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門番のラウディ


 アダムヘル東門を護る門番を務める私、ラウディは今日も暇を持て余している。

 暖かな日差し、爽やかな風、耳に心地のいい草葉のこすれる音にぽよんぽよんと気の抜けるラビッポの足音。

 暴力的なまでに眠気を誘う長閑な環境に、必死に耐えながら今日も真面目に門を守る。


 この先にあるのは、聖書に登場する救世主にして、後に魔王を倒しアルレッシオ聖王国を建国する初代聖王であるアリア様が一番最初に降臨された場所、聖地【全ての始まりの祭壇】。

 聖地へ続くこの道は、基本的に聖地巡礼での通行は自由なのだが、ここ最近はゴブリンの群れが出没するようになり通行規制が行われ、通る者はいない。


 恐れ多くも、聖地に続く道の守護をしているのだ。この名誉ある役割に暇だからと不満があるはずもなく。居眠りをするなど不敬にもほどがある。

 敬虔なアリア教教徒でもある私は、今日も暇をしながらもサボることなく、自身が守る門の重要性を噛みしめて真面目に働いていた。


「ふあぁ~」


 人が気合を入れ直している横から、大あくびをしているのは今日の相棒であるクロッソだ。


「おい、不敬だぞ。聖地に向けて欠伸などするな」

「だがようラウディの旦那。ゴブリンのせいで人は全然こねーし、ここまで暇だとやりがいってもんがなぁ」


 彼もまた敬虔なアリア教の信者なのだが、若いせいか今一つ緊張感を保てないようだ。

 腕はそこそこ立つのだが困ったものである。その余りの気の抜けっぷりに、今度の訓練時間は追加特訓だな、と心に決める。


「仕方があるまい。最初こそ、まだ巡礼者への説明もあったが、今ではもう通行規制が周知されたおかげで、こちらに来る者自体が減ったからな。だが、我らは聖地へ至る道の最後の門番なのだ。今は巡礼者も少ないが、こんな時だからこそ普段の信仰心が試されると思って、真面目に取り組まねばならん」

「分かっちゃいるんですがねぇ。ここ一週間ほど巡礼者もほとんど無く突っ立っているだけじゃないですか。巡礼手形もさっぱり減らずに寂しい限りですよ。というか、いつになったらここの騎士団はゴブリン討伐に乗り出してくれるんですかね」

「西の大規模な盗賊団の制圧がつい先日終わったばかりなのだ。事後処理もあるだろうから、もうしばらくは動けないだろう」

「まぁ巡礼者がゴブリンに襲われるよりは、通行止めで暇な方が百倍マシですけどね。帰りに巡礼手形を手渡してやれねぇってのは、やるせなくていけねぇ」

「……そうだな」


 この門は他の四方にある門とは異なり、巡礼以外での出入りは基本的に禁止されており、巡礼で通行する者も、必ず巡礼手形に名前を書いて門番に渡し、帰りにその巡礼手形を持って帰る事になっている。

 というのも、ここより先に有るのは山間にポツンと存在する聖地のみであり、距離も近く往復で2時間も掛からない程度であるので、この門から出た者は聖地巡礼が終われば必ずここに戻ってくるのだ。

 この巡礼手形はアリレッシオ聖王国建国と同時期に開始され、かれこれ300年近い歴史を数える由緒正しき手形である。

 聖書にもこの門で巡礼手形に名前を書き、終われば持って帰る事が正しい聖地巡礼の手順と記されており、これに名前を書く事を楽しみにしている巡礼者も少なくない。

 帰りに嬉しそうに巡礼手形を持って帰る巡礼者を見るのは、ここの門番の最大の楽しみだ。


 この手形の表向きの存在意義は、聖地巡礼者が巡礼中にトラブルに遭った場合に、異変にいち早く気付き、敬虔な信徒を守る為にある。

 ゴブリンの群れがまだ認知されていない時期に巡礼を行なった信徒三人が、不幸にも襲われ帰らぬ人となったのは記憶に新しい。

 聖地まで往復2時間程度の行程で、一日経っても名前の書かれた巡礼手形が残っていることから翌日捜索隊が組まれたが、食い荒らされた無残な遺体が発見されたのはそれから半日後の事である。

