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神僕検察官  作者: 杠葉 湖
1章 異世界からの依頼人
6/12

5話 コウコ神宮

 クレーラとクリスティアを連れて、ワット博士の研究所を後にした俺は、そのままヤマロチ島の中心へと向かっていた。


「スマンな。連れ回すような真似をしてしまって」

「い、いえ。大丈夫です」


 クレーラは首をやんわりと横に振る。


「それにしても、とても個性的な方でしたね」

「ああ。まあな。あんな性格でも結構世話になってるからな。無下に出来ないんだよ」


 俺は苦笑しながら答える。

 実際、ワット博士には世話になりっぱなしだ。

 爺と同じくらい、親切にしてもらってるかもしれない。

 アレでイッてしまった性格さえなければなぁ……


「あの、この国では、男性から男性に指輪を贈る習慣があるのですか?」


 今度はクリスティアから質問が飛んでくる。


「まさか」


 俺は笑いながら、それを否定した。


「さっき貰った指輪は、俺の身を守るための物。言うなれば、商売道具かな」

「商売道具、ですか……」


 しかしクリスティアはその回答に納得がいっていないのか、険しい表情を浮かべる。

 本当なら指輪の機能をいろいろ見せて種明かしできればいいんだが、そこまでする必要ないよな。



◇◆◇◆◇



 そして歩くこと20分。

 俺達は島の中央にある施設へとやってきた。


「とりあえず、目的地に到着、かな」

「ここが……」

「なんと言いますか……」


 二人の少女はその建造物を見て、興味深そうにその建造物を眺める。

 それは、3M程の高さがある朱色に塗られた鳥居であった。

 威風堂々としたその佇まいは見る者を圧倒し、確実に印象を心の中に刻み込む。

 所々色落ちしているところが、長い年月を感じさせる。


 鳥居の近くには一軒の小屋が建っており、一人の少女が無表情で俺達を見つめていた。

 少女は黒髪の三つ編みを前に垂らして、白い小袖と桜色の袴を着用し、一見すると巫女のように見える。

 ただし、その小袖も袖口には桜色の刺繍が施され、襟は桜色に染められており、普通の巫女装束とは異なっていた。

 彼女は名をゆりねといい、神に創られた生命体で、この島の管理者である。

 推定年齢は13歳という設定らしい。


 俺は鳥居に心を打たれている二人を引き連れて、ゆりねの元へと向かい、声をかけた。


「よっ。ちょっといいか?」

「なんでしょうか?」


 ゆりねは抑揚のない声で俺に言葉を返す。


「本土に行きたいんだけど、この二人に門の使用許可してもらえるか? 今朝突然、この島にやってきたみたいでさ。説明も兼ねて、いろいろ聞きに行きたいんだが」

「……わかりました」


 ゆりねはコクンと頷く。意外にもすんなりと許可が降りたな。

 「なんでそんな得体の知れない人がこの島にいるんですか?」とか、説明を求められてもっとごねられるかと思ったんだが、スムーズならそれに越したことはない。


「それでは、お二人のお名前をお教えいただけますか?」

「は、はい。クレーラ・ミグリットと申します」

「クリスティア・レストナールです」


 二人はそう言って軽くお辞儀をする。


「ミグリット様にレストナール様ですね? わたしはこの島の守護、管理を任されているゆりねと申します。ラムダ様より要請がございましたので、今からお二人に門の使用権限を付与します。そのままじっとしていてください」

