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神僕検察官  作者: 杠葉 湖
1章 異世界からの依頼人
4/12

3話 依頼人はお姫様? 2

「…………はい?」


 俺はその質問の意味が理解できず、つい声に出してしまった。

 目の前の少女は、一体何を言っているのだろう?

 俺の中の嫌な予感危険察知メーター、通称ヤバヤバメーターのゲージがグググンと上昇していく。

 だが、ここは普通に答えておいた方がいいだろう。


「ここはヤポニ神国の首都オディ特別保護区、ヤマロチ島ですが」

「「…………」」


 俺の言葉に、二人は再びフリーズする。


「……どうかされましたか?」

「…………」

「……あの、もう一度、ここが何処なのかお願いできますか?」


 完全にフリーズしているお姫様風少女に変わって、メイド風少女が再度尋ねてくる。


「ですから、ここはヤポニ神国の首都オディ特別保護区、ヤマロチ島です」

「「…………」」


 俺の言葉に、二人は顔色を悪くして、完全に沈黙してしまった。


「…………」


 俺もたまらず無言になる。

 嫌な予感は確信に変わった。

 間違いなく厄介事だ。

 二人の様子から半島や大陸絡みではなさそうだが、下手すれば国際問題になりかねない問題の予感がする。

 とりあえず、二人が何者であるのかを確定させておくことが先か。


「そう言えば、まだお二人のお名前を伺っておりませんでしたね。今日はどちらからいらしたんですか?」


 俺はきわめて冷静に、二人に問いかける。

 すると、二人は我に返ったように、慌てて立ち上がった。


「も、申し遅れました。私、ミグリット王国から参りましたクレーラ・ミグリットと申します」

「同じく、ミグリット王国から参りましたクリスティア・レストナールと申します」


 そして二人はスカートをつまんで、カテーシーで挨拶をする。


「…………」


 俺はその態度に、頭が真っ白になるような思いになった。


 まず二人の挨拶の仕方。

 この国でカテーシーで挨拶するなど、特殊な店に行かない限りまずお目にかかれない。

 そして二人が口にした国名。

 この世界に、ミグリット王国なる国は存在しない。

 少なくとも、俺の記憶している限りでは、中世まで遡ってもそのような国は存在していなかったはずだ。

 とすると……


 『国際問題』の四文字が頭の中で声高に強調を始める。

 しかし俺は、それでも平静を装う。


「ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。クレーラさんにクリスティアさん、ですね。私からもお二人に尋ねたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「は、はい。なんでしょうか?」


 二人が座るのを見計らって、俺はその言葉を口にする。


「お二方が今口にされた『ミグリット王国』という国を聞いたことがないのですが、一体どこに存在している国なのでしょうか?」

「「えっ!?」」


 俺の言葉がよほど衝撃的だったらしく、二人は口を開けたまま呆然とする。

 そして二人に顔色が刻々と悪くなっていく。


(この二人の様子を見るに……あのおっさん、まさか中世以前の過去や100年後の未来からこの二人を連れてきた、とかじゃないよな!?)