 足跡や歯形から数十匹単位のゴブリンの群れと推定され、通行止めがなされたのが2週間ほど前になる。

 間の悪い事に、同時期にアダムヘルの西側を荒らしていた盗賊団の掃討作戦の為この町の騎士団が動けず、今日まで根本的な対策が出来ていない。


 その三名の尊い犠牲より、より大きな被害を未然に防げたとして、アリア教会の支援のもと、遺体は故郷へ帰り手厚く埋葬されたという。その際、副葬品として巡礼手形も一緒に送られたため、現在ここにある名前入りの巡礼手形は一つもない。


 なんとも寂しげに無記名の巡礼手形を見つめるクロッソ。

 多少軽い面があるが、非常に心根の優しい青年であることを知っている為、職務に忠実なラウディも欠伸程度なら小言を言うだけですますのだ。訓練追加は別だが。


「出来る事なら俺が休みにでも、ゴブリン殲滅してこれたらいいんですが」

「無茶を言うな、一人で一匹残らず殲滅できるなら話は別だが、相手はゴブリンだぞ、数匹でも逃がしたらすぐに増える。イタチごっこだ。包囲殲滅で駆逐するにはどうしても人数がいるのだよ」

「所属が違うから盗賊団の方に手を出すわけにはいかないってのは分かっちゃいるんですが……出来る事ならそっちを俺らでやってゴブリンを騎士団に任せたかったでさぁ。数だけなら騎士団が多いんだから」


 他の三つの門と異なり、この北門だけはこの町の騎士団とは異なりアリア教会所属の聖騎士が守っている。主に先に述べたような宗教上の理由の為だ。

 だからこそ、実力的には盗賊団など数人で殲滅できる力を持つ聖騎士だが、町の問題である盗賊団の討伐に乗り出すことが出来ず、結果的に個の力で対処しにくい巡礼地でのゴブリンの群れという排除対象を野放しにせざるを得ない状況に陥っていた。

 そんな状況に歯噛みするクロッソに、私も内心同意しながらも、しかし部下に言い聞かせるように言った。


「仕方があるまい。騎士団だけで対処できないようなら我々も動かざるを得ないが、今回の盗賊団の規模ならば十分騎士団だけで対処できると判断されたのだ。所属が違うのにしゃしゃり出ては向こうの面子を潰すことになる。それに我々がこの門を離れることが出来ないのはお前も分かっているだろう。本来の任務(・・・・・)を疎かにして、その間にお越しになられたら(・・・・・・・・・)どうするのだ」


「分かっちゃいるんですがねぇ。この任務が始まって一度もお越しになられたこと無いんだから、少しくらい離れている間にそれが起こる確率なんて―――ん?」


 未だグヂグヂと未練がましく文句を言うクロッソだったが、しっかりと周りは見ていたようで遥か彼方にいる存在に最初に気付いた。

 職務柄、中年にしては目のいい自身のある私だが、狙撃手スナイパーのスキルツリーであるクロッソの目には敵わない。


「どうした?」

「いやね、聖地の方から歩いてくる二人組がいるんでさぁ」

「なんだと? 朝からこの門を通った巡礼者など居ないはずだが」

「ですよねぇ。町の者でもなさそうですが、迷子かな?」

「どのような者たちなのだ?」

「神官風のあんちゃん一人と、ドレスの女の子。ドレスで聖地巡礼なんて珍しいっすね。大商人か貴族のお嬢様かな?」

「そのような者が、馬車も使わずに、御供おともも一人でか? 怪しいな」


 聖地巡礼の正しい手順として聖書に書かれている為、ここを通らず巡礼するアリア教徒など皆無に等しいが、全く居ないわけではない。

 アダムヘルの住人も、ここから先は基本的に巡礼以外では立ち入り禁止と知っているため入る事はないが、東西方向からの道が無いわけではない為、ごく稀に道に迷ってここに出る者もいる。

