4章 銅の飴の能力者
美人が人気のない夜道を一人で歩いていた。すると突然見えない壁にぶつかった。
見えない壁を避けながら進むとまた見えない壁にぶつかった。美人は手で見えない壁を伝いながら道を進んだ。
見えない壁でどこかに誘導されているようである。壁は美人を道路から遠ざけ、人が通らない獣道に誘導した。
美人は、そのまま人が立ち入らない荒地に誘導された。
そこにもう一人の別の美女が現れた。
「動くんじゃないわよ!!!
悪いけれど、貴女の生血を頂戴するわよ!」
美女はニヤニヤと笑いながら、美人に死刑宣告した。美人は、その美女の正体に驚愕した。
あまりの驚きのあまり一瞬言葉を失った。美人は豆鉄砲を喰らった鳩よりも驚いた顔をした。その衝撃のあまり美形の顔が顔芸の如く歪んだ。
そして、美人は思わず男のような驚き声を漏らしてしまう。
「冬彦三くん!?あなただったの?!」
そう。美人の正体は女装した冬彦三だったのである。冬彦三はカツラを脱ぎ、化粧を拭った。
冬彦三は連続殺人の犯人をおびき出すために美人に変装していたのだった。
「まさか君だったのか、松子ちゃん…」
そして、そう。冬彦三にまんまとおびき出された美女。その正体は松子だったのである。
松子も冬彦三同様、美人のその正体に驚愕し、言葉を失った。同時に自分の正体がバレた事に激しく動揺した。
松子は豪雨の中捨てられた小猫のように怯えた表情をしていた。松子の身体は小刻みに震えていた。
「地理的プロファイリングだ。犯行現場を円で囲い、その範囲でおとり捜査すれば絶対に引っかかると思っていた…
だが、まさか君がヴァンパイア連続殺人事件の犯人だったとは…」
「まさかあなたが女装してたなんて全く気が付かなかったわ…」
冬彦三は、殺人鬼の正体にショックを受けながらも、冷静さを取り戻した。松子もまた、なんとか気を静めた。
なんとか平静を保とうとする二人だが、二人とも顔は青ざめていた。まるで青信号の様である。
冬彦三は貧乏ゆすりをしながらも、松子を問い詰めた。
「松子ちゃん…一体なぜこんな事をしたんだ!」
「可愛い女の子の生血は髪に良いって言うから…」
「はぁ?」
松子は震える唇で訳の分からない事を言い出した。冬彦三は思わず聞き返してしまう。
松子は震えながらも、再度犯行動機を言い直した。
「可愛い女の子の生血は髪に良いって言うから、生血を抜き取って溶かして頭に塗ってたの…」
「はぁ?」
何度聞いても訳の分からない動機である。冬彦三は怒りのあまり、さっきまでのショックが吹っ飛んだ。
冬彦三は今度は赤信号の様に顔を真っ赤にして松子を問いただした。
「お前はそんな下らない動機で美人な女性たちを殺し血を抜き取っていたのか!?」
「下らないとは何によ!あたしにとっては髪は唯一の真の愛!命よりも大切なのよ!」
松子は怯えながらも、強く反論し怒り返した。彼女にとっては至って真面目な動機だったのである。
訳の分からない話であるが、彼女はこれでも真剣なのである。
そんな彼女に冬彦三は怒りを通り越してすっかり呆れてしまった。冬彦三は冷静にこう告げた。
「お前は謝っても許さないぞ」
「あたしも許されるなんて思ってないわ。一応謝ってはおくけれど…」
松子はこれでも少しは罪悪感はあったようだ。しかし、松子は全く反省していない。
「悪いけれど、あなたには死んでもらうわ!」
「それはどうかな?」
「あたしは銅の飴の超越能力者!残念だけれど相手が悪かったわね!」
そう。松子は中国旅行で銅の飴を手に入れていたのだった。松子の銅の飴の超越能力は開花しており、念力を使える。松子は自慢の長い髪の毛を念力で操り、冬彦三の首を絞めようとした。
「死になさい!」
しかし、冬彦三は戦闘形態に変身し、冬彦三も念力で松子の髪の毛を弾き飛ばした。
冬彦三の超越能力も開花し、念力も使えるようになっていたのだ。
「なんですって!?あなたも超越能力者だったの!?」
