ロリコン疑惑再び
「ミルちゃ~んっ! 会いたかったよ~!!」
南門を出た場所にある集合場所にクリスとミルが着くと、騎士団と冒険者ですでにかなりの人数が集まっていた。
その中で、いち早く二人を見つけた三人組が駆け寄ってくる。エリーナ、エマ、ミリアの諜報員三人娘だ。
「ミルちゃんミルちゃんミルちゃん! 今日すごい! 可愛い! お姫様みたいだよ~!」
猛スピードでミルに駆け寄り抱きしめるエリーナ。残りの二人も遅れて追いついた。
「エリーナお姉ちゃん二日ぶりです。ちょっと会わなかっただけで大げさですよ」
「そんなことない! 今の私にとってミルちゃんに会えない時間は超苦痛なんだから! ミリアは一昨日会ってなでなでしたって自慢するし、エマは教会ですごい姿見たって言うし!」
ミルを抱きしめたまま捲し立てるエリーナに、ミルはされるがまま胸の中に納まり至福の時間を満喫する。
ミリアとエマも、エリーナが死にそうな顔でミルを探してアダムヘルを徘徊していた事を知っているためここは止めずに苦笑するにとどめた。
「二人とも大活躍の様ですね。冒険者ギルドでも巷でも噂になっていますよ。ものすごいスピードでランクアップする【純白の天使】と【佳麗の神人】ですって」
「ん、私も聞いた。三日でCランクとかあり得ない。噂になるのも当然。流石私の妹」
「マジかよ、勘弁してくれ」
「二つ名は別にいいですけど、教会で会ったって何の事でしょう。ちょっと意味が分かりませんワ」
大暴走に向けて背に腹は代えられないと、目立つのを承知でランクアップしたが、思ったよりずっと目立っていたらしい。
嫌そうに顔をしかめるクリスと、教会の件を必死にしらばっくれるミル。本人は誤魔化せたと思っていたが当然バレバレだった。
「あっクリスタール殿、私とミリアはお初にお目に掛かります。今回の依頼をご一緒させてもらうパーティ【誓いの剣】のリーダーで前衛をしているエリーナ=ラクウェルと申します。ミルノワール殿とエマからお噂はかねがね。今回の依頼はご一緒させて貰うので、よろしくお願いします」
「クリスさん、一昨日の治療院の依頼ぶりです。改めまして、エマ=ストリエルです。クリスさんが居るのならば心強いですわ。私は回復職ですが、クリスさんがいれば出番はなさそうですわね。よろしくお願い致します」
「ん。ミリア=ハイウッド、精霊術師で中衛。よろしく」
「これはご丁寧にどうも。クリスタール=ロアだ。知っているだろうが隣はミルノワール=ロア、俺が回復職、ミルが火力でペアパーティを組んでいる。よろしく頼む。
あとエリーナさんは、いきなりそんなキリっとされてもすでにキャラ崩壊してるから無理しなくていい。俺の事もクリスと呼んでくれ」
「むぐっ。……ミルちゃんの魅力に負けた自分が恥ずかしい。けど後悔はしていない! 分かったわ。私もクリスって呼ばせてもらうから敬称は不要よ。貴方たちもいいでしょう?」
頷くエマとミリアにクリスも頷き返し、和気藹々と自己紹介が終わるかに思われたところで、ミルが口を開く。
「ミルノワール=ロア、クリスの肉奴隷です。今朝も寝ている間に悪戯されました。とっても苦しかったです」
「おま―――」
クリスが何か言う前に、クリスの首筋に突き付けられるエリーナの長剣、フレイルを振りかぶるエマ、弓に矢をつがえ引き絞るミリア。
「待て、今のは質の悪い冗談だ。信じるな」
先ほどまでの穏やかな空気が一転して修羅場となり、周りの冒険者もエリーナ達の物々しい気配に何事かとこちらに視線を向ける。
「ホントに? ミルちゃんがこんな冗談言うと思わないけど、本当にそんな事してない? 私の目を見て言える?」
剣を突き付けたまま真顔で言うエリーナの目を、クリスも真剣な顔で見返す。ここで目を逸らしたら少女に悪戯する変態のレッテルを張られるのでクリスも必死だ。
