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天空からのメッセージ

作者: 郡司 誠

世の中に誕生する前に、六十五歳まで生きるという、神様との約束事があったにも拘わらず、十五歳で突然死んでしまい、天空広場の人・到着ロビーで騒いでいたこの少年が、己れの次の世界での役割を充分理解し納得した上で、下界に再度誕生して行くのである。

 天空の、人到着ロビーがどうも騒がしい。

「一人の少年がここはどこだと暴れています」

 責任者らしき見た目スーツ姿の男性が、

「どうかしましたか、ここはお亡くなりになられた方々が最初に到着する天空広場ですよ。

今日もまた世界中から沢山の人達で溢れ返っていますね。どうかされましたか」

 広場一杯に埋め尽くされた人だかりの中にあり、ひと際目立つ空間を少年は作っていた。 

「何故僕は死んでしまったのですか。誕生前に交わした神様との約束と違うでしょう。あと五十年は生き六十五歳で死ぬことになっていた筈です。よく調べてください」 

 少年は必死に哀願した。スーツ姿の男性は

慌てる事無く手慣れた様子で小脇に抱えた黒い名簿を手に取り、それに目を遣りながら、

「確かに貴方の言う通り五十年早過ぎの様ですが、マル特の印が押されてあるので神様にお伺いを立てなければなりませんね。マル特とは特別事情ありとの事ですので少し時間を頂けますか。ここで待っていてください」

 スーツ姿の男性は一瞬で消え、ものの数秒でまた少年の目の前に現れた。そして話し始めた。辺りは静まり返り皆が聞き耳を立てた。

「神様と貴方との間で人間世界でいう処の十五年前、確かに約束事があったとの事です。十五年前のその日、今からどういう処に生まれ変わりたいか、またどういう人になりたいかとの神様のお問いかけにほとんどの人は、『お金持ちの家に生まれたい』『偉い有名な人になりたい』と望むのに、貴方は『普通の家の平凡な家庭の一員として生まれたい。自分の存在が周りに平和をもたらし、犠牲を伴う人助けであっても後悔はしないという人になりたい』と答えられたそうですね。神様は痛く感心されて居られました。貴方の突然の死によって今までの十五年間を大切に育てて来られたご家族の方はそれはもう深い悲しみに打ちひしがられておられた様です。しかし、神様が仰られるには、この家での貴方の役割は充分過ぎるほどで、貴方はこの家族の誰に対しても幸せをもたらしたとの事です。この次の年、貴方のご両親には貴方によく似た男の子が誕生する事になっております。貴方には酷なのですが、神様のお考えがおありだった様です。急ぎ貴方には、次なる大切なお役目があったのですよ。それは残り五十年のお命を取り上げてでもご理解ご納得して頂かなければならない重大事なのです」

「あの少し待ってください。僕には何の事をお話しされているのかまったく理解出来ていません」

「解ります。もう少しだけお聞きください。貴方は今から直ぐに貴方の叔母さんの処に初めての赤ちゃんとして誕生する事になっています。それから五十年を経た貴方が来年貴方のおうちに生まれる従弟の命を救う事になるのです。それが結果的に全世界を救う事に繫がるのです。それには貴方の今後の五十年という長く貴重な知識経験が必要不可欠なのです。今この様にお話ししている内容は全て下界に誕生した時点に於いて貴方の記憶から消滅されます。このお話しも全て神様のお許しを得て出来ています。五十年後、地球はいろいろな細菌が合体して出来上がった強力な合成菌によって絶滅の危機に晒される事になるのです。宇宙飛行士になった貴方の従弟が宇宙より持ち帰ったとされる細菌が原因であるとされ、世界中より非難の対象となり、従弟の家族も含め地球上の全ての生き物がその細菌に侵され瀕死の状態に陥っていたのです。それを兄弟同然の科学者の貴方が見事に解決法を発見し全人類を助けるのです。但し、あなただけは合成菌の犠牲となってしまいます。神様との最初の約束通り先の十五年にあとの五十年を加え六十五年の生涯を終える事になります。貴方なら解って頂けると信じ全てを包み隠さずお話ししました。ではよろしいでしょうか。予定の時刻です。さあ出発です」

「解りました。充分承知致しました。神様の思し召し通りで結構です」

 際立つ空間を独り占めにしていた姿・形はあどけないままの少年は天空広場より忽然と消えてしまいました。

「オギャー、オギャー」

 大きな病院の一室より元気な可愛い男の子の産声が聞こえて来ます。

「貴女の子、うちの子の生まれ変わりの子かも知れないわ。ほんとそっくりさんなのよ」

 天空広場で騒いでいた少年の元のお母さんでした。叔母さんの家の子としての誕生です。

「お義姉さんの処も来年が楽しみですね」

 この元のお母さんの処に次の年に誕生する子が少年の従弟の例の宇宙飛行士なのです。

 この仲の良い従兄弟同士の二人は実の兄弟以上に末永くお互いを尊敬し合い生きて行きました。五十年後に人類にとっての大事案が発生するとは、天空広場に居た人達以外誰一人知らないことでした。      (了) 





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