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円卓会議 その3


「続いてエルフの国(エルヴンガルド)の代表【学園長】ガルシア=ハイウッド殿」

「……ガルシアだ」

「学園長が国の代表なのか?」


 未だ憮然としているガルシアに、当然の疑問を口にするクリス。それにウェールズの後ろに控えるグレアが補足する。


「エルフは元々、広い大森林の中で氏族単位で生活して国という概念がなかったのじゃが、アリア様が教育機関としての【学園】を設立し、そこを中心に発展して国となった歴史があるのです。であるから学園が国の中心であり、学園設立から現在に至るまでその長を務めるガルシア殿が代表となるのは、至極当然の流れなのです」

「アルグレア、お前はエルヴンガルドを国として認めていないのではなかったか?」

「む? そうなのかグレア」


 ガルシアの言葉にクリスがグレアの方を向けば、グレアは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ミルの前では好々爺然とした態度を崩さない彼の意外な表情に、クリスも驚く。


「……儂も若い時分に色々とありましてのう。あの国にはあまりいい思い出が無いためにそう(うそぶ)いておりましたが、個人的な感情を除けばエルフとドワーフの国は国として成立していると認めざるを得ますまいて」

「ちなみにドワーフの国の代表はガルシア殿の後ろにいる彼だよ。大霊峰地下にあるドワーフの国は外部とほとんど交流が無く、また位置的にも国力的にもエルヴンガルドの一部というか自治領のような扱いになっているんだ」


 そう言えばドワーフの国の代表はいないな、と呟いたクリスに、アリストが補足した。言われてみてみれば、確かにガルシアの後ろに髭もじゃで筋骨隆々な小柄な男性がいる、彼がドワーフの国の代表なのだろう。


「元とはいえ王だった者が、相手国の存在を認めないなんて穏やかじゃないね、下手すれば戦争モノだ」

「ヤツの妻……今は王太后か、それがクォーターエルフでエルフから迫害された過去があるのを未だに根に持っているのだ」

「おや、三百年たってもエルフはまだ純血主義など残っているのかい? アリストの存在でだいぶ少なくなったと思っていたんだけどね」

「エルフにとって三百年など近い過去でしかない。半世代も変わらぬのだから認識もそう簡単に変化せん。それに一部の差別の原因はそこの無茶苦茶するハーフエルフが原因だとも付け加えさせてもらうぞ」


 不機嫌そうに、ハーフエルフのアリストを見るガルシア。

 だがクリスにはその視線に、ただただ腹立たしいという熱くもあっさりとした色しか読み取れず首を傾げる。差別のようなモノがあるなら、嫌悪とか侮蔑のようなドロドロしたモノが含まれると思うが、と。


「そこは率先して君が融和政策をするべきじゃない? 随分嫌われているけれどいったい何をしたのさアリスト、ガルシアとの仲は昔は悪くなかったとおもうけど」


 怪訝とするアリアに、アリストは爽やかな笑顔で答えた。


「大したことはしていないよ。昔、グレア大司教の奥方が純血主義のエルフ氏族に差別されていた上に、無理やり結婚をさせないように攫われて幽閉されたから、グレア大司教と二人で氏族の村に攻め入ってボコボコにしたくらいかな。あとは別件だけど、アリアの伝説は捏造だと虚言を並べて外交問題にした挙句に私設軍で国境を越えたサンクロイア王国の馬鹿貴族をボコボコにしたり、アリアの作った議会制を廃して貴族政を復活させようとした魔国の懐古主義者の屋敷を従魔で囲んでボコボコにしたり、何故かアダムヘルの職場に腕試しと称して突撃してきた獣王をボコボコにして追い返したり、それと―――」

「あぁ、うん。もうそれくらいでいいかな」


 爽やかに何やってんのこの子、というアリアの視線を意に介さず。アリストはにこにこと幸せそうだ。聖王国以外全方位に喧嘩を売るスタイル。それは【狂乱の魔獣使い(フレイジーテイマー)】と呼ばれるわ。

 いや、アルバートとグレア大司教が遠い目をしている所から察すると、聖王国内でも少なからずやらかしているかもしれない。


「おかしい、取り合えずボコボコにするって、私の弟はこんなに脳筋だっただろうか」

「武力さえあれば大概の事は解決できると、アリア姉さんの背中を見て学んだのさ」

「見せる背中を間違えた」


 確かに個人の武力で無理を通した場面も多かったが、それは戦時中でありそれが最も犠牲が少なく済む方法だったからだ。平時でそれをすれば、それはそれはやっかまれるだろう。

