じゃが芋ばりゅー
また上がった。じゃが芋の価格がほんの少しだかあがった。きっとスーパーでは1個35円だったのが40円くらいになるだろうか。
そんなことを考えながら販売価格、利益、輸送費を暗算し買取価格を決め交渉する。
決められた品目を可能な限り、いやそれ以上で仕入れるのが俺の仕事だ。
いつもいつも数字ばかり。市場や他社の価格をチェックし自社の価格を査定し買取に動く。
ただ安く買い叩けしか言えない上司に辟易しつつも言い返すだけ疲れるだろうと、何も言い返さずに終わる。
いつからこっちの立場になったのだろうか。
たまに自分がわからなくなる。
なんとなく食品なら世の中からなくならないだろうと、食品業界へ就職活動し今の加工兼商社に拾われた。
研修の一環で、製造工場、営業、事務など一通り体験したのち今の調達職に配属された。
あまり体力には自信がなかったから現場よりはありがたい、と思ったのは最初だけでひたすら数字との闘いで残業が多く疲れがたまる。それと同時に酒は進み入社してから5キロくらい太った。
他の部署に配属された同期と飲むと自然と愚痴が進む。部署間同士のいざござはあれど皆上司への不満があることは同じだった。
皆相変わらずやる気があったのは就活の最終面接まででその後は、ただ死んだ魚の目をしているような連中だった。
それなりの大学を卒業して学がある分、余計にたちが悪いのかもしれない。
やる気は無く、自分で言うのもなんだが半ば地頭が良いせいで程度の低い上司への不満は募る一方だった。
そんないつもの愚痴大会で、賞与の話になった。この会社入っての初めての賞与。各々仕事の役割は違えど、新卒一年目には同じ額が支給される。
なんだかそれが違和感で仕方がなかった。
日々、じゃが芋の価格は変わる。じゃが芋だけじゃなくすべての食品が、天候による収穫具合や輸送費、外国産の輸入品などと比べられ変動する。
食材の価格、つまりそこへの価値はこんなにも目まぐるしく変わるのに、俺らの約1年分の価値は一率だ。
別にあいつらと同じことに不満はない。
貰えるに越したことは無いが、あいつら以上の価値があるかと言われれば自信はない。
なんだかよくわからない価値に価格という名前と数字をつける。
それを俺はほぼ毎日、適当な理由をつけて決めていく。
決められた枠組みの中だとしても、俺の数字一つで簡単に変わってしまう。
俺は何かの価値を変えるほど、大層な存在なのだろうか。
寧ろだれが決めるなら納得できるのだろうか。
そんなことを思っても俺の価格、給料は大して変わらない。
じゃが芋何個分かの価値が果たして俺にあるのだろうか。