ああ、よく考えたもんだ」
「あとは君が役人のところに行って、『聞いている容姿と違う』とか『身代わりをやらされたといっている』とかって言ってきてくれればいいわけだけど……何の準備をしてるの?」
ウリは道具箱から何かを取り出して、部屋の中央に置かれた長椅子のようなものに何か細工をしている。嫌な予感がする。
「もちろん後で行くがね、その前に多少いじめてやらねぇと、かえって疑われるからな」
「……はい?」
「大丈夫だ、加減はわかってる。あとで困るようにはしない」
「ま、待って!? 同じ娯楽提供者どうし、仲良くしよう、ねぇ!?」
「十分仲良くしている。さ、力抜いとけ? 筋がいっちまうと治りが悪くなるぜ」
そこからの記憶は、ちょっとおぼろげだ。多分覚えていないほうがいいような内容だったんだろうねぇ……
というわけで、ハラハラしていた皆様、ご心配をおかけしました。オイレは無事(?)生還です!
実を言うと、当初のプロットではそのまま退場する予定でした……が、あまりに人気が集中しているのと、私自身が彼を書いている時が一番楽しい、という理由で、必死で彼が助かる道筋を考え、なんとか破綻のないようプロットを作り直してこうなりました(拷問用の壁は捏造ですが)。愛は時としてキャラクターの命を救います。
ただ、今回は救うことができましたが、中にはどうしても助けられそうにないキャラクターもいるので、そこはご容赦ください……