 今からでも軌道修正しないと、と呟くアリア。アリアが言うならいくらでも修正するよと答えるアリスト。


 ガルシアは、そんな話を聞いても見捨てるどころか全く見損なった様子すら見せないアリアの懐の深さに、変わってないなと頬を緩め、次にアリア全肯定で彼氏面が激しいアリストに頬が強張り額の血管がますます浮き出る。


「しかし、それはそれこれはこれとして、エルフの代表者たる君がしっかり擁護してあげて欲しいんだけど。聞いた感じだとやり方はともかく、アリストは私利私欲じゃなく私が残した子孫や名誉や政策を守る為に動いてくれていたようだし、結果的にそれは平和の助けになったんじゃないかと思う。だから、トップの影響力は配下に対して凄まじいのを自覚して、もっと穏便に接してあげて欲しいんだ。アリストが小さいときには、それこそ弟のように可愛がってくれてた時期もあったじゃないか」

「僕がアリアの為に動くのは限りなく私利私欲なのだけれど」

「ちょっとお爺ちゃんは黙ってようねー」


 話の収拾がつかなくなるのでアリストの言葉をアリアが封じ、ガルシアを見る。

 化石レベルの初恋が実って見るに堪えないうかれポンチになっているアリストと、そんな初老ハーフエルフに慈愛に満ちた視線を向けるアリアに、ガルシアの表情が更に険しくなった。


「私個人としては、恋敵であった過去のしがらみも無きにしもあったが、今日までは敬意と親愛を持って接していたとも!」

「じゃぁ何で今日はそんなに険悪なんだい?」


 アリアの問いに、ガルシアは耐えきれないとばかりにきつく奥歯を噛みしめ、搾り出すように答えた。


「……尊敬できる人間であり、短き生しか持たぬトリスタンに遠慮して先を譲ったら、いつの間にか銅像になって待たされまくった挙句、復活したと知る前に弟のように思っていた男に抜け駆けされたのだぞ……納得などできるものか! お前がそんな女だとは思わなかったぞアリア!」

「え、人聞きが悪いなガルシア、それじゃまるで私が尻軽女みたいじゃないか!」

「アリア、彼はこう言いたいのです。「次は俺の番じゃないのか」と、残念ながら彼方のターンは来ません! これからはずっと僕のターンさ!」


 見せつけるようにアリアの傍らに立ち、肩に手を置くアリスト。そしてそれを憎々し気に睨みつけるガルシアに、アリアは再び呆れた。

 クリスも、アリアリさんホントにモテモテだったんだなぁと感心するやら呆れるやら。


「えぇ……ガルシア、君の告白は何度も断ったじゃないか。トリスと結婚してからは大人しくなったからてっきり諦めたと思っていたのに……っていうか、君ってトリスが生きている間に他のエルフの女性と結婚したよね? 奥さんどうしたのさ……あっ、まさか……」

「心配には及びませんよアリア、彼の第一婦人はお元気でほんの50年ほど前に4人目のお子さんをお産みになられました。さらに今の彼には第三婦人までおり、お子さんは計13人、お孫さんは28人、ひ孫は47人とエルフには珍しい程の大家族です」

「なぜお前は俺の家族構成にそんなに詳しいのだ!?」


 驚愕するガルシアを見るミルの目が、ゴミ虫を見るソレに変わった。

 ミルは思った。これだからイケメンはコミュニティーの生態系を破壊する、まさに陰キャの天敵、生物の多様性を蝕む害悪、無駄に遺伝子をばら撒く生物兵器、ヤリチン死すべし慈悲は無い、控えめに言って。


「……最っ低」

「うぐっ!?」


 思わず漏れたドライアイスより冷たい声が、小さな呟きだったわりに浸透するように室内に響いた。

 清楚で可憐な少女にそんな視線を向けられ心臓を貫かれたように呻くガルシア、同じく関係ないのに呻く者が数名、何故か恍惚とする者も若干名。

 おそらくツンドラのとばっちりを食らったのは複数の妻を持つ者だろう。そして恍惚とした者は……開いちゃいけない扉を開いちゃった系だ。


「ガルシアあんた、そんな状況で私を口説こうとするなんていい度胸だね」

「しッ、仕方ないだろう! お前が学園長なんて立場に祭り上げるから、族長であり国の代表となったからには、子を成さぬわけにはいかなかったのだ!」

「それは理解できるけどねぇ。でも私は相手は一人と決めて……“相手が生きているうちは”一人と決めているんだ。それはきっと、ミルちゃんとクリスも変わらないよ。そうだろう?」