「やましい事は何もしていない。神に誓って―――」
「風呂敷包み」
「あっ、目が泳いだ! 今すっごい目が泳いだ!! 何!? 風呂敷包みって何!? 何なの!?!?」
絶妙なタイミングでちゃちゃを入れるミルの策略に見事に嵌るクリス。エキサイトするエリーナ達。
と、その騒ぎを聞きつけたのか、アリストを連れたアルトとフランシスカが現れた。何故か後ろに受付嬢のアーシャとグレア大司教もいる。
「お二人の居る処はいつも賑やかですね。今日はどうなさったのですか?」
「君たち何をしているんだ。何があったかは知らないが【誓いの剣】の面々は武器を下ろさないか」
苦笑しながらも余裕を残して訪ねるアルトと違い、普段の沈着冷静な態度とは違う少し焦った様子で尋ねるアリスト。
彼は【誓いの剣】の面子がアリア教会の諜報部隊員である事は知っており、教会からも同行の依頼があったため許可したのだが、二人の正体を知る彼女らがいきなりトラブルを起こすとは思わなかったのだ。後ろのグレアからも少なからず動揺が伺える。
「っ! ギルドマスターに大司教様。これはお見苦しい所をお見せしました。この男がそこな少女にふしだらな行為を働いたとの証言があったため、尋問しておりました」
キリッとした顔でそう宣うエリーナに、アリストは困惑を深めながら問う。
「彼らは夫婦なのだろう。何か問題あるのかね?」
アリストの発言に「あっ」という顔をしたエリーナ達は、顔を赤くしてそっと武器を下ろした。
「す、すまないクリス。ミルちゃんの事ですっかり頭に血が上ってしまっていた。そうだよね。夫婦間の事だもんね。当然そういううらやま……もといスキンシップもあるよね」
「お、おう。分かってくれて嬉しいよ」
「クリスのスキンシップは激しいですから」
「お前は当分喋るな!」
再び武器を上げかけるエリーナ達と、ミルの口を押えるクリス。この残念美少女余計な事しかしない。
「合意の上でなら私が言う事ではないのだけれど……出来るだけミルちゃんが嫌がるような行為はしないであげてね」
「しねぇよ! ―――ってこれじゃぁ俺がミルに手を出してるって疑惑が解消してねぇ!」
結局、変態疑惑を払拭できなかったクリスが頭を抱えるが、ミルと夫婦という時点で、その疑惑が解消される事は永遠に訪れないであろう。
「ま、まぁまぁ皆さん落ち着いてください。ほら、武器を仕舞って」
そこへ割って入るアルト。ミルとクリスのノロケにも聞こえる発言に一番ダメージを受けているのに、それでも仲介に入る辺り筋金入りのお人好しだ。
フランシスカを連れたアルトを見たミルは、説得は成功したのか疑問に思い、クリスの手越しに口を開いた。
「もごも↓、もごも↑」
「アルト、首尾は? と言っている」
口を塞がれたままミルが喋り、それをクリスがすかさず通訳した。
クリス的には、さっきから自分を社会的に抹殺しようとするかのようなミルの口を物理的に塞いでおかないと安心できないから、苦肉の策でしているのだが、その仲睦まじげな姿にアルトの心は絶賛継続ダメージ中だ。
「何でなに言ってるか分かるんですか。えっと、フランシスカの事ならきちんと説得しましたよ」
「ミルさん、クリスさん。命を助けて頂いた上に同行まで許してもらい感謝に耐えません。ありがとうございます」
驚異の以心伝心を見せる夫婦に驚愕するアルトをよそに、礼儀正しく頭を下げるフランシスカ。アルトに一式揃えて貰ったのか昨日より大分恰好がましになり、しっかりと風呂にも入ったのか今は清潔感のある黒くて芋臭い町娘風に進化していた。ビン底メガネが妙にしっくりと嵌っている。
「もーはっへ↓、へっほふ↓ひはほ↑」
「どうやって、説得したの? と言っている」