「「えっ?」」


 戸惑う二人などお構いなしに、ゆりねはクレーラに右手をかざす。

 程なくして、クレーラが光に包まれた。


「!?」


 クレーラは驚きのあまり目を丸くする。

 やがて光が収まると、マイペースな様子で今度はクリスティアに同様の行為を行う。


「!!」


 光に包まれたクリスティアも目を丸くして硬直した。

 やがて光が収まる。


「あ、あの……今のは……」

「魔法……でしょうか?」


 クレーラとクリスティアは、おずおずと尋ねる。

 しかし、ゆりねは小さく首を横に振った。


「違います。今のは神術で、魔法ではありません。この力は偉大なお方から授かった物です」

「神術、ですか……?」

「白魔法……とは違いますね……」


 二人は聞き慣れない言葉と不思議現象を目の当たりにしたせいか、戸惑いの声を上げる。

 一方ゆりねはマイペースで、表情ひとつ変えずに淡々と告げる。


「これで門の通行は可能となりました。ただし、一時的な権限付与ですので、時間が経てば消滅します。十分お気を付けください」

「ああ。ありがとうな。それじゃあ行こうか」


 俺はゆりねに礼を言うと、二人を連れて鳥居へと向かう。

 ちなみに、この鳥居の近くに白巫女が住んでる神社があったりする。

 そのおかげか鳥居前で時々鉢合わせしたりするんだが、今日は鳥居前には誰もいない。


「それじゃあ、二人とも俺の後をついてきてくれ」

「はい」

「わかりました」


 二人の返事を確認し、俺達は鳥居をくぐり抜けた。



◇◆◇◆◇



 鳥居をくぐり抜けると、目の前には大きな社が建っていた。


「えっ!?」

「こ、これは!?」


 目の前に突然現れた社に、二人の少女は絶句する。

 社の周囲は木々に囲まれており、空の青と樹の緑のコントラストが映えていた。


「転移したんだよ」


 俺はそのからくりを説明する。


「「転移!?」」


 二人の少女は驚きの声を上げた。


「そう、転移。ここはヤマロチ島ではなく、ヤポニ神国首都オディのコウコ神宮さ。で、あれがこれから向かう拝殿」


 俺はそう説明して、辺りを見回す。

 拝殿は木造建築で、塗装は施されていないが、木造らしく年期を感じさせる風格を漂わせている。

 格子戸が閉まっており、中を窺い知ることは出来ない。

 中央には賽銭箱が置かれ、頭上には本坪鈴がついており、そこから大麻の鈴緒が垂れ下がっていた。


 一方背後にはくぐり抜けてきた鳥居がある。3M程の高さの、朱色に塗られた物だ。

 そして鳥居の近くには、ヤマロチ島と同じように一軒の小屋が建っており、一人の少女が無表情で俺達を見つめていた。

 少女は黒髪のショートボブで、白い小袖と青色の袴を着用し、小袖も袖口には青色の刺繍が施され、襟は青色に染められている。

 彼女は名をほたるといい、ゆりねと同じく神に創られた生命体で、コウコ神宮の管理代行者である。

 推定年齢はゆりねと同じ13歳という設定らしい。


 俺は横に歩いて、ほたるに声をかけた。


「ちょっといいかな? カヤナルミ様が居るか聞きたいんだけど」

「はい。カヤナルミ様はおられます」

「そうか。ありがとう」


 俺は軽く礼を述べると、固まったままの二人の元へと戻る。


「それじゃあ、拝殿に行こうか」

「は、はい」

「わ、わかりました」


 二人はまだ動揺した様子で、おっかなびっくりに周囲の様子を観察している。

 俺はそのまま鳥居を背に、二人を連れて社へと向かった。



◇◆◇◆◇



 拝殿の前にたどり着いた俺は、後ろを付いてくる二人に振り返った。


「それじゃあ、今から大切なことを説明するから、よく聞いてくれ」


 俺の言葉に二人は姿勢を正し、どこか浮ついた表情を真剣な物へと変える。


「これからあるお方に会うために、簡単な儀式をしなければならない。二人は、今から言う俺の真似をしてほしい」

「「はい」」


 二人はコクンと頷く。


「いい返事だ。それじゃあ、儀式について説明する」


 俺はそう言って、賽銭箱へと振り向くと、懐から財布を取り出し、穴の空いた5エニー硬貨を取り出した。


「簡単に説明すると。まず、この賽銭箱の正面で一礼。次に、賽銭、5エニー硬貨を投げ入れる。それからこの紐のついた鈴を3回鳴らして、賽銭箱の正面から横にずれる。そして、二拝二拍手一拝……2回頭を下げて深くおじぎをして、2回柏手を打ち、もう一度おじぎをする。このおじぎをしている時に、心の中で『重大な事態が発生したため参りました。どうぞお目通り願います』と祈ってくれ。クレーラとクリスティアにやってほしいのは、二拝二拍手一拝と祈りだな」

