出発の朝
朝、小鳥の囀りと朝朗けの光に、クリスは目を覚ました。
まだ陽光が顔を出さない、元の世界では余裕で寝ていた時間。
コキコキと首を鳴らし、昨日は日付が変わるまでミルの号泣のせいで寝付けなかったのに、それをものともせず活力を漲らせるこちらの体のスペックに関心した。
顔でも洗って微かに残る眠気を飛ばそうと立ち上がり、隣のベッドを見ると―――掛け布団を蹴り飛ばし豪快に大の字でベッドに横になる相棒の姿が。
「……結局パンイチじゃねぇか」
呟くクリスの言葉の通り、ミルは限りなく生まれたままに近い姿だった。
紐が緩み、ただでさえ布面積の少ないショーツが頼りなさげに腰に乗っかり、健気にも自分の職務を全うしようと最後の抵抗をしている。
上半身は、掛け布団の端っこが形のいい二つの膨らみに掛かり、透き通るような白い肌の中で唇以外唯一の桃色をちらりと覗かせながらも、頂きだけは辛うじて死守していた。
その時、朝日が顔を覗かせた。
純白のシーツに広がる銀髪に光が反射しキラキラと輝く。
整いすぎなほど整った目鼻。長い睫毛。小さな桃色の唇。強く抱けば折れそうなほど華奢な手足、柔らかくも存在を主張する双丘。思わず触りたくなるほどきめの細かい白く透き通るような柔肌。
肌の九割以上を晒し、無防備に幼く背徳的なエロスを振りまく相棒に、流石のクリスも何かしら感じたのか、顎に手を当ててポツリと呟いた。
「……カメレオンかな?」
銀髪、白い肌、白いショーツで白い布団に寝る相棒に、まさかの保護色呼ばわり!
「大の字でなければまだなぁ」
ダメ出し。あろうことかダメ出しッ! 相棒が振りまくエロスをガン無視しての苦言ッッッ!
「……さて、気は進まないが、罰は与えないとな」
言葉とは裏腹に、とても嬉しそうにクリスは手を伸ばし、ミルの寝相のせいで緩くなっていた純白に繋がる紐を、しゅるり、しゅるりと解いた。
垂れ下がる下側の布を無視し、もう反対側も同じようにしゅるり、しゅるりと外せば、隠されていた内側が姿を能わす。
「……綺麗なもんだな」
日の光の元に晒された内部に、意外と清潔にしていると関心してそう呟くと、そろりそろりと布の内側に手を差し込み、ミルの態勢を替えながら少しずつ弄っていく。
「んっ……」
微かに震えるミルの睫毛に、ピクリと手が止まるが、また何事もなかったようにすうすうと寝息を立て始めたのを確認すると、再び手を動かした。
そっと優しく、時に大胆に。
一度寝たらなかなか起きないのは稔と同じなんだな、と可笑しく思いながら相棒であり親友であり幼馴染である彼だった彼女が、万が一にも最中に起きないように気を使い、胎児のように丸くなる態勢に誘導すると。
紐解いていたシーツの四隅を再びがっちりと片結びして、フィニッシュ。
「よし、完成だ!」
丸くなった態勢を生かして見事に包みあげられた白い風呂敷包みを残して、クリスは一仕事終えた達成感を胸に部屋を後にした。
「んっ……んんっ? ……んんんっ!? あれ、なに!? 狭い! 白い!! ナニゴトッ―――アイタッ」
顔を洗って帰ってきたクリスは、床で蠢く風呂敷包みを見て大変満足そうに頷いた。
■◇■◇■◇■
「たっつんってば、男としての本能を転移の時に持ってき忘れたんと違う?」
あられもない姿で寝ていた自分を、別の意味で弄ばれたミルは非常に不満げである。
聞きようによっては、手を出されなかったことに不満を言っているようにも聞こえるが、本人にその自覚は皆無だ。
「掃除のときに、見苦しいものに布かけて隠すってよくやるよな」
「見苦しいって言った! 今、見苦しいって言った!」
「ハイハイ。俺はお前と違って子供に欲情しない真っ当な性癖なだけだよ」
「むー。十五歳前後をロリに含めるかは意見の分かれる所だと思うけど」
「十五歳をロリに含めないのは真正のロリコンだ。そういう意味じゃお前はまだ更生の見込みがありそうだが、世間一般では成人前は須らく犯罪だからな」
「違うぞたっつん君。犯罪に走るのはただの変態だ。犯罪に走らず暖かく愛でるのは訓練された紳士だ。ロリコンにはロリコンの誇りがあり、イエスロリータノータッチの精神を忘れた屑には死の制裁を。それが紳士の鉄の掟」
「意外と過激でビビるわ」
「一部の馬鹿のせいで我々紳士が迫害されるなどあってはならないのです」
「少数派は自己保身に必死だな……っておいミル、アレ見ろ」
兎の尻尾亭での最後の朝食を食べ終わったクリスとミルが食後のコーヒー(らしき飲み物)を楽しんでいると、カウンター横でこの宿の看板娘であるミツミが冒険者風の男に絡まれているのが目に入った。
「うん?……あれは一部の馬鹿ですね。死の制裁が必要です」
「いや死なすのはまずいが、助けたほうが良いだろうな。行くか」
席を立ち、二人が入り口に近づくと、ミツミと見るからにチャラい冒険者風の男の会話が聞こえてきた。
「なぁなぁイイだろ。ちょっとだけ、先っちょだけだから。絶対痛くしないから、優しくするからさぁ」
「あの、そういったことは困ります。ここは普通の宿ですので……」
「お触り厳禁ってか? そんな硬い事言うなよ。すぐ済むからさぁ、俺テクニシャンだからきっと気持ちいいぜ」
「ですからそういった事は―――あっ」
「良いから触らせ―――のあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ミルが有罪と呟き、クリスが割って入ろうとした瞬間。
カウンター横にある料理受け渡し用の小窓が開いたかと思うと、そこからヌっと巨大な腕が伸び、チャラ男の頭を鷲塚むと窓からポイッとゴミでも捨てるように遠くへ投げ捨てた。
「「!?」」
「あっちょっとお父さん! またお客さんに乱暴して! 私だってもう子供じゃないんだからあのくらいどうってことないよ!」
「あらあらまぁまぁ」
扉の中に引っ込んだ巨腕に向けて文句を言うミツミと、それを微笑ましそうに見つめるミツミの母。
「……ナニ、イマノ」
「……確かに兎人には見えねぇ。つーか、巨人?」
腕だけでミツミの身長くらいありそうだったお父さんに、クリスは初日に聞いたギースの発言を思い出した。曰く、「兎という存在に喧嘩を売る外見」というやつである。
クリスはそういえば兎種のなかで、例外的にデカくなるなんちゃらジャイアントって種類がいたなぁ、と思い出していた。平均1kg前後が多い兎種のなかで、そいつらの近縁種だけ最大20kgを超えるような個体が出現するのだ。
体積が20倍という事は単純計算だが縦横奥行きの長さが2.715倍にならなければならない。
兎人族の平均身長など知らないが、150cmとしても400cmを超える計算だ。どう頑張っても出てくるのはクリーチャー……クリスはそこまで考えて、考えることを止めた。
「というか、今のサイズ感だと明らかに昨日のオークリーダーより大きいんだけど……」
ミルはといえば、昨日見た3メートル近いオークリーダーより、本体の大きさは上回るであろうオトウサンに驚愕し、ミツミと、一緒にほんわかと微笑むゆるふわ系美人のミツミ母を交互に見た。
「大きさ……腕の大きさから体のサイズを考えると……サイズ感が……人体の神秘……うぅっ頭が……」
「それ以上考えない方が身の為だ」
泊まっていた宿に隠された摩訶不思議に混乱するミルに、一足先に悟りを開いたクリスがアドバイスする。考えても正気値が削れるだけだ。
一通り父に文句を言っていたミツミが、ここでようやく二人に気付いた。
「あっ、おはようございます。クリスタールさんミルノワールさん」
「おはようミツミちゃん」
「ぉ、ぉはょぅ」
ファンタジーだしこんな事もあるさと早々に切り替えたクリスと違い、ミルの挨拶は弱々しい。
そんなミルに、怖がらせちゃったかなと勘違いして、ミツミはちょっと慌てた。
「すみませんお見苦しい所を見せてしまって……ミルノワールさんは今日も素敵ですね! お姫様みたい!」
話題転換とばかりにミルの姿を褒めるミツミ。
頬を染めながら前のめりに言う姿は、話題を逸らす為だけではなく本心からそう思っているのが伺えた。
「そ、そうですか? クリスが結ってくれたんです」
今日のミルの姿は、初代騎士王風編み込みお団子ヘアに青色のリボン、フリル多めの白ベースに青をあしらったドレス。
何となく、偉い人が一緒と聞いていたので気合を入れた結果、王族もかくやという気品と高貴さを身に纏っていた。見事な見た目詐欺である。
ちなみに、この純白のドレスは初日に着ていた【女帝ヴィクトリアのドレス】と対になるように実装された【女王エリザベスのドレス】だ。
イギリスの王族をモチーフに作られただけあって気品と高貴さがあり、女帝ヴィクトリアのドレスは美しさに重点を置き、女王エリザベスのドレスは可愛らしさを押し出した見た目になっている。
どちらも性能的にはレア課金装備の一級品であり、見た目は冒険者に見えないが、この世界のどの冒険者より高性能な装備だった。
ただ本人はそんな見慣れたフル装備よりも、クリスに結い上げて貰った髪の毛の方が自慢げだ。
未確認敵生体コードネーム【オトウサン】にドン引きしていたミルだが、ミツミに褒められて気を取り直し、少し恥ずかし気に前髪をいじくると、スカートをつまんでその場で一回転した。
それが奥ゆかしくも可愛らしくミツミには映り、より一層キラキラとした目でミルを見つめる。
ケモロリっ娘に興奮しっぱなしの普段の態度とかけ離れたミルの姿に、好感度がぐんぐん上がる。
例えは悪いが、普段やんちゃしているヤンキーがたまに良い事をすると、普通よりも好感を持たれるようなものだ。冷静に考えれば、普段の行いこそを鑑みるべきなのだが、普段の評価が低ければ低いほど好感度の上がり幅は大きいのである。本当に得な見た目である。
それは周りも同じで、ある程度ミルを見慣れた宿泊客からもほうっと称賛の溜息がそこかしこから聞こえるほどだった。
「何やら揉めていたようだけど、大丈夫だったかい?」
「はい。あの方は連泊して下さっている冒険者なのですが、初日からずっと……その……触らせろ触らせろとしつこかったんです。今日この町を離れるらしくって、いつもより五割増しでしつこくされて困っていました」
「そりゃ災難だったな。まぁ今日で縁が切れるなら喜ぶべきかね。最後にあんな扱いされればもう来ることもあるまいよ」
「それはそれで困るんですけどね。ホントにお父さんったら、あんな事ばかりやってるからお客さんが減るんですよ」
「ま、まぁミツミちゃんが困ってたからした事でしょうし! あまり目くじら立てたら可哀そうですよ!」
取り合えずオトウサンのフォローをして好感度を稼ぐ作戦に出たミル。僕は悪いロリコンじゃないよ!
「ミルノワールさんは優しいですね。でもいけません、甘やかすとまたするので、毎回きちんと叱らないと!」
なぜかぐんぐん上がるミツミの好感度に、嬉しいけど今はオトウサンの反応が気になるミル。
初日に突撃して気絶させたりしたので、後ろめたさに拍車がかかる。
「まぁまぁ時間も無いしそのくらいにしておけ。ところでミツミちゃん。昨日も話したけど俺達も今日でこの町を離れる。短い間だったが世話になったね」
「ええ、貴女のおかげでとても快適に過ごせました。ありがとうございます」
昨日戻った時点で、四日目以降のキャンセルは話してあった。
「そう言って頂けると、私も嬉しいです。お客様に快適に過ごして貰えることが、私のやりがいですから。
でも、本当に宿泊費の払い戻しはいいのですか?」
前払いで五日間分の料金は払い終えていたが、突然のキャンセルなので二日分の宿泊費の払い戻しは断った。
ギースから巻き上げた……もとい正当な取引で得た大金に加え、ランクアップの為に早回しで終わらせた依頼分でかなり稼いでいる二人には、それほど気にする金額でもなかったのだ。二日分は迷惑料といったところである。
「あぁ、また来るから、その時にサービスでしてくれ」
「必ずまた来ます。その時は、また耳をモフらせて下さいね」
オトウサンに警戒しつつも欲望を隠せないミルに、ミツミも困ったように笑った。
「まぁ……同性のミルノワールさんなら少しくらいならいいですよ。さっきの冒険者さんみたいな男性だとご遠慮しますけど」
ミツミの台詞に、クリスは「ん?」っと思う。
「もしかして、さっきの男が触らせろって言ってたのは……」
「私のウサ耳です」
ミツミの答えに、頭の上でふわふわ揺れるロップイヤーに視線が行き、クリスは思った。
あぁ気持ち、分かるわぁ、と。
その隣で、「逆転無罪」と呟くミルだった。
クリス「……綺麗なもんだな」(訳:おっ、シーツだけじゃなく中の布団まで綺麗に洗濯してあるじゃん、感心感心)
ミル「小姑かな?」