「だから何で分かるんですか!? えぇっと……誠心誠意説得しました!」
力強くそういうアルトをミルは胡乱気に見、無理やり力づくで連れてこられたのではないかと心配そうにフランシスカを見た。元はといえば元凶の癖に、無関係な第三者のような態度だった。
「アルトの冒険者としての経験を聞きながら、機を見ることがいかに重要かと言う事と、これがどれだけチャンスなのかを懇々と4時間ほど聞かされました。勉強になる面も多かったですが根負けですね。私にとってありがたい話なのは確かでしたし」
苦笑するフランシスカを見て満足げに頷き、アルトに親指を立てるミル。
ミルの中で初めてアルトの好感度が上がった瞬間だった。
「ふっほふ」
「グッジョブ。と言っている」
「いい加減手を放してあげてもいいのでは!?」
ワイワイと楽しそうな冒険者組を、一歩引いたところで見ていたアリストとグレア。
「賑やかじゃのう。少なくとも、二人とも悪しき性根にはどうやっても見えぬな」
「だね。何か方向性は違うけど、姉さんもこうやって自然と人が集まる人だったな。懐かしい感じだ」
ほっと胸を撫でおろすグレアと、懐かしげに目を細めるアリストのワールドワイドジジイ達。
「……あの、私何でここにいるんでしょう」
和気藹々とした中でただ一人、輪に入り損ねたアーシャが所在無さ気に周りを見るのだった。
■◇■◇■◇■
「護衛依頼の参加冒険者は集まれ! これより今回の依頼内容の詳細説明を始める!」
アリストとグレアそしてアーシャを含めた一通りの紹介が終わった頃、野太い大声が辺りに響く。
三人をその場に残しミル達7人は声のする方へ向かった。
現場へ着くと、筋骨隆々のスキンヘッドに大きなバツ傷を持つ大男が、仲間と共に声を張り上げていた。
「定刻だ野郎ども! 集まってねぇやつはいねぇな? いねぇ奴は手を上げろ!」
ギロリと周りを見渡す強面の男に、さっとミルがクリスの後ろに隠れた。たっつんバリア再びである。
「よかったなミル。お前のギルドマスターはここに居たぞ」
「チェンジで」
光の速さで要らない宣言するミルにやれやれと苦笑すると、クリスは改めてシイタケ男を見た。
何となくどこかで見たような気もするが……ミルのギルドマスター像の元を自分もどこかで見たのだろうか、とクリスが不思議に思っていると、シイタケ男の話が始まった。
「今回の依頼の総長をすることになった。Aランクパーティ【巨人の一撃】のリーダー、ゴンザレスだ。
知っていると思うが、今回は冒険者ギルドとアリア教会のお偉いさんの護衛だ。アリア教の聖騎士団もついてくるから大所帯になる。
人数は騎士団側が一個中隊で45名。冒険者側が俺達Aランクパーティが1つ8名、Bランクパーティが2つ18名、Cランクパーティが4つ21名の計9パーティ47人、護衛対象と付き人を合わせると100名を超える規模だ。
俺達の仕事は旅隊外側での索敵と敵の撃退だ。護衛対象の近距離警護は聖騎士団が担当する」
顔に似合わず朗々と説明するシイタケ男に、感心するクリスとミル。
「慣れたもんだな、流石はAランクってとこか」
「私たちの仕事は敵の発見と掃討、強敵の場合はAランクパーティと騎士団が来るまでの時間稼ぎといったところですか。要は鉄砲玉ですね」
「身も蓋もないがそういう事だな」
内側を護る騎士団に外側を護る冒険者。当然冒険者側が危険度が高いが、これも適材適所だ。戦闘特化の騎士団に索敵は向かない。
「今回は強行軍だ。通常馬車で八日かかる行程を五日で踏破する。魔獣の多いエリアも通る予定だ。
道中で村に寄るのは三日目の昼に一回のみ。夜は全て野営になる。野営の準備をしてねぇバカはいねぇだろうな?」
ちらりとクリスを見るミル。頷くクリス。準備は昨日の外出の時に終わらせたようだ。