 不意に話を振られたミルとクリスは、お互いが思わず相手を見てバッチリと目が合い、すぐに逸らした。


「まぁ……そうだな」

「……はぃ」


 恥ずかし気に下を向いて答えるミルと、こちらもそっぽを向いて言うクリス。

 そんな親友以上恋人未満な夫婦を面白そうに見て微笑み、アリアは周りを見渡す。

 二人をからかうついでに、『変な気を起こすなよ』と一同に釘を刺せた事を確認したアリアは、表情を引き締めると再びガルシアに向きなおった。


「だから、アンタは今の奥さん大事にしな!」

「むぅ…………分かった」

「よろしい。アルバート、こっちの話が長くなってすまないね、続けておくれ」

「あ、ああ。では各国の随伴者の紹介を―――」


 いつも自信満々傲岸不遜を地で行く学園長が打ちひしがれて項垂れるという、珍しい場面に呆気に取られていたアルバートはアリアの言葉に我に返った。

 咳払いを一つして随伴者の紹介に移り、軍務卿や外務大臣や騎士団長などといった面々の紹介が終わると、やっとクリスの出番がやってくる。


「余からの説明は天人方が来る前にあらかた終わっている。あとはクリスタール殿に軍の移動の件と、“世界のパワーレベリング”の件の話をしてもらうだけだ」

「ふむ。やっと俺の出番か、では説明するとしよう」


 水を向けられたクリスは立ち上がり、見た目堂々と、内心ちょっぴり威圧が漏れるくらい緊張しながら自身が行う軍の移動と、パワーレベリングについて説明しはじめたのだった。







 クリスが一通りの説明を終え着席しても、会議室はしんと静まりかえっていた。

 誰もが自国の者と目くばせし合い、戸惑いと疑念ががその瞳にありありと伺える。


「……本当に、そんなことが可能なのか?」


 誰もがお互いに何と発言すべきか決めかね、一向に口を開かないのに焦れたガルシアが、真っ先に口火を切った。

 それを皮切りに、ざわざわと喧騒が広まっていく。


「確かに、パワーレベリングの事も信じられませんが、まず第一に軍を転移させることが出来る魔法が実在するなど……」

「それが本当なら戦争と国防の概念が根本から覆ってしまう」

「然り、しかも数十万の軍をたった一人でとは……」

「ガルシア殿、世界最高の魔法使い(ウォーロック)としての見解は?」

「皆目見当がつかん。おそらく、まったく別系統の職業(ジョブ)のスキルだろう」

「さらに対峙するだけでレベルが上がるですと?」

「話がうま過ぎますな、お二人が鍛えた二人の内の片方が聖王国の王太子というのも……」

「“天人様なら何をしてもおかしくない”とは言いますが、いくら何でもこれは……すでにアルフレット殿下がレベル400のモンスターに対抗できるというのもねぇ」

「王太子殿下相手では実際に戦ってみろとも言えませぬし……もう一人の男子は?」

「聖王国の隠し玉では? 我々が彼に水を向けるのを待っているような、作為的なモノを感じずにはいられませんな」


 一部の者の疑念がガルシアの言葉で不信に変わり、戸惑いと不信と疑念がたっぷりと詰まった視線がクリスに集中した。


 見られたクリスは、まぁ俺が【神々の箱庭(ミニチュアガーデン)】アップデート前にこんな話を聞いても信じられないだろうな、と思う。特にこちらではスキルが好きに使え、バグもそのままだったりするのでなおの事ヒドイのだ。そして対人で経験値が爆上げでもらえるなど、あり得ないと鼻で笑うだろう。


 ここはいっちょ見た目派手な大魔法でもブチかまして黙らせるか、とクリスが考え始め、それを敏感に察したミルが「おっ、いっちょやっちゃう?」とばかりにワクテカし、そんな二人の不穏な空気に気づいたアリアが慌てたとき、ひときわ大きな声がその場に響いた。


「お前ら、グチグチグチグチ五月蠅(うるさい)いにゃ! 要はそこの天人の男が本当に転移が使えるかという事と、そっちの二人が本当に強いかってことが分かればいいにゃ! おい後ろの二人、うちと勝負するにゃ! そして、天人の男はうち達全員を勝負に丁度いい場所に転移させるにゃ! うちに勝ったら連邦は全面的に男の天人のいう事を信じて協力するにゃ!!」


 ターニャのその言葉に、突然矢面に立たされたアルトとフランシスカが思わず声を上げた。


「「えぇ!?」」

「いいなそれ、採用。そういう訳で【転移魔法陣(シフトポータル)】」

「「「「「「「ええええええ!?!?」」」」」」」


 話の流れに付いていけず全員が驚愕する中、問答無用で発動したクリスの【転移陣(シフトポータル)】がその場にいる者全てを巻き込み……。




 驚愕の絶叫を聞きつけた警護の騎士が扉を開けると、そこには無人となった会議室があるのみだった。







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