 神官のみなら何かの理由で此処ここを通らずに聖地へ向かった巡礼者の可能性もあるが、ドレスの婦女子も一緒となると違和感があった。


「【天人様】だったりして」

「軽々しくその名を口にするな。まぁ可能性として十中八九、迷子の類だろうが、いつも通りの巡礼手形が無い場合の対応でいいだろう。油断はするなよ」

「了解っす。どっちが聞きます?」

「私が聞こう、ある意味これがこの門番の最大の役目だからな」


 一部の教会関係者と聖王国の王族、そしてアリア教聖騎士団ホーリーナイツの精鋭から選抜されるここの門番にのみ伝わる巡礼手形の本当の意味。

 それは巡礼手形の無い者……いや正確には、()()()()()()()()を見つけることにある。


 しばらくの後、二人組がある程度近づいて来てから、改めて二人を確認した私は息を飲んだ。

 その二人組は、同性でも吸い寄せられるような怜悧な美貌の、ぱっと見は型遅れで平凡に見えるがよくよく見ればかなりしっかりした仕立ての神官服を着た男と、その後ろに隠れるようにいる、まだ幼いながら現世うつしよから離れた現実味の無いほど可憐で繊細な美少女だった。


 クロッソに至っては、美少女に見とれて完全に呆けている。油断するなといったのに隙だらけである。

 数瞬見惚れ、我を失ったラウディだが、何とか年長者の意地で平静を装い、手前の神官風の男にマニュアル通りに話しかけた。


「ようこそ、アダムヘルへ。本日はどちらから来られたのかな?」


 お決まりのセリフ。

 ここの門番のみに伝わる、巡礼手形の無い者に行う簡単な質問。厳守すべきルールであり、未だ一度も望む答えが返ってきた事の無い問いかけ。



――― 即ち、『巡礼手形無き者には何処いずこから来たか問うべし』



「こんにちは。ご苦労様です。ちょっと事故のようなもので()()()に来てしまいまして、通行手形や身分証のようなものは持ち合わせていないのですが、通ることはできるでしょうか?」


美貌の男が苦笑しつつも、思いのほか気さくに話してくるが、こちらの質問には一切答えていない。

内容も噓をついているようでないが、本当のことも言っていない風である。


「事故ですかな? 失礼ですが何があったか聞いても?」

「それが街道を進んでいると盗賊5人組に襲われまして、森の中を走って何とか逃げ延びたのですが、そのときに身分証が入った鞄を落としてしまったようで……」


 これは嘘だ。

 長年門番をやっていれば、この程度の嘘を見破る観察眼は鍛えられる。

 また、一流を自負する聖騎士としても、目の前の二人が盗賊程度に逃げ出すような存在には思えない。

 目の前の二人組に対する警戒心を一段引き上げ、驚いた風を装い私は更に問う。


「なんと!? よくご無事でしたな! どちらの街道で襲われましたか? 騎士団と警備隊へ報告しなくては」

「西の街道で襲われ、無我夢中で走っていたところ、ここへたどり着きました」

「なるほど……失礼ですがお二人は、巡礼に来られたのですかな?」

「巡礼……いえ、そうではないですがアダムヘルへ用事があったもので」


 巡礼、という言葉に一瞬目を泳がす男。

 神官風のいで立ちなのに、まるで巡礼を知らないような反応である。

 アルレッシオ聖王国はアリア教が国教だが、教会の力が強いわりにほかの宗教に対して寛容だ。そのため他の宗教が無い訳ではないが、聖王国に住んでいれば聖地や巡礼のことは宗教が違っても当然知っている。


 ましてや此処はアリア教でも特別な意味を持つ【全ての始まりの祭壇】のある地。他国から来たとしても聖地や巡礼のことは必ず耳に入るものだ。周辺の集落や都市は巡礼者に対して手厚い支援をするので、アダムヘルへ向かうならいわんや、といったところだ。