ちなみにミルのインベントリにも数日の野営程度なら十分な準備が収納されている。ダンジョンアタックの時は現地で夜を明かすことも珍しくなく、ミルは豊富なインベントリ枠を活用し常に準備は万端だった。
入れっぱなしとも言う。
「それと、移動力を上げるために冒険者ギルドが各パーティに馬車を用意している。喜べ幌付きだぞ。もし御者をできる者がいない所があれば申し出るように。ギルド側で御者を用意する」
またクリスを見るミル。頷くクリス。騎乗スキルで問題ないようだ。この幼馴染高性能である。
「護衛の配置だが、Bランクのパーティがそれぞれ前後に1パーティずつ。それに俺達Aランクパーティが二手に分かれて付く。Cランクは護衛対象の左右に2パーティずつだ。何か質問があるやつはいるか?」
二十代半ばの男が手を挙げた。視線で促すゴンザレスに、男は言う。
「俺達左右のCランクには、Aランクは付いてくれないのか?」
「勿論それも考えたが、そうするとAランクが二人ずつになり戦力が分散しすぎる。それに索敵の為先行する前と、万が一、間に割り込まれたときに孤立する後ろに戦力を割くべきだ。
逆に左右は道幅的にも、聖騎士が近くに居る布陣になるから、俺たちが居なくてもすぐに助けが来るから安心しろ。聖騎士にもその話はしてある」
「なるほど。了解した」
ゴンザレスの説明に、男は納得して下がった。
「他に質問があるやつはいるか? ……いねぇみてぇだな。
よし、出発は30分後だ。それまでに各ランクごとのパーティリーダーで前後左右何処に入るか相談して俺に教えろ。以上、解散!」
手を上げる者は無く、これで説明は終わるかに思われた。
「そこのCランク、ちょっと待て。そうお前らだ。神官服とドレスのお前らだ」
その場を離れようとしたミルとクリスの背後から、野太い声が掛かった。
自分たちの事と分かり振り返る二人に、近づいてくるシイタケ男ことゴンザレス。
その場を離れようとしていたパーティ達も、何事かと足を止める。
「てめぇらが最近噂のコネ野郎共か」
「……コネ?」
寝耳に水の単語に困惑する二人に、ゴンザレスはその厳つい顔をしかめて言う。
「だってそうだろう。Fランクから三日でCランクにランクアップだぁ? 出来るわけねぇだろう。ったくこの国の冒険者ギルドは公明正大だと思っていたが、結局こんなもんかよ」
「ちょっとアンタ! いきなり何なのよ! Aランクだからって言っていい事と悪いことがあるんじゃない!?」
失望したという色を隠さないゴンザレスに、エリーナが噛みついた。すかさずクリスの後ろに隠れるミル。
「チッ、【誓いの剣】か。うだつの上がられねぇお前らとコネ野郎ならお似合いだな。大方そこの優男に骨抜きにされたんだろう。これだから女の冒険者は始末が悪い」
「なっ!? 撤回しなさい! 私が骨抜きにされたのはクリスじゃなくミルちゃんよ!」
「え? 撤回求めるのそこなんですか?」
堂々と言い放つエリーナに思わず突っ込むアルト。ゴンザレスは一瞬ぽかんと間抜けな顔を晒した後、取り繕うようにゴホンと咳をすると、エリーナとクリスの後ろに隠れるミルを睨みつける。
「ま、まぁ個人の趣向に文句を付けるつもりはねぇが……少なくとも依頼人の命を預かる護衛依頼にドレスで来るような奴を、俺は冒険者と認めねぇ」
まったくもって正論。
恰好だけみればTPOを完全に間違えているのはミルの方であり、性能が見た目で分からないのならばその通りだ。
そしてミルの容姿に騙されずに、しっかりと己の意見を通すゴンザレスに、クリスは好感を持った。
「アンタの言う事ももっともだ。だがコイツのこの装備は、こんな見た目だが性能は折り紙付きでね。そんじょそこらの装備よりよほど高性能なんだよ」