「君は漫画を読まないんだったな」
漫画を読まない松子は実話を元にした冬彦三と他の超越能力者たちとの戦いを描いた漫画も知らなかったのだ。
そのため、その漫画が実話である事も、冬彦三が超越能力者である事も知らなったのだ。
冬彦三は口から炎を吐いた。開花した超越能力で冬彦三は口から炎を吐く事もできるようになったのだ。
「どどん舞い!」
松子は舞った。と、同時に松子の周りに球状の見えない壁が現れ、火から松子の身を守った。
松子の能力はバリアーなのである。
冬彦三は遠く離れた自宅に瞬間移動した。冬彦三の能力は瞬間移動なのだ。そして、自宅から武器や無数の鉄球を持って再び現れた。
冬彦三は念力で無数の鉄球を松子目掛けて吹っ飛ばした。
「超どどん舞い!!」
松子はさっきより激しく舞った。再び松子の周りに球状のバリアーが現れた。
バリアーはなんと鉄球を冬彦三の方へ弾き返した。
そう。さっきのバリアーとは違い、今度のバリアーは攻撃をそっくりそのまま相手に跳ね返す効果付きなのである。
冬彦三は瞬間移動し跳ね返ってくる鉄球を回避した。そして、バリアーの中の松子の前に現れた。
「なんですって!?」
瞬間移動の前ではバリアーは無力なのだ。
冬彦三は超越能力で強化した鉤爪で松子の顔を縦横斜めに満遍なく引っ掻き回した。超越能力の本髄は肉体や道具を強化する能力なのである。
バリバリバリ!!!バリバリバリ!!!バリバリバリ!!!
松子の顔は傷だらけになった。
「いたたたたたた!!!!傷がああああああ!!!傷がああああああああ!!!あたしの可愛い顔に傷がああああ!!!」
さらに冬彦三は持っていた鉄球を松子の顔に投げつけた。
ガンッ!!!
松子の顔面に鉄球がめり込んだ。
「いったぁ~い!!!女は顔が命なのよ~!!!あたしの生まれたてのベイビーのような美肌が台無しだわ~!!!」
さらに冬彦三は松子を投げ飛ばした。松子は顔面からバリアーに激突した。そしてバリアーを突き破り、そのまま岩に顔面から激突した。
ドシーン!!!
そして松子は顔面で岩を削りながらずり落ちた。
バキバキバキバキ…ドシーン!!!
「まさかそれじゃ死なねえよな?
くたばるのはまだは早え。俺の復讐劇はこれからが見せ場なんだからよ!」
冬彦三は一端戦闘形態を解除して、松子を罵り煽った。井森の無念を少しでも晴らすためである。
松子はフラフラになりながらも立ち上がった。しかし、松子の完璧な美貌は損傷してしまった。
「あああん!!!あたしの美しすぎる赤いロングへアを引き立てる美しすぎる顔がただの美しい顔になっちゃったらどうしてくれるのよ~ん!!!」
ガン!!!!
冬彦三は松子の文句を聞かず、再び戦闘形態に戻り念力で松子の顔面に鉄球を激突させた。
松子の顔は鉄球がめり込み、深く凹んだ。
「いたたたたた!!!あたしの美しすぎる長い赤髪に相応しい綺麗な顔を痛めつけるなんて、ぜ~たいに許してあげないんだから!!!」
しかし、冬彦三は黙殺し、超越能力で雷雲を作り、松子に雷を落とした。
ビリビリビリビリ!!!
「きゃああああああああああああああ!!!!いや~ん!もう!枝毛になっちゃったぁ!」
松子の長い髪は逆立ち、髪が乱れてしまった。
冬彦三は追い打ちをかけるように松子の上に瞬間移動して、口から炎を吐いた。
ボーーーーーー!!!!!
「あつあつあつあつあつっ!!!!!」
松子は炎に包まれた。勝負はもはや一方的である。これが銀と銅の飴の力の差なのである。
さらに冬彦三は念力で鉄球を松子の顔面に激突させた。
ドカッ!!!
松子の顔には円形の痣が派手に残った。
「いたたたた!!!!何度も何度もあたしの美しすぎる顔に~!自慢の髪の毛まで滅茶苦茶にして!本気でゆるさないわよおおお~!!!ゴオオオオオ!!!」
松子の目は闘志に燃えていた。
「松子ちゃんが燃えている」
「でしょ?本気で怒ったんだから!!!」
「そうじゃなくて本当に燃えているぜ」
メラメラメラメラ!!!