 額を冷たい汗が流れ落ちる。

 しかし俺が動揺すればこの二人に不安を与えかねないため、俺は極力冷静を装いながら、テーブルに置かれたベルを手に取り、鳴らした。

 程なくしてドアがノックされ、爺が入ってくる。


「坊ちゃま、何かご用ですかな?」

「ああ、ちょっと星球儀を持ってきて欲しいんだ」

「かしこまりました」


 爺は一礼して部屋を出て行く。


「とりあえず、お茶でも召し上がってください」


 俺は気分を落ち着けて貰うため、二人にお茶を勧めた。


「は、はい」

「い、いただきます」


 二人は震える手でティーカップを手に取り、ジャスミン茶を口にする。


「「!!」」


 そして二人の目が、丸く大きく開かれた。


「ああああ、あの!! このお茶、なんですか!? とても上品な味がするのですが!」


 興奮気味にまくし立てるのはクレーラ嬢。


「このようなお茶、今まで口にしたことがありません! これは一体!?」


 クリスティア嬢も、食い入るような瞳で俺を見つめる。


「ジャスミン茶ですよ。ハーブティー、お気に召していただけたようでよかったです」


 俺はにこやかに微笑む。

 流石ジャスミン茶。リラックス効果があるだけあって、二人のネガティブな思考もいくらか落ち着いたようだ。


 二人は夢中でジャスミン茶を飲み、空になったティカップをソーサーの上に置く。

 そんな二人の様子を見守っていると、爺が星球儀を抱えて、応接室に戻ってきた。

 爺は星球儀をテーブルの上に置くと、ジャスミン茶の差し替えを持ちに、応接室を出て行く。


「これは……?」


 テーブルの上に置かれた星球儀を見て、クリスティア嬢が首を傾げた。

 星球儀は文字通り、この惑星セムリアの形を縮小した球体の地図なのだが、それを知らないらしい。


「これは星球儀と言って、この惑星セムリアの形を表した世界地図、ですが……」

「えっ!? 星って丸いんですか!?」


 クレーラ嬢が驚きの声を上げる。


「ええ。丸いんですよ」


 俺は彼女の言葉に苦笑する。

 この程度のことは俺達にとっては一般常識なのだが、彼女達にとってはそうではないのだろう。


「そうですか……」


 クレーラ嬢は魂の抜けたような感じで、星球儀を眺める。

 程なくして、爺がジャスミン茶の入ったティーカップを乗せたお盆を持って、応接室に入ってきた。

 爺は新しいティーカップとソーサーを二人の前に置き、空になったティーカップとソーサーをお盆の上に載せ、応接室を出て行こうとする。


「あ、ちょっと待って。爺にはここにいて欲しいんだ」


 そんな爺に、俺はここに留まるように指示した。


「爺にも、今からこの二人の話を聞いてほしい」

「かしこまりました」


 爺はテーブルの上にお盆を置くと、二人を見て、直立不動のまま優雅に礼をした。


「私、この家で執事をさせていただいておりますメネラス=ファーレンと申します」

「は、はい。私は、ミグリット王国から参りましたクレーラ・ミグリットと申します」

「同じく、ミグリット王国から参りましたクリスティア・レストナールと申します」


 二人とも、立ち上がってから自己紹介して、カテーシーを行う。


「ミグリット王国……?」


 爺は眉をひそめながらも、笑顔を崩さず、俺の隣に座った。

 挨拶を返した二人も、そのままソファに腰掛ける。


「それではまず、先程クレーラさんからご質問のあった、ここはどこかというご質問について、お答えしたいと思います」


 俺は星球儀を回転させて、目的の国が彼女たちに見える位置で止める。


「私達がいるこの国は、惑星セムリアのヤポニ神国になります。女神カヤナルミ様がお創りになった国、と言われてますね」


 そう言って、小さな島国を指さす。


「この国は列島国なので、4つの大きな島と、無数の諸島から成り立っています。そして私達がいる島は、この本土から南東に下った、このヤマロチ島になります」


 指をスライドさせて、1つの島を指さす。


「「…………」」


 二人は俺の説明を、真剣な様子で聞き入っている。


「まぁ、ご覧の通り海に囲まれているので、他の国から見れば特殊と言えるかもしれません。そして、この国の北西に行けば半島や大陸があります」


 俺は肩をすくめると、二人を見た。


「さて、お二方に再度質問です。ミグリット王国というのは、どこに存在する国ですか?」

「……存在しておりません。ここにある全ての国が、まったく聞いたことのない知らない国ばかりです……」


 クレーラ嬢は力なく首を横に振る。


「…………」


 クリスティア嬢も無言で首を横に振った。


「そうですか。爺は、ミグリット王国と言う国に心当たりは?」


 俺は爺にも尋ねる。


「聞いたこともありませんな」


 しかし爺も、知らないという答えは同じであった。

 つまり、ミグリット王国と言う国は、今現在惑星セムリア上に存在しない国、と言うことになる。

 と言うことは、考えられるケースは4パターン。


 その1、中世以前の過去から来た。


 その2、他の星から来た。……これはないな。宇宙航行技術があって惑星が丸いことを知らないなんて事は、まずあり得ない。


 その3、未来から来た。


 その4、見知らぬ異世界から来た。……これもないな。荒唐無稽すぎる。ヤポニ神国語が通じてるし。文字も読めるみたいだしな。異世界にヤポニ神国語が使われているなら話は別だが、それこそ考えられない。どんな偶然だよ。


 その5、異次元の惑星セムリア、もしくはそれに類する世界から来た。……保留だな。一番ありそうな気がする。


 ……って、5パターンじゃねーか。まぁいい。次の質問で、疑問を確定させることにしよう。


「なるほど……では質問を変えますね。お二人は、この場所に、どのようにしてこられましたか?」


 俺の言葉に、二人はビクンと体を震わせる。まるで隠し事を暴かるような触れてほしくない質問、という感じであった。

 これは……相当面倒くさいことになりそうだな……

 俺は覚悟を決め、言葉を続ける。


「このヤマロチ島は少し特殊な島でしてね。神のご加護によって守られているため、特定の者しか立ち入ることが出来ないのですよ。無断で立ち入った場合、罰せられる対象になるので、心苦しいでしょうが、正直に話していただけませんか? そうでないと、こちらとしても対応のしようがないので」


 ゆっくりと、語り聞かせるように二人に話す。


「……わかりました」


 罰せられる、と言う単語に顔を青くしたクレーラ嬢が、まるで完オチしたような表情で、ポツリポツリと話し始めた。


「私とクリスティアはミグリット王国の王宮にいたのですが、突然目の前が光に包まれました。そして気がつくと、目の前にこの屋敷の扉があったのです」

「…………」


 俺は叫び出したい気持ちを必死で抑えながら、クリスティア嬢を見る。


「……今の説明に、間違いないですか?」

「……はい。補足させていただきますと、扉の横に四角い箱があり、その中にボタンのような物がありましたので、押してみたところ、現在に至っている、と言う状況です……」

「…………」


 俺は目の前が真っ暗になっていくような気がした。

 俺の中のヤバヤバメーターのゲージは既に針が振り切れており、臨界突破状態だ。

 あの人、なんつー厄介事持ち込んでくれるんだ!

 悪態のひとつでもつきたくなるが、グッとこらえて我慢する。


「……わかりました。落ち着いて聞いてください」


 俺はなるべく取り乱さないように、二人に語りかける。


「今まで聞いた内容、状況から察するに、どうやらお二方はどこか他の場所から、この時代の世界に迷い込んでしまったように見受けられます」

「「えっ……」」


 その言葉に、二人は表情が青ざめ、これ以上ないくらい動揺していているように見受けられる。


「ただ、この事態を解決できそうな人に心当たりがあるので、その人のところに行ってみませんか?」


 俺はジャスミン茶を飲むと、出来るだけ心を平静に保ちながら、穏やかに提案する。


「……はい……」

「……よろしくお願いします……」


 二人もジャスミン茶を口にした後、弱々しく頷いた。

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