「信じれらねぇな。どう見ても護る側じゃなく護られる側だろうが。お嬢様ならお嬢様らしく、護衛対象と一緒に中央の馬車に乗っとけ。コネがあるんだろう」
クリスの言葉を一切信用せず、あざける様に言うゴンザレスに、流石のミルもカチンと来たらしい。
クリスの後ろから出ると、ずいっと一歩前に出てゴンザレスを睨みつける。
「ど、どうやったら、しし、信じて貰えますか!?」
どもりまくりでプルプル震えながら涙目上目使いに睨みつけるミルに、エリーナが悶える。大型犬に吠えるチワワ的な可愛さがあった。中身はドラゴンも食い殺すチワワなのだが。
「ふん。俺と模擬戦して善戦でも出来れば、信じてやらんこともない。まぁ無理だろうがな」
中身を知っている自分ですらちょっと可愛いと思えるミルの小動物っぷりを、鼻で笑い挑発するゴンザレスにクリスは心底感心した。が、話の流れがマズイ方向に行ってしまい少々焦る。
思わずゴンザレスの、光るスキンヘッドの中心で『ここを狙ってください』と主張するバツ印を見、そこをパァンするミルが易々と想像できてしまった。
クリスが慌てて話の軌道修正をしようとした時、緊迫したこの場に場違いな飄々とした声が響いた。
「止めとけ止めとけゴンザレスの旦那。俺みたいにボッキボッキに自信を粉砕されて地面とキスすることになるぜ」
「うん? ギースか。お前もこの依頼に参加していたのか?」
場の緊張を物ともせずふらりと唐突に現れたギースは、クリスの問いかけにニヤリと笑っただけで答えず、ミルとゴンザレスの間に割って入った。
「ギースか、お前今回の依頼は不参加だろう。何しに来やがった」
「いやー二人がこの町を出るって聞いてね。そこの二人には結構世話したり世話になったりで知らない仲じゃないからな。見送りに来たんだわ。それとクリスの旦那に一言礼を言っておこうと思ってな」
「礼だと?」
馴れ馴れしくポンポンと肩を叩いてくるギースに顔をしかめるゴンザレスと、ギースの発言に首をかしげるクリス。プライドをフルボッコにしたお礼参りだろうか?
「おうよ。いやークリスに貰ったこの短剣、昨日早速試し切りに鎧猪の討伐に行ってきたんだけどな。
いやスゲェのなんの、ミスリルの短剣じゃ傷付けるのがやっとの鎧猪の外殻が、スッパスッパ切れるわ切れるわ。
この切れ味に、初級魔法が打てて中距離にも使える属性付加。
しかも何かステータスアップ系の常駐補助魔法でも付いてるだろ。スッゲェ体が軽いし力もでるの。一昨日の自分とは別人みたいに動けたぜ。
いやまじ感謝感激雨霰って感じだわ。ありがとうよ!」
鞘に入ったままの短剣を両手で器用にくるくる回し、見せびらかすようにしながらクリスに近づき礼を言うギース。
ギースの言葉にどよめく周りの冒険者。それが本当なら相当の魔剣である。
「いやまぁ折ったのは俺だし、それは気にしなくていいんだが……いいのか装備の性能をベラベラ喋っちまって」
礼を言われたクリスは、何だそんな事かと思うが、アクセサリの事は秘密にするように言われていた事を思い出し、ギースに問いかけた。
「いいんだよ。アクセは言わなきゃ分からんがメイン武器は隠すわけにはいかねぇんだ。
こんだけの性能のもんなら、むしろ所有者が誰かハッキリさせておいた方が盗難の予防になる。それにここに居るのはそのうちパーティを組むかもしれない優秀な連中が揃ってるからな。顔は売っておいて損はない」
クリスの問いに小声で答えるギース。
エリーナ達とミル達以外の冒険者は、アリストが将来有望そうなパーティに声を掛けただけあって優秀な面子が揃っていた。それを見抜き即座に顔を売るギースは、なかなか見る目があると言える。伊達に固定パーティをせずに長年臨時パーティのみで生活していない。