「あら?」
松子の長い長い髪の毛の毛先が猛火に包まれていた。冬彦三の吐いた炎の残り火が松子の髪の毛に燃え移ったのだ。
「きゃあああああああ!!!!燃えてる燃えてるぅ~!!!あついあついあついあついあつい!!!!」
ゴオオオオオオオオオオ!!!!
松子の燃えるように真っ赤な髪の毛は本当に燃え盛っていった。松子は必死に走り回った。
「いやああああん!!!あついあついあつい!!!!髪があああああああ!!髪がああああ!!
あたしが生まれてから一度も切らずに伸ばし続けてきた命より大切な真っ赤なロングヘアが燃えていくわああああああああ!!!」
冬彦三は、走り回る松子の顔面に何度も鉄球を投げつけた。
「あついあついあつい!痛い痛い痛い!あつい!痛い!あつい!痛い!!!!熱い熱い!!!!痛い痛い!!!」
松子は髪を燃やして走り回りながら、顔面に鉄球を受け続けている。冬彦三は念力で投げた鉄球を引き寄せ、無限に投げ続けているのだ。
「あつい痛い!あつい痛い!痛いあつい!あああん!顔がぁ!髪がぁ!!!あたしのシミ一つない綺麗な顔がーーー!!あたしの全世界が嫉妬するような綺麗なロングへアがーーー!!あたしの美しすぎる美肌がぁ!!!あたしの美しすぎる美髪があああああああああん!!!!」
松子は顔面に鉄球を受けて、髪の毛を焼かれながら走り続けた。するとそこに大きな水たまりを見つけた。
「みず!みずみず~!!!」
しかし、冬彦三は水たまりに炎を吐きかけたちまち蒸発させてしまった。
「あああん!水がーーー!!!」
「井森ちゃんの恨みだ!」
冬彦三は容赦がない。松子は走り回りながら弁明した。
「井森ちゃんを殺したのはあたしじゃないわ~!!!あついあつい!!!」
「ウソを付くな!!今更見苦しいぞ!」
「本当よ~!!!あたしが犯人ならわざわざ肉を剥いだりしないわぁついあついあつい!!!」
冬彦三は確かにそうかもしれないと思った。松子の動機なら血を抜くだけで十分だ。
冬彦三が悩んでいるのと、松子は水がパイプからもれているのを見つけた。
「神様ありがとう~!!!!」
松子は鉄球を顔面に受けながらもパイプからもれている液に髪の毛を突っ込んだ。
しかし、パイプからもれている液は水ではなくガソリンだった。
そのため大爆発し、松子の髪の毛は爆風に包まれて炎で完全に見えなくなった。
「あ~た~し~の~か~み~!!!!!」
松子は鉄球を顔面に受けながら頭から爆風を立てて走り回った。
髪の毛の火はようやく消えていき、鉄球も止んだが、松子の美しすぎた顔はぼろぼろになり膨れ上がって派手な痕ができ、凹みこんでしまった。
さらに松子のツヤツヤで赤色だった髪は真っ黒に焦げサラサラで長がかった髪はぐちゃぐちゃになりちじれてしまった。
松子の完璧だった美貌は完全に破壊されてしまったのだ。
「苦労して毎日何回も念入りに手入して伸ばし続けた命より大切な赤髪が…。あたしの真っ赤なサラサラツヤツヤへアーが…。長い赤髪を風になびかせる生きがいが奪われたぁ…」
松子は泣き崩れて卒倒し、崖から200m以上下へ落ち、顔面から岩でできた地面につんのめて地面にめりこんだ。
冬彦三は松子の元に瞬間移動した。超越能力で強化された肉体ならこの程度の高さから落ちても死にはしない。
「トドメだ!」
しかし、松子は既に息絶えていた。髪の毛が炎滅してしまったショック死である。
冬彦三は松子の死を確認すると、安堵し、胸をなでおろした。
「保険を使うまでも無かったな…」
しかし、冬彦三の気は晴れなかった。
「井森ちゃんを殺したのは本当に松子だったのか…?井森ちゃんを殺したのは一体…」