「わかりました」

「かしこまりました」


 二人は神妙な面持ちで頷く。この様子なら、多分問題はないだろう。

 って言うか、問題があったら困るんだが。


「何か質問あるか?」

「はい」


 最初にクレーラが口を開いた。


「ラムダ様が持っているその硬貨は、この世界の貨幣なのですか?」

「い、いや、この世界って訳じゃなく、この国で流通している貨幣だな」


 俺は内心呆気にとられながらも、冷静に返す。

 気になることが儀式ではなく、お金の方かよ……

 まぁこの子は天然っぽいし、仕方ないかもしれないが。


「ヤポニ神国では、貨幣に硬貨と紙幣が使われている。硬貨は1エニー、5エニー、10エニー、50エニー、100エニー、500エニー硬貨があって、全て大きさが違って正円。5エニー硬貨と50エニー硬貨は中心に丸い穴が空いてるな。紙幣は1000エニー、2000エニー、5000エニー、10000エニー紙幣がある。長方形で、こっちも全て大きさが違ってる。ちなみに、パン1個で大体200エニーかな?」


 ……食パン6枚入り1袋はそれくらいだったよな? 確か。


 そんなことを思いながら、回答する。


「そうなんですか。ありがとうございます」


 クレーラは納得したように頷く。


「では、私からも質問、宜しいでしょうか?」


 続いて、クリスティアが口を開く。


「儀式を行って、一体誰と会うというのですか? ひょっとして精霊様……とかですか?」

「まぁ、それは会ってからのお楽しみ……かな」


 不安そうな表情を浮かべるクリスティアに、俺は含みを持たせて答える。

 精霊だったら今すぐ、目の前で会わせてやってもいいんだが。

 会わせたところで意味なさそうだしな。


「それじゃあ、始めるぞ」


 俺は二人に声をかけて、賽銭箱の前に立つと、姿勢を正した。

 左横にクレーラとクリスティアが並ぶ。


 まず一礼し、5エニー硬貨を賽銭箱に投げ入れる。

 カタン、タンと音を立てながら、5エニー硬貨が賽銭箱に吸い込まれていく。


 次に鈴緒を掴み、本坪鈴を3回鳴らす。

 カランカランカランと、乾いた鈴の音が静寂の中響き渡る。

 鳴らし終わった俺は鈴緒から手を放し、賽銭箱の右にずれた。

 クレーラとクリスティアは左へとずれる。


 それから、3人タイミングを合わせて、パン、パンと柏手を打ち鳴らす。

 その後、タイミングがずれないように2回頭を下げて深くおじぎ。


 そしてもう一度、目を瞑っておじぎをしながら、心の中で「親愛なる女神カヤナルミ様。私の手には負えそうもない、重大な事態が発生したため参りました。どうぞお目通り願います。本当、お願いします!」と強く何度も何度も祈る。


 沈黙が辺りを支配する。


 シュタン、シュタン


 突然、その静寂を打ち破るかのように、乾いた音が周囲に響き渡った。

 俺はゆっくりと頭を上げ、目を開く。

 クレーラとクリスティアも同タイミングで頭を上げた。


「い、今のは……?」

「一体……?」


 二人は言葉を失う。


「どうやら、お目通りかなうみたいだな」


 俺は開かれた拝殿の格子戸を見て、ホッと一息ついた。

 機嫌が悪いと、会うためのプロセス遵守しても会ってくれないからな。


「それじゃあ、行くぞ」


 俺は二人を連れて、賽銭箱の裏にある木の階段を上っていく。

 そして拝殿の中へと足を踏み入れる。

 場所によっては土足厳禁なのだが、コウコ神宮の拝殿は土足で上がることが許可されている。

 はたして、広い拝殿の中は誰もいなかった。

 静寂に満ちた空間の中、薄暗いが、床や壁に使われた木材が光沢を放っている。


「え、えっと……?」

「誰もいないようですが……」


 二人は周囲をキョロキョロと見回す。


「よく来ました」


 不意に頭の中に声が響いた。


「「!?」」


 クレーラとクリスティアにも聞こえたらしく、身を強ばらせて直立不動になる。

 次の瞬間、拝殿の中が不思議な光によって明るくなる。


 そして、俺達の目の前に美しい黒髪の女性……女神が現れた。

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