「おい、ギースてめぇ。さっきの言い草は何だコラ。あれじゃまるで俺が負けるみてぇじゃねか!」
「みたいじゃなくてそう言ってんだよ。むしろお前さんがそこの嬢ちゃんに、プライドへし折られない様に手を差し伸べてやってんだぜ。感謝して欲しいね」
「……上等だ。Bランク斥候のテメェとAランク重戦士である俺の戦闘力の違いって奴を教えてやろう。
構えろ小娘。この俺が直々に相手をしてやる」
インベントリから3メートル近い巨大な斧槍を取り出したゴンザレスに、ミルも一歩踏み出そうとし。
「待ちなっ! 嬢ちゃんと戦いたかったら俺を倒してからにするんだな!」
ギースの割り込みで出鼻を挫かれつんのめるミル。
目を白黒させてギースを見ると、パチリとウインクを返された。何故かふらつくミル。
「うっ……平衡感覚が……魔眼ですか」
「え、ただのウインクだけど? ふらつく程キモかったってこと!?」
結構ショックを受けているギースに、額に青筋を浮かべたゴンザレスが問いかけた。
「ギース、何のつもりだ? 俺とお前が戦ったって結果は見えてるだろうが」
苛立たし気に斧槍を一振りすると、大重量の斧槍がゴウと風を巻き、下草を散らした。
「何考えてるんですか?」
「すまんね嬢ちゃん。
いやぁあのおっさんな、あんなイカツイなりしてるが、結構真面目で面倒見のいい奴なんだよ。
普段の女にキツイ言動も、女に危ない仕事をして欲しくないからってのが、男の冒険者のもっぱらの噂だ。
それが、嬢ちゃんみたいな見た目の、守るべき対象な女の子に手も足も出ずに負けたんじゃ、自信なくして冒険者引退しかねないからな。ここはちと譲ってくんねぇか」
対人戦にちょっとスイッチ入りかけてワクワクしてきていたミルは、不機嫌そうに言うが、続くギースの説明と申し訳なさそうな顔に何も言わずに引き下がった。
可愛さ百点で欠片も強そうに見えない自分の容姿に自覚のあるミルは、まぁ確かに僕みたいなのに負けたらプライドへし折れるよねぇと、心に多分に残る男心で納得した。
そして一度へし折られたのに飄々と戻ってきたギースに、少なからず感心もした。豆腐メンタルな自分としては、その鋼のメンタルが羨ましい。
「まっ、俺に負けるようなら、この娘と戦うなんて無謀通り越して自殺志願ってこった」
「……チッ、そういう事かよ。いくら積まれたか知らねぇが、身の程をわきまえねぇ依頼は受けねぇ方が身の為ってことを教えてやる。掛かって来い!」
「あ、そういう解釈しちゃう? こっちとら善意なんだがねぇ。まぁいいや、新生・俺の宣伝には丁度いい」
恐らく、ギースはこのドレスの少女を護るか、ランクアップの手伝いをそれとなくするような依頼でも受けたのだろうと当たりを付けたゴンザレス。
貴族の子弟が冒険者をする場合、安全性や手っ取り早くランクを上げる為に、ギルドを通さない裏依頼としてそういった手伝いや護衛を出す親は稀にいる。そういった貴族の子弟は、経歴の箔付けとして冒険者を足掛かりに別の所に就職するため、実力に見合わないランクになっても構わないのだ。
それ以外にも単純に親馬鹿が子供可愛さに護衛の依頼を出すこともままある。どちらにしても、見た目の割に真面目で冒険者としての矜持を持つゴンザレスには、冒険者ギルドを通さない依頼というのは不愉快であった。
そのイラ立ちを紛らわすように、斧槍の柄を地面にめり込むほど打ち付けてから構え、ギースを睨みつける。
一方のギースは、ゴンザレスがそういった誤解をしたことを承知の上で、尚も飄々と短剣から鞘を外し、空中に放ると、くるくると回転する短剣を順手と逆手にキャッチして、構えた。
「【行商】のギース改め、【炎の行商人】ギース、推して参る!」
微妙な二つ名を格好良く叫び、二人の開戦の幕が上がる。