 ますます怪しい。


「なるほど、分かりました。盗賊のことは騎士団と警備隊に報告しておきます。こちらへどうぞ」


 私はそう言い、二人を巡礼手形を書く机へ案内する。

 普段は受付の者がいるのだが、今はゴブリンのせいで人が来ないことと、盗賊団が壊滅したことで滞っていた物流が殺到し、西門の流入が一時的に増えているため、そちら応援に回っている。


 巡礼手形を見ても何も反応を返さない二人に、これはひょっとするとひょっとするかもなと淡い期待を募らせる。

 ふとクロッソのほうを見ると、未だに少女に見とれて呆けたままだ。確かに超が付くほど可憐な美少女であるが、私の娘と変わらない年齢の少女に完全に魂を奪われている様子に危機感を覚える。

 後でケツを蹴っ飛ばして正気に戻そうと心に誓い、ついでに追加訓練も三倍にすることにして、私は二人に向き直った。


「こちらで、名前と出身地の記入をお願いします」


 口頭でどこから来たかを答えなかった場合の確認手段、巡礼手形の記入。



――― 『この世界に無き地名を挙げし者、または楽園の名を挙げし者には、我が書きし聖典の写本を手渡し、その真贋を見極めるべし』



「クリスタール=ロア殿とミルノワール=ロア殿ですね。姓が同じということはご家族ですかな?」

「ええまぁ」


 曖昧に答える男に、兄妹にしては似てないので何か訳ありかと深くは聞かないことにし、肝心の出身地について話す。


「出身地はミルドレットですか……、聞かない地名ですが異国から来られたのですかな?」


 この世界にはない地名だが、見覚えのある都市名を確認し、凄まじい動揺を押し殺し何でもないように話した。

 クロッソは目が飛び出るほど見開いて驚愕している。二人の背後だから気づかれていないが、振り向かれたら一発で不審に思われる表情だ。

 正直すぎる同僚の反応に無駄に気を揉みつつ、私は振り向かれないように注意して話題を振る。クロッソの追加訓練は四倍になった。


「ええ、遠い遠いところにある国から来ました」


 私はこの世界のすべての地名、国、都市、村落に至るまで、すべての名前を把握している。

 なぜその様なことが可能かと言われれば、理由は簡単。

 アリア教会の総本山の最奥に安置されている神具【知求儀ちきゅうぎ】。初代聖王アリア様が残した秘宝であり、この世界全土の情報がリアルタイムで映し出されるこの神具を、写すことによりできる正確な世界地図が毎年更新され、ここの門番に貸し出されるからだ。


 なお、覚えるのは個人の努力である。

 それ故に、分かる。このような名前の地名はこの世界に存在しないと。

 そして、これもアリア様が残し、聖王国宝物殿に収蔵されている天上の知識【楽園の用語集アルカディア・レコード】に記された、アリア様の故郷(アルカディア)にある都市の名であると!


「ところで、お二人は巡礼をしに来たのではないと言っておられたが、この先に何があるかご存じですかな?」

「いいえ。あいにくとこの辺りの地理には疎いもので」


 これはいよいよ当たりかもしれない。

 異国からアダムヘルまで旅してきて、聖地のことを知らないなどあり得るわけがない。

 それだけアリレッシオ聖王国、ひてはアダムヘルと周辺の都市や村落にとって、この聖地は重要なのだ。

 年甲斐もなく、私は期待に胸を膨らませるが、外へはそんな心情などおくびにも出さない。


「左様ですか。おせっかいながら説明させてもらいましょう。

 この先には我らが祖国、アルレッシオ聖王国の聖地である【祭壇】がございます。故にこそ、ここアダムヘルにはいろいろと聖地に対する作法や注意事項がございましてな、異国から来られたのでしたら、そういったことには疎いでしょう。

 いつまでアダムヘルで過ごされるかは分かりませんが、悪気はなくともそういったものを無視すれば、この街に居づらくなることもあります。我々としても、知らずにおこなったことで旅の方が不快な思いをするのは避けたい。

 よって、こちらにそういった作法や注意事項をまとめた物がありますので、最低限これの最初のページだけ読んでから町に入って頂くようお願いします」

「分かりました」


 何でもない様を装い、机から結構な厚さの本を取り出し、クリスタール殿に渡す。


「あぁ、異国の方ですと、こちらの文字は読めますかな? 念のため表紙のタイトル部分だけ読んでみて下さい」

「『【転生の祭壇】についての作法と注意要項』ですね。特に問題なく読めますよ」


 聖書に書かれている作法や注意事項が『日本語』で書かれているアリア様の聖典を、見たまま答えるクリスタール殿。



『我が同胞は皆、この世界の全ての人族に理解できる【日本語】を操る。その言語は、言いし言葉は聞く者の理解できる言葉に聞こえ、書く文字は読む者の読める文字として映る、そして逆もまたしかり。故にこそ、【日本語】で書かれたこの聖典に気付くことなし』



――― っ!





 崇めるべき存在の降臨を、私は確信した。





 溢れんばかりの歓喜に思わず涙が出そうになるが、腹に力を入れて抑え込む。


「どうかしましたか?」

「いや失礼。目にゴミが入ったようでして」


 平常でないことをクリスタール様に気付かれてしまったようだ。

 不審そうにこちらを見るクリスタール様に、目を(こす)ることでしばらく時間を稼ぎ、何とか平常を取り戻す。


「失礼しました。読み終わられましたら、通過の監査は終わりですので、どうぞお通りください。あぁそのガイドブックは差し上げます。旅の助けになるでしょう」

「それはご丁寧にどうも。行こうかミル」

「はい」


 このとき初めて、ミルノワール様が御喋りになられた。

 たった一言なれど、その音は天上の鈴の音はかくやという美しさで、その御声を聴くだけで腰が抜け(かしず)かざるを得ない響きに満ちていたが、必死に直立不動を貫いた自分を褒めてやりたい。


「あぁちなみに今日って聖歴何年の何日ですか?」

「聖歴368年4月14日ですな」


 クリスタール様の何気ない質問に答え、そういえば言わなければいけないことがあったと思い出し慌てて伝える。


「あ、ちなみに冒険者ギルドはこの通りを真っ直ぐ進んで15分ほどの所に、宿屋は冒険者ギルドを過ぎて10分ほどのところに手ごろな宿屋街がありますぞ」

「なるほど。親切にどうも」

「……ありがとう」


 通り過ぎる際に、ミルノワール様が微かに微笑みこちらに向けて感謝の言葉を述べられた瞬間、体が硬直し全身を歓喜と恍惚が稲妻のように通り過ぎる。

 幸いにもお二人は振り返らずに歩いて行ってしまわれたので、中年の熱に浮かされたようなだらしない顔を見られずに済んだ。


 5分ほどかけて、顔のほてりを収め、妻子のある身で娘と同じ年頃の少女の、しかも天人様かもしれないお方に対し懸想したような状態になったことに、大量の罪悪感と自己嫌悪にまみれながら、私は何とか立ち直り、クロッソの方を見ると。


「……」


 未だに呆けていた。


「―――ふんっ!!!」


 ゴスッ!


「ヒギョェア!?」

「いつまで呆けている!」

「痛ってぇ……ケツが割れるかと思ったじゃないっすか!」

「やっかましい! 私は教会へ報告してくるから、お前はジェルマとエリーナを呼び出しておけ!ジェルマは私の引継ぎ、顔の割れていないエリーナは天人様の護衛だ!急げ!!」

「りょ、了解っす!」


 同僚のケツを蹴り上げて正気に戻すと、私は間髪入れずに指示を出し、自身は教会へ急ぐのだった。


 ……あぁそうだ言い忘れていた。


「あとお前、次の訓練は追加特訓五倍な」

「うええええええ!? なにゆえ!?!?」






『天人の可能性有りし者が現れし時は、速やかに教会へ報告すべし』

『また、その者の行く手を遮るべからず。その者に多く干渉するべからず。その者を見失うべからず。その者をよく見、聞き、その善悪を見極めるべし』


『その者、世界を変える者也』


 ——————————  初代聖王アリアによる直筆聖典の写本【天人諸賢】より抜